第二百二十二話 客室の材料

 リム族側の開拓を進めたい俺と、次世代機パイロットの育成をしたいリック二人の要望を叶えるべくスミレが出した案とは「パイロット達が入った容れ物を抱えてこちらまで飛べ」という乱暴な話であった。


 あまりに突飛な案に俺もリックも黙り込んでしまったが、それを特に否定されていないと判断した……いや、わかっていて無視を決め込んだスミレが淡々と『運搬作戦』について説明を始めた。


 こうなってしまったらもう実行する他ないのだ……諦めよう、リック……。


 こちらへ連れてくる人員の数はパイロットが15名にリックの16名だ。


 他にもメカニック人員が要るのではと聞いてみたが、集落に居るジンとマシューがいれば十分だし『集落でも人材育成をしてえから俺だけで構わん』と言われた。


 そもそも、ジンとリックという要となる二人が居なくなってしまうわけなので、あちらの人員をそれ以上割くのは困るようだ。


「さて、まずリック達を入れる容器ですが‥‥」


『おい! そこはせめて『客室』といってくれねえかな!?』


 モノ扱いをされたリックが悲痛な叫びを上げる。

 わざとそう言ったのであろうスミレは、にこやかにスルーをして続きを話す。


「あまりキチキチに詰めると中身の体調に影響が出るということが前回の……ジンの時に判明しましたので、誠に遺憾ながら今回は8名の人間がゆったりと乗り込めるサイズの客室に入っていただくことになります」


『ジンの奴……やっぱり酷い目にあってたか……。

 あそこで勝てたのは一生分の運だったかもしれねえな』


そこで運を使い果たしてしまったから、スミレ考案の良くわからん物に乗る羽目になったのでは……。


『何考えてっかわかんだぞ、カイザー。大丈夫だ、俺はスミレを信じてる。

 俺の運はまだまだ尽きちゃいねえ!』


「そうであれば……いいな」

『そうなの! 大丈夫なの!』 

 

 ……スミレが提案したは、シートベルト付きの座席が8つ備わった箱型で、4機合体したシャインカイザーが両手でラクラク持てるサイズのようだ。

 

 1往復で済むよう、16人乗りにしてしまうと箱が大きくなりすぎてしまい、落とすリスクが高まるのだそうで、


「まあ、私としましては一回で済みますのでそちらを提案したいのですが……落としちゃうと……ねえ? 後々……ねえ?」


 なんてにこやかに言ってたけど……何かあっても困るというか、流石にそれは嫌なのでで2往復案を全力で推し、安全な二往復の方向で話を進める事にした……。



……

… 


 

 翌朝、乙女軍団とジンにスミレの提案を話すと、乙女軍団は口を開けて固まり、ジンは腹を抱えて大笑いした。


「いやあ……傑作だ。リックの野郎め、せいぜい楽しい空の旅を味わうんだな!」


 心底嬉しい! という顔でゲラゲラと笑っている。

 対するレニー達は困り顔である。


「本当に大丈夫なの? お姉ちゃん、嫌だよあたし。

 いくら頑丈なリックさんでもさ、落っことしちゃったら大変なことになるよ?」


「大丈夫ですよレニー、余りに余っている素材を使えば落としたところで壊れない頑丈な容器が作れますし」


「いや……ガワが平気でもさ、中の人は衝撃で大変なことになるんじゃねえかな……」

「落とさないよう対策が必要ですわね……」

「スミレ殿……もう少し手心と言うか……」


 パイロット達が俺になにか言いたそうな顔をしていたが、俺はもう考えるのに疲れたんだよ……。


 申し訳ないが、今回は黙ってスミレ大先生の言うことを聞いておこうぜ……。

 


 運搬に使用する「箱」の素材は森で遭遇した『キャッタ・ギッガ』なる比較的レアな大型の芋虫型魔獣の身体をそのまま使うらしい。


 体長5m、幅2mの高さ2.5mのずんぐりとしたその体は数字だけ見ればなんだかバスのようで、確かに加工すればそのまま使えそうな気はする……いやあ、姿を知らなければ素直にそう思えるんだけどな……。

 

 巨大な芋虫であるキャッタ・ギッガは、移動速度が遅い半面、やたらと馬力がある魔獣だ。


 それが森の木々をバキバキとなぎ倒しながらまるで重機のように進むのである。

 テイムできればこれ以上無い便利な存在になりそうだったが、テイムの方法がわからないため、今回は泣く泣く始末したのであった。

 

 とはいえ……始末すると決めてからもまた、大変だった。


 外装は硬く、正攻法ではダメージを入れることが叶わないため、ライダー隊は大いに苦戦することとなった。


 しかし、機械生命体とは言え、相手は生き物だ。当然弱点というものは存在する。


 ヒッグ・ギッガのように面倒な事をせずともあっさりと片付けられる秘策があった、というか今の俺達ならそれを実行可能だったのだ。


 いやあ、キャッタ・ギッガがギリ両手で持てるサイズだというのが幸いしたね。


 4機合体をし、シャインカイザーとなった我々ブレイブシャインは、ライダー隊が引きつけている間に背後からそれを抱きかかえ、一気に上空へ飛び上がった。

 

 良い具合の高度まで達したのを確認し、味方の反応がない場所に移動してから手を離す。

 結構な高度から自由落下をするキャッタ・ギッガは何の抵抗も出来ないまま……轟音と共に森にちょっとしたくぼみクレーターを生み出した。


 ああ、一発KOだったよ……。


「自分たちでやっといてなんだけどよ……エグいよなこれ……」

「ひどいこと考えますのね、カイザーさんは……」


 ひどい言われようだが、純粋に俺が思いついた作戦だというわけではないからな。

 リクガメを狙う猛禽類がそれを掴んで空から落として仕留めるという話を聞いたことがあったから真似をしたまでだ。


 やろうと言ったのは俺だけど、考案したのはどこぞの猛禽類だから俺は悪くないぞ!


 落下地点に降り立つと、周囲の木々がなぎ倒されていて……その中心点、クレーターの中央にそれはあった。


 予想通り、外部装甲には特に破損が見られず、満足がいく状態でその中心にめり込んでいた……。


 斧であっても刃が立たぬほど頑丈な装甲は伊達ではないようだが、内側を衝撃から守るような仕組みはなかったようで、生体反応は消失していた。


 そんな具合でキャッタ・ギッガの外装はほぼ無傷とも言える状態で残っている。

 中身を出して加工すれば間違いなく頑丈な客室に出来ることだろう。


 ……スミレ先生……万が一客室を落としちまったら中の人達がどうなるか……わかっていただけましたかね……?


 いや、わかった上でわざと言ってたんだよな、アイツは……。

 どこかにスミレの毒を中和するポーション等ないものか。

 いや、ポーションが勝てる未来が想像出来ないな……。

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