第二百五十六話 ルッコさん

◇SIDE:レニー◇


 普段人が来ることがないらしい、ばあちゃん家のドアがノックされた。


 ……ばあちゃんも言ってたけど、このおうちがあるのは普通の人がわざわざ来れるほど優しい土地ではない。歩けど歩けど人の気配というか、人の手が入った形跡が殆ど無いこの土地は森の奥深くにある。


 魔獣こそあまりでないらしいけど、大型の動物はきちんと出るし、危険な森なのにはかわりはない。うんそうだ。ここは王家の森にちょっと似てるんだ。


 カイザーさん――端末に表示されてたキノコの情報によれば、この辺りはどうやら浜風があたるような場所らしい。でも、深い森の奥。と言うことは海に面した森があるような土地で、もしかしたら大陸の端っこといった辺鄙な場所なのかも知れない。


 そんな場所だからノックの音に驚いてしまった。


 ばあちゃんは今裏に行っている。どうしよう? 勝手に出たら怒られるかな? でも、こんな場所までわざわざ来るなんて、ばあちゃんの事を知らなきゃ来ようとは思えないよね。


 という事で、恐る恐る扉を開けてみました。


「はーい」


「む……? 誰だお前は。ここはリナバール・ラムトレインの家だと思ったが」


 ガッシリとした体つきなのに女の人見たいな綺麗な顔をしている。そして金色のサラサラとした髪がとても妬ましい! そんな事を考えながら見つめていると、再び声をかけられる。


「おい、聞いているのか娘よ。お前は誰だ? リナバールはどこへやった? 答えによってはお前……」


 と、その時ポカリと音がして男の人がうずくまる。その後ろには杖を持ったリン婆ちゃんが凄い顔をして立っていた。


「こら! ルッコ! 女の子には優しくしなって言ってるじゃろう! それにあたしはリンじゃ! その名前で呼ぶでないよ!」


 ルッコ。なんというか、王子様見たいな顔立ちなのにルッコってちょっと面白い……。


「えっと、ばあちゃんこの人は……?」


「あ? ああ、ほら前に話たじゃろ。このデカいだけデカい男があたしの息子、ルッコだよ」


「ええー!?」


「いたた……母さん……元気そうでなによりだよ……それといい大人なんだしルッコではなくジル……」


「やかましい! ルッコはルッコだよ! ほらほら! さっさと入りな! あたしもつかれてるんじゃ!」


 ばあちゃんがいつも以上に元気にルッコさんを叱り飛ばし、無理やりおうちにいれてしまった。ざっくりとしか話してもらえなかったけど、ルッコさんは大きな街で暮らしていて、大事な役職についているらしい。いや、ついていたっていってた。


 うんそうだ。もうその仕事は辞めてしまって、お友達を探す旅に出るんだってさ。なんだかアタシと同じ様な事をやってるなって思ったら急に親近感が湧いたよ。


 うーん、顔立ちは余り好みじゃないからお友達としてね。


 ……なんて思ってるのがバレたらそれはそれで怒られそうだな。


「で、レニーとか言ったか? お前以前どこかで……」

「多分気のせいですよ。少なくともルッコさん見たいな人と会ってたらあたしが覚えてますもん」


「それは一体どういう……いや、しかしな、お前の髪の色は他に見たことがない。何処かで会っていればそれこそ俺だって忘れないさ」


「ううん……そう言われてみれば、私もルッコさんと何処かであったような気がしてきましたけれど……やっぱり気のせいですって!」


「そうか……、まあ、それならそれでいいがな。それでお前は一体何故こんな所に?」


 何故……か。婆ちゃんの息子さんだからね、話せる部分だけルッコさんに聞かせたよ。気がついたらこの森にいた事、ここが何処なのかわからないということ。


 そしてルッコさん同様にあたしも仲間……大切なお友達を探す旅に出ようとしていることを。


 そして、ほんの思いつきだったけど、怪しいものじゃないよってチームカードを見せた時、ルッコさんの表情が少し変わったような気がした。


 でもその表情も直ぐに戻ってチームについて聞いてきた。しかも構成とか戦力じゃなく、別の質問。


「……ほう、ブレイブシャインというのか。 なあ、お前達のパーティメンバー達はどんな奴らなんだ? 気の良い奴らだったのか?」


「そうだね、仲間は皆いい子……全員女の子でね。それぞれ得手不得手があったけど、皆でそれを補って頑張ってたよ。皆無事だと良いな……」


 ぽつりぽつりとみんなとの思い出を口にする。

 話しているうち、寂しくって泣きそうになっちゃったけれどぐっと我慢。ルッコさんの前で泣いちゃったら恥ずかしいもんね。


「何があったかは知らんが……素晴らしい仲間たちだったのだな。俺の仲間も良いやつばかりでな、あいつらは案外しぶとい連中だから恐らく無事だと思うのだが、心配なので探しに行こうとおもっているのだ」


 そしてルッコさんも仲間の人たちのお話をしてくれた。私同様に話せることだけ、言葉を選んで話している感じがしたけれど、ルッコさんの仲間達も皆いい人ばかりだった。


 暫くルッコさんと色々なお話をしていたけど、ばあちゃんの声で其れが中断させられた。


「ほらほら! あんた達! そろそろ食事の支度をするから手伝ってくんな!

