第二百三話 ボルツの真実

ジンの部屋に行くと『長くなっからよ』と、座るように言われ、全員が椅子に腰掛けたのを確認した後、ゆっくりとジンが語り始めた。


「知ってる話かも知んねえが、まずは聞いてくれ。

 ボルツはよ、神の裁きを受け滅んだと言われているんだ。

 なんでも機兵を運ぶ巨大な陸船を作っていたらしくてな、機兵が使えなくなった戦後も懲りずに開発を続けていたらしいんだな」


「作ったところで機兵が起動しないのに、無意味だとは思わなかったのだろうか」


「それがな、魔石ではない別の動力ってのを開発していたらしいんだな。

 新たな仕組みで動かせる独自の機兵、それがどんな物なのかは国ごと失われているからわからねえ。ただな、ボルツが王都毎巻き込んで消し飛んだくらいなんだ、ろくなもんじゃなかったんだろうよ」


「消し飛んだ……? ウロボロスなにか覚えているか?」


「あれかあ……こっちまで凄く揺れたアレだよねえ」

「あれよね……自然由来ではない明らかに異質な地震」


「おいおい、人工の地震……? まさかそれって」


「核反応……ではないけれどそれに近いなにかだね」

「それと似た未知の高エネルギー反応を検知したの」


 ウロボロスによると、その高エネルギー反応の原因を探るため何人か調査に向かったらしい。

 調査が終わり戻ってきたものは皆一様に青ざめていて、その惨状を語っていたという。


「かつて緑に覆われていた王都周辺は巨大な穴に変わっていたらしいよ」

「近寄ろうにも強烈な熱でそれは叶わず。遠くから望遠鏡で観測したと言っていたわ」


 爆心地となった王都周辺から離れた砂漠や山岳地帯はそれを免れていたらしいが、ボルツは王都周辺を除くと生活が困難土地だったため、国民の殆どがそこに集中。


 それが仇となり完全に滅びてしまったのだという。


「現代では旧ルストニアで発生したクーデターによりガンガレア・ボルツ両国が滅びたと思ってる人は多いけど、厳密に言うと最終的な滅びは自爆が原因だね」

「ガンガレアは機兵頼りだったから、それがとどめになってそのまま消えちゃったけれど、ボルツはしぶとかったのよ……」


「ああ、それで旧ボルツ領は禁忌地って呼ばれてたんですね……本に書いてなかったなあ、それ……」

「恐らくレニーが読んだ歴史書は簡単な物だったのでしょうね」

「あたしが買える程度の本だからね。お察しだよ……」  


 レニーの歴史解説は随分ザックリしているなと思ったけれど、資料の問題だったか……いや、レニー自身にも問題が無いわけでは無いのだが。


 クーデター後もボルツはしぶとく生き残り、元の自国領で秘密裏に機兵開発を続けていたのだろうな。ガンガレアすら諦めたらしいのに、凄まじい情熱だよ。それをもっと平和な方向に向けられてれば良かったのに……。


 兵器により自爆……とはね。やっぱり好んで戦争を起こそうとするとろくなことにならない。

 

 これもまた推測でしか無いけれど……事実だとすれば愚かすぎるほど愚かな幕引きだよ。

 

 そしてボルツに何かが起きたらしいという話は各地に散らばる事となった。

 その惨状は噂となって駆け巡り、いつしかボルツは神罰を受けた土地として禁忌地と呼ばれるようになり、今日までどの国も調査に入ろうとはせずに放置されたままなのだという。


「今僕らがいるこの場所も、かつて禁忌地と呼ばれていたけれど……」

「まさか新たに禁忌地が産まれるとは思いもしなかったわ」

 

 そう言えば、大陸北部に関して『危ねえだけ危ねえのに実入りが少ないからギルドが『禁忌地』って呼んで入らないようにしてるんだ』なんても一部のハンター達の間で言われていたりする――って話をどこかで……ああ、以前ジンが俺にマシューのことを語った際にもそのようなことを言っていたな。


