第二百四十七話 商人の思い出話し

フィオラの懐に収まり屋台街をブラつく。

 

『今日は饅頭の気分』なんていってたくせに、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと串焼きやらお団子やらスープ麺やらに吸いせられて、結局饅頭屋を見つける頃にはお腹をいっぱいにしてヒイヒイ言っていた。


 まったく、これだから乙女軍団は油断も隙もないな……。


 うん? 乙女軍団……? ナチュラルに思い浮かんだ単語だけどなんだろう?

 軍団……まさか記憶を失う前の私はゾロゾロと20人くらいの仲間を引き連れて旅をしていたのかな?


 ううむ、わからないけれど、もしそうであれば何処かで噂を聞けそうだね。女の子4人のパーティですら話題になってたくらいだし。


 暫くするとお腹を擦っていたフィオラが復活し、乗合馬車が集まる駅へと向かった。

 そこには8人乗りの大きな乗合馬車が何台か並んでいて、そのうちの1台に御者らしい人がついて何か作業をしていた。


「ちょっときいてくるわね」


 フィオラが男の元に向かい、料金や日程などを聞いている。

『えー? 今日はもう出ないの?』などと言っているが、当たり前だよ、流石にこれから暗くなるというタイミングで街から出発する馬車なんてないだろうさ……。


 それでも何とか明日朝の便を取れたようで、満足げな顔をして戻ってきた。

 料金はフラウフィールドまでで銀貨12枚。野営時に軽食は出すが、街に泊まる時には各自なんとかしろというシステムらしい。


 銀貨50枚という金額が安いのか高いのか、その辺りの記憶はあいまいだけど、串焼きが銅貨12枚、スープ麺が銅貨36枚。ウサギ4羽分の報酬が銀貨2枚と銅貨80枚だって事を考えれば、そこそこのお値段であることがうかがえる。


 街で暮らしながら旅の支度金を貯めるのはなかなかに難儀だったに違いない。


 現に『あー、思ったより高いね! これじゃかなりギリギリだよ。途中途中で売れそうなもの取らなきゃな』なんて頼もしいんだかダメなんだかわからないことを言ってたから、フィオラ的にはかなりお高い支払いだったんだろうな。


 うーむ、私もお金があればなあ。どうも私はこの身ひとつでフィオラに拾われたみたいだし……っていうか、このサイズを考えるとそれもそうか。


 以前のことはわからないけど、こんな身体じゃお財布を持てそうもないし、きっと初めから一文無しだったに違いない……ごめんなフィオラ、私じゃ力になれない問題だよこれは。


 そしてなけなしのお金で安宿に泊まり、一晩を明かし。

 

 早朝に発つ便を選んだがために、宿の朝食は出発時刻に間に合わず。

 自業自得で唸るお腹を擦るフィオラと共に駅へと向かった 。


 まだ早朝だというのにかなり人が多い。

 駅に集まる人々の半分くらいは商人だけど、ハンターや一般人の姿もちらほら見える。


 フィオラに頼んで旅の目的を聞いてもらった所、この季節は『王家の森』と呼ばれる場所で魔獣が活性化するのでハンターが集まるのだと言う事だった。さらにパインウィードという村で森を切り開く開拓事業をしているとの事で、トリバに向かうハンターや商人の数が例年より多いらしい。


 それからしばらくすると御者がカラコロと鐘を鳴らし、出発時刻であると告げた。


 意気揚々とフィオラが乗り込み、間もなくすると馬車がサウザンを経った。

 向かいに座った商人の男がまた話し好きで、何かとフィオラに話しかけてくる。まさかこの男、少女趣味ではあるまいな……。


 フィオラも情報を集めたいのもあり、退屈しのぎにと、積極的に話しかけていた。話題は朝に聞いたトリバでの稼ぎの件から始まって、やがてルナーサの話へと変わった。


「まあ、パインウィードの稼ぎもあるけど……やっぱり今ルナーサがちょっと危ないからね。トリバに避難しようって人も多いのさ。俺はまあ、店があるからサウザンから離れられないけどねえ」


 そう言えば、この国の首都であるルナーサは帝国軍に占拠されているのだったか。それにしてはサウザンの様子はそれほど暗くはないようだったが、どうやら例の『お嬢様達』の活躍を期待して悲観しない人達が多いようだ。


「これは自慢なんだけどね。僕は前にブレイブシャインに依頼をしたことがあってね。短い期間だったけど一緒に旅をした事があるんだよ」


「ブレイブシャイン?」


「あれ? 知らない? 結構有名なんだけどなあ。ほら、女の子だけのパーティなんだけどね、全員が見慣れない人型の機兵に乗っててね。もうだいぶ知れ渡っている事だけど、その機兵には魂があって喋るんだよ」


「へー! そんなスゴイ機兵が居るんだ!」


「うん、凄かったよ。それに何より不思議な魔導具を持っていてね、荷物を全部しまってくれるんだよ。しかもどれだけ大きな荷物もしまっちゃってさ。あれは羨ましかったな……」


 マグナルドと名乗る男は何処か懐かしむ様子でブレイブシャインの話を聞かせてくれた。その話はどれも俄には信じられないほど凄まじいものばかりだったけど、どうやらその全てが本当にあったことらしい。


「トリバに行くならパインウィードに行くと良いよ。さっき話したヒッグ・ギッガ討伐があった土地でね、そこではブレイブシャインの話を詳しく聞けるからね」


 パインウィードか。私が何処へ行くかは今の所フィオラ任せだけれども、フィオラに予定が無いのであれば提案してみてもいいかもしれないな。

 

「でも、まさかブレイブシャインを知らないとはねー。ほら、君懐に人形入れてるだろ?あの子……そう、レニーがそんな感じで大事そうに人形を運んでたからさ、影響された女の子の流行りかと思ったんだ」


「レニー……ああ、そう言えばギルドのおばちゃんにも言われたよ、それ。ううん、これはたまたま拾った人形でさ、袋に入れると壊れちゃいそうだからこうやって運んでるんだ。

 にしても……へえ、レニーってそんな感じなんだ……」


「まあ、ほら。レニーもそんな理由だったのかも知れないよ。決して変な趣味とかではないと思う」


 例の人形少女、フィオラに似た少女の名前はレニーというのか。どういう理由かはわからないけど、人形を入れるとはやっぱりちょっと変わっているよな……。


 ……まさかその人形というのが私で、私はそのブレイブシャインの一員だったり……?


 ないない! もしそうなら『レニー』って名前を聞いた時何か思い出しているはずだもの!

 それにブレイブシャインは4人パーティーだと聞くし『乙女軍団』って呼べるほどの人数じゃないもんね。


 うーん、私の記憶は一体いつ戻ってくれるんだろう。

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