 ルッコ、アンタは薪をあつめてくるんじゃ! いいかい、森の木を斬っちゃ駄目じゃよ!落ちてる枝を集めてくるんじゃ!」


「ああ、わかってるよ。妖精様が怒るからだろ?」

「うむ。レニーは……そうだね、一緒に野菜の皮でも剥いとくれ」

「はあい」


 そしてルッコさんは背負い籠を背負い森に出ていった。あんなに綺麗な男の人が背負籠を背負う姿を視るなんて……。ちょっとおもしろくて笑ってしまったらこちらを振り向いたルッコさんと目があってしまった。バレてない、バレてないよね。


 お家に戻ってキッチンにいくと婆ちゃんからナイフを渡され、お芋の皮を剥くように言われた。こうしていると皆で野営をしているときを思い出してちょっとしんみりするんだよね。


 お芋をもくもくと剥いているとばあちゃんが不意に口を開いた。


「なあレニーや。お友達を探す旅に行くといっておったねえ」


「うん。ばあちゃんのおかげで用意も進んでるしね。皆も心配してるはずだし、早く見つけに行かないと」


「そうかい。うん、そうじゃね。レニーや、イヤじゃなかったらでいいんじゃ。ルッコと一緒にいってやってくれんかね」


 婆ちゃんの言葉にびっくりして息が詰まってしまった。ルッコさんと一緒に?確かにルッコさんもお友達を探す旅に出るとか言ってたけど……なんでまた。


「びっくりしたかい? まあそうじゃろうな。唐突な話しだしの。まあ、年寄りのカンじゃよ。ルッコと2人で行けばきっと双方に良いことが起こる。これは賭けても良い。どうじゃ?」


 少しだけ悩んだけれど、ルッコさんは少なくとも街からここまでやってきた土地勘がある人だ。認めたくはないけれど、あたしは少々方向感覚が怪しい時がある。たまにね。


 だからそのお話に乗ることにしたんだ。


 夕食の時、ばあちゃんは同じ話をルッコさんにした。ルッコさんもびっくりしてたけど、なにか思うところがあったのか了承した。


「レニー。お前が良いと言ったなら俺は構わない。ただ、1つ約束して欲しい」


「約束? 出来ることなら……」


「なんてことはないさ。同行するからには俺とお前は仲間だ。仲間は何があっても互いを信頼し、決して裏切らない。約束できるか?」


 どうってことない約束だった。というか、当たり前過ぎてびっくりしちゃったくらい。


「私を誰だと思ってるの! これでも1級ファーストパーティブレイブシャインのリーダー! レニー・ヴァイオレットだよ! あたしは仲間を絶対に裏切らない。

 よろしくねルッコさん! これからは私達も共に旅する仲間、私はあなたを信頼し、裏切らないと誓うよ!」


 ルッコさんはなんだか小さく笑って『はっはっはそうか、よろしくな。もっと早くこうして出会っておきたかったぞ』と言っていたし、ばあちゃんは『あんたみたいなちんちくりんがファーストかい?』とびっくりした顔をしていたよ。


 ちんちくりんって!


 そして婆ちゃんとルッコさんには仲間だということでカイザーさんの姿をみせた。といってもお馬さんだけどね。2人はびっくりしていた……というかばあちゃんはなんかわからないけど拝んでいた。


 カイザーさんってお爺ちゃんお婆ちゃんによく拝まれるよね……。


 ◇


 翌朝、さっそく私達はたびに出ることにした。


「ばあちゃん。元気でね。って、皆を見つけたら必ず遊びに来るから!」

「ああ、楽しみにしてるよ。じゃからアタシが死ぬ前にさっさとみつけとくれよ」


「もーばあちゃんったら!」

「母さん。暫く来れないかもしれんが……大丈夫か?」


「馬鹿にするんじゃないよ。備蓄はたっぷりあるし、妖精様の加護で山の幸ならたっぷり手に入るさ。アンタこそ大丈夫かい? レニーに何かあったらあたしがゆるさないからね!」


「言われなくとも騎士の誇り……いや、母さんの名にかけて護り抜くさ! じゃ、行ってくるよ、母さん」


「ああ、ルッコ、レニー!息災での!」


 

 いつまでもいつまでも手を振るばあちゃん。ちょっとの間だけだったけど、ほんとのばあちゃんみたいだったリンばあちゃん。なんだか悲しくなってグスグスしてたらルッコさんが頭をぽんぽんとしてくれた。


 なんだかカイザーさんを思い出してちょっと元気が出てきた。


 おうちを旅立ってから二日目。ようやく森から抜けることが出来た。それもこれもルッコさんのおかげだ。あたし一人だったら狼のご飯になってかもしれないね……。


 森から抜けると広い草原に出た。よく見ると街道がいくつもいくつもあって、さあ何処に行こうか? と途方にくれてしまう。 


 と、突然端末からお馬のカイザーさんがぴょこんと飛び出して私達の前を駆け出した。


「どうしたの? いきなり」


 追いかけてる内にピタリと止まったかと思ったら足でちょいちょいと何かを指し示すような動きをしている。


「これは……東に行けといっているのか? しかし東には……」

「そっか、カイザーさんは東にいけっていってるのか」


「カイザー……さん?」

「ん? ああうん。このお馬さんの名前だよ。前も珍しいええとマツダケ? とか言うキノコを見つけてくれたりね、困った時になんだか方角を教えてくれるんだよ」


「なに? マツダケだと? 母さんめ、出してくれても良かったのに……いや、それはいい。で有れば……ふむ、ではカイザーの話に乗ってみるとするか」


 そして私達は東を目指して歩き始めた。待っててね皆! 今、迎えに行くから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る