 ウロボロスが話してくれた「禁忌地」の由来は過去に起きた史実から生まれた物。

 ジンが話してくれた由来は現在における、ハンターズギルド等が判断して作ったルールによる物。


 真実というものは年代とともに変わっていく。

 どちらが嘘でどちらが真というわけではなく、どちらも正しい、俺はそう思うんだ。


 何にせよ、禁忌地では大国が消し飛ぶほどの大事故が過去に発生しているわけで。

 禁忌地と名付けて近寄らせないようにしたのは安全面を考えれば正しかったのだと思う。


 そして禁忌地のさらに北、大陸最北端にはその対となりそうな名前の聖地という土地があるらしいのだが、そこに行こうとすれば禁忌地を通ることとなるため、そこも今ではどうなっているのか誰も知らないのだという。


 かつてはそれなりに巡礼者が向かう土地だったらしいのだけれども、危険な禁忌地を通ってまで向かう敬虔でストイックな信者はもう居ないのだろうなあ。


 ……なんの聖地なのかな……もしかして神様に関する何かがあったりして?

 そういやこの世界だと教会ってのをみかけないもんな……大戦と共に滅びたとなれば、ちょっぴり神様が気の毒だね。


「まあ、ウロボロスに言われちまったが、そういう言い伝えもあってよ。

 昔話やら道徳心で行くなって言われてんのがってのが気に入らなくてな?

 だったら俺達がちゃんと調べてやろうって、ちゃんと国から許可を得て何度か行ったことがあるんだ。

 いやあ、禁忌地な、ありゃ地獄だぜ。神罰の影響なのかなんなのか知らねえが、凶暴な魔獣がウロウロしててよ、そりゃどの国も手を出さねえままほっとくわけだと思ったぜ」


「へえ、じっちゃん達は行ったことがあるのか。そんな酷い事故があった土地なら遺物は少なそうだけど、逆に手付かずの物も多そうだもんな。確かにトレジャーハンターとして見逃せねえわ」


 マシューが話に食いついた瞬間、ジンの表情が引き締まる。

 一瞬こちらを見たため、静かに頷くと意を決したように語り始めた。


「マシュー、きっとお前はこれからカイザー達と禁忌地に行くことになるんだろう。

 だったら話しておかねえといけないことがあるんだ」


「なんだよじっちゃん怖い顔してさ」


「黙って聞け。いいか、俺がお前を拾った場所……今まで聞かれても適当に流してたがよ……実はお前と初めて会ったのは禁忌地……旧ボルツ領の砂漠なんだよ」


「え……?」


「うっすらと気付いていたとおもうがよ、お前は俺たち猫族とはちょっと違う。

 あんまし居ねえ犬族なんだ。そして犬族はかつてボルツに多く住んでいた人種、お前は恐らく旧ボルツ領のどっかで産まれたんだろうよ……」


「……まてまてまて。正直……どう反応していいかわかんねえぞ」


「まあ……そうだろうな。あの日、探索に行った俺達はよ、魔獣のエンラがお前を抱いて居るのを見つけてな……。

 どうしたもんかと睨み合ってるうち、俺達にビビったんだろうな、そこらにほいっと投げて逃げやがった。

 なんて事しやがる! って、見に行ったら……まあ、頑丈なマシューだからな。

 幸いピンピンしてやがったからよ、そのまま連れ帰って育てたってわけだが……」


「そんな……あたいは……エンラの子だった……?」


「……いや……まてまて。それは違う。エンラがお前をどうする気だったのかはわからねえが、お前の両親は間違いなく犬族だ。ただ、両親がどうなったかは……あの様子だと恐らくは……わりい」


「うーん……前にじっちゃんから拾い子だって言われた時も言ったけどさあ、あたいはじっちゃんやギルドの皆が家族だと思ってるんだよ。

 だから今更本当の両親がボルツで死んじゃってるかもとか言われてもピンと来ないし……正直どうでもいいかなって所はある」


「まあ、それはそうだろうがよ……」


「でも……さ、もしあたいの両親が眠っている場所がわかったらちゃんとお礼を言いたいかな。

 あたいを生んでくれてありがとう、生かしてくれてありがとう、じっちゃんと皆と会えました、ありがとうって」


「ぐっ……マシュー……クソ、てめえ……なんてこと……グス……」


「ったく、爺になると涙もろくなってダメだな! 

 だからさじっちゃん、覚えていたらでいい。あたいを拾った場所を教えてくれ」


「ああ……ああ……そうだな。ったく、すっかり強く育ちやがって……」

「へへ、それもこれもじっちゃんやみんなのお陰だぞ」

「おま……だから……くそ……!」


 そしてジンはマシューのタグの事、それを見つけた場所の大まかな座標をマシューに伝えた。

 エンラというのはサル型の魔獣だ。もしかすれば、同族だと思って保護をしたのかも知れないが……獲物として確保されていた可能性もあるからな……ジンに保護されて本当に良かったよ。

 

「ありがとう、じっちゃん……!

