第二百十八話 リム族防衛隊
2次試験は5分間という制限があるため、1次試験を突破した候補者達なら魔力量の差が結果に出ない純粋な操縦センスを評価できる事だろう。
模擬戦の対戦相手はブレイブシャイン達が務める事になるが、あくまでも動きを見るための模擬戦であり、勝利は目標では無いため誰と当たっても評価に差が出ないようになっている。
槍、大剣、剣、ナイフ、手斧、大斧、そして拳と思い思いの武器を選んだ候補者達があわよくば勝ってやろうと意気込み大いに検討したが、流石に機体性能、技術力、そして経験の差が大きく、誰一人としてうちのパイロット達から1本を取れる者は居なかった。
しかし、それでも有望な者はそれなりに居て、ブレイブシャインの面々にも良い経験になったようだ。
現在、一通り試合が終わり控え室に集まった我々はスミレが録画した映像を見ながら参加者達の評価をああだこうだとしているところである。
「何人か有望株は居たが、やはりマルリッタは凄かったな。あれで初めてだというのだから恐ろしい」
「そうですね……正直、あたしより先にあの機兵に乗ってたとしたら、カイザーさんの力を借りても勝てなかったかも知れません……」
例のインファイター、マルリッタとの模擬戦はレニーもナイフを捨て拳と拳で語り合っていた。
改良型の操作方法は俺達ブレイブシャインのロボ軍団を参考にウロボロスとスミレの協力の下、新規に設計したもので、大きなドーム状の物に手を置き、魔力を流しながら動きをイメージすると言うものだ。
機兵と一体化して戦う、そんなコンセプトの操縦方法なのだが、それ故に初めて乗る者でもセンスがあればそれなりに操れてしまう。
マルリッタはそのセンスが非常に優れていて、完璧とは行かなかったが、それでも他の候補者達より頭一つ抜けた動きを見せていた。
最初こそ、調子を確かめるかのように慎重に動いていたけれど、やがて感触を掴んだのか最後には恐ろしく鋭いパンチを放っていた。
それには流石にレニーも回避行動を取らざるを得ず、大きくバックステップをして避けようとしたのだが……マルリッタはそれを読んでいて、素早く回し蹴りを放つという素晴らしい動きを見せ、油断しきっていたレニーは危うく一撃貰いそうになっていた。
レニーがバックステップで交わしたところに流れるように回し蹴りを放つ、そんな動きを覚えてしまう酒場とは一体どんな場所なのだろうか……興味深いが……ちょっと怖い。
足先が鼻先を掠めた時は俺もヒヤリとしたが……マルリッタはその後の動きが甘かった。
回し蹴りをした後、機体制御に失敗してバランスを崩してしまったのだ。
がら空きになった背中を見逃すレニーでは無い。そこにすかさずちょん、と軽く拳を打ち込んだ所でちょうど5分が経過し……テスト終了となったのである。
もしもあそこで機体制御に成功していたら、回し蹴りの次の一撃が放たれて居たら……なかなかに将来有望……いや、即戦力と言える存在なのでは無かろうか。
彼女には前にリックと一緒にレニーに作ってやったナックルと似たような武器を装備させたらかなり強力な戦力になってくれそうだな。
ここまで語っているのだから、わかるだろうけれど、当然彼女はライダー隊の先発メンバーとして内定済みであり、部隊のエースになるだろうなと思っている。
他の候補者は正直そこまで光るところは無かったけれど、それでもただ動けるだけではなく、きちんと戦える者が何人か確認出来たのは素晴らしかったな。
リム族の若者、リシューもまたそうだ。
彼が選択した武器はナイフで、事前に理由を尋ねてみたら普段から使っていて慣れているからだと言っていた。
新型機は機兵と一体化し、我が身のように動かせるセンスが必要となる。
なのでその考え方は非常に好ましい。
我が身のように動かす必要があるのだから、当然使い慣れている武器を使った方が有利であるし、そうする事によって、無意識のうちに機体と一体化する事が可能となるのだから。
彼の相手はマシューで、終始軽く受け流されてはいたものの、操縦自体は悪いものでは無かった。
動きを見ればまだまだ粗い部分はあるが、きっちり五分間耐え抜ける魔力操作のセンスと、マシューに何度も攻撃を試みれるほどの操縦センス。
彼もまた、将来が楽しみな人員だ。
一通りテスト内容をチェックし、10人全てが選出されたところで候補者達を集めて発表をした。
1軍に選ばれた者達は喜び、そうで無かった物はそれを祝福し、予備隊として残る決意を新たにしていた。
彼らの目的はあくまでも集落を守るための力を得る事。
故に予備隊としてでもライダー隊に入れることを喜んでいた。
ライダー隊とは別に機兵を使わない「ハンター隊」も組織するので、残念ながら魔力適正が無かった者達にはそちらに登録して貰ったが、それでも集落の力になれると大いに喜んでいた。
生身単体での狩猟活動は自殺行為だが、機兵と共に現地に赴き罠を張ったり、機兵に乗ったままでは不可能な採集をしたり、動物を狩ったりと、ハンター隊にもやることは沢山有るからな。
まだ先の話ではあるが、この集落にもハンターズギルドの支部を作る予定なので、大いに腕を磨いておいて欲しい。
……
…
夕食後、レイとアズ、そしてゲンリュウのお偉方と定期報告をした。
まずゲンリュウから帝国に潜む「草」からの報告が伝えられた。
それによると、「卵」から放たれている魔力量に変化は無く、まだしばらくは猶予がありそうだとのことだった。
こちらもまだまだやることがあるため、それは嬉しい報告だったが、改めてノンビリしていられないなと再認識させられた。
……卵は確実に孵化に向かって魔力を溜め込んでいるのだから。
アズからは基地に向けて物資を送ったとの報告だった。
次世代機の製造が進み、近々また数機完成すると言うことでルナーサ・トリバ・リーンバイルからそれぞれ新型機のテストパイロットが向う事になったからね。
更に増加するであろう基地の食料消費に対応するための補給物資との事だった。
あちらにはバックパック的な物が無いからその辺り大変だよなあ。
アレも作れれば良いのだが、あんなわけがわからんものを作るのは流石に無理だからね……。
そしてレイからはパインウィードで行っている開拓状況の報告だった。
ゆっくりではあるが確実に森は切り開かれているそうで、用意が出来次第こちら側からも作業を進めて欲しいとのことだった。
現在格納庫に入れられるのは4機だが、開拓作業を始めるとなれば残り6機も出さないと足りなくなってしまう。
そうなると当分の間バックパックを格納庫として使うほか無いのだが、そのままでは機体のメンテがしにくくて大いに困る訳で。
なんやかんやと忙しくて忘れてしまっていたけれど、移動訓練中にでも資材を見つけて簡易な格納庫を建ててしまおう。
幸い……と言うのはアレだが、この辺りには廃墟になった建物が数多くあるからな。
訓練がてら捨てられた家屋の解体をして資材にしてしまうつもりだ。
やることがいっぱいで正直いっぱいいっぱいだが、確実に目的に向っているのを感じられる。
焦らずじっくり、一歩ずつ。確実に地を踏みしめて進んでいこう。
我々の行く末は決して暗くはないのだから……。
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