第二百二十一話 増員作戦

 森の開拓に着手してから一ヶ月と少し。

 防衛隊の練度も上がり、それなりの数の魔獣が討伐され、さらに森が切り開かれたことによって集落近辺の安全度が大幅に上昇した。


 伐採された木材は整備されて中継地点に生まれ変わったかつての集落跡地を経由してリム族の集落へと運び込まれ、傷んでいる建物の修復や新たな建築に回される他、端材や枝は燃料に使用されたりと住民達によって活用されている。


 また、機兵に寄る護衛が復活したことで狩りが行えるようになったため、肉の供給が安定し、食糧自給率が向上することとなった。


 村の外れには試験的に農場も作られていて、そこには芋や麦が植えられている。

 どちらもルナーサから仕入れた改良種で、荒れ地に強い品種だということだ。

 結果がわかるのは数カ月後だが、現在もすくすくと育っているので、こちらも期待が出来るだろう。


 ちなみに……船を襲う例の海の魔獣に関しては後回しにしている。


 海洋資源を使えないのは痛いのだが、あれは一度きちんとした調査を行う必要がある。今はそこまで手がまわらないため、仕方なく後回しにしているのだ。


 防衛隊のメンバー達にはかなりの無理をさせてしまっているが、誰一人欠けることなく訓練を作業を熟し続け、今では下手なライダーよりも上手く魔獣を狩れるほどに練度が高まっている。

 

 とはいえ、まだまだ未熟なところもあり、少々不安が残らないでも無い。

 なので、今回もまたマシューとミシェルに留守番を任せて、前回同様ヤタガラスと共にパインウィード側の様子を見に行く事にした。


……

  

 上空から見ると開拓の進捗具合がよくわかるな。

 リム族側はまだまだだが、パインウィード側はかなりの速度で進んでいる。


 流石はパインウィードの連中だと、切り開かれた森をしみじみと眺めながらパインウィードに抜け、村に降り立って真っ直ぐにギルドに向かった。


 ギルドに入ると何時ものように椅子に深く腰掛けたスーがいて、なんだかダラダラとお菓子を食べているようだったが……レニーの肩に乗っている俺に気づくとすばやく姿勢を正した。


「こっこれはこれは! カイザーさん! ……と、ブレイブシャインの皆さんも! お久しぶり…グッ…」

「ああ、ごめんごめん。休憩してたんだよね? 慌てなくていいから……」


 クッキーか何かをお茶で流し込んだスーはようやく落ち着いたようで、今更遅いだろうに真面目な顔で椅子に座り直した。


「さて、ブレイブシャインの皆様、今日はどのようなご用件で」


「用件というわけではないんだ。今回はこちら側の開拓の進捗を見たくて来たんだけど、ついでに挨拶と顔見せをしておこうかなって」


「な! なるほど、私の顔を見たくって!? い、いやですわ……カイザーさんったら!」


 言葉の意味が少し変わっている気がするが、まあ気にしないことにして、そのままスーから詳しい報告を受けた。


「ありがたいことにフォレムの他にもルナーサからも結構人が来てくれているんですよー」


「ルナーサからということはサウザンかな? 

 彼処もパインウィード同様森を背負う土地で、ルナーサにしてはハンターが多い土地だったな」


「ええ、そうですそうです、サウザンです。

 戦力としても助かるのですが、ここのハンター同様に伐採に長けている人が多くって……」


「なるほど、それで予想より速い速度で開拓が進んでいたというわけか。

 いや、助かるよありがとう」


「いえいえ! 私は何もしてませんから! お礼なら後日ハンター達に!」


 

 必要な物があれば遠慮なくどんどん本部に連絡するようスーに伝え、村人への挨拶もそこそこにリム族の元へ戻った。



 現在のペースで行けばパインウィード側から森の中間地点に到達するまで2ヶ月もあればいけるだろう。


 流石に同じペースでこちらからもという訳にはいかないが、そろそろこちら側も開拓速度を上げたいところだな……。


 

……


 リム族の元に帰還した夜、基地から通信が入った。

 誰だろうと出てみれば相手はリックで、何やら怒っているようだ。


 一体俺が何をしたというのだろう。


『カイザーおめえ! 俺が何をしたってんだ? なんて思ってるだろ!

 何をしたかじゃねえ、何もしてねえからこうやって連絡してんだろうが!』


 何もしてないとは失礼な。こっちはこっちで日々色々と動き回っていたというのに!

 クレムのおかわりだって、に届けてきただろう? これ以上何をしろってんだ。

 その事を伝え、遺憾の意を示すとリックは呆れたように言葉を返す。


『んなこたぁわかってんだよお……。

 ただ約束ってものは守れよな。一週間ほど前からな、各国から軍のみなさんが到着したんだよ。

 連絡しなかった俺も悪いがよ、そもそも新型の操縦訓練に誰か寄越すってお前さんが言ったんだろうが! いつまでたってもこねえ講師にみーんな待ちぼうけしてんのよ!』


 しまった……!


 そういえばそういう話をした覚えがある……。

 各国から5人ずつ派遣される軍人に乗り方を教えつつ、データを取ったりするって……。


 それに合わせてメンバーの誰かに基地に行ってもらって、取り敢えずの講師をさせるって言う話だったけど……


 参ったな、すっかり忘れていたと言うか、正直そんな暇は無い……。

 しかし約束は約束だし、黒龍の事を考えればやっぱり必要なことだからな……。


 どうしたものか、リックへの返事に困っているとスミレが助言をしてくれた。


「パイロットの育成もデータ取りもこちらでやればよいのです」


 その声はリックにも聞こえていたようで、俺とリックが揃って「はあ? それは一体どういうことだ」と声を上げた。


「こうして連絡を寄越したということは、必要な機兵が最低でも15機はそちらにあるということですよね」


『ああ、それどころかもう全部終わってそっちの残りの分、20機全部出せるぞ!』


「であれば、機兵もパイロットもついでにリックも一度こちらに運んでしまって、こちらで全部やりましょう」


『はあ? 何言ってやがる……まあ、なにか良い移動方法があるってなら……いけるのか?

 確かにこれまでの改装である程度はマニュアル化出来ているし、俺がいなくても、追加が届けばここの連中で何とか最低限の改装くれえはできるだろうけどよ……しかしどうするんだ?』


 俺もそれは大いに気になるぞ。いったいどうやって人の輸送をするつもりなんだ?

 

 機兵や機材はバックパックに入る。しかし、人は入らないんだぞ?

  

 こちらに連れてこなければいけないのはパイロットが15名、それにリックを加えても16名だ。

 

 例えシャインカイザーで迎えに行ったとしても、コクピットに収まるわけは無いし、それぞれ機兵に乗せて森を抜けると言っても……危険性はともかく、時間がかかりすぎる。


「簡単なことです。カイザーが運べばいいんですよ。

 パイロットたちが乗った『客室』をカイザーが手で持って飛んでくればよいだけの話です」


『「……」』

 


 とんでもなく無茶なことを涼しい顔で言うスミレ。


 俺もリックも何も言えなくなってしまったが、それを肯定ととったスミレは嬉しそうに具体的なプランを語り始めた……。

 

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