 正直ちょっと怖いというか不安な気持ちもあるけど、がんばって痕跡のひとつくらいは見つけてみせるよ」


「はん、お前の口から不安って言葉がでるたあな。少しは女子らしい所が残ってやがったか。

 まあいいさ、けどな、無茶だけはすんなよ。命はひとつなんだからな」


「ああ、わかってるよ! トレジャーハンターの心得その一! 遺物を投げても命は投げるな! その二! 投げた遺物はちゃんと後から拾いにいけ! これは守らねえといけないからな!」


「へへ、わかってるじゃねえか!」


ジンの話を聞いたマシューは何処となく寂しそうで、それでいて一皮むけたような……そんな表情を浮かべていた。


 禁忌地には紅魔石の材料となる物質と、マシューの両親に繋がる情報が眠っている。

 万全に支度をし、なんとしてでもこのミッションは成功させなければいけないな。

 

 第二百四話 浜辺にて


 あれから6日が経ち、我々は基地を飛び立ち禁忌地に向かって飛行している。

 善は急げと、もっと早くに発つことも出来たのだけれども、なんとまあ、5日前が12月の31日で、続いて1月1日と……あまりカレンダーを気にしていなかったので気づかなかったのだが……


 『年始年末に仕事するバカはいねえよ』

 

 と、ジンやリック達に言われてそれもそうかと正月休みをしっかり取ることになったのだ。


 こちらの世界の暦は俺にとってなじみ深い、日本で使われている物と同様の物だ。

『正月がくるからよ』とジンに言われ、ちらりとウロボロスを見たらニヤリと笑っていたので、これもきっと奴らの仕業に違いない……。


 流石に年越しそばや餅つきなんて物は無かったけれど、大晦日は早朝から基地内の清掃をして、夕方からは早々に酒盛りに突入。


 新年を祝福し合った後は、寝落ちするまでの飲み会に……と、所変わってもやることは大して変わらなかったのであった……。


 

 そんなわけで、三箇日が明けてからの初仕事なる本日の我々はといえば。

 現在ゆったりとした空の旅を堪能しているところなのだけれども……禁忌地というだけあって、旧ボルツ領に繋がる街道という物は存在しないようで、上から見てもそれらしき物はひとっつも確認出来なかった。

 

 当たり前の話だよな、わざわざ行く必要が無いのだから、街道なんて物は作られることがないのだ。

 

 道と言う物が一切がないため、余計にわざわざ立ち入ろうとする者は居ないだろうと思ったけれど、ジンが言っていたとおりまったく居ないわけじゃあない。


リック達トレジャーハンターや、高ランクハンター等が調査のために向かう事が稀にある他、こっそりと侵入を試みる連中なんかもいるそうな。

 

 その数少ない物好き達は大体がフォレムかパインウィードを北上して入るらしい。

 

 ルナーサ国から向かう場合は、スガータリワから西に抜ければ直ぐに禁忌地に立ち入ることが出来るらしいのだが、スガータリワを超えるのはかなり難しく、その時点で生死に関わる事からルナーサ在住の物好き達もわざわざパインウィードやフォレムに来てから向かうそうだ。

 

 とは言え、禁忌地は酷く危険な場所であり、殆ど実入りが無いとの情報も広まっているため、国が『得るものは無い』と判断をした現在ではわざわざ命を賭けてまで立ち入るような物好きは本当に僅かなようだった。


 さて、そんな物好きである我々が取ったルート、それは勿論空路である。


 合体したシャインカイザーは(移動に関しては)無敵だ。

 

 どんな悪路だろうが物ともせず、大空は俺の物とばかりに我が物顔で移動中だ。


 これでドラゴンが平然と飛んでいるような世界だったらば、敵と見なされ攻撃されるというイベントが起きたのだろうが、生憎俺が知っている龍達はどちらもぐっすりとお休み中なのだ。


 寝る子が起きて飛んでこないとも限らんが、今はそんないらぬ心配はせず、空の旅を楽しむべきだ。余計な心配は要らぬトラブルを呼ぶからな! 大いに学んだぞ、俺は!


