第二百十五話 お土産を拾って
買い出しを済ませたり、妖精の追加依頼をしたりと、何だかんだでイーヘイに長逗留してしまった。
せいぜい2泊3日くらいの滞在のつもりだったのに、気づけば5日が過ぎ去っていたという……遊び呆けていたわけじゃあないし、その分たんまりと補充ができたのだから許していただきたい。
「まったく、私までレインズの家に連れて行くことは無かったでしょうに」
「マリーに仲間を連れて行くと約束してしまったからな。今を逃せば次は何時いけるかわからなかったし、しかたがないだろう?」
「ぐぬぬ……確かにあの少女を思えば悪くはない依頼でしたが」
あれからチクチクと事ある毎にスミレに弄られ、流石に腹に据えかねた俺はささやかな逆襲としてスミレをマリーの元に連行してやったんだ。
妖精さんの妹を見てみたいと言う少女のささやかな夢が叶い、スミレの弄りも無くなり……正に一石二鳥の依頼であった。
そんなわけで、色々と忙しかったために基地に辿り着いたのはリム族の集落を出てから一月近く経っていた。
集落の食料残量が心配だったが、一度あちらから届いた通信で集落の備蓄を合わせりゃまだ20日分は軽く余裕があるとの報告を受けていたため、尚更甘えてノンビリしてしまった次第だ。
基地に到着し、ジン達にレイから預かってきた機兵について伝えると……目を剥いて怒られてしまった。
「加減しろ馬鹿! いくら多いに越したこたねえとは言え、何処にそんな大量の機兵をおけっつうんだ!」
ジンに続いてリックが呆れた声を出す。
「まあ、大統領からから渡されたんじゃあしゃあねえが、何も馬鹿正直に全部もってくるこたねえだろ……」
考えてもみれば基地の地下格納庫には既に20機もの機兵が収まっている。
そこに追加で40機を置くとなると……酷いことになるのは当たり前の話なわけで。
当然俺もそれを頭に入れて置かねばならなかった筈なのに……ついうっかり失念してたんだから仕方がないだろ?
でも我々に限って言えば別に困るような話じゃない。
我らカイザーチームが備えるストレージの保存量は無限である。
置く場所が無いというのであれば、ジン達が必要になるまで出さずに預かっておけばいいだけの話なのだ。
言ってしまえば俺自身が第2の格納庫とも言えるわけだな。
「何考えてるか分るぞ、おめえ自分を格納庫にすりゃいいだろって思ってるだろ?
馬鹿だよな、カイザーはよ。俺達が直ぐに出せねえ格納庫なんて意味がねえだろうが!
四六時中おめえがここにいるってえなら別だが、そうじゃねえだろうがよ!」
くっ……、言われてみれば確かにそうである……。
「ま、まあ機兵の事は置いといてさ……。
進捗状況はどうなんだい? 何機か動かせそうな奴はあるか?」
待ってましたとばかりにアルバートが胸を張る。
「へっへっへー、こんだけ優秀な技師が揃ってんだ、当たり前だろ?
紅魔石の製造も良好、予想を超えて既に10機、試運転が済んでいるぞ」
「10機も!? それは凄いな! 予想以上だよ!
てことはさ、何機かあっちに持って行っても構わないのかな?」
出来ればレイから預かった分と交換で何機かリム族の集落に持って行きたい。
あの集落に新型を数機持って行ければ、伐採や採掘に役立つだろうし、護りも強固になって食料調達が安定するだろうからな。
しかし、リック達は難しい顔をする。
「うーん、持って行って貰いたいのは山々なんだが……もう少し詰めたい所もあってな……だが実働データが欲しいのも確かだ」
「だよなあ。リックも言ってるけどよ、まだ完成とは言えねえんだよこれは。
細やかに動作テストをしてよ、ダメなとこを細々と調整して完成に持っていきてえ」
なるほど言いたいことは良く分かる。
ギルドから預かった機兵も同様の理由でこちらに兵士を送るよう話したからな。
何かあれば即弄れる場所での稼働テスト、それ以上素晴らしい環境は無いのだから。。
つまり……こうすればよいのだ。
「よし、リック、ジン俺に良い案がある」
「なんだよ、ろくでもない事言いそうだな、おい」
「ああ、ぜってえろくでもねえぞ」
「失礼だな! ここまで作業が進んだのなら1人くらい居なくても良いだろう?
