第二百十七話 リム族防衛隊 選抜試験 

 合流からはや5日が経ち、そろそろリム族集落での機兵運用を始めようかと言う事になった。


 結局残り6機の機兵に関しては置き場の目処が立つまで保留と言う事で、まずは4機を使うことにして「リム族防衛隊」を立ち上げパイロットを募集することになった。

 

 パイロット募集の声に集まった候補は老若男女の総勢42名。

 これから機兵に乗り込んでもらい、魔力量や操縦センス等をチェックした上で数を10人まで絞ることにした。

 

 中でも優秀な者から4名には当分の間一軍パイロットとして活躍してもらい、残り6名は置き場が出来るまでバックアップとして控えて貰うことになる。


 操縦の要となるのは勿論魔力量だが、いくら魔力量が優れていたとしてもセンスが無ければ使いもにはならない。


 ちなみにここで言う「センス」とは戦闘技術の事では無く、魔力操作のお話しだ。


 1世代機を設計したウロボロスによれば、輝力と魔力は特性がよく似ていて、体内に溜めておける容量やそれを制御するセンスも人により差が有るとの事だった。


 センスが無くとも訓練で伸びるのでは無いか、レニーやマシューのように後から成長し、効率が上げられるのでは無いか? そう考えたのだけれども、直ぐに設定資料集の一文を思い出し、それは誤りであったと反省する。


『コンソールに触れた瞬間、体内に蓄えられていた輝力の放出が始まる。

 適正者であれば蛇口で調節をするかのようにその量を自在に調節する事が可能だが、適正が無いものは吸い出されるかのように一気に放出してしまい、気を失うこととなる』


 シャインカイザーに搭乗するロボに乗るためには『機体を動かせる程の輝力』と『それを制御するセンス』この二つが必要である。

 輝力が無ければコンソールを触っても反応することはないし、センスが無ければ一気に吸い出された反動で気を失うことになる。


 その『センス』とは生まれ持ったスキルのような特性であり、後天的に生長する事は極稀。


 なので今回の適性検査は『魔導炉に火が点るほどの魔力放出量を持ち、かつ気を失わなずそれを維持出来る者』が適正者、つまりパイロット候補者となるわけだ。


 並べられた4機の前に列を作り、それぞれ順番に乗り込んで適性チェックを受けるリム族達。

 

 起動すら出来ずに首をかしげながら戻ってくる男、気を失って運ばれていく女、フラフラになりながらも起動と維持に成功する少年……。


 魔力量は生長と共に自然と増える物では無いらしいが、魔術が使われて居た頃の文献によると、使用することで生長する事があるらしい。


 であればあの少年は将来的に有望なパイロットになるかも知れないな。


 一通りチェックした結果、起動が出来なかったものは6名、制御が出来なかった者が17名。この23名に関しては、残念ながらライダー部隊として採用することは出来ないが、希望があれば別部隊として採用するつもりだ。


 残ったパイロット候補は19名。さらにここから選ばれた10名が第一次リム族防衛隊 ライダー部隊のメンバーとなるわけだが、残りの9名に関しては希望があれば予備隊として入隊して貰おうと思っている。


 将来的には配備される機兵の数が増えるだろうし、予備パイロットとして育成しておけば何かあった時に大いに助かることとなる。


 1軍と共にジンとマシューからメンテナンスを学んでおけば、メンテ不全で機兵がどんどん減っていくという過去の悲劇を繰り返さずに済むことだろう。


 念のため長めの休憩を挟んでから始まった二次試験は実際に操縦してもらい、持久力や操縦センスをチェックする。


 試験の前に小一時間ほど座学をした。

 ここの人達は普通の機兵に乗ったことが有る者が居ない。

 それは今回の場合逆に利点となる。


 今回用意した新型機は従来機とは全く違う仕組みで動く機体であり、操縦感覚が別物と言って良い物になっている。

 

 なので従来機での経験は妙な先入観を呼び枷となってしまうのだ。


 マシューもまた、最初はどうやってオルトロスを操縦すれば良いのか分らず、長期にわたって試行錯誤をしながら身につけたと言っていた……まあオルトロスはさらに特殊なコンソールだけどね。


