第二百十話 リム族復興作戦始動
ガシュール達のところへと戻り、外部の国、トリバやルナーサと交易が出来るように話をつけた、よかったら我々に集落の生活を向上させる手伝いをさせてもらえないかと伝えたところ、リム族の者達から歓声が上がった。
リム族は別に好んでこの地に籠もり、外部との接触を絶っていたわけじゃない。
外部から食料や生活物資が届けられるというのであれば、それを断る理由など無いのだ。
今はまだ、外へ出ようと言う気は起きないだろうけれど、いろいろな意味で我々を信用できるようになり、自らもある程度の力をつければ集落からも何人かは外に出たがる連中も現れることだろうし、外部からもどんどん人がやってきて交流を重ねる度に集落はどんどん発展していくことだろう。
そこまで行けばリム族が完全に復興したといってもよいだろうね。
ブレイブシャインがどれだけ手伝えるかはわからないけれど、いずれ訪れる決戦の用意をしながら出来る範囲で手を貸していきたいと思う。
交易ということで、リム族には紅魔石の原料となる
けれど、すぐにその事業を始めることは出来ない。
事業を始める前に採掘ポイント周囲の魔獣をある程度片付け、周辺の環境を整備した上で、採掘班となるリム族達につける護衛を用意しなければならない。
現在、この地で自由に動き回れるのは我々だけだ。
なのでブレイブシャインを2つに分けて行動することに決めた。
まず、周囲の魔獣を片付けつつ、少しずつ採掘エリアを広げるチーム。これはミシェルとマシューに任せることにした。
マシューとミシェルは単体での戦闘力が高い。今の彼女たちであれば、俺達の留守中に魔獣の襲撃があったとしても、問題なく対処できるはずだ。
また、ミシェルやウロボロスの知識は集落の生活を向上させるのに役立つだろうし、なにより長距離通信が利用できるというのが大きい。
何か必要な物があればアズに、機兵開発について思いついたことがあればリック達のところに……と、俺が居なくとも各地と密な連携を取れるというのは非常に助かる。
また、マシューには集落の住人に馴染んで欲しいというのもあった。
同族である彼女であれば、リム族との信頼関係を築きやすいだろうし、なにより……お節介なのかも知れないけれど、家族とも言える同族というものは大切にしたほうが良いだろうからね。
さて、残りの俺達が何をするかと言えば、一時的にここから離れてトリバに行き、アチラコチラを回って様々な仕込みをするんだ。
まず我々お使いチームが向かうのは秘密基地なのだけれども、何故基地まで向かうのかと言えば、資材サンプルを渡しに行くためである。
資材サンプル、それは勿論
明日はその
我らが総出で土木作業を行い、一定数、約6機分の紅魔石の材料となるクレムを採掘するのである。
最初に運び込まれる分のクレムはサンプルとして使われることとなると思うけれど、紅魔石の製造は何よりも優先する必要があるからね。必要だと言われる分を今後もどんどん運ぶつもりさ。
まず何をするにも紅魔石が作られないと始まらない。
紅魔石の製造に成功すれば、自動的に次世代型機兵の建造も可能となるわけで。
次世代型が完成したら、動作テストを兼ねてまずはじめにこちらに渡してもらい、クレム採掘の際に護衛として使うほか、集落の防衛にも役立ってもらおうと考えている。
そして、紅魔石の件以外にもトリバで済ませなければいけない用事はたんまりとある。
あっちの街へこっちの街へと動く必要があるのだけれども、流石にちんたら地上を歩いていては時間がもったいない。
そこでガア助――ヤタガラスの出番となる。
流石に俺がガア助に乗ることは出来ないけれど、合体することは当然可能だ。
合体すればどうなるか? そう、飛行可能となるんだ。
ヤタガラスと合体したカイザーは……白い身体に黒い翼が生え多様な姿になる。
ファンたちの間で「堕天使モード」等と恥ずかしいあだ名で呼ばれることが多い形態になるんだ。
俺自身もそう呼んで掲示板やSNSに書き込みをしていたわけなのだが……実際自分がカイザーになってみると……なんだかとっても恥ずかしくて仕方がないんだよな……。
リックやジンにゲラゲラと笑われそうな気がするけれど……妖精体という究極にアレなアレを見せているからもう怖いものなんて無いぞ!
