第二百十一話 Aパート おつかいチーム

 まだ、あわあわと落ち着きを取り戻せないでいるシェリーをなんとか落ち着かせ、フォレムのギルマスに取り次いでもらった。


 以前レニーとマシューが『ジダニックの牙』の件で通された会議室に通されると、間も無くギルマスがシェリーと共に現れた。


「あ、ギルマス、お久しぶりです」

「まったく、来るたび悪化して無いか? レニーのデタラメさがさ。

 変な機兵を拾ってきたかと思えば、あっという間に1級ファーストにまで成り上がってさ、挙句の果てにその機兵は飛ぶわ喋るわ……何処へ向かってるんだお前は?」


 そう言えばこの男の名前は何なのだろう。みんなが揃って「ギルマス」と呼ぶものだから未だに名前を耳にしたことがない。


「デタラメなのはあたしじゃなくて、カイザーさんですってば……。

 あたしは今も昔もフツーのハンターですよう」


「別に俺はそこまでデタラメな存在では無いと思うんだけどな……。

 直に話すのは初めてだったな、俺はカイザー。ご存知の通りレニーの機兵だけど、こうして建物に入る際にはこの姿をとらせてもらっているんだ。

 その……この見た目については聞かないでくれると助かる……」


 レニーの肩に腰掛け、自己紹介をするとギルマスの顔が引き攣り『成程噂以上にデタラメな機兵だ』と言っている……しっつれいな奴め……って思ったけれど、そりゃそうか、しかたないよね……冷静に考えるとたいがい出鱈目だもの。


 それに……噂になってるのはデカい本体の方だもんな……妖精体の噂はまだそこまで広まってないはずだからな。


「ごほん。噂はかねがね……。

 俺はフォレムのギルドマスターだ。気軽にギルマスと呼んでくれて構わない。

 それで、本部から君たちに協力するよう連絡があったが、今日はその件だろうか?」


 何だこの人、名乗らないぞ! 


 別にそこまで気にはしないけどさ、この人いっつもそうなの? 

 もしかしてフォレムの冒険者でギルマスの名前を知っている人って居ないのでは?

 なんだかそんな疑惑が持ち上がってきたぞ……って


 いやいや、そレは別にどうでもいいよね。本題に入らないと。


「ああ、そうだね。実は今日ここに来たのは……」


 アズやレイの協力の元、禁忌地の調査を始めた事、禁忌地には犬族の集落があった事、集落と交易をするためトリバ・ルナーサ共同で開拓をする事をザックリと説明し、パインウィードから北に抜ける街道を作るため、魔獣の討伐に協力して欲しいと言う話をした。


「正式な通達は後日本部から来ると思うけど、かなり大規模な依頼になると思うんだ。

 まだ詳しくは話せないけど、長い目で見ればハンターにとっても大きな利に繋がると思うしさ、どうかよろしく頼むよ」


 紅魔石が量産され、次世代型が民間に降りて来ればハンター達の生活は様変わりする。


 これまでよりも有利に魔獣とやりあえる力が得られる他、エーテリン補給という枷から解き放たれるため、これまでは燃料の関係で不可能だった人里離れた奥地にだって狩りにいけるようになるんだ。

 

 まだ次世代機については大々的に話せないため、その辺りを伏せての説明だったけど、それでもリム族の存在は大きな発見だし、歴史に見放された彼らを保護するためならばとギルマスはかなり乗り気で話を聞いて来れた。


 俺がギルマスと打ち合わせをしてある横でシェリーがヒソヒソとレニーと何か話しているのが聞こえる。


「ついこの間、機兵を拾ってきたと思えば何なのこの勢いは!

 1級ファーストになったってのも驚いたけど、カイザーの口ぶりからしてグラマス大統領ともかなり仲が良さそうじゃないの! 一体何をやらかせばそうなるのよ……」


「私に言われても……まあ色々あったんだよ……あはは……」


 無事にギルマスと話が付き、握手……は出来ないので、拳を合わせて今後のことを約束しあって次の目的地、パインウィードに向かった。



 パインウィードは相変わらずで、俺たちが降り立つと何処からともなく、わらわらと住人たちが集まり、再会を喜びあった。

 

