第二百三十話 格納庫は何処

ルナーサに到着し、ルストニア家の屋敷に向かうと執事の男性が入口で待っていた。


「お帰りなさいませお嬢様、カイザー殿、ブレイブシャインの皆様。

 旦那様がお待ちです。さあ、こちらへどうぞ」


 ここに来るとなんだか偉くなった気分になるよな……。

 だってお城だよ? 執事さんだよ? 今日は居ないけど、メイドさんがズラリといるんだよ?

 

 庶民感全開の感想を心のなかで言いながら執事さんの後をついていくと……向かった先は思ったとおりいつもの格納庫だった。


 てっきり、いつものようにアズが居るとばかり思っていたのだけれども、予想ははずれ、格納庫にはアズどころか機兵も人も姿がなくガラリとしていた。

 

「あれー? 誰もいませんよー?」

「というか、人どころか機兵も……いや、なんだこりゃ? ガラクタしかねえぞ?」

「ここは蔵ですか……? にしては使い方が勿体無いと言うか……」


今までは、シンプルながらも立派な家具が置かれ、ちょっとしたホールのような姿をしていた格納庫だけれども、今日はどうしたことか、さっぱりとしている……どころか、マシューが言う通り、どうでも良いようなガラクタが適当に置かれていて、これではまるで掃除をしていない倉庫のようじゃないか。


 戸惑う我々の中、唯一ミシェルだけがなにか気づいたような表情に変わる。


「なるほど、お父様は『下』ですわね」

「流石ですなお嬢様」


 下……ああ! なるほど例の地下空洞か。

 ウロボロスの本体が眠っていた場所。あそこは我々の基地よりだいぶ広い空洞だったな。


 しかし、前にそこへ降りるのに使った昇降機が見当たらない。


 以前は奥の壁に大きな扉があったはずなのだが、そこは壁に変わっていて本当にただの倉庫のようになっている。


 ではどうやって下に降りるのだろうかと悩んでいると、執事が優しく微笑みながら腕につけている端末を操作した。


「お待たせして申し訳ありません、今扉を開けますので」


 間もなく何かの駆動音が聞こえたが、目の前の景色は変わらない……いやまてこれは……。


「では、参りましょうか」


 壁に向かって進む執事にブレイブシャインのパイロット達は驚きの顔を向ける。そして……


「あ! カイザー! 爺さんが壁に消えたぞ?」

「我が土地に伝わる忍術の類でしょうか……?」

 

 マシューとシグレが不思議でいっぱいの表情を浮かべながらワイワイ騒いでいるが、それに対して珍しくレニーが静かである。ミシェルが落ち着いているのははいつものことであるが。


「ねえ、マシューもシグレちゃんも『奪われたカイザー』の回を忘れちゃったの?

 あんだけ凄い凄いって興奮してたのに」


『奪われたカイザー』 か……。

 第27話だな。基地に侵入した敵幹部の策略により、まんまとカイザーが奪われてしまう間抜けな回だったが……。


「ああ、ああ! あれか! 偽物のタツヤが基地に侵入するやつか!

 折角偽物用意したってのにさ、あいつらどうやっても格納庫にいけないんだよな」


「そう! それだよ! 格納庫に行くには秘密のパスワードが必要だったからね」


「あー! それで偽タツヤが言うんですな『わりい、朝食ったナットーが腐っててパスワード忘れちまった。兄ちゃん、パスワードなんだっけ?』って」


「……それを信じてパスワードを教えちゃう職員なんて私なら首にしますわ……」


 作中の格納庫に続く扉は巧妙に隠されている。

 パスワードを入力した上で、巧みに施されたホログラム映像をくぐって入る二段構えだ。

 まさに眼の前の扉と同じ仕組みである。


 ちなみに、作中のセキュリティは面白い作りをしていて、正しいパスワードを入力しても見た目上はエラーが出るようになっている。


 純粋に間違っているときには――

 

『コードの認証が出来ません。お近くの係員、またはセキュリティ担当部まで連絡をお願いします』


 ――と、表示されるのに対して、正しいものを入れた場合は――


『コードの認証が出来ません。お近くの職員、または防衛部まで連絡をお願いします』


 ――と、一部の単語が書き換えられて表示されるんだ。


 知っていればすぐ気づくようなものだが、知らないと咄嗟には気づけ無い。

 そして見た目上は扉が閉まったままなので進むのを躊躇してしまうというわけだ。


 竜也は開いていない扉によく顔をぶつけていたっけな……。

 それに比べて偽達也は首を傾げながらも慎重に手を伸ばし、足を伸ばして『空いてんじゃん』と、上手いこと中に侵入していて……『ニセモノのが賢くね? いっそ取り替えたほうがいいんじゃないか?』と掲示板でネタにされていたのを思い出す。


「つまりはこういうことだな」


 そのままアニメ談義になりそうだったので、俺がまず先頭を切って先に進む。

 一見ただの壁に見える部分に触れると……そのまま手がすり抜けて向こう側に出る。


 なるほどこの技術は『俺達の世界』の物だな。

 おそらく、かつてウロボロスが作ったものなのだろう。


 どういう技術なのかわからんが、ホログラム投影機を2箇所に設置し、像を結ぶ事によって実現するもの……という事になっていて、施設の隠蔽や簡易な光学迷彩代わりに使ったりするのだ。


 それをどうやって再現したのかについては後でしっかり聞いておこう。


 後ろから恐る恐るといった感じでマシューが顔を出した。

 普通手から入れるものではないのか……?


「すっげー! 本当に中にはいれたぞ!あっ……」


 ニコニコと微笑んでいる執事に気づいたマシューが少々恥ずかしそうにしている。

 ふふ、マシューもそんな顔ができるんだな。


 要らんことを考えていたのがバレたのか、マシューに妖精体を掴まれギリギリと締められる。痛みは感じないが……その、あちらこちらのセンサーがやめてほしいと悲鳴を上げているから……やめて……ね?


 そうこうしているうちに皆が揃い、執事が壁に備え付けられている操作盤を操作した。

 

 今皆が居る場所は前にも乗った巨大な昇降機で、ホログラムで隠蔽された壁を通るとそのまま昇降機内部に入るようになっていた。


 以前は剥き出しだった扉にそのままホログラムを設置しただけともいうが、正しくパスワードを入れない限りは見た目にも触感的にもただの壁であるため、万が一望まぬ客が来たとしてもパスワードを入れぬ限りは地下には降りられないというわけだね。


 地下は格納庫として使われているので、この昇降機は機兵ごと降りられるようになっている。

 

 なので以前訪れた時は本体ごと降りたわけだけれども、今回はそうはせずに妖精体で下に向かっている。


 理由は簡単なことで、防衛上の事情だ。

 以前と違い、いつ何時何が起こるかわからないピリピリとした状況なのだ。


 地上で何か不味いことが起きた場合、上に身体を残しておけば先に俺だけ戻って自立起動で対処できるからな。

 

 勿論、俺達ロボ軍団はレニー達パイロットの搭乗があってはじめて100%の力が出せるため、あくまでも彼女達が上がってくるまでの時間稼ぎにしかならないが、備えはいくらあってもよいだろう。


 と、昇降機が停止し、地下に到達したのを感じた。ここに来るのも久しぶりだな……。

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