……というわけで、我々は暫くの間2チームに別れ、それぞれ活動をする事になったのであった。
……
…
リム族に協力を申し出てから3日後。
予定通りクレルの採掘が完了したため、俺とシグレはトリバへ向けて飛び立った。
当面の食料として俺が格納していた分から殆どをオルトロスに譲渡し、集落を賄うよう任せてきた。
行く先々で乙女軍団があれやこれやと買い求めていたため、ストレージの中にはかなりの量の食料が調理済・未調理交えて格納されていて、オルトロスやウロボロスの分も合わせれば、恐らく集落全体を一ヶ月前後は不自由なく賄うことが出来るのではなかろうかと思う……。
全く随分と溜め込んだもんだよ。
勿論、トリバから戻る際には沢山の食料を購入して帰ることになっているが、忘れずに領収書を貰っておくようアズベルトから言われている。
まさかこちらの世界でその単語を聞くことになるとは思わなかったが、どうせその概念もウロボロスがアズのご先祖にでも提案したんだろうさ。
なんにせよ、お金のことはきちんとしておかないと後でミシェルに怒られるのでキッチリ従っておこうと心に決めた。
……
…
昨日の内にトリバ入を果たした我々おつかいチームはフォレム北部の平原で一夜を明かし、朝食を摂った後は速やかに基地へと向かって飛び立った。
1時間もしない内に眼下にフォレムを捉え、そしてまもなくしていろいろな意味で馴染み深い存在となってしまった神の山が視界に飛び込んだ。
2機合体は完全合体よりも出力が下がってしまうけれど、飛行速度が落ちるということはない。むしろ軽量な分、移動速度が上がるため、行きよりも圧倒的に早く、1日短縮した3日目には基地まで帰ってくることが出来た。
設定上、そういうもんだと知ってはいたけれど……実際に体感すると驚いてしまうな。
今回はきちんと事前に連絡を入れておいたため、基地前にジンやリック、アルバートがずらりと並んで待ち構えていた。
挨拶もそこそこに『おみやげだよ』と、クレルを渡すと凄まじく興奮し、飛び上がって喜んでいた。
「これが紅魔石の原料か! カー! こいつが無いがためによ、今までだーれもあいつらをまともに直せなかったんだぜ? ああ、けれど、これさえあれば!」
「ああ、そうだよなあ、リック! 俺達トレジャーハンターはよ、現場で結構な数の1世代機の成れの果てを発掘してんのよ。
けれど、いくらそいつらをかき集めたところで命が灯ることはこれまで叶わなかった。だが、これならよお!」
リックとジンが愛おしそうに袋を撫でながら苦労を語っている。
遺物である1世代機はトリバでもそれなりに発掘はされている。
最も、完全なものはまず見つからないため、こつこつとパーツを集め、一応は動きそうな状態にまで持っていくらしいのだけれども、そこまでしたところで動かすことは叶わない。
それは勿論、紅魔石が失われているからだ。
帝国がどうなのかは知らないけれど、少なくともトリバやルナーサでは1世代機はレストア不可能な存在で、黙って現行型機兵のパーツに転用するのが良いとされてきた。
しかし、今回クレムを入手した事により、紅魔石の復活が期待されるわけで。
それが果たされれば今まで不可能であった遺物、1世代機の完全なるレストアすら可能となる。
リックやジンが興奮しないわけがない。
そして感動に打ち震えているのは彼らだけではない、アルバート、おっちゃんもだった。
「ああ……ウロボロスから貰ったレシピを見ながらよ、リックと二人今か今かと待っていたんだ……。
こう見えて俺は錬金術も嗜んでいてな? まあ、そういうわけで魔石の製造はまかせてくれよな」
おっちゃんは錬金術士だった……だと?
