第二百三十四話 開戦
シミュレーションゲームのユニット配置の如く、各陣へ機兵達を取り出した。
事前に決めていた陣形通りに配置された機兵たちにパイロット達が乗り込んでいく。
こうすることによって、ルナーサから現地までの行軍がなくなり、パイロットや魔石の魔力消費を節約できるし、なにより此方の様子を伺っているあちらさんへの精神攻撃になっているはずだ。
今までなるべく隠してきた俺達の『飛行機能』満を持して堂々と見せたわけだが、さぞや脅威に映ったことだろう。
どうせ帝国軍は「機兵の用意が遅れている」とか言ってバカにしていたと思うのだが、唐突に準備万端の陣が形成されたのをみればどうだろうか。きっと驚くに決まっている。
配置が終わった俺は手はず通り現在地である平原に着陸し、合体解除をしてウロボロスをそこに残す。
残った3機で再度合体し、国境門前に飛んで今度はヤタガラスをそこに残した。
さて、残ったのはレニーが乗る俺とマシューが乗るオルトロス。
俺達は二人一組で戦地を駆け、総司令として動くことになっている。
では、最初の仕事をするか。
ミシェルとシグレに連絡を入れ、それぞれにこちらの通信を
部隊の士気を上げ、統率を高める演説という奴を全部隊に聞かせるためである。
「やっぱやらなきゃだめか……?」
「ダメです。これだけの隊を率いる総司令官ですよ? 国家間戦争ですよ? いつやるんですか」
「スミレが今やればいいのでは」
「貴方がやるのです!」
正直俺はあまりこういうのが得意ではないのだが……仕方ない。
やるだけやってみよう……。
『諸君! 俺からの贈り物は如何だったろうか? 戦場に相応しい正装に身を包んだ諸君はさぞ勇敢な戦士に生まれ変わったことだろう。
今日という日、この場に立つ君達はなんのために居るのか、誰がために居るのか!
家族のため、恋人のため、国のため、隣国の友のため、様々な思いでこの地に立っている事だろう。
これから我らがするのは蹂躙ではない! 平和な国家に入り込む卑怯者から民を守る国家の防衛だ!
この平和な時代に国家侵略など人の考えることではない。ならば敵は人ではなく知恵なき魔物であろう! 魔物相手に遠慮はいらない! 機神の加護のもと、正義の鉄槌を下してやれ!
臆するな! 諸君の一撃は民への救いに繋がる!
想像しろ! 勝利の後の報酬を!』
『あまりこういう事は言いたくはないのだが、今回の防衛地はルナーサだ。
商人の国、ルナーサだ。我々のスポンサーはルナーサだ!
あとは分かるな!? 防衛の対価に大いに期待し、勝利のために働こうではないか!』
「「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」
『では諸君! 健闘を祈る! 各機陣を固めて以後は各部隊長の指揮に従え!
勝利と平穏を我等の手に!』
「「「「うおおお! カイザー! カイザー! カイザー! カイザー!」」」」
ふう……ノリとアドリブで言ったにしては中々上手くいったのではなかろうか。
パイロット達の士気も高まり、緊張感もほぐれたように感じる。
これは百点満点なのでは?
ここまで盛り上がったのはなぜだか連中の中で俺が神格化されているのが大きそうだが……。
エードラムの訓練を俺から直に受けた連中から変に広まってるみたいなんだよなあ……。
うう、カイザーコールは正直恥ずかしいから止してほしい……。
「カイザー……帝国兵は魔物だから遠慮はいらないと言い切ったのもアレですが、勝手にルナーサをスポンサー呼ばわりして……アズベルトは兎も角、マリエーラさんは怖いですよ……」
「あっ……」
ま、まあ『戦後処理』のことは後から考えることにしようじゃないか……。
今はあまり余計な事を考える暇もないし……。
さて、俺の仕事はこれで終わりというわけではない。
俺とレニーにはマシューと共に戦地を駆け巡るという大事なお仕事がある。
それの役割は自軍の士気を上げ、薄いところのサポート、そして……――
◆◇帝国軍国境門側陣地◇◆
※三人称視点
カイザーが2機の機兵をスピーカー代わりに用いて戦場に響き渡らせた声は当然帝国軍にも届いていた。
国境門を任された壮年の騎士団長は拳を握りしめ怒りを顕にする。
「我ら誇り高き帝国騎士団を……よりによって魔物だと……?
