第二百二十九話 決意

リム族の集落へ訪れてから約半年が経った。

 これまでに、集落の復興作業と、パインウィードとの接続。

 そして、エードラムの完成と、日々忙しく活動していたのだが……ゲンリュウから届いた緊急通信により、決戦に向かうシナリオが動き出してしまった事を悟る事となった。


 パインウィード・旧ボルツ領を結ぶ街道は完全とは言えないが一応の開通を果たし、現在は道の整備と周辺の討伐作業が進められているところだ。


 それに伴い物資の流通も始まっていて、今では廃墟の名残が残るのみとなった中間地の拠点に次々と荷が運び込まれている。


 また、将来を考え試作していた魔獣の素材で造られた改良機、エードラム乙型がリム族の元に届けられ、リム族の保有機兵は30機に増えた。


 それに伴いライダー部隊は2つに分けられることとなり、エードラム隊の隊長をリシューに、乙型隊の隊長をマルリッタにそれぞれ任命し、集落と中間拠点の防衛を任せることにした。


 集落を気に入って住み着いているハンターもそれなりにいるため、集落は以前よりだいぶ賑やかになり、街道の開通により安定供給されるようになった物資のおかげもあって状況はかなり回復した。


「これからもっと良くなるぞと思っていたのに、よりによってこんな時に開戦か……。

 いや、今までよく持っていてくれたというべきなんだろうな……」


 黒竜の様子に変化がないと聞いて油断していたのは事実だ。

 それ以外の要因、人間の思惑によって開戦が早まる可能性というものを考えていなかったのは、前世からしっかりと継承されている平和脳のせいだろうな。


 俺が好んでみていたロボットアニメは「狂った科学者」や「宇宙からの侵略者」「地底から現れた爬虫類人」等が突如として街なり地球なりを滅ぼしに現れ、主人公たちが平和のために戦うという展開が多く、同じロボ物でも人間同士の戦争物はあまり好きにはなれなかった。


 一応有名所は抑えようということで、トリコロールカラーのアレなんかも抑えてはいるが、人間ドラマと言うか、政治が絡む話というかがこう、なんだろうな。


 どちらが正義と決めつけられないのが悩ましくって、好きになれなかったんだよなあ。

 もう少しハマりこんで真面目に見ていれば……戦記物にもハマったりしてさ、皇帝の陰謀なんてものにも対処できたり……したのかもしれないな。


 アニメ的なファンタジー世界に転生し、体もロボだということでなんというか万能感があったというか、どこか俺の都合が良いように世界が動いているような錯覚に陥っていたけれど、どっこいここは現実だ。


 いつもいつも都合がいいように事が進むとは限らないんだ、改めて気を引き締めていかないといけないな。


……

 

  例の報告から半月が経ち、現在我々ブレイブシャインは開戦に備えて基地に戻っている。

 

 念の為、リム族の所にも通信基地を建造しておいたので、何かあれば連絡が来ることだろう。


 地下のハンガーで整備されているエードラム乙型を眺めていると、通信室に詰めていたミシェルから連絡が入った。

 

『お父様から通信が入っています。繋がっていますのでそのままとってくださいな』

 

 直に俺にかければいいのにわざわざ通信室を経由するとは……。

 ははーん、通信係オペレーターがミシェルだからわざとやってるな?


「こちらカイザー。どうしたアズ、なにか動きがあったのか?」

『やあ、相変わらずうちの娘は凛々しい声だねえ』

「……切るぞ?」

『ああ! ごめんごめん! 明るいニュースじゃないからさ、少しでも気分を明るくしようと思ってね……いやすまない。冗談を言ってしまったけれど、そんな場合じゃないんだ』


 『友達』の声から『国家代表』の声に切り替えるアズ。

 彼も大変なのだろうな。少しでも明るく努めていなければプレッシャーで押しつぶされてしまうのだろう。


 商人として、代表として揉まれてきていたとはいえ彼は軍人ではない。

 今まで回避できていた戦争が目前に迫っているんだ、国民の命という大きな重みがのしかかっている彼の気持ちは汲んであげたい。


『帝国側の国境門が完全に封鎖されたよ。に行っている商人たちには早めに戻るようには言っていたんだけど、全員が戻ってこれたわけではなくてね……』

「そうか……封鎖したという事はいよいよあちらさんも動くということかな」


『ああ、そうなればあちらさんだって我々が気づかないと考えないわけがないよね?

 つまりさ、帝国軍が既にこちらに向かっていてもおかしくはないと思うんだ』

「だろうな……トリバやリーンバイルのパイロット達は既にルナーサに入っているんだよな?」


『ああ、現在は商人の護衛や冒険者に扮して街のあちこちに散らばっているよ』

「そうか。こちらも既にレイから機兵を預かっているんだ。直ぐにでも用意をしてそちらへ向かうよ」


『世話をかけるね……頼む』

「気にするな、ではまたそちらでね」

  

 通信を切り、出力チャンネルを基地内全域に変更する。


「皆聞いてくれ。どうやら帝国が動き出したらしい。

 ブレイブシャインはこれよりルナーサに飛ぶが、皆も防衛体制をとって備えていてほしい」


 とっくに出発準備はできている。後は基地内の仲間達の安全を確認し飛び立つだけだ。


 俺のストレージ内に格納されているのはエードラムがトリバ・リーンバイル両国合わせて90機、エードラム乙型が40機、旧型機が120機。


 素直に状況から推理してしまえば、帝国軍はキャリバン平原北部よりルナーサへ進軍するのだろうと思うけれど、トリバ首都であるイーヘイや帝国があるヘビラド半島と湾を挟んだビスワンが狙われないという保証はない。