ここに来て随分とファンタジーなスキルが出てきたものだなと思っていると、スミレが補完してくれた。
「錬金術と言ってもパーツを対価として持ってかれるようなアレとは違うものですよ。
この世界の現代における錬金術師とは、魔術的な要素が無い、いわゆる化学者的な存在ですね。素材屋をやるにあたって必要な知識や技能なのでしょう」
っく、夢を壊す情報をありがとう……。
レシピがあれば誰でも簡単に調合出来るというわけでも無いだろうからな。
錬金術師が居るのは大いに有り難いよ……はあ。
「……それで、こんな時に聞くのもなんだが……、マシューはどうだった?
同族と出会えたってのはよ、この間の報告ついでに聞いてるが、詳しく教えてくれよ」
少し聞きにくそうにジンが俺に尋ねてきた。
「そうだね。ジンには報告しておかないといけないよね。
それで族長のガシューから話を聞くことになったんだけどね――」
リム族の族長、ガシューから聞いたマシューの件を細やかに説明すると、ジンは優しげな笑顔を浮かべそうかそうかと満足気に頷いていた。
「マシュー・リエッタ・リム、それがマシューの新しい名前だよ。
話したとおり、リエッタが両親から名付けられた本当の名前だったんだけど、マシューはジンに付けてもらった名前を、父の名前をそのまま使っていきたいって言ってね。
ガシューがそれならばと、一族の名前を加えた新たな名前を授けてくれたんだ」
「……そうか……なんだかマシューらしいなちくしょう……
あ、ああそうだ……土が届いたんだ、こんな事してる場合じゃねえな……また後でな、カイザー」
そのまま後ろを向いてと基地に向かうジンの頬に……涙が見えたのは俺の胸の中にしまっておこう……。
……
…
我々は忙しい。
2時間ばかりの休憩後は次の目的地へと急がなければならない。
リックに機兵が出来たら連絡を頼むと伝え、俺達は次の目的地であるフォレムへと飛んだ。
ステルス状態で街にほど近い林に降り立ち、合体を解いてそのまま素知らぬ顔で門に向かった。
門番が不思議そうな顔をしていたがあまり深く考えないでもらいたい。
俺達は林の中から現れた、それが全てでそれ以上のことはないのだから。
ギルド前に機体を止め、妖精体になってレニーのポケットに潜む。
コクピットから見ていても良かったんだけど、折角のギルドだし生で見てみたかったんだよね。
「あぁっ! レニー! ……さん! 今まで一体どこへ行っていたんですか!」
受付のシェリーが無理やり『さん』を付けてレニーとの再会を喜んでいる。
「ちょっとシェリーさん、そんな『レニーさん』とかやめてくださいよ……」
「なにをいってるのやら!
今やレニーさんやブレイブシャインはフォレムの宝なんですからね!」
知らない間に大げさな事になっている……。
あまりこう、英雄視されるのは望ましくないんだけどな。
「それで今日は噂のカイザーさんも来てるんですよね?
もうみんな知ってますよ、レニー、さんの機兵がおしゃべりだって事は」
「もう、いいにくいならレニーでいいって……ていうか、カイザーさんの事、そこまで知れ渡ってるんですか?」
確かにそうなるようにあちこちで仕込んではいたけれど、思ったより浸透速度が早いな……。
驚くレニーの反応を見てシェリーがニヤリと笑う。
「最初は商人のしょうもない噂だとみんな思ってたんですけどね、パインウィードの件から始まってあちこちで実際にカイザーさんが喋っている姿が目撃されているんですよ。
そればかりか、機体が飛んでいる姿も目撃されてて。まあ、馬に変形する機兵なのだから今更飛んだところで不思議はないとみんな言ってるのよ」
なんてこった……。
驚かせてはならないと、こっそり飛んでたけど全てバレバレ、俺の苦労は無駄だったというわけかぁ……。
だったらさあ、妖精体の事もギルドには公開しておいたほうが今後の作戦がやりやすい……よねえ。
「そこまで話が広まっているのであれば挨拶をしない訳にはいかないね。
はじめましてシェリー、俺はブレイブシャイン司令官であり、レニー・ヴァイオレットの機兵、カイザーだ。よろしくね」
「んな! カ、カイ、カ、カーーー? っていうか、これ……よう……せい……さん……」
レニーのポケットからふわりと飛び立ってドヤっと挨拶をすると……シェリーが立ったまま気を失ってしまった……。
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