第二百四十三話 始まり

※本日はこの回を含めて合計3話投稿しています。

 この回は本日3話目です。この回の前に10時投稿分と12時投稿分あります。


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 皆の輝力が俺の身体を満たしていく。

 頭の先から爪先まで力に満ち溢れている。

 

 パイロットが乗っていると言う感覚から、仲間と一体化している感覚に変わり、皆の輝力が一つに纏まって大きな奔流となって俺の体を循環しているのを感じる。


 迷いが消えた心に勇気の炎が輝きとなって駆け巡る。


『KAISER SYSTEM 00 AWAKENING. MODE:BRAVER UNLOCK』


 特別なシステムメッセージをスミレが読み上げる。

 ああ、そうだ。俺は、俺達は真の輝きとして覚醒したんだ。


 輝力が光となり俺を包み込む。


 ああ、そうさ、そうだとも。勿論知っているとも!

 シャインカイザー43話『決戦!ジャマリオン』でカイザーが成し遂げたファイナルフォーム。


 勇気の力が輝きとなり白き皇帝と化したあの姿。


 黒き皇帝が相手なら何より相応しい姿じゃないか。


 白銀に煌めくカイザーブレードを構え黒き皇帝を見据えた。


「ゆくぞ」


 ”空”を蹴り地上に降下する。

 禍々しい黒き魔力を纏う皇帝機はさながら『カイザーダークネス』といったところか。

 

 先程の一撃が効いたのか『ダークネス』はアランドラ機から手を離して両手で剣を握り締めこちらを向いて構えている。


 白き輝きと黒き闇が刃を交える。


 互いの剣が当たる度、周囲の空気が震え、得も知れぬエネルギーの奔流が迸る。


 その動きは徐々に速度を上げ、やがて周囲の時間が停止する。


 白と黒、2つの色のみが存在する世界。


 ぶつかり合う白と黒。


 此方が当てれば彼方も当て。


 互いに削り合い辺りに破片が舞い散っていく。


 永遠に続くかと思えた剣舞だったが、終わりの時間が訪れた。


 俺の刃先がダークネスの腹部を掠め、相手の体勢がぐらりと崩れる。


 先程入れた一撃、それが好機を呼び込んだ。


「「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 袈裟斬り一閃


 白き輝きが黒き靄を打ち払い周囲の時が動き出す。


 ダークネスのコクピットハッチがヒビ割れ、ボロボロと崩れ去る。


 露わになったコクピットには力なく座る皇帝の姿があったが、ずるりとコクピットから零れ落ち、地に向かって落ちていく。


 思わず駆け寄ろうとしたが、それは地に付く前に塵となって霧散してしまった……。


「……既に……力を吸われ尽くしていたのか……」


 パイロット達も言葉が出ず、動かぬ黒き皇帝ダークネスをじっと見つめていた。


 しかし、まだだ。まだ終わりではない。


「カイザー、気を付けてください。敵機内のエネルギー炉は依然として活動を継続しています」


「聞いたな皆、あれを止めるまで戦いは終わらない」


「うん! あたしもあれからは嫌な感じがするんだ。止めよう!」

「あのモヤモヤは気持ち悪いからな! むしり取ってやろうぜ!」

「私は叩き潰すのが良いと思いますわ」

「皆物騒なことを……私は壊して埋めるのが良いかと……」


「まったくお前らときたら……まあいい、行くぞ!」


 

 『ダークネス』に近づくと変わらず放出されている濃い魔力に顔を顰めたくなる。

 既に無人となっている筈なのに……なんだこの違和感は。


「スミレ、炉の場所は胸部で間違いないな?」


「はい、高濃度の魔力反応は胸部に収められている魔石から発せられています」


 ふと、アランドラ機を見ると、胸部が切り裂かれ、その傍らには漆黒の卵が、卵だったものが転がっていた。


 破片に塗れ地に落ちているのは黒龍と思われる生命体の亡骸。

 恐らくはこの幼体に魔力を移し急成長をさせるのが目的だったのだろうな。


 この様子を見るに、俺とダークネスと剣撃に巻き込まれ命を散らしてしまったようだ……。


 驚異となる存在だったのかも知れないが、空を見ること無く命の灯を消すこととなった幼体には胸が痛む。後でしっかり弔ってやらねばな。


 ブレードを構えダークネスと対峙する。

 後はこの炉を砕き、魔力の放出を止めればこの戦いは終わりだ。


 ……動かぬ機体に刃を立てるのは気が引けるが……終わりにさせてもらうぞ!