 

 故に少数ながらイーヘイに20機、ビスワンに10機のエードラムを配備してある。


 黒騎士が大陸の裏側から攻めて来たのを考えれば何処から攻められてもおかしくはないからな。念の為、穀倉地帯であるオグーニの海岸線にも軍機を配置し、警備にあたってもらっている。


 イーヘイに関しては……まあ大丈夫だろうな。


『いいかカイザー、俺は大統領のフリをしているがれっきとした機兵乗りライダーなんだからな?

 そんじょそこらの青二才にゃあ負けねえ。基地での改造で俺の【ライオネル】も生まれ変わった! 何も心配いらねえからよ、イーヘイは俺に任せてアズんとこにいってこい!

 良いか、カイザー。必ず生きて戻るんだ。そしてライオネルに翼を着ける約束……果たしてもらうからな』

 

 レイにイーヘイ防衛の相談をした時にそんな事を言われたんだ。


 彼の専用機、ライオネルも次世代仕様に改装したからな。

 その名の通り、ライオンのような顔をした機兵で、元々結構なスペックだったのに改装されてエードラムを凌駕する恐ろしい性能になってしまった。


 レイの技術も流石に素晴らしくって、動作テストに是非と、手合わせをさせられた乙女軍団達がそれぞれいいようにやられてたからね。


レニーたちも強くなったと思っていたけれど、グランドマスターの名は伊達じゃなかったよ。

 

 ただ、その素晴らしい機体にも問題がないわけではなくって。

 ライオネルさあ、改装に合わせて色も塗り替えられてさあ、今では金色にギラギラと輝いているんだよねえ……。


 なんたってこう、癖があるパイロットってのは機体を金色に塗りたがるんだ……。

いっその事レイも仮面を被ってみてはいかがだろうか。


 ……似合いそうだ。


「カイザーさん、用意ができましたよ」


 どうやらパイロット達も支度ができたらしい。

 いつの間にか俺が腰掛けていた工具箱の周りに皆が集まり、わいわいと決意表明をしていた。


「あの黒いのが出てきたら今度こそ負けねえ! ぶん殴ってやる!」

「だめですわよマシュー。熱くなって突っ込んでは負けですわよ?」

「戦場は何が起こるかわからぬ魔境と聞きます。油断せず引き締めていきましょう」

「なんだよなんだよ、これじゃあたいがバカイノシシみたいじゃないか」

「ふふ、誰もイノシシなんて言ってないよ。以前言われたこと気にしてるんでしょー」

「うるせーレニー! あーもう、緊張感が台無しだよ……」


「うむ、これくらい砕けていたほうがお前達らしくていいぞ。 

 ……今後事態がどう動くかわからんから今のうちに言っておく。

 今回の作戦は不特定多数の人間達が相手となる。

 君達も対人戦の経験はあると思うが、今回は敵パイロットの命を奪うこともある……と思うんだ……」


 ハンターが3級サードに上がるためには野盗や賞金首等の『犯罪者』の交戦実績が必要となる。

 必ずしも命を刈り取る必要がないとはいえ、同じ人間に刃を向けるのに躊躇し、4級フォースのまま足踏みをしているハンターも多くいる。


 レニーが3級サードに上がれたのはジダニックの牙を間接的に仕留めたという幸運によるもので、実質対人戦は黒騎士以外経験していない。


 マシューやミシェル、シグレは『家庭の事情』でそういった経験があるようだが、レニーは以前に『なるべく人と戦いたくないなあ』とボヤいていたため少々不安に思う。


 そんな事を考え、後の言葉が続かなくなっていた俺をレニーが抱き上げて力強く笑顔を作った。


「カイザーさん。正直言うと私は戦争をしたくはありません。

 でも、何にも悪いことをしていないルナーサの人達が酷い目に遭うのはもっと嫌です。

 防衛のために相手のパイロットを傷つけちゃったり、場合によっては……死なせちゃったり……したとしても、私は! 平和のために……拳を振るいます!」


「レニー……」


「カイザー、あなたが一番あまちゃんなのかも知れませんよ」


 からかう様にスミレが言うが、実際そのとおりだ。

 平和な国からやってきた俺こそが一番気合を入れなければいけない。


 ……そうだね、も覚悟を決めないといけないんだ!


「ええい! ごちゃごちゃ考えるのはやめだ! 良いか皆、約束してくれ!

 今回の作戦では誰一人欠けること無く生きて戻る事!

 戦いが終わったら、基地に帰って、風呂に入って、美味しい飯と飲み物で祝杯を上げるんだ!

 それが俺たちブレイブシャインの約束だ! 約束を守れないやつは俺が許さん! 良いな!」


「「「「おー!」」」」


 こうして、互いに約束をしあった俺たちはルナーサへ向け飛び立った。


 我々が向かうのは戦地。帝国の思惑は不明だが、きっとこの戦闘の先には黒竜絡みの何かがあるはずだ……。


 正直かなり嫌な予感はするが……ルナーサのため、世界のために立ち向かおうではないか。

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