第二百三十二話 ブリーフィング

「問題は部隊の配置だが……スミレ」


 スミレに作戦の説明を委ねる。


 スミレは戦略サポートAIと言うだけ有り、これまで明らかになった状況とこちらの兵力から最適であろう結果を既に導き出していた。


「はい、それでは説明させていただきます。当初より部隊を二つに分け、広く護りを固める作戦を用意していましたが、正直な所ビンゴでしたね」


 真面目なのかそうでは無いのかわからない口調でスミレが戦略を解説していく。


「まず、『国境門』と『平原』に各国の部隊をそれぞれ分けます。内訳はこちらの資料をご覧下さい」


 スミレの手から細い光が伸び、テーブルに資料が浮かび上がる。いつの間にこんな便利機能を実装していたんだ……。


 ■遊撃部隊(リーンバイル隊) エードラム 40機


 ■前衛部隊  エードラム50機 乙型20機 旧型機80機

  【国境側】 20機/10機/60機

  【平原側】 30機/10機/20機


 ■後衛部隊 エードラム40機 乙型20機 旧型機60機

  【国境側】10機/10機/30機

  【平原側】20機/10機/30機



 資料を眺めていたマリエーラから質問が飛ぶ。


「遊撃部隊というのは一体どのような動きをされるのでしょうか?」


「リーンバイルの方々は、個としての戦闘力が高いため、部隊を率いて戦うよりもバラバラに動き、状況によって適切な行動をとって善を掴むと言った戦い方に秀でています。

 なので特に配置を決めず、それぞれの判断で戦場を駆け巡り、援護や情報収集をして貰うのが最適と判断しました」


 エードラムの訓練を通じてリーンバイルのパイロット達から話しを聞けば聞くほど彼らのスタイルはニンジャの様であると感じた。


 完全に指揮下に収めるのでは無く、ある程度自由に行動をさせて柔軟に不足分を補って貰うような使い方が適しているのでは無かろうかとスミレと話していたのだった。


 リーンバイル隊の装備は2種類で、リーンソードを装備するアタッカー向けの機体と、クナイと煙幕を装備した諜報向けの機体に分かれている。


 チョロチョロと動き回って上手い事攪乱してくれる事を期待している。


 この説明に納得したのか、マリエーラは続けて前衛と後衛について詳しい説明を求めた。


「前衛部隊の役割は大きく分けて二つ。防御特化型装備のエードラムによる重装兵は大きな盾を装備しています。これにより戦場に動く壁を作りだし、敵の動きを阻害します。

 次に速度重視型のエードラム乙型があふれ出た敵軍を攻撃します。その補助役として旧型機があたるわけですが、正直なところこれだけではいずれ護りは崩される事でしょう。そこで……」


 と、続けて後衛の説明に入る。この後衛こそが作戦の要であり、新技術の塊である。


「前衛よりも数が少ない後衛ですが、これは装備とパイロット育成が間に合わなかったのがその原因です。と、言いますのも、後衛が装備するのは通常の武器では無く魔導具だからなのですが……」


「魔導具? それはつまり……機兵が装備できるだけの性能を持った兵器としての魔導具を実用化したということですの?」


 かつての大戦では『魔術師』という職業が存在していたらしい。

 当時はそれなりに居た『魔術師』は機兵の身体を触媒とし、我が身同様に様々な魔術を発動して飛び道具の代わりに使用していたという。


 この世界において殆ど銃火器が普及していなかったのはそのためである。


 そんな面倒なものを開発しなくとも、魔術を用いれば簡単に実現できてしまう。

 故に当時は作られることがなく、現在ある銃火器は今の時代になってから魔術兵装を開発中に偶然生まれた産物なのであった。


 一応は世に出た現代式の魔術兵装だったが、それには様々な欠点があり、普及どころか実用化すら出来なかったのだが……スミレやウロボロスは基地のエンジニア達と協力し、ついに実用可能な魔術兵装の開発にこぎつけたのだ。


「まずは見てもらったほうが良いでしょうね」


 スミレが壁に映像を投射する。ホント便利な機能だよなそれ……。


 はじめに映し出されたのは武器の外見であった。


 それは見た目がそのまんまグレネードランチャー……いや、「魔術兵装」と呼んでは居るが、現代兵器を魔力を使って無理やり再現していると言ったほうが速い代物で、ぶっちゃけグレネードランチャーそのものだったりする。

 

 魔術に関しての知識が殆ど残っておらず、ルストニア家保有の資料にも、頼みの綱のウロボロスですら実用的な記録が残っていなかったため、異世界技術を此方の技術に寄せることにより無理やり再現したのだが……いやあ、魔術師にぶん殴られるよな、これ。


 再現、というのも申し訳ないレベルで魔術とはまた別の仕組みなのだからね……。


「この武器は『アグニ』と呼びます」


 正直な所、命名についてはスミレと二人で揉めに揉めた。

『何をこだわるのです、そのままグレネードランチャーで良いでしょう』

 と、頑張るスミレに、そこはロマンを求めるべきだと『アグニ』を押した俺との戦い。


 2時間にも渡る戦いの結果、スミレが折れることとなり俺の案が通されることになった。

 だってさ、ここは地球じゃないんだよ? ファンタジー世界なんだよ?

