第二百二十五話 ようこそ、リム族の集落へ

 特にフラグを回収するような面倒なトラブルが起きる事も無く……。


 念のためにゆったりと計4日をかけて空を移動した我々は無事にリム族の集落に到着した。

 

 住人達はイモムシの加工を見ていたため驚くこともなく、ステルスを解除して迫る俺たちを見て歓声を上げながらワイワイと集まってきていた。


 今回連れてきた彼らには基本的に中間地点を拠点にして貰い、訓練を兼ねた伐採・討伐作業と中間拠点のさらなる整備をお願いすることになっている。

 

 なので直にあちらに下ろした方が効率的ではあるのだが、集落の人々との顔合わせやジンとの打ち合わせ、それにまずは基礎訓練もしなければいけないため、一度集落まで運んできたのである。


『客室』から降りて背伸びをするリックに嬉しそうな顔をしたジンが駆け寄っていく。

 それは友と出会えた嬉しさが作り出した表情ではなく、いたずら心が生み出した悪い顔をしているのだと、誰の目にも明らかであった。


「よおリックぅ! 久しぶりだな! 元気だったか!?

 なあなあ、空の旅はどうだった? 楽しかったろう!」


「相変わらずうるせえジジイだな。空ァ? ああ、最初はまあビビっちまったが、慣れちまえば馬車より快適な旅だったな。こんなに疲れねえ旅は初めてだ」


 強がりか皮肉かと思ったジンだったが、他のパイロットを見ても疲れた様子がなく、むしろ元気そうに降りてくるのを見てそれを真実だと確信したようだ。


「おい! カイザー! なんだよこの待遇の差はよ! 俺の時と大違いじゃねえか!」


「そんな事を言われても困る。大体、客室の設計や製作に一番熱を入れていたのはジンじゃ無いか。アレの性能や仕様はわかっていたはずだろう?」


「うっ……そう言われればそうなんだよなぁ……。

 くっそ、心情的に納得したくねえんだが……アレを手がけた身としては嬉しい……!

 なあ、カイザー、俺はどんなツラをすりゃあいいんだ?」


「しらん!」


 その気になれば酷い客室を作り、リックに同じ目を味合わせる事も可能だったわけだが、(他にパイロット達も乗るのでそのような真似は許可しないけれども)スミレやウロボロスと共同で未知の技術を盛り込んだ容れ物を作るとなって、職人魂に火がついたジンは誰よりも張り切っていたからな。


 リックが快適な旅をする事が出来たのはジンの功績も大きかったのだ。


 さて、早速顔合わせを兼ねて歓迎パーティを……と、言いたいところだが、残りの人員を運ぶためにもう1往復しなくてはならない。

 

 なのでそれは人員が揃ってからと言う事で、取りあえず俺たちが戻ってくるまでは自由行動とし、集落に馴染んで貰う事にした。


 流石にとんぼ返りはうちのパイロット達に負担が掛かるので、1日休暇を取ってから残りのパイロット達を迎えに行った。


 予めこちらから無事に到着した事を告げる連絡を入れ、そこでリックが「非常に快適であった」と報告を入れたため2回目に搭乗したパイロット達には悲壮感はなく、空への憧れからくる期待に満ちた表情をしていた。


 今後も客室イモムシを使った人員運搬があるだろうし、最初のフライトでマイナスイメージがつかなくて本当に良かった。

 

 そして8日後、大好評のうちに2回目の運搬も終わり、ささやかな歓迎パーティを経ていよいよ訓練開始である。


 中間地点まではそれなりに距離があるため、三日間の基礎訓練をした後、それぞれが機兵に搭乗して向かうことにした。


 従来型のパイロット達ということで、ガラリと違う操縦方法に戸惑いはあったようだが、流石は日々訓練を受けている『軍人』だ。


 数時間の座学でしっかりと基礎知識は身につけられていて、思ったよりはスムーズにものにしていた。


 従来とは異なる操縦方法に混乱はないのかと一人のパイロットに聞いてみたが、


「まだ咄嗟のときに操縦桿やペダルを探ってしまいますが、時期に慣れると思います。

 寧ろ慣れない現時点でも従来機より緻密な操作が出来てしまうので驚いていますよ」


 と、なかなかに好感触だった。


 感覚的には液晶モニタとステアリングコントローラーでレースゲームをしていた人がVRグラスを装着し、モーションコントローラーで操作を始めた感じに近いのかもしれない。

 

 我々や次世代機の操縦方法はドーム型のコンソールに両手を置いて、動きをイメージするというものなので、慣れなければついつい身体が動いてしまう。


 リム族もそうだったが、パイロット達の中でもやはり何人かが爪先を傷めていた。

 咄嗟に飛ぼうとした時なんかについ足が出てしまうのだろうなあ……。


 ちなみに心配だったのは魔力適正だったんだけど、次世代機のコンセプトは早い時期から各国に伝えておいたので、向こうで既に測定器を使って適格者を選出していたらしく、来たは良いけど動かせないという者は居なかった。


 魔力適性が無いものでも操縦センスがあるパイロットは存在すると思うので、今後はそれを解決する何らかの対策が必要だな。


……

… 


 妖精体での散歩中、訓練のため行進している次世代機達が目に入った。

 15機も並んで歩いているとなかなかに迫力があるね。


「壮観だよな」


 一服に来たのか、リックが俺の隣に腰掛け嬉しそうな顔をしている。

 

「ああ、ほんとにな。これもリック達のおかげだよ。本当にありがとう!」


「何いってんだ、礼を言うのはこっちだっつーの。

 こんな爺がバケモンみてえな新型に携われたんだ、もう悔いなんて残ってねえぜ」


「おいおい、もう満足したのか? 冗談だろ。あれはあくまでも試作機だぞ?

 問題点や課題はまだまだ多く残っているらしいじゃないか。 

 リック達にはここに居るうちに完璧なものに仕上げてもらわないとならないんだ。

 悔いが残ってないなんて言わせやしないからね」


「こいつ……爺を酷使するきでいやがるぜ!」


「勿論だ。覚悟しておけ、これからもどんどん無理難題を言って困らせてやるからな!」


「くくっ、楽しみにしているさ。しかし、前々から思ってたんだが……いい加減「次世代機」って呼ぶのは面倒くさくねえか?」


「そうだな……既に完成しているし、これから次もあるのに次世代機というのは相応しくないな」


 しかし、機体名か……何も考えていなかった。

 独断で決めるのもアレだし、皆から意見を聞いてみるか。

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