第二百五十五話 レニーと馬
◆SIDE:レニー◆
この土地に来てから10日になるのかな。旅の支度を整えるため、私はまだばあちゃんの所に厄介になっている。
リンばあちゃんからはいろんな話を聞けた。今いるこの土地は『オモエ』という土地であること。オモエは古くから猫族が住む土地であること。最近は人族も増えて面倒だとも言ってたな。だからばあちゃんはあんまり山から降りて行かないんだっていってた。
そんなばあちゃんに少しでも恩を返そうと思って、あたしは山に通った。幸いここらにはあんまり魔獣が出ないみたいで思う存分狩りや採取をすることができた。
……私はあんまり射撃が上手じゃないから主に植物系素材の採取だけどね。狩りのことを考えると妹の顔がチラつくなあ。あの子ちっこい身体でやたらと狩りが上手なんだ。
村のおっちゃんたちに強請って色々と教わってたけど、最終的におっちゃんたちも舌を巻くほどの技術を身に着けていたもんね。
それはまあ、素質があったんだろうなで済むんだけど、なんであの子あんなに力持ちなんだろう……子鹿くらいなら軽々と担げてたもんな。
我が妹ながら意味がわからない生き物だよアレは……。
まあ、そんな妹と、フィオラと喧嘩して家出をしたのは結果としてよかった、今となってはそう思える。
マシュー、ミシェル、シグレちゃん、カイザーさん、お姉ちゃん、ウロボロスにオルトロス達、そしてガアスケ。大切な仲間と、家族のように大切な皆と出会うことが出来た。
頭の中に次々と懐かしい顔が浮かんでくる。会いたいな、皆無事だと良いな。
……と、腕につけている端末が小さく奮えたような気がした。
あれからずっと光を失って消えたままの盤面。なんだか急に愛しく思ってさわさわと撫で回してしまった。
と、盤面に緑色の文字が表示された。なんだか読めない文字だったけど、こう書いてあった。
***KAISER OS***
Kernel 4.0.2.xx.xx.kn99_512
M://system/sub/unicorn
mode:run
y/n
y
unicorn system loading... ...
こんな感じの文字がザーッと流れて行って、再びまっくろくなってしまった。
突然のことに一体なんだったのかわからず戸惑っていると、盤面から飛び出すように小さなお馬さん……カイザーさんが最初に手に入れた……『サブボディ』だったかな? が浮かび上がった。
「カ…カイザーさぁん……」
毎日一緒だったカイザーさん。他の誰よりも一緒に行動してきたカイザーさん。そんなカイザーさんが今、あたしの目の前に姿を現した。
ふよふよと漂う小さなお馬さんは触ることが出来なかったけど、それでも抱きしめるように胸に押し付けてわんわん泣いちゃった。
「カイザーさん、一体どうなっちゃったの? みんなは? お姉ちゃんは? あれから今まで何が? ううん、あの時一体どうして?」
聞きたいことがありすぎてめちゃくちゃにカイザーさんに質問しちゃった。
……けど、お馬のカイザーさんは端末から離れて動くことが出来ても喋ることは出来なかった。お話が出来ないのにはがっかりしたけど……でもこの小さなお馬さんは確かにカイザーさんだった。
グズる私に言い聞かせるように顔の前でフヨフヨしたかと思ったら、そのままフワフワと勝手に進んじゃう。離れすぎると姿が消えちゃうから必死に追いかけたよ。
「ちょっと、待ってよ! どこにいくの?」
なんとか追いつくと、茂みの中でお馬さんがフヨフヨとしている。一体どうしたのだろうと覗いてみたら、そこには沢山のきのこが生えていたんだ。
「きのこ? カイザーさんが見つけてくれたの?」
満足気にふわりふわりと動くカイザーさん。でも、きのこは強い毒を持つものが多くって、素人が適当に採取するのは危険なんだよ。私は採取が得意だけど……きのこは土地によって生える種類が違う。このオモエのきのこははじめて見る白に黄色の模様が入ったきのこで、見るからに怪しげな雰囲気だった。
それでもなんだか取るように促すカイザーさんにどうしたものかと思っていると、端末から文字が浮かび上がった。
===================
【ヒカゲマツシロダケ】
浜風を受ける森林にのみ自生するキノコで非常に美味。毒性はなく、炒め物やスープなどに適しているが、希少性が高く栽培法も確立されてないため非常に高価なきのこで、群生地は親族にも教えるなとまで言われている。
===================
あ……っ! これ、お姉ちゃんがいつかつけようって話してたた『鑑定』機能だ!
カイザーさんやお姉ちゃんがせっせと読んで集めた知識が詰まった鑑定機能……。
そうか、そうなんだ! カイザーさんは私を逃した後、お姉ちゃんと一緒に一時的に本体から離脱したんだ。あの日から今日まで見ていた夢。そこで必ず見る2つの光、それはきっとカイザーさんとお姉ちゃんだ。
カイザーさんは本体から離れたせいなのか言葉をしゃべれないみたいだけど、何処か偉そうなお馬さんを見ているとちゃんとカイザーさんに間違いないよ。
えへへ……カイザーさん、一緒だったんだね……。
カイザーさんが端末に戻ったのであたしも作業に戻った。すごい量のきのこで、半分ほど採った時点でもう籠がいっぱいになっちゃった。
結構大きな背負籠なんだけどな……。
結局その日はそれで採取はおしまい。ばあちゃんちに帰りました。
「たっだいまー! 見てみて大量だよ! ほらキノコ!」
「キノコ? だいじょうぶかい? 素人が適当にとると……こりゃマツダケじゃないか」
「マツダケ? ヒカゲマツシロダケっていうんだよ。美味しいんだって」
「そりゃしっとるよ。ここらでは昔からマツダケと呼ぶんじゃ。しかしまた、こんなに沢山ようみつけたのう……ありゃ見つかりにくい所に生えとるからの、豚でも連れてかんとみつけられんのじゃよ」
「へええ……まあ、馬に見つけてもらったと言うかなんというか……」
「馬? はは、レニーも冗談を言えるようにまで元気になったみたいだね。良かった良かった」
決して冗談では無かったんだけど、嬉しそうな婆ちゃんを見てそんな事は言えなかった……。
そして次の日、ばあちゃんちにお客さんがやってきたんだ。
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