 村には以前よりさらに人が増えていて、その事について尋ねるとヒッグ・ギッガの話を聞いたハンター達が噂の機兵を一目見ようと訪れてそのまま居着いてしまっているらしい。


 なるほど、それで先程から見慣れぬハンターたちが遠巻きに俺達をキラキラとした眼差しで見つめているわけか……。


 悪い気はしないけど、なんとも複雑な気分だな。


 話を聞きたそうにしているハンター達に頭を下げギルドに向かうと、待ってましたとばかりにスーが現れ、レニーの手を引いて俺ごと奥の支部長室に連行されてしまった。


「本部から通達は来てますよ! さあ、何でもいいつけてください! みんな恩返しができる日を首を長くして待ってたんですから!」


 あれはみんなで成した成果だろうと何度言ってもこれだから敵わない。

 なので、「また君たちの力を借りて大きな事を成し遂げたい」と伝え、場を盛り上げる方向で話をした。


 パインウィードの人々に頼みたかったのはパインウィードと禁忌地木の間にある森の伐採だ。


 狩の腕もそれなりにあるここの人々ならば安心して伐採を依頼できる。


 フォレムからもハンター達が応援が来るので、こちら側からの伐採はスムーズに進む事だろうさ。


「報酬に関しては改めて本部から通達が来るはずだ。

 また君と一緒に仕事ができる事をうれしく思う」


「そのセリフはおっきなカイザーさんの時に言って欲しかったなあ……」


 何故か残念そうに溜息をついているスーだったが、依頼自体には不満が無いようで、


 「依頼が始まるのが今から楽しみですよ!」


 と、やたらやる気を見せてくれた。


 俺達に協力が出来るというのもあるだろうが、割が良い仕事になるはずなので、フォレムから多くのハンターが訪れるはずだ。


 となればパインウィードもまた潤うため、期待しないわけがないだろうな。


 その後、泊まっていけとひたすら誘う村人達に頭を下げ、再びフォレムに戻って夕方までかけてたっぷりと食料や資材の買い出しをした。


 飛行で移動速度が上がっているとはいえ、あまりのんびりもしていられないからな。


 パインウィードにはこれからも様子を見に来ることがあるだろうから、その時改めて、メンバー全員で泊まりにこようじゃないか。


 買い出しが終わるとすっかり日が暮れていたが、リックが居ない今勝手に泊まるわけにも行かず。


 かといって……なんとなくフォレムに宿をとる気にもなれなかったため、門番に事情を話して外に出してもらった。


 門番の男が「普通はこんな時間に出すわけには行かないんだが、あのブレイブシャインならしかたないな」と門を開けてくれたのには驚いたけどな。


 シェリーが『レニーはフォレムの宝』だと騒いでいたが、かなり広い範囲に俺達のランクが知れ渡ってしまっているようだ。


 門から出た後はフォレムからやや離れたレニーが住んでいた土地に降り立ち「おうち」を出して一夜を明かす。


 久々に自分の縄張りに「おうち」を出したレニーが何だか嬉しそうにしていて、シグレと何やら盛り上がっていた。


 飛行形態で飛び回ったためかなりの時短になったが、ここ数日慌ただしくてろくに休む暇もなかった。

 

「本当はゆっくり宿にでも泊まれれば良かったんだけど……急がせてごめんね」

 と、2人に頭を下げると、そんな事をするなと叱られてしまった。


「今は時間がいくらあっても足りないんだからカイザーさんが謝る事じゃ無いよ!」

「そうですよ。我々は仲間なのですから遠慮は無用なのですよ。

 それにこのおうちだって風呂に入れるし十分快適ではないですか」


 そう言ってくれる二人に有難く思うと同時に、それでも申し訳なく思ってしまう。


「なんだかまだ納得してない顔してますね」

「まったくカイザー殿は頑固なんだから……」


 この体は駄目だな。顔に出るから嘘をつくことができない……。

 2人とスミレにひとしきり説教をされ、何故かそのままもみくちゃにされてしまった。


「こ、こら! やめろ! 繊細な身体なんだぞ!? 壊れる、壊れるってば!」


「変なこと考えなくなるまでやめません!」

「カイザー殿、お覚悟を!」

「ふふふ……カイザーは何処が弱いのでしょうか……」


 ひとしきりギャアギャアとじゃれ合ってしまったけれど、おかげで何だか少し気分が楽になった……。


 人の体じゃなくなったせいか気にしていなかったけどさ、やはり俺も知らずにストレスが溜まっていたのかも知れないね。


 だめだな。変に急いても失敗するだけだよ。


 明日からはイーヘイを目指し、到着次第レイと会うことになっている。

 用事が早めに済んだら少しだけイーヘイをぶらつくのも……悪くないかも知れないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る