 何が悲しくて現代兵器を使わなければいけないのさ。


 そりゃあ、見た目はそのままグレネードランチャーだよ? でもさ、名前くらいはファンタジーな感じにしてもいいじゃん……。


 そんな具合にゴネにゴネて『アグニ』を通したわけなのだけれども……

『だったらインドラやダゴンも作ってくださいね』

 なんて不機嫌そうに言われちゃったよ。


 ……いやいや、アグニからその2つを連想するのはおかしいだろ。

 それってネトゲのやつじゃん……ああ、私の知識から引用したのか……。


「この武器には穴が6つ空いている箇所があり、そこに魔力弾を込めて使います」


 映像のアグニがアニメーションをして魔力弾が装填されていく様子が映し出されている。非常にわかりやすいプレゼンだな。


「この事から分かる通り、一度に撃てるのは6発のみですが、撃ちきったら再度6発装填すれば砲撃できますので、弾がある限り魔術を放つことが可能です」


 そして映像は実際にこの武器を用いた訓練画面に切り替わる。6機のエードラムがアグニを構え、300m先の標的に次々に発射する。


 スミレの身体に映像用のスピーカーがあるわけではないので、無音ではあるが、標的の周りに次々に爆煙が上がる様子はなかなかに迫力がある。


 マリエーラはもとより、アズベルトら支配人達も妙な汗を流している。


「カイザー……君が何か魔導具を作るとは聞いていたけど、ここまで恐ろしいものを作っていたなんてね……」


 アズが怒っているような呆れているような声をだす。


「ま、まああくまでも緊急用だから……普段から使うつもりはないし、外部に流通させる気もさらさらないから……大丈夫……だよ?」


 慌てて下手な言い訳をしたが、流石にそれで納得はしてもらえない。

 いやだってしょうがないだろう? 既存の重火器をアップグレードするより楽だったんだから……。


 そしてスミレは最後にざっくりとこの武器の仕組みを説明した。


「ランチャー……アグニから投擲されている魔力弾は例の紅魔石で出来ています。

 エードラム制作の副産物と言えるわけですが、エードラム用の紅魔石を生成する際、動力炉として適さない品質の物はどうしても出来てしまいます。

 それには技術者の腕のせいではなく、様々な要因が関わる複雑な事情があるのですが、今は置いておきましょう。

 

 その品質が悪い紅魔石は過剰に魔力を込めると『爆発する』という恐ろしい特性がありました。幸いなことに、それによる死者はでませんでしたが、何人かが重症を負う痛ましい事故だったと記憶しています」


「おいおいカイザーその報告は聞いてないよ?」


 アズが悲鳴に近い声を上げるが、俺もそれは初耳だ!


「研究を進めた結果、魔力を込めただけでは爆発には至らず、その後衝撃を与えると数秒後に爆発するという事がわかりました。

 後はご存知の通り、榴弾に応用することに決めたわけですが」


 軽く言っているが、そんな恐ろしい代物だったとは俺も知らなかったぞ!

 いやいやアズ、マリエーラ、俺を見ないでくれ……俺も知らなかったんだ……本当だ……。


「まあ、カイザーにも言ってませんでしたから、皆さんが知らないのも当然でしょうね」


 俺の思考を読んだのか、しれっとそんな事を言うスミレ。

 フォローしてくれてるのかそうじゃないのかわからんな。


「まだまだ改良の余地があるこのアグニはかなりの重量があるため、出力が高いエードラムが装備することになりますが……最大の欠点として、近くに寄られるとその重量が災いして手も足も出せません。

 ですので、護衛とサポート役として通常装備の乙型と旧型機も後衛に配置することになります」


 最後に国境側の部隊長にシグレ/ヤタガラスを、平原側にミシェル/ウロボロスを任命した。

 

 俺とレニーは総司令官に着任する事になったが、その他にもマシューと共に重要な役割をすることになった。


 スミレの思いつきで任命されてしまったが、それを聞いてなんだかどっと疲れてしまった……。

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