 両手で握りしめたブレードを胸部に迫る。


 しかし、その一撃は


「何っ!?」


 ダークネスの両の手がブレードを掴み破壊を阻止したのだ。


「まさか……パイロットも無しに動作したというのか?」


 防衛反応かなにか仕込まれていたのだろうか?

 動揺しながらもブレードを突き立てようとするが、凄まじい力で抑え込まれている。


「もう動かないんじゃなかったのかよ!?」

「それどころか……再始動してますわよ!?」

「まさか……こいつもカイザーさん達みたいに……?」

「……っ! まずいでござる!」 


 ダークネスの目が怪しく輝き顔が此方を向いた。


「いけない! カイザー! 手を離し――」

「ぐあああああああ!!!」


 スミレのセリフは最後まで聞き取れなかった。

 高エネルギー……魔力が相手から此方へを伴って流れ込んできたからだ。


 まさか……ありえない。

 この身体を得てから感じることがなかった『痛覚』

 それが今、俺の全身を蝕む魔力により蹂躙されるパーツから悲鳴のように響く。


「カイザー! カイザー? カイザー!!」


「グ……ググ……スミ……レ……これは……不味い……ぞ……」


「……! メインシステムに未知のプログラムが侵入しています! 防衛プログラムが書き換えられて……!」


「――カイ……ー……!」

「……イザ……!」

「……――……ーさん…―!」

「……ー殿――――!!」


 パイロット達の声が遠く聞こえる……が、上手く聞き取れない。

 くっ、俺の身体を乗っ取ろうと、アランドラ機の代わりに喰らおうとしているのか?


 そうは行くかよ!


「スミ……レ……!……たの……む……!」


「……わかりました」


 スミレは俺の意図を汲んでくれたようだ。

 コクピット内に防衛アラートが鳴り響き始めたらしく、レニー達が慌てているようだ……最早おぼろげにしかわからない。


「最終防衛モード カウントダウン開始」


 スミレの音声だけははっきりと聞こえるのがありがたい。

 彼女とはシステムの深部で繋がり合っているからな……。


 ここを乗り切れば……まだ、まだ好機は残されている。

 今ここで全機奪われる訳にはいかないんだ。

 

 シャインカイザー27話『奪われたカイザー』のように、たとえ俺が奪われたとしてもオルトロス達が健在なら好機はある。


 今回は……きちんとデータを分散できるから……前回のようなことにはならないはずさ……。

 

 ああ、そうさ。前回よりはだいぶマシだ。僚機達はきっとお前たちの力になってくれるはず。


 パイロット達は納得出来んだろうが、許してほしい。


 ただ……レニーにはつらい思いをさせてしまうな……。


 この状況ではレニーだけ緊急脱出で……単体で離脱させることになる。

 安全性は非常に高いが、メンタル的にはどうしようもないよな……。


 カウントが間もなく終わるようだな……。


『スミレ 俺の言葉を みんなに 頼む』


『わかりました』


『皆 すまない 一時 的に お別れだ 頼むぞ 待っているぞ 迎えに来る時 を』


『レニー すまない だが 俺達 は 繋がっている 忘れるな いつでも 俺たちは――』


 俺が打ち出した信号がスミレを通じ言葉となってパイロット達に伝えられているようだ。

 

 センサーがだいぶもってかれているのだろう、既にカメラもやられて満足に見えない。

 

