第二百五十四話 レニーの目覚め

◆SIDE:レニー◆


 あの日の事を何度も何度も夢に見る。散り散りに飛んでいく仲間たち。そしてどんどん小さくなっていくカイザーさんとお姉ちゃん……。


 あたしは手を伸ばして『ダメだよ! 一緒に行かなきゃ!』って叫ぶんだけど、カイザーさんとお姉ちゃんはにっこり笑って手を振っているんだ。


 そしてカイザーさんがもう見えなくなるという頃、カイザーさんから光が2つ飛び出すんだ。


 そのうち大きな光は何処か遠くへ飛んでいっちゃうんだけど、もう一つの小さな光は私の元に飛んでくる。


 ただの夢だとばかり思っていた。


 けれど、最近はそうではないと思っているんだ。あの小さな光が飛び込んだ『端末』


 ほんの偶然だったけれど、画面を撫でたらお馬のカイザーさんが表示されたんだ。残念ながらお馬のカイザーさんは言葉を話すことはできなくって、お話は出来なかったけど、わからないものをスキャンするとどういうものなのかを文字で教えてくれたり、現在位置はわからないけれど、何か大事なものがあるらしい方向を指し示してくれる。


 最初はどういう意味があるのかわからなかったんだ。お馬のカイザーさんは私の周囲ならうごけるようで、画面から飛び出してゆらゆらと動いたり、前足をちょいちょいと動かしたりする。


 かわいいなあ、励まされるなあ、なんて思っていたけど、実はそれ行く方向を指し示していてくれたんだ。


 なんだか『レニー、東だ。取り敢えず東に向かおう』そう言ってくれてるようで、気付いた時は嬉しくて泣きそうになったな。


 ◇


 そう、あの日、目を覚ますと何処かわからない深い森の中に居た。

 起き上がって皆の姿を探したけれど、直ぐに状況を思い出した。そう、私達は、カイザーさんは負けたんだ。


 皆は無事なのかなって、端末で呼び出そうとしたけれど応答はなし。つまり、カイザーさんが動かなくなっているか、凄く遠くまで離れてしまって前に言ってた『圏外』と言う状態になっているかのどちらかだろう。


 どうも今は夜みたいで、あたりは真っ暗。腰につけてたカバンからライトを出してちょっと歩くとお腹がグウと鳴った。あはは……こんな時でもあたしのお腹は鳴くんだな。


 なにか食べよう、この辺りは広いからお家を出してごはんにしよう! そう思って端末を触って思い出す。


 カイザーさんと繋がれない、つまり例の収納を使うことが出来ない。


 泣きそうになったけどぐっと我慢。カバンを探るとナイフにロープ、それとクッキーが入っていた。嬉しくなって1枚ポリポリとやって後悔。口の中パッサパサになった。


 飲み物も無いし、ほんと何やってるんだろうあたし……。


 でも、甘いものを食べたおかげで少し冷静になれた。森の中でこんな時間に生身で居るのはとってもマズイ!


 取り敢えず手近な所に生えている木に登り、身体をロープで固定する。


 うん、これで大丈夫。取り敢えず朝になるまで……ゆっくりしよう……。


 ◇


 翌朝、誰かが呼ぶ声で目を覚ました。一体誰だろう……というか、人が来れるような場所だったんだ……と、身を起こそうとしたけれど、どうにも様子がおかしい。


 なんと言うか、踏ん張ろうとしても空を蹴る感じがするというかなんというか……。


「……なんじゃ、やっぱり生きておるではないか。お前そんな所でなにをしているんじゃ?」


 声はどうやら下から聞こえる……けど、どうも上手く見ることが出来ない。


「ええと……何って寝てたんですが……私は一体どうなってるのでしょう」


「それはあたしが聞きたいねえ……。そんな所でぶら下がってるからさ、良からぬ者に何かされたのかと思ったんじゃが、どうも違うみたいじゃね」


 ……どうやら夜の内に木からずり落ちちゃったらしい。そっか、命綱のつもりで結んだから長過ぎたんだな。


 振り子の要領で勢いをつけ、なんとか木に戻れた。そのまま木から降りて声の主にご挨拶だ。


「いやあ、ご心配をおかけしました。私はレニーというしがないハンターです」


 声の主は小柄なおばあさん。猫族のようで、白い耳がピコピコと動いている。なんだかちょっとマシューを思い出して胸がギュッとしちゃったよ。


「ハンター? なんでまたこんな山奥に……まあいいさ。あたしはリンっていうんじゃよ」


 ここが何処か聞こうと思ったら、先にお腹が音を立ててしまった。うう、ヒッグ・ホッグの唸り声みたいで恥ずかしい……。


「あっはっは。よくわからんが、お腹がすいているのはわかったよ。良かったら私の家まで来なさい」


 リンばあちゃんとの出会いは幸運だった。


 ばあちゃんは昔からこの森『燐火の森』に住んでいるらしい。この森は気味が悪いとかで誰も来ない静かな森らしい。私が寝ていた場所からばあちゃんの家までは道らしい道はなく、後ろを見てもどこから来たのか分からないほどだった。


 ……あたしだけだったらきっと遭難していただろうな。

 うん、ばあちゃんが来てくれなかったらきっと森に還っていたと思う……。


 ばあちゃんがご飯の支度をしながらざっくりとした身の上話を聞かせてくれた。若い頃から一人で森に居たらしいんだけど、ある日森に捨てられた男の子を拾って息子として育てたんだって。今では立派なお仕事をしてるらしいんだけど、ちょいちょい帰ってきてくれるとか。


「息子もバカさ。あたしの事なんてほっぽいて勝手に幸せになりゃいいのに、律儀に通ってくるんだ。ああ、ほら、肉が煮えたよ。たべなさい」


 ばあちゃんが出してくれたお肉のスープは美味しくて、なんだかとっても優しい味がした。


「うう……美味しいよお……ぐす……」

「なんだいなんだい。泣くか食べるかどちらかにしな」


 こうして暫くの間、旅の支度が出来るまでの間リンばあちゃんのお世話になることになったんだ。

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