第二百九話 リム族の今後のために

 集会場に人を集めてもらい、まずは話を聞いてみることにした。

 

 永きに渡り世界から隔離され、過酷な環境の中におかれている集落……。


 魔獣が発生する以前はそれでもなんとか生活が出来ていたようだ。

 隊列を組んで森へ挑み、狩や採集を行って食料を得る冒険者たちの存在。


 当時は今で言う機械的な魔獣ではない、本来の魔獣が生息していて、当時もこの地と外界とを隔てる森は危険な場所には変わりがなかったのだという。


 それに、当時はまだ日々を暮らすには不足がない食料や素材を入手できていたため、わざわざ危険を冒してまで外へ移住しようとする事は考えなかったらしい。


 しかし、機械型の魔獣が現れ始めて穏やかな日々が失われることとなる。


 生身では到底敵わないその存在は大いに驚異となった。

 しかし、少ないながらも集落やその周辺に存在していた機兵の再起動によりその対処にあたり、なんとか以前の生活を維持できていたらしい。


 とはいえ、満足にメンテナンスが出来ない集落では徐々に動ける機兵は数を減らし、追い詰められた末に決行された大移住の際に最後の機兵が大破。


 以後、貧しい生活を余儀なくされ、どうすることも出来ないまま今日まで過ごしてきたのだという。


「それでも漁ができているうちはまだなんとかなったんだが、デカブツが現れ始めてからそれもだめだ。

 なあ、機神様は強いんだろう? なんとかできねえ……できませんか?」


 集落の若者が縋るように言うと、周りもまたそれに乗じて頭を下げてくる。


「勿論、例の魔獣は討伐しようと考えているが、長い目で見ればそれだけではまだ足りない。

 リム族が生き残るにはもっとしっかりとした対策を取る必要があると思う。

 だからまずはこちらの話を聞いてほしい」


 まずはある程度の情報格差を解消するため、外の情報を彼らに説明する。

 とはいえ、隠れ里みたいなこの集落ではかなりの期間隔離されていたため、かなり圧縮した内容でだ。


 既にかつての国家は全て存在しない事、現在旧ボルツの周辺にはルナーサとトリバという国が有り、平和で友好的な国家であること、我々がそこから訪れたであり、今の時代はそれをハンターと呼ぶこと。


 そして我々がこの土地に訪れた目的は、とある物質の採掘とマシューのルーツを探るためであったことを伝えた。


 森の向こう側にそれぞれ友好的な国家が有り、それらの国が非常に豊かである、その説明は彼らの心を大いに揺さぶる事となった。


 しかし、かつての大移住の事もあり、彼らはこの土地を離れることには否定的だった。


 けれど、この集落の人々は決して閉鎖的ではないため、外部から人を入れることには抵抗がなく、寧ろ外部と交流ができるようになれば助かると考えているようだ。


 出る気はないが、外から人が来ることにはなんら抵抗がない。

 寧ろどんどん来て欲しい……か。


 これならきっとなんとかなるぞ。


「ねえ、ちょっとここらで休憩にしようよ! お腹空いたし、みんなも空いたでしょ!」


 いいタイミングでレニーが声を上げた。

 どうやら既にミシェルたちが各家庭に声をかけ、人を集めていたらしい。

 なるほど、気づけば結構な時間だ。ようし、炊き出しタイムと行こうじゃないか。


 会議場には各家の代表だけ来ていたため、全体数は把握できていなかったが、全員集合となるとかなりの人数だった。


 大人数であるということで、今日もまたカレーライスであったがそれに文句を言うものは誰も居なかった。


「ちょっと見た目はアレだが、なかなかうまいなコレ……」

「凄いよ! 肉だよ! 肉がたくさん!」

「これはなんだ…? なにかの植物のようだが……」


 皆はじめての味、はじめての食材にワイワイと盛り上がりながら食べている。


 さて……俺もカレーに舌鼓を打ちたいところだが、今のうちに俺の仕事をしておかないとな。



『こちらカイザー、アズベルト応答せよ』

『お、カイザーじゃないか。ふふ、その呼び方嬉しいね。なんならアズって呼んでくれても良いんだよ?』

『む……、全くしょうがないな、君は……。ではアズ、報告がある』

『うんうん、それでいいよ。さて、そちらの状況を聞かせてもらおうじゃないか』


 まったくこのおじさんはたまに可愛いことを言うから困る……。

 

 ……それはさておき、禁忌地に到着したこと、言われていたとおり厳しい環境であること、そして、犬族の集落を発見したことなどを細やかに説明し、今後どうするのかを相談した。


『なるほど……また君達は凄まじい発見をしてくれたね。

 旧ボルツの生き残りか……これは大発見だよ』


『正直かなりギリギリの生活をしているよ。このままだと近い将来絶滅してしまうだろうな』

  

『彼らは移住を望まず、その地で生活の改善を望みたいと、そういうことだね?』


『ああ、そうだ。過去のトラウマから移住は考えたくないみたいでね……。

 お節介なのかも知れないが、マシューの故郷でもあるし、なんとかしてやりたいのだが……』


『そうだね、これはルナーサの代表としてと言うより、商人として提案したいのだけど、彼らと商売をするというのはどうだろう?』


『商売ね。詳しく聞かせてくれ』


『ああ、僕らが協力して開発している次世代型機兵には紅魔石が必要不可欠だろう?

 仕様書を見る限り、あの次世代型は従来型よりも多くの面で勝っている。

 帝国の事を考えればルナーサ・トリバ両国で軍機に採用するのは勿論の事、長い目で見れば民間機にもあの仕組みが流用される日が来ると思うんだ』


『余程のことがなければ破損せず、再利用が可能な魔石だからな。

 機兵だけではなく多方面で活躍することだろうね』


『先に聞いておくけど、紅魔石の埋蔵量は見込みどのくらいあるんだい?』


『ざっくりとしか調査していないが、集落近隣から徒歩で行ける範囲だけでも1000機分の原料が埋蔵されているよ。おそらくは砂漠全域に広く分布しているのではなかろうかと思うし、しっかりと掘ればその量は膨大な物になるだろうね』


『それは良いね。彼らには新たな仕事として紅魔石の原料を採掘してもらい、こちらからは食料や資材、そして機兵の提供をするというのはどうだろう』


『成程、それは名案だな』


『ただ、問題はどうやって荷を運ぶか……だね。君達が居れば問題ないのだろうけど、それが前提となるのは無理がある』

 

『ああ、当然そう言うだろうと思ってね……まずはこれを見て欲しい』


『おお、この新機能は便利だね。地図が見れれば話が早い……ほほう。こんな所に集落があったなんて』


『流通を考えると、位置的にどうにかパインウィードに向けて街道を通すことが出来れば最高だと思うのだけど、どうだろうか』


『そうだね……ちゃんとした街道を作るのには時間がかかるだろうけど、森を切り開いて簡易的な道を作ってしまえば、それこそフォレムで高ランクハンターを護衛に雇えば流通が安定するだろうし……悪くないね』


『開発の人員に関しては俺に任せてくれないか。トリバ側からの開拓にアテがあるんだ』


『ああいいよ。じゃあ、僕からレイに連絡を入れて置くよ。

 各ギルドにレイの名前で通達が行っていれば禁忌地に関わるクエストだろうとギルドもハンター達も協力的になるだろうしね』


『ありがとう。頼りにしているよ、アズ。では、また進展したら連絡するよ』


『ああ、娘にも連絡するようにいっといてね』

『……ああ、うん、分かった』

 

 

 まったく、最後にちゃっかり私用に使いやがって。

 さて、次は住人達への説明と説得だな……。

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