 何度か休憩や野営を挟み……基地から飛び立ってから3日目、我々はいよいよ禁忌地へと突入した。

 

 とは言え、明確にそれを分ける様な目印なんてものは当然存在しない。

 実のところ、普通に森の上空を飛んでいる気分だったのだが、気づいた時には既に旧ボルツ領へと入っていたらしい……。


 突入に気づいたのは遠方の確認のため高度を上げた時だった。


 それまでは周辺の調査も兼ねて低空飛行していたのだが、一度遠くを見ておこうと高度を上げたところ……深林の終わりが見え、その奥に赤茶けた土壌、砂漠地帯が確認出来たのである。


 元々はもう少しトリバ・ルナーサ寄りの方までこの砂漠が広がっていたらしいのだが、良いのか悪いのか、植物の繁殖力が何時しかそれに勝るようになり、砂漠の範囲はどんどん減っているのだそうだ。

 

 もう数千年早くこの状態になっていればボルツが滅びることが無かったのかも知れないな……。


「通りで気づかないわけだ、砂漠が縮小しているのかこれは」


『恐らくは例の事故が関わっているのでしょう。この辺りは恐ろしく魔素マナ濃度が高いです。

 禁忌地に隣接するゲンベーラ大森林の成り立ちと関係があるのかもしれませんね』


 スミレによれば、大気中の魔素マナ濃度だけではなく、周辺の植物から検出される魔力濃度が異常に高いそうだ。

 恐らくはこの土地の高濃度なマナを吸収した植物が若干の変異を遂げ、異常な繁殖力を手に入れたのではないか、砂漠にすら打ち勝てる繁殖力を得たのでは無いかとのことだ。


 視界には広大に広がる赤茶けた砂漠が見えては居るが、何時の日かこの砂漠が消え去る日が訪れるのかも……しれないな。


 森は丁度トリバとルナーサをボルツと隔てる境に沿うように広がっているため、そこから北部方面、聖地が有る方向はどうやら砂漠が広がったままで居るようだ。


 また、ボルツ領両端の海岸線沿いもまた、植物がまばらな砂漠が広がっている。

 ジンとマシューが出逢ったのは大陸北西部、まずはその辺りから調べるのが良さそうだが、にしても何処から当たるか。


 北西部と言っても広いからなあ……と、悩んでいたのだが、最初の着陸ポイントは意外なところから決まることとなる。


 それはマシューの一言が切っ掛けだった。


 ほんの、なんと言うことが無い一言、いつもの食いしん坊気質から発せられた一言だったが、後のことを考えれば……それはきっと運命の導きだったのかも知れない。


「なあ、カイザー! 海辺に行ってみないか?

 あたいじっちゃんから釣り具借りてきたんだよ。釣りしようぜ、釣り!」」


「おっ、中々良い思いつきだな。そうだな、今日は長く移動したし、もう海辺で野営する事にして釣り大会でもしてみるか」


「そうこなくっちゃ!」


 そして海に向って飛行すること30分、丁度よさげな砂浜を見つけ、そこに着陸した。

 スミレ先生の指示により、満潮でも水が届かない所に「おうち」をそれぞれ取り出して後はお楽しみ、釣りの時間だ。


 面白い事に、この世界にもリール竿が存在している……いや、どうせウロボロスの仕業なんだろうなあと思ってるけれど。

 

 なのでラインもまた、ナイロンに近いような素材で作られた物がきちんと存在していて、家族と釣りをしていたというシグレが張り切ってその使い方をレクチャーしていた。


「なるほどなあ。いやあ、やろう!って張り切って言ったけどさ、あたいは簡単な川釣りくらいしか経験がなかったし、この道具を使うのも初めてなんだよな。助かるよ、シグレ」


「いえいえ。しかし、トリバにも中々良い釣り具があるのですなあ」


「道具の善し悪しはあたいにゃわからんが、じっちゃん達はイーヘイやザイーク方面に行った時に釣りをしてたらしいからなあ。

 あたいはいっつも留守番だったからさ、投げ釣り? は初めてでワクワクしてるぞ」


 シグレが皆に教えているのは砂浜からの投げ釣りのようだ。

 俺も前世ではたまに父親と行っていたからちょっと身体がうずいてしまう。


 会社で後輩に『この間父親と釣りに行ってね、キス釣ったんだよ』なんて話してると……

『へえ、君釣りなんてするんだ。意外だねえ。て言うかその体格で仕掛け飛ばせるの?』なんて自称プロ釣り師アングラーだという同僚に言われた時は腹が立ったものだが、俺だって実はソコソコ釣りは出来るのだ。

