第二百二話 ブレイブシャイン 秘密基地

――あれから一ヶ月。


 各所からの協力により、洞窟はかつての能力を取り戻したばかりか、それ以上の進化を果たしていた。

 

 リックが持ってきた大型クレーンを始めとした様々な機材が取り付けられ、また、かつて使用されること無く朽ちかけていた遺物もきちんと修復されて。


 洞窟は文句なしの立派なロボット基地へと姿を変えていた。


 また、基地内にはウロボロスとスミレが主体となって開