リックかジンが俺と一緒にリム族の所へ行けば良いんだよ」
「「やっぱりろくでもねえ!」」
ジンとリックの声がハモる。
「おめえさんよ、行くつっても俺たちゃ爺だぞ? 爺に長距離歩けっつうのか?」
「そうだそうだ! 例え機兵に乗ってくつっても、アレだって疲れるんだからな!」
「それは要らない心配だ。なんたって空を飛んでいくんだからな。
なあに、1人くらいなら席に余裕がある。俺のコクピットにレニー達と一緒に乗って行けばいいさ」
大きなため息をついて呆れたような顔をする2人。
しかし、あっちでテストが出来るという話自体は魅力的なようで、2人で一生懸命話し合っている。
やがて話が決まったのか、2人仲良く頷き合うと、じゃんけんの様な事を始めた。
……レニー達から世にじゃんけんが広まっているようだ。
ていうか、結局2人とも行きたいんじゃ無いか。
ふふ、じゃんけんをしてまで争ってるんだもの、素直じゃないよね。
余程気が合うのか、幾度にも渡るあいこを繰り返した後、勝敗が決した。
高々とガッツポーズを突き上げるリック、どうやら彼が勝者であり、我々の同行者となるようだ。
「よっしゃあああああ!!! じゃあ、ジン! あっちのことはよろしくな!」
「くっそおおおおおお! 負けちまった! ああくそ……カイザー、てわけで俺が行くよ……」
……逆かよ……そんなに行くのが嫌だったのかよお……。
「ああ、ちげえからな。行くのが嫌なんじゃねえ」
「そうだぞ、飛ぶのが嫌なだけだ」
「いやあ……俺以外にクレム弄れる奴が居なくて本当に良かったぜ」
くっ……飛行か……飛行が怖いのかよ、このおっさんトリオめ……!
同行者が決まった瞬間、彼らの行動は早かった。
急かすように、いや実際急かされながら格納庫に行かされ、テスト済みの機兵を10機も積み込まされた。
そして『おら、空いたところにさっさと出せ』とせかされ、代わりにトリバの軍用機をを10機配置させれられた……。
まったく、このオヤジ共は。
「今できてるのはこれで全部だ。テスト済みじゃねえのならもう少しあるが、まあ十分だろ」
「いやいや、予想より多いくらいだよ。サンプルってことで、6機分くらいのクレムしか持って来なかったのに……どうやったら10機も出来るんだよ」
「そりゃあ俺の隠された才能って奴だな。単なるジャンク屋のおやじだと思って舐めてただろ?」
「い、いやあ……おっちゃんはやる男だと思ってたよ? レニーも、そう、レニーがそう言ってたからね!」
「なに? レニーが? だろう、だろう。へへ、わかってんじゃねえかカイザーよ」
……ちょろいおっちゃんだ。でも実際凄いよな。
スミレの計算を超えたというか、それ以上の成果を出してくれたんだからさ。
そしてえっちらおっちらと大きな箱を担いできたジンに
飛んで向こうに行くのは嫌だ、嫌なのは嫌だけれども、データは早く取りたい! 手名具合に、なんとも複雑な表情で俺を急かしてくるもんだからたまったもんじゃ無い。
まあ……『乗りたくない』とごねられるよりマシかと、分離していたヤタガラスと合体し、ジンをコクピットに乗せる。
「……カイザーさん……」
「カイザー殿……ええと、その、これは大丈夫なのですか……」
「てめえ……なーにが席はあるだ。覚えてろよ……」
失念していた……。
今の俺は2機合体の状態だと言うことを。
パイロット以外の人員を乗せる余裕があるのはシャインカイザーであり、2機合体時のコクピットは総出は無い事を、現在の俺は2機分繋がった程度の広さしかない事をすっかり忘れていた……。
そ、それでもなんとか乗ることは出来たからいいじゃないか。
問題は……狭すぎてまともに操縦出来ないと言うことだが……ここは自立機動出来る俺達ならなんとかできる問題だよ、うん。
「……ま、まあ、なるべく早く着くようにするし、耐えてくれ……みんな……」
そして……この時の俺が更に失念していたのが一人分増加した体重である。
それにより、来た時よりも、シャインカイザーの時よりも移動日数がかかると言うことには気づけなかったのである……。
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