 

 釣り好きの父とアウトドア好きの母が居る家庭の宿命のようなものだと思って欲しい。


 ……その二人から学んだ知識が微塵も役立たないこの身体に転生してしまって……色んな意味で申し訳ないが、そこは許して欲しい……異世界サバイバルめいた人生だったら両親も報われたのかも知れないけれど、私は俺になることを選んだのだからしょうがないじゃんね。


 と、俺が余計な郷愁に浸っている間に乙女軍団はとっくに釣りを始めていたようで、賑やかな声を上げながら竿を振り回している。


「きゃ! 何かが引っ張ってますわ!」


「む! ミシェル! かかってますよ! さあ! 巻いて! 巻いて!」


 シグレのアドバイスに従い、竿を操作するミシェル。

 あわあわと竿を振り回していたが、シグレの指示は的確で、暫くした後、見事魚を釣り上げていた。

 

 釣れたのはそこそこ大きな、およそ30cmのカサゴのような魚だ。

 煮たら美味そうだな……。


「あ! あたしにもきたよ! うわ! す、凄い! 凄い引いてる!」


「レ、レニー! ここは慎重に! ああ! ダメですレニー! 切れますから!

 そうそう、今は魚のやりたいようにさせて……! ここです! 波の動きに合わせて!」


「うおおおおおおお!」

「そうです! そのまま一気に! 波の力を利用して!」


 レニーが釣り上げたのは50cmはあるであろう、スズキのような魚であった。

 これはムニエルかな……?

 

 新鮮な海水魚だから刺身も良いかもしれないが、迷うところだね。


 と、言ってると……今度はマシューの竿が大きくしなった。


「きたぞおおおおおおお!! これはでかい!」


「そうです、そうそう! その調子で!」


 シグレのアドバイスが的確に飛び、獲物がどんどん近づいてくる。

 魚影が見えたが、デカい! これは今までで一番デカいね。

 1m近くはありそうだけど……それに耐える竿やラインも大したものだ。


 砂浜に引きずり上げるように釣り上げられたそれは……


「ゲエ! 魔獣じゃねえか! ちくしょう!」


「マシュー、良くやりました。海棲素材は貴重なサンプルになります。

 海中に沈んで居るであろう我々の装備品の情報に繋がりますからね。

 えらいですよ、マシュー」


「ちくしょう、嬉しいけど何だか複雑だ……」


 その後、日暮れ近くまで釣りは続けられ、俺が暇つぶしにやっていた潮干狩りの成果とも合わせてそこそこの量の海鮮素材しよくざいを手に入れることが出来た。


 バックパックにも以前買った魚介が新鮮なまま保存されてはいるけれど、気分的に釣りたては嬉しいものだからな。今日は取れたて食材を美味しく頂く日にしようじゃないか。


 どのように調理するか、レニーと二人で結構頭を悩ませたけれど、折角の海だしと言うことで、ここはBBQにすることにした。

 

 バックパックから道具を取りだし、釣りたての魚や貝、ついでに肉や野菜を焼いて思い思いに食べる。

 

 俺やスミレもミシェルに取り分けてもらい、新鮮な魚介に舌鼓を打つ。


「美味いな」


「うん、美味しいねカイザーさん! なんだろう、そこまで手を加えた料理って分けじゃ無いのに凄く美味しい」


「それは環境のせいですね、レニー。竜也達もやっていたでしょう? 海辺の特訓の時に」


「あ! キャンプって奴だな! 確かにあいつらが喰ってたメシはなんかやたら美味そうだった!」


「波の音を聞きながら外で食うってのは乙なものだからね。

 本当は海で泳げたら良いのだけれども、流石に寒いし、そうじゃなくても魔獣がいるみたいだからなあ……」


 と、ウロボロスから緊迫した声で報告が入る。


『カイザー、生体反応がひとつだ。どうやら人間のようだけど……』 

『状況は穏やかじゃ無いわよ。反応は海上、意識は無いみたい』

 

「なんだって……?」


 突如としてウロボロスから入った通信、それは禁忌地の海を漂う遭難者発見の報告だった。

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