 しかし、彼らの場合は機兵自体初めてであるため、従来機より直感的な次世代機の操縦方法にすんなりと入り込めるというわけだ。


 座学では操縦方法と魔力の出力調整等、基礎的な説明をし、最後に「落ちた者も希望があれば予備パイロットとして採用する」と発表をして締めくくった。


 とは言え、彼らの目的はやはり1軍パイロットである。

 ここでほっとした顔を見せる者は一人もおらず、勝つぞという気迫を燃やす者ばかりだった。


 二次試験は持久力とセンスをそれぞれ分けて行った。


 まずはじめに持久力のテストだ。

 決められた短い周回コースをグルグルと移動するだけである。

 伴走者としてレニーがついて、候補者達にはレニーと速度を合わせて動いて貰う。

 

 最初のうちはゆっくりと足並みを揃えて歩かせ、2周回ったら後は1周ごとに速度を上げていく。

 6周回った時点でレニーについて来ているのは2名だけだったので、その時点で持久力テストは終了とした。


 同じように残りのテストも消化したが、6周回れたのは最初の2名のみで、後は5周耐えた者が5名、4周耐えた者が8名、残りの5名は3周と言う結果になった。

 

 予定ではこのまま次の戦闘センスを見るテストをする予定だったが、魔力も輝力同様に使いすぎれば酷く疲労を感じるものだ。


 思った以上に疲労が激しい候補者達を気遣って戦闘センスのテストは翌日に持ち越すこととした。


 

 翌朝、誰一人欠けること無く集まってくれた候補者達に嬉しく思う。

 特に体調不良を起こした者は居なかったようで、集まった一同は皆元気よく準備運動をしている。


 本日やって貰うのは実戦だ。4人ずつブレイブシャインの面々と好きな武器でやり合ってもらい、操縦センスをチェックする。


 今回のテストではレニー達から攻撃が加えられることはない。

 ブレイブシャインのパイロット達に許されているのは唯一装備しているナイフによる防御のみ。


 制限時間である5分以内に相手を降参させることが出来れば文句なしの合格ではあるが、流石にそれは無理な話。

 

 あくまでもこのテストは動きのセンスを見る物であり、終了後にブレイブシャインで意見を出し合って優劣を決めるというわけだ。


 開始前に機兵に乗って武器の試し振りをして使用武器を選ぶ時間を与えた。


 こちらがナイフであり、防御行動以外はしない、一本取ったらその時点で合格であると発表したためか、リーチで有利を得るために槍を選ぶ者が何人か居た。


 確かに槍とナイフであればリーチの面では大いに有利であるわけだけれども、隙を見せインファイトに持ち込まれてしまえば逆に不利になってしまうのだから安心は出来ないぞ。


 他の者は大体が無難なナイフやソードを選択したようで、試し振りをして満足そうな顔をして居たが……一人だけ何も選ばなかった者が居た。


 それは若い女性で、名をマルリッタと言う酒場で働いて居る人だった。

 何故武器を取らないのかと聞いてみれば、


「あたしゃずっと酒場で働いていたからね、武器なんて降ったことが無いんだよ。

 でもね、腕っ節だけは負けないよ? 酒だけはあるこの集落でイジイジ愚痴る男共を毎晩ぶん殴ってきたからね!」


 なるほど面白い……。


 集落に来た時、食料に困っている割には酒場が開いていて不思議に思ったのだが、周辺に多く生えているサボテンの様な物から酒が作れるらしいのだ。


 その酒はそれなりに栄養価が高く、ある意味では集落の命を長らえてきたような者なのだけれども、皆が酒に溺れぬよう、昔から製造は酒場の人間のみが行う決まりになっていて、飲んで良いのもまた酒場のみであると言う制限が課されているらしい。


 それによって、子供は家で夕食を摂り、大人達は夕食代わりに酒場で飲んだくれると言う……話だけ聞けばろくでもない、けれど実際は意外と理にかなっている不思議な仕組みが出来上がっていた。


 マルリッタはそんな酒場で5年働いていて、ずっと男達をぶん殴ってきたのだと笑っていた。


 ついでに今回参加した理由を尋ねてみたのだが。


「ああやってグズグズ酒場で飲む大人を減らすためには食料を増やすしか無いだろう?

 男達をぶん殴るのにも飽きたからさ、今度は魔獣をぶん殴ってやろうと思ってね!」


 と、頼もしい顔で答えてくれた。

 ロボでインファイトと言えばうちのレニーとマシューがそうだな。

 そして拳となればレニーが適任か。


 ようし、彼女にはレニーと殴り合って貰うことにしよう。

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