第二百四十二話 立ち上がれ 

※本日はこの回を含めて合計3話更新されます。

 この回は本日2話目です。

===============================


 アランドラ機を掴み上げる皇帝機……。


 俺の行動は余りにも御粗末すぎた。


 頭の何処かでアニメ的なご都合展開、テンプレ展開を期待していたのかもしれない。

 団長と共闘すれば皇帝機に勝つことができる、アランドラ機を護る事が出来る。


 ここがテレビの向こう側の世界だとまだ勘違いしていたのかもしれない。

 どこか現実味のないこの世界で憧れの機体となり何者にも負けない主人公だと思っていたのかもしれない。


 しかしこれは現実。今の俺の現実だ。現実はどうだ?

 皇帝機はまんまと俺を退けアランドラ機を掴み上げているではないか。


 敗北? そうだ、俺は負けたのだ。


 敵の親玉に、皇帝に負けてしまった。もうおしまいだ……俺にはどうすることも出来ない……。


「……ザー!……イザー!……カイザアアアア! シャキっとしろお!」


 誰かが怒っている。もう遅いんだ、夢の時間はもうおしまいなんだよ……。


「何言ってるんだよ! まだ終わりじゃないよ! ここからじゃん! 立ち上がれ! カイザアア!」


 ガツン、ガツンとコンソールを叩く音が聞こえる。一体誰が……レニーだ。

 怒っているのはレニー?


「ばっきゃろお! お前がしっかりしなけりゃまとまらねえだろうが!」


 マシューが怒って……いや、泣いているのか?


「あまり私を失望させないで下さいまし。今ならいつものつまらない弱音として聞き流してあげますわよ」


 ミシェルが静かに怒っている……俺は……俺は……。


「カイザー殿。反省会にはまだ早いでござる。それにしていないのですよ?

 ここで諦められてはみんなが困ります」


 シグレ……こんな時にまで映写会の……いや……『まだ完結していない』か……。


「そうですよ。ここで終われば『打ち切り』です。

 責任を持ってキチっと『完結』させなさい! カイザー!」



 ふふ……そうか、そうだよな。

 現実、ああこれは現実だ。だが、それがどうした?


 そもそもここは異世界、しかもお膳立てしてもらったロボの身体があるじゃないか。


 御都合展開にはならない。そりゃそうさ。だって現実だもんな。

 

 だが、現実でも悪足掻きは出来る!

 そうだ、俺はカイザー、何度でも立ち上がり、決して屈さぬ熱い魂を持つカイザーだ。


「みんなすまない! なんだか……弱気になってしまったようだ!」


「「「「カイザー!」」」」



 どうなるかなんて全く考えていない。

 ノープランの突撃、いいじゃないか!

 

 今じゃない、未来だ。未来に繋ぐための一撃、ただ一撃を入れに向かうんだ!


 皇帝機はアランドラ機を掴んだまま動かない。

 ああ、あれはきっと何か良くない事をしているのだろうな。


 ならばそれをチャンスと捉えようじゃないか。ガラ空きの胸元に一撃だ!


 その後? 知るか! 真面目なのは、慎重なのはもう辞めだ!


 コンソールを通じて流れ込む皆の感情がそれを肯定している。ああ、そうだな。

 

 君達も戦士だ。俺と共に悪と戦う輝きの戦士だ!


 ゆくぞ皆!


 

 一心不乱に皇帝機に向かって走り出す。もう迷い等全て捨て去った。

 カイザーブレードをしっかりと握り、ただ一撃を入れに俺は走るのみ。


 禍々しいモヤが皇帝機に流れ込んでいるのが見える。

 ああ、そうだな。ここは立ち止まって様子を見たほうが良いよな。


 けどさ、そんな心の警鐘などもう不要だよ。

 今はただ、成すべきことを成すだけだ!


 皇帝機が間合いに入る。相変わらず動こうともせず、ただひたすらに何か良からぬ動きを続けている。


 時がゆっくり動いているかのように感じる。


 ドロリとした時の中で剣を振り上げ腰を斬り抜くべく横に払う。当たった。

 何か弾かれるような感触があった。しかし、出力を上げ更に踏み込む。


 ギリギリと、エネルギーとエネルギーが拮抗する。


 もう何十分、何時間もこうしているような気がする。

 

 やがてパキリとした感触が手に伝わってきた。


 それまでピクりともしなかった皇帝機がこちらをジロリと睨んだ。


「1撃……いれてやったぞ!」 


 瞬間、時が再び速さを取り戻す。


 激しい音と共に弾き返された。防がれた? いや、僅かではあるが、確かに一撃入れられた。その証拠にそれまで我関せずだった皇帝機がコチラを睨みつけている。


 そして背中のサブアームが可動したのが見えた。


「そう何度もやらせるか! レニー!」


「わかってる! おりゃああああ!!!」

 

カイザーガントレットを射出し、『杖』を掴み取る。それでもまだ諦めず充填を続けているがそうは行かない。


 力任せに引っ張り回し、邪魔をしてやろう。そうだ、俺達は決してお行儀が良い戦い方ではなかったじゃないか。こういう泥臭い戦い方こそ俺達の、俺達が作り出したカイザーの戦い方だ。


 皇帝機が苛立っているのか、とうとう剣を抜いた……が、まともにやってられるか!


「シグレ! 飛ぶぞ!」

「うむ! カイザー!」


 跳躍し、そのまま高度を上げる。ガントレットは杖を掴んだままだ。

 流石にアランドラ機を持った皇帝機を持ち上げることは出来ないが、別に奴を連れてどこかへ行こうというわけではない。


「シグレ! もっとだ! もっと羽撃はばたくんだ!」


「いくでござるよおおおおお!!!」


 飛行ユニットに大量の輝力が流れ込み、出力が急上昇する。

 頼むぜワイヤー、リックの手製だ、信じているぞ!


 天と地で壮大な綱引きが繰り広げられる。そしてそれはすぐに決着がついた。


 突然、ワイヤーにかかっていたテンションが失われ、機体が急上昇する。

 ワイヤーが切れた? まさか、リックの作品だぞ? そんなやわではないよ。


 機体ステータスにもしっかりとガントレットが健在であることが示されている。

 ならば何が起きたか?。


「ひゃっほう! 一本釣りだぞ!」


 地上から巻き上げられた『杖』にマシューが喜びの声を上げる。

 今まで散々やってくれたな、と文句をつけたいが、ここはこう言うべきであろう。


「おかえり、俺達のライフル」


 残念ながら文字通りの『魔改造』が施されたこの武器は俺達が使える状態ではなかった。けれど、必ず俺達の手に戻してやるからな。それまでゆっくり休んでいてくれ。


 ストレージににライフルを収め、しばしの別れを告げた。


「さあ、邪魔なものは無くなった! 再度仕掛けるぞ!」


「「「「おう!!!」」」」


 頼もしい声が機内に響く。さあ、いくぞ黒き皇帝よ! 俺達の剣、受けてみろ!


※本日はこの後14時にもう1話公開されます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る