 カウントが終わり、合体が解除されるのを感じた。

 ああ、あの時、噴火の時を思い出すな。そうか、あの時もこうして一時の別れをしていたんだったな……。


 シグレとヤタガラスが射出され、続いてミシェルとウロボロス、マシューとオルトロスが俺から射出されていったのがわかる。


 今回はパイロットと一緒だ。これなら……きっと……

 ……頼んだよ、みんな……。


 そしてレニーが座るコクピットが射出された。


 世話をかけるな相棒。けれど、さようならは言わないぞ。

 また会おうな、相棒、その時まで……どうか、元気でな……。


 そして残ったのは俺とスミレの2人だ。


 既にカメラもマイクもやられている。

 暗くて静かな世界……いや、スミレの声だけは聞こえてくる。


『カイザーごめんなさい……』


『何を謝っているんだ。謝るのはこっちの方だ。俺の油断から立て続けに危機を招き結局このザマだ。俺が招いた事態だぞ。スミレが謝ることは一つもないじゃないか』


『そうですね、今回の件は全てあなたの怠慢と高すぎた自己評価、そして油断とアニメ脳が原因です。確かにそれに関して私が謝ることは有りませんね。』


『え、ええ……じゃあ何に対して……っていうかこんな時でもスミレはスミレだなあ……』


『ふふ、私が謝ってるのは別の理由です。ごめんなさい、カイザー。そして待っていますよカイザー。ずっと、いつまでも……貴方のことをここで――』


『スミレ……?』


 目に光が、耳に音が戻り……現実に戻された気分になった。

 何か膜のような物越しにコクピット内が見える。


『これは……おい! スミレ! どうして俺を妖精体に移した? おい!』


『ごめんなさいカイザー、こうするしかないのです。

 このままではあなたの記憶が失われてしまう……それは許されない』


『だからといって……君が残る必要など!』


『いいえ、例え機体だけ取り戻せたとしても、データが失われたカイザーなどいりません。

 私はこれよりカイザーのコアを不届き者から護る電子防壁ファイアウォールを展開し、電子戦を開始します。

 奴と私との根比べ、どちらが勝つかは言うまでもないでしょう? どうか、私に任せて下さい』


『駄目だ、俺も残るぞ! 俺も残って……――!』


『カイザー! 行きなさい! そして私を……迎えに来て……待ってますから、ここでずっと待ってますから……ぜったいですよ、カイザー。ぜったいに――』


『――スミレ!』


 コクピットから射出される瞬間、微笑みながらコクピット内に横たわるスミレの姿が見えた。


『スミレエエエエエ!』


 遠ざかる俺の身体。


 どんどん小さくなっていく俺の身体。


 あの日、遠ざかる俺の姿を見た僚機の皆も同じ気持ちだったのだろうか……。


 そして機体が完全に見えなくなり、徐々に高度が下がってきたのを感じる。

 一体どれ程の距離を飛ばされたのだろう?


 地図データと照らし合わせて現在地を……っく、地図データは本体側に残ったままか……。


 どうやら俺に残されているのはメインとなる人格データと人の記憶に該当するデータ、そしてカイザーシステムのバックアップデータだけのようだ。


 何とかしてレニーや僚機と合流しないと何もできんなこりゃ……。

 速くどうにか合流してスミレを助けに行く手はずを整えなければ。


 と、いよいよ着地の時が来たようだ。視界に迫る久しぶりの大地。


 ……まて、まてまてまて。


 俺はどうやって着陸をすればいいんだ?

 この障壁の強度は? 中にいる俺の安全性は?


 やばいぞ……妖精体での射出なんて、俺のデータに存在しない!

 ああああああ、大丈夫か? 大丈夫なのかこれ、大丈夫――

 

 視界いっぱいに地面が見えた瞬間、俺の意識は途絶えた。


- --- - .. .- . . ... -


・・

・・・

・・・・・・


「……る? ……うぶ? ……ねえ……生きてる……よね?」


「うう……ここ……は……あれ……? 一体……?」


「あ! 起きたね! 大丈夫? 君ね、森に落ちていたんだよ! 魔獣にやられちゃったの?」


「うう……待ってくれ、ここは一体……いや、俺は……俺は一体……なんなんだ……?」

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