第二百三十六話 暴走騎士

「カイザーさあああああん! 無理ですわ! 無理ですわ! 

 一人じゃあんなの無理ですわああああ!」


 平野に到達するやいなやミシェルの悲痛な通信が届く。

 無理もない、俺だってアレは嫌だ。


 どう見ても何か妙な事になっているし、敵味方問わず斬り捨てる様子からアレは完全に理性を失っているのだろう。


 しかし、嫌だと言った所でどうにかなるわけではない。

 俺が、俺達がやらねば誰がやるのだ。


「カイザー! ミシェルと合流するぞ!」


「ああ! 勿論だ! ミシェル! 俺達の姿が見えるか!? 今からそちらへ向かう! 合流しよう!」


「言われなくてもそうしますわよおおおお!」


 と……例の黒騎士と目があった……気がした。

 いや、確実に目が合ったのだろう。明らかに動きが変わった。

 ミシェルからこちらへと進路を変え、真っ直ぐ向かい始めたのだ。


 以前見た機体とは違うが、あの動きは以前戦った例のパイロットに違いあるまい。

 であれば執拗にミシェルを追い回していた事にも、ひょっこり現れた俺にターゲットを変えた事にも頷ける。


 ああ、そうだよな。お前もあのまま、宙ぶらりんのままじゃ納得出来なかったんだろう。


 やってやる、やってやるさ!


 俺だって、俺だって悔しかったんだ。

 大切な仲間を守れなかったあの弱さを。許せなかったんだよ……俺は!


 決着を……つけてやる!


「レニー、やれるな?」

「うん、いつでも行けるよ!」


「マシュー、ミシェルと合流後直ぐに動くぞ。いいな?」

『ああ、任せてくれ!』

 

「ミシェル、タイミングは任せる」

『もう! 待ちくたびれましたわ!』


 

 黒騎士より先にミシェルが俺達のもとに到達した。

 ついている。これはいけるぞ。


『カイザーさん! 行きますわよ!』


「おう! 行くぞ! モード月皇!」


「「「カイザァアアアアア・ルナッッ!!!」」」


 ウロボロス、オルトロスと合体しカイザールナとなった。

 ヤタガラスが遅れているのが痛いが、我らとて練度は上がっている。


 見ていろ黒騎士、以前のようには行かないぞ!


 帝国軍機を踏みつけて此方へ駆け寄る黒騎士は、時折禍々しいモヤを吹き出しながら尋常ではない動きをしている。


 なんだ……あのモヤは? あれが……暴走の原因か!?


「カイザー! 来ますよ! 気を抜かないで」


「っく! わかっている! ゆくぞ皆!」


 カイザーブレードを構え、黒騎士の一撃を受け流す。


 重い……!

 

 以前とは比べ物にならないほど出力が上がっている。見た目だけではなく、大幅なパワーアップを遂げてきたというわけか。


 しかし俺達だって何もしていなかったわけじゃあないぞ。

 機体のアップグレードこそしてはいないが、パイロット達の輝力上昇により俺の出力は以前よりかなり上昇しているんだ。


「いける! 動きについていけるよ! カイザーさん!」

「ああ、上出来だ! 君達の努力が実を結んだんだ!」


 戦場に剣と剣がぶつかり合う音が鳴り響く。


 暴走状態でなければ良い戦いになったろうに、動きが雑な分以前より戦いやすく感じる。

 元々力に頼る動きをするパイロットだと思っていたが、それがより顕著になっているな。


 と、悪いタイミングでもう一機の黒騎士が現れた。


 くそ、流石に2機相手は分が悪い。せめてヤタガラスが到着すれば何とかなりそうなのだが……!


「カイザー、様子が妙です」


「む?」


 困惑したようなスミレの声に黒騎士2号の様子を見ると、どうもあちらの援軍という動きではない。


 何をしたいのかはわからないが、暴走機につきまとうような動きをしている。


 暴走機もそれがうざったいのか振り払っている……なんだあれは……まさか暴走する仲間を止めようとしているのか?


 正直俺達も戦いにくいぞこれは……。


「相手の状況がわからんが……ひとつ言えるのはあの2号機邪魔だよなあ……」

「邪魔って酷い事言うよね、カイザーさん」

「いや、敵意がないなら無駄に攻撃を当てたくないと思ってな……」


「……相手の考えを聞いてみましょう」


「聞くっていったってどうやって? アニメみたいに『何故か敵の声が聞こえて会話ができる』というわけではないんだぞ」


「ふふ、こうするんですよ」


 と、スミレが言った瞬間ハッチが一瞬だけ開く。何事かと思えば、暴走機になぎ倒されて地に伏せている黒騎士に向かい飛行するスミレの姿が見えた。


『スミレ!? 一体何を!?』

『敵国にむざむざ機材を渡すわけには行きませんからね。自動帰還機能を持った通信機を使ったまでですよ』


 なんて無茶なことをする奴だ……。

 いくら黒騎士が倒れているとはいえ、暴走機は……っく!


 考える間もなく暴走機が剣を撃ち込んでくる。

 全く、よくもまあ、こんな状況で飛び出していけたものだな!


 にしても、こうも連撃されては話も何も無いぞ!


「ミシェル、足に出力を回してくれ! レニー! スキを見て距離を取るぞ!

 バックステップからリボルバーで足元を狙え!」


「「了解!」」


 暴走機が横薙ぎに剣を振る。力任せな太刀筋は俺達にとって良い好機となる。

 即座にバックステップでそれを躱し、リボルバーで足元を射撃する。

 出力を上げていたため、距離は大きく開き、被弾を嫌がる黒騎士は追撃が遅れた。


 機動力を上げた脚で避けながらリボルバーで牽制する。

 黒騎士はこちらに飛びかかろうにも、弾幕が邪魔をするためそれも出来ず、乱暴に剣を振り回している。


 あの様子からしてかなり苛ついているんだろうな……。


 まもなくしてスミレから通信が届いた。

 どうやら無事に黒騎士の元へたどり着けたらしい。


 ……が、なんだか様子がおかしいな。


『だから、一体何なのよ? なに? 幻惑? 一体何を伝えようとしているの?』

『ですから、私はカイザーの戦略サポートAIで、貴方と話を……ああ、もう! カイザー、任せます』


 丸投げかよ! こっちはこっちでそれどころじゃないんだが!

 

「というわけで……少々俺の制御が途切れるかもしれんが、頼んだぞみんな!」


「ああ、任せろカイザー! あたい達だけで十分だ!」


 頼もしいことを言ってくれる。


 まあ、今はもう殆ど彼女達に制御を任せているからな。

 先程のようなとっさの判断となれば別だが、少々の間であれば彼女達だけでどうにか出来るだろう。


 さて、大人しい方の黒騎士と話をしてみるとするか……

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