第二百四十九話 ルナーサ最後の夜

 あれから3日が経ち、現在フラウフィールドまであと少しという所まで来た。


 フィオラの人探しに同行している形なので、行程にあまり余裕はないのだけれども、ルートリィから行けるらしい『大魔法使いの山』にはちょっと興味があったな。


 なんでも大昔に魔法使いが本当に住んでいた山のようで、今は魔導具として生き残っている『魔法』を、それも大魔法を使いこなすとんでもなく偉大な人が住んでいたらしい。


 今では観光地になっていて、誰でも見学ができるらしく、ちょっぴりみてみたかったんだ。


 ともあれ、先を急ぐ旅だし、路銀もアレだし、一応戦争中であるってことで今回は諦めたけどね。

 でもさ、気になるよね。『魔法使い』じゃなくて『大魔法使い』だよ?どんだけ凄いのって言う。

 

「もしかして凄いんじゃなくて物理的に大っきいだけだったり……」


 そんな事をフィオラが言ってたのがおかしかったな。どんだけでっかい魔法使いさんだよっていう。


 そんなフィオラは今ホクホクとした顔をして街につくのを今か今かと待ってる。

 昨夜は野営だったんだけど、フィオラ一人だけ異様に喜んでいたからね。


 なんでかって、まず宿泊費がかからないし、普段より長く狩りの時間を取れるからね。

 

 もう既に慣れてしまって、呆れた顔で見送る護衛たちに手を振って近くの森で楽しい狩りの時間を過ごしていたよ。


「見てよルゥ! ゴクラクヤマドリだよ! やったあ! これ高いんだよ!」


 光の加減によって色合いを変えるキラキラとした羽に覆われた大きめの鳥。うん、私が騎乗出来るくらい立派なサイズの鳥だ。


 この鳥は肉も美味しいらしいんだけど、それより羽根の価値が高いんだってさ。



 そんな感じで『ゴクラクヤマドリ』を2羽も仕留めたフィオラは門で順番待ちをしている間もずっとソワソワソワソワしていた。


「はー、いいなああの人達」


 フィオラが指す方を見れば、通常の門とは別の門を使って街に入っていく一団が見えた。どうやら特別な資格を持っているような人達専用の出入り口のようで、ほぼ並ぶこと無くスルスルと抜けていく。


 あれは地位が高い人とか、緊急性がある仕事を担っている人なんかが使う門なんだろうね。


「いつか私もああいう所を通ってみたいもんだよ。このカードが目に入らぬかあ! なんてね」


「あはは、なにそれ。ハンターズライセンスにそんな効果があるの?」


「いや……わかんないけど。1級ファーストクラスにまで上がればそういう効果もあるんじゃないかなって」


「なんだよ、フィオラは5級フィフスのままでいいって言ってたじゃない」


「あれはあれ、これはこれ」


 そしてようやく私達の番がやってきて、馬車の終着駅に到着となりました。

 ここから先、例えばマグナルドさんが言っていた『パインウィード』に行こうと思えばまた乗合馬車を探さなければならない。


 しかも、その馬車が出ているのは隣町。そう、面白いことにこの街は寄り添うようにトリバの『フロッガイ』という街と並んでいるらしい。


 もう一度あの検問があるのかとうんざりしたけれど、フラウフィールドに入る際にじっくり調べられたおかげで、こっちからあっちにいく分には簡単な調査だけで済むそうで、トリバ入はさほど苦にならなそうでほっとしたよ。


 ちなみにフィオラが取った鳥は2羽で金貨1枚の査定が付きました。なんでも羽根を傷めず頭を狙って射抜いているのが高ポイントだったとか。凄いなフィオラ、もうこれで食っていけるんじゃないか?


 おかげでフィオラはもうずっとニコニコしています。


「うっふっふー! 凄いな凄いな! 金貨だよ? 何食べようかな?何しようかな?」


「トリバはルナーサほど親切な街づくりがされてないみたいだし、野営の用意も忘れないようにしないとね」


「わ、わかってるわよ……もう! ルゥはなんだかお姉ちゃんみたいだな!」


「お姉ちゃんって……。んん……? なんだかそういう会話を誰かとしたような、したのを見たような、そんな気がするな……」


「ルゥみたいな妖精をお姉ちゃんって呼ぶなんて変わった人も居るもんだね」

「そんな気がしただけだから、ほんとかはわからないよ」


 そしてこの会話をしたあと、なんだかちょっとフィオラの元気が無くなったような気がした。屋台を見つけてフラフラしてはニシシと笑いながら『獲物』を両手に戻ってくるのはいつも通りなんだけど、どこか無理をしているような、そんな気がしたんだ。


 その日は何時もより良い宿を取った。


 銀貨10枚と、フィオラにしてはなかなかに奮発したお宿。何でかなって思ったら身体を拭きたかったんだってさ。


 この宿は高いだけあって朝夕のお食事が結構豪華で、宿の人に言えば無料でお湯を貰えて身体を拭けるんだって。


 夕食の後、フィオラはタライに入ったお湯を運んでもらって部屋で身体を拭き始めた。


「マグナルドさんがさ、女の子ならここがいいよーってオススメしてくれてたんだよ」

「なるほどね。通りで適当に取った割にはいい宿だなって思ったよ」


 チャポチャポと身体を拭く音が部屋に響く。時折無言になるのはやはり街での会話が影響をしているのか……。うう、気まずい。


「……今日さ、お姉ちゃんみたいって言ったよね。アレ嘘。全然お姉ちゃんに似てない」

「ん……。フィオラにはお姉ちゃんがいるんだね」


「そ。あたしね、その馬鹿をね、探しに来たんだ。向こう見ずで、元気だけは良くって。

 あたしと喧嘩して飛び出していった馬鹿姉。ほんと迷惑なお姉ちゃんだよ。ルゥがお姉ちゃんだったらどんなに良かったことか」


「そっか。探し人ってお姉ちゃんだったんだね。だったら尚更速く見つけてあげないとね」

「そう? ま、そうだね。ルゥだから言うけど、多分お姉ちゃんさ、ちょっと大変な事になってるんだよ」


「ええ?」

「私さ、昔からたまに変な声を聞いたり、夢を見たりするんだよ。夢の割にははっきり覚えてるんだけど、映像だけはボヤけてるの」


 シュルシュルと布が擦れる音が聞こえる。


「……やれ、お姫様を旅に出せだの、西に逃げろだの。私だけど私じゃない誰かが、ぼやけた相手に言うそんな夢。

 そして、半年前かな? そこで見た夢に居たのは……多分お姉ちゃんだった。あの声はうん、お姉ちゃん。何処かわからないけど、仲間とはぐれて大変そうだった。

 ……なんだかとっても元気がなかったしね。

 そして私だけど私じゃない声が言うの『再び出逢う日まで力をつけて耐えなさい。そして流れに身を委ね東を目指しなさい』って」


「そっか。それでフィオラは『東』を目指すお姉ちゃんの助けになるために村から出てきたんだね」


「ううん! 違うよ! どうせまた迷子になってるんだろうからさ、さっさと捕まえて仲間の人の所に連れて行きたいの! 仲間の人、絶対困ってるよ? まったく、迷惑をかけるのは家族だけにしてほしいもんよ!」


 まくしたてるように言うフィオラは顔をほんのり赤くし、照れているようだった。素直じゃない子だけど、いい子だな。そんなフィオラのお姉ちゃんなんだ、きっとその子もいい子なんだろう。


 うん、大した助けにはなれないけれど、私も出来る限りの協力をしよう。

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