第二百五十九話 私はだあれ
ラムレットの秘策、それは私に『妖精であることを隠さず堂々としていろ』というものだった。
機兵を持たない私達が『狩りました』と言ったところでまず信じては貰えず、獲物を見て貰う事すらできないだろうと。
そこで、妖精の出番だ。か弱そうな乙女二人組であっても妖精を連れていれば只者ではないと思われるはずだと。そこまでいけばある程度話をきいてくれるんじゃないかな、そんな作戦だったんだけど……。
フィオラの肩に腰掛けて、足をブラリブラリとさせていただけで全てがうまく行ってしまった。いや、行き過ぎた? 私に向かって『カイザーか?』と呼びかけた男の人は依頼主に急かされ、キチンと話す間もなく去っていってしまった。
残されたフィオラと私は取り敢えずラムレットに報告をしに戻った。
「……というわけで、本当にラムレットの言うとおりになったよ……」
釈然としないと言った感じで私が言うと、ラムレットは面白そうに笑う。
「そりゃそうだよ。妖精様を連れたハンターともなれば聡いやつは”ブレイブシャイン”だって思うだろ? 彼女たちなら機兵がなくても魔獣の一匹や二匹屠れるだろうし、誰もそれを疑わないから信じるってわけさ」
「なんだか騙したようになっちゃったな……」
申し訳ない気持ちでいっぱいになってしょんぼりしてるとフィオラが私の頭を撫でてきた。
「別にルゥや私達がなにかしたわけじゃないでしょ。相手が勝手に勘違いしただけよ」
「それはそうなんだけど……」
「まあまあ、取り敢えずもっかい街道にもどるわよ。さっきのオジさんが人を呼んでくるって言ってたでしょ」
「うん、そうだね……じゃ、ラムレットまた見張りお願いね」
「あいよー」
そうだそうだ。取り敢えず眼の前の問題を片付けるのが先だよね。謝るのはあとから出来るし、ここはちゃっかりブレイブシャインのお名前を借りようじゃないか。
街道に腰掛け、フィオラと雑談をすること一時間。私のマップに二人の人間が現れた。方向はパインウィード方面からで、動きからすると機兵にのっているみたい。
間もなく、ズシンズシン、ギチョンギチョンと独特の足音が聞こえ始め、やがて機兵の姿が視界に入った。
片方はカエルみたいな顔……多分さっきのオジさんかな?もう一機はオオカミ系の顔をしているな。護衛についていたもう一機はまた別の機体だったからわざわざパインウィードで見つけてきてくれたんだろうな。
フィオラが立ち上がって手を振ると、機兵達もブンブンと手を振り返す。そして私達のそばまでやってくると2機のハッチが開き、さっきのオジさんと、若いお兄さんが姿を表した。
「ふー! 待たせたな嬢ちゃん!」
「わ、まじでカイザーさんとレニーだ!」
やはり勘違いをしているようだ。しかもなんだかとっても嬉しそうで、どう反応したら良いものか困るし、やっぱり少々胸が痛むな。
さてどうしようか、まずは事情を話してみようか……と思っていると私より先にフィオラが口を開いた。
「えっと、先に謝っておきますが、私はレニーではありません!」
堂々とピシリと言い切ったそのセリフにオジサン達が驚いた顔をする。
「ええ? またそんな冗談を言って……だって嬢ちゃんどうみても……」
「そうだよ! どうみてもカイザーさんとレニー……いやまってくれ、ゲンさん。よく見るとレニーより賢そうな顔をしてるぞ……」
「なに……? 言われてみれば……騙されやすそうな顔じゃないな……む……?」
「だろ? レニーはもっとこう間抜けな顔で……人を疑うことを知らなそうな……」
なんだかさんざん言っているような気がする……。と、フィオラの様子がおかしい。うつむいて、なんだかプルプルとしている。これは……恐らく姉であろうレニーを悪く言われて怒っているのか……? もしくは思い出して泣いている?
「あっはっはっはっは!! ひ、ひ、人を疑う……だま、騙されやすそうな……」
……笑いをこらえていたようだ。
突然笑いだしたフィオラにオジサン達も困惑している。なんだか溜まっていたのが一気に爆発したかのような大笑いに私を含め皆でどうしたものか頭を悩ませる。
暫く笑っていたフィオラだったが、ようやく落ち着いたのか、はあはあと肩で息をしながら話し始めた。
「あーおかし。やっぱレニーはだめだな。オジサン達はレニーの知り合いですか?」
なんだかレニーのことをよく知っているかのような振る舞いだ。これはやはり……。
「あん? やっぱり嬢ちゃんはレニーじゃねえのか。いやあ、レニーっつうか、ブレイブシャインのっていうかさ。アイツラにはパインウィードが世話になったつうか」
「ヒッグ・ギッガの件もそうだし、街道工事の件もそうだし、あの人達には恩を返しても返しきれないよ……っていうか、貴方はカイザーさんじゃないんですか?」
と、矛先がコチラにもやってきたな。ムーなんと言ったら良いのか……。
「ん、先に私が自己紹介をしますね。私はフィオラ・ヴァイオレット。愚姉の賢妹です。姉が皆様に大変お世話になったみたいで……」
「世話になったのはこっちだから! な!」
「そうですよ! ていうか妹さんかあ……どうりでそっくりなわけだ」
「で、こっちが……あたしはルゥって呼んでるけど、もしかしたらあなた方が言う『カイザー』なのかもしれない……」
「……そ、それはいったいどういう……?」
「見るからにカイザーさんだけど……ルゥ?」
なんだかこの人達はかつて見た覚えがあるような気がしてきた……。うっすらと記憶が戻りつつあるのかな?
「ええと……前の自分のことを全く覚えていないんだ。なにか変でも……そこはその……笑わないでほしい……。
だから……その、今はフィオラが付けてくれた『ルゥ』って名乗ってます……その、もしかしたらあなた方が言うカイザーなのかもしれないけど、ちょっと違くても許してね?」
「「ちょっとどころじゃねえよ!」」
二人によれば、私はもう少し偉そうな口調だったらしい。見た目も声もそのままカイザーだということで、恐らく私はその本人で間違いがないとのことだ。
あと、言っている意味がよくわからなかったけど、私には別の身体、機兵の身体が存在していて、そちらだと男性の声で喋り、より尊大な感じになるらしい。
ううん? 私用の機兵でもあったのだろうか? それならそれは何処に行ったのだろう。それさえあれば今みたいな苦労をしないで済んだだろうに。
っと、獲物を運んでもらうんだった。すっかり忘れて話し込んでしまっていたが、そろそろラムレットが怒り出す頃だよね。
フィオラとオジサン達に声をかけてラムレットの元へむかわなくっちゃ。
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