機神の……加護の元……だとお……?」
騎士団機、シュヴァールのコクピット内でワナワナと身を震わせる。
彼はこの戦いを、皇帝陛下からの勅令による戦いを名誉ある戦いと信じこの場に立っている。
強硬派の彼からすれば、皇帝陛下から『ルナーサ侵攻』が下された時は何よりも嬉しく思い、そして興奮し、滲み出る歓喜の思いに打ち震えたものだ。
彼は他国を見下している。
我々帝国の民を半島に閉じ込める汚らわしき民の末裔め、神々の時代から残された機兵を駆る我らこそが神々の末裔であり、偽りの機兵を駆る悪しき連中は死を持って償うべきだ……と。
ヘビラド半島に住まう人々の半数が旧ガンガレアの末裔であり、末裔達の多くは強硬派に属していた。
騎士団長もまた、強硬派の一人なのだが、穏健派である皇帝を好ましくは思っていなかった。
しかし、いつしか皇帝は強硬派に鞍替えし……今回の勅令で彼の忠誠心は完全に振り切れることとなり。
喜び勇んでこの地に馳せ参じたというわけだったが……。
「団長! 敵軍に妙な動きが!」
「妙な動き? ええい、今更何を言っている! 元々妙な連中だろうが! 良いからそのまま進軍しろ!」
「しかし……あれは一体……」
煮え切らない報告に業を煮やして騎士団長はハッチを閉め、自ら剣をとって前線へ向かった。
しかし、彼はそこで妙なものを見ることになる。
「ぐ……なんだ……あのふざけた機兵は……」
彼が見たものは……それは巨大な白馬に跨る真紅の機兵――
それは、馬上から大きな刃が付いた槍を振り回す真紅の機兵だった。
その機兵は巧みに戦地を駆け巡り、友軍をバサリバサリと切り捨てては、無駄に挑発的なポーズをとっている。
「む……むむ……むむむ……! ええい! 見せかけだ! あんなもの!……ッ」
その時であった。騎士団長の背後から轟音が響き渡った。
何事かと振り向く騎士団長の目に映るのは、次々と吹き上がる爆炎と吹き飛ぶ自陣、そして友軍達の姿だった。
「なんだ……これは……まさか、失われし魔術兵装……?
偽りの民が神聖なる魔術兵装を蘇らせたとでも言うのか……?」
愕然とし、炎上する自陣を見る騎士団長。彼の心は完全に折れかけていた。
しかし、まだ完全には折れては居ない。陛下からの勅令、帝国の代表としてここに立っているという誇りが彼をまだ戦地に引き止めていた。
「例え……例え魔術兵装を使えたとしても汚らわしき血では真の力は出せぬはず!
今こそ我らが機神の加護を受け! 悪しき偽神を討ち滅ぼさん! ゆくぞ! 我に続け!」
意地と怒りと誇り、様々な思いを込めて騎士団長は前線に駆けていく。
平原からの支援要請を受け、急ぎ向かったカイザーはその道中に『国境門防衛成功』の報を聞く。
報告によれば、次々と帝国軍が撤退する中、小規模の小隊が果敢に切り込んできたのだと言う。
他の帝国軍機とは少し意匠が違う機体が居たことから、それは団長が率いる騎士団であろうと推測され、彼らは最後の1機になっても最後まで剣を振り続けたのだと報告された。
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