第二百五十八話 さてどうしよう
フィオラがトレインしてきたヒッグ・ホッグ。それはなんとか撃退する事が出来たんだけど……。
「それで……説明して欲しいんだけど?」
顔を赤くしてプリプリと怒っているのはラムレット。詰め寄られる私をみて頭を抱えているのがフィオラ。しかし、当然フィオラにもその矛先は行く。
「フィーオーラーも! わかってたんだろ? それをこう……人形だなんて……うう……」
このままではフィオラも悪者にされちゃうな。うう……、しょうがないここは私がかぶろう。
「ごめん、ラムレット。騙すような感じになっちゃったけど悪気は無かったんだよ」
「それは言われなくてもわかってるよ。あんた達に何か悪意がないってことくらいはさ」
「うう……そうなんだけど、その、私こんな身体でしょう? 普通にウロウロしてたら大騒ぎになるんじゃないかなって……その、わからないけど妖精ってあまり居ない存在なんでしょ? 怖がるんじゃ無いかって……」
そこまで言うとラムレットは大きくため息をついて、頭をぐしゃぐしゃとかいた。
「はーー、そっかそっか。そう言うことかあ。まあ、確かに大騒ぎになるだろうさ」
人間は得体の知れない物を怖がる節がある。お化けとか妖怪とかってさ、よくわからないけど不気味な物を見たり体験したりした時に、想像力が爆発して生まれた物だと何処かで聞いた覚えがあるんだよ。
そんな繊細な人間がさ、妖精なんか見ちゃった日にゃあ、精気を吸われるとか、森で迷わされるとかそういうネガティブな目を向けられるに決まっているんだ。
「その顔! 何を考えてるかわかるよ。いいかい、よく聞いてくれ。妖精ってのは昔から人の味方をするやさしい存在だって物語で語られてるの。
増して最近はブレイブシャインの人達が……その、妖精を連れてるらしいから……」
「……妖精を連れてる? 人形じゃ無くて?」
「ブレイブシャインに関してはデタラメな噂が多いんだよ。機兵達がみんな喋るとか、馬になるとか、妖精を連れてるとか……しかも増えたとか……」
聞けば聞くほど出鱈目な人達だ……。いや、フィオラも大概出鱈目だから、フィオラのお姉さんと思われるレニーが率いるパーティーが常識にとらわれる集団だとは思わないほうが良いかも知れない。
なんてことを考えているとフィオラが会話に参加した。
「妖精を連れてるって、その、普通に連れ回してるの?」
「あ、ああ。あたいは残念ながらブレイブシャインに会ったことはないけど、商人や村の人なんかが話してるのを聞いたことがあるよ。なんていったかな……スーラ? スーレ?名前は忘れたけど、そんな名前の妖精が仲間になってるらしい。増えた方は詳しくは知らないけどね」
リバウッドやサウザンでは『お人形』と言われてた。でも、場所によって『妖精』としての噂が広がっている。もしかしてレニーも仲間の妖精を最初は隠していて、徐々に徐々に情報を公開していたのかも知れないね。
さて、これで一件落着かな……なんて思ってると、ラムレットが私の身体をギュッと掴んでフィオラから距離を取る。ちょ、ラムレット一体君は……。
『おいルゥ! あたいが一人の時あんたとお話してたの……フィオラに言ったら……』
ああ……その事か……。私をお人形だと思って素を出してたっぽいからね……わかってるよ……。
『大丈夫。私の口は貝よりかたい』
『……? 例えがよくわからないけど、頼むよほんと……あーー! もう! もう!』
怪訝そうな顔で此方を見つめるフィオラ。っと、話を変えて誤魔化さなきゃ。あの子はどうも鋭いからね。
「ところで、ヒッグ・ホッグなんだけどどうしようねこれ? 私達じゃ運ぶことは出来ないし、解体も出来ないよ」
私の記憶が確かならば、魔獣は機兵に乗った状態で解体をして必要な素材だけギルドや店に持ち込んで売却することになってる。勿論、知識と技術、そして道具があれば生身でも解体は可能だけど、私達にはそのどれもが欠けている。
「このままだとここに置いていくことになるけど……」
「だめ!」
フィオラが立ち上がって即否定する。
「魔獣だよ? いったいいくらになると思ってんの。これ1頭で私が3日4日狩りをした分は超えるかも知れないんだよ? 言わばこれは大きなお金。置いていくなんてだめ!」
欲がないように見えて実はしっかりしているのがフィオラ。旅は何かとお金が必要だからしょうがないけど、しかしそうは言われてもどうすれば……。
「そうだなあ、ここからパインウィードまでは馬車だと今日中に着けるはずさ。街道を通りかかった馬車が居たらお願いしてみるってのはどうだい?」
ラムレットがそんな事を言うけど、お願いとは一体……。
「ああ、言葉足らずだったね。パインウィードにもハンターはそれなりにいるんだよ。だから解体と運搬の依頼をするのさ。商人への伝言依頼と、解体・運搬費でそれなりにお金はかかるけど、それでも金になるだけマシだろ」
「賛成!」
両手を上げてフィオラが即賛成をする。いくら掛かるかは要相談だろうけど、まあ……プラマイゼロにはならないだろうし、いくらかは儲けが出るはず。それに、死ぬ思いをして倒したんだし、出来ることなら換金したいね。
「でさ、ルゥ。相談があるんだけど……」
ラムレットが私にそんな事を言う。何かと思って話を聞いてみれば……これは……ちょっとずるいような気がする……でも成功率が上がるなら……。
「むう……まあ、皆のためになるなら……やってみるけど、責任は持たないからね」
「ああ、たのむよ。きっと悪いようにはならないはずさ」
あの時から……謎の声が聞こえてから『周辺マップ何とか』が使えるようになった。
見ようと念じると視界に周辺の地図が表示される。それにはフィオラやラムレットの『人間』の反応と動物の反応、そして魔獣の反応が別々の色で浮かび上がるようになってるみたい。
この話はを二人に伝えると、よくわからないという顔をしていたけど使えるものは使っとけ! と元気良く言われちゃったよ。詳しく聞かれた所で私も説明できないからそういうリアクションは助かるけど、それでいいんかってちょっと思っちゃった。
そしてその周辺マップとやらを展開してはや2時間。慣れてきたせいか、半径500mくらいまでは視界に入れることが出来るようになった。この周辺には魔獣の数は少なくって、動物たちが結構いることがわかった。
半分楽しみながらそんな事をしていると、リバウッド側からこちらに向けて多数の人間が向かってくる反応が見えた。
反応の具合からしてこれは乗合馬車と商人達の馬車が一緒になった団体さんだ。
「フィオラ! 来たよ。じゃ、後はお願いね」
「うん、任せといて。ルゥもその……がんばって……」
「うん……」
ラムレットをヒッグ・ホッグの見張りに置いて、フィオラと2人街道に向かった。到着すると間もなく馬車の先頭車両がやってきて、手を振るフィオラに気づいて停車した。
今回の馬車には護衛の機兵が2機ついている。あとから聞いてわかったけど、この様に大所帯の旅では安全面を考慮してお金を出し合って機兵の護衛を借りることが多いらしい。
フィオラが御者の人に事情を話すと、それを見ていた機兵が……正確には機兵のパイロットが興味を示したのかこちらにやってきた。
なんだかカエルのような顔をした機体のハッチが開き、日焼けをした若い男性が顔を出す。
「どうした? 何か困りごとかい?」
現在馬車の護衛依頼を受けていて他の依頼は受けられないが、何か困っているならパインウィードで口を利いてやろう、男はそんな事を言っていた。
そして『ヒッグ・ホッグを運良く倒したが、運べなくて困っている』とフィオラが説明をすると、男は信じられないと言った顔をする。
必死にフィオラが説明するが、やはり男は信じてくれない。しかし、ある時から男の態度が一変した。
男の視線が、フィオラの肩に座ってゆらゆらと脚を動かす私に止まった。視線はそのまま釘付けになり、私は男と目を合わせ、精一杯の笑顔を作った。
「……おいおい、お前さんもしかしてカイザーか? まじかよ……あー、その髪の色……ちょっと雰囲気は違うがあの嬢ちゃんじゃねえか!」
「嬢ちゃん? ええと……」
「すまん! 今はこの通り護衛依頼の途中なんだ! パインウィードについたら直ぐに人を出すから! どうかまっててくれ!」
気持ち悪いほど急に態度をかえた男が御者に合図を送り、馬車は再度走り出す。
去り際に2機の機兵が敬礼をして去っていったのが非常に気になるけど……まあ結果オーライ?
というか『カイザー』という名前? これは気になる。あの時聞こえた謎の声もカイザーがどうとかいっていた。ううん、私の本当の名前がカイザー? こんな可愛い見た目なのにそんないかつい名前が?
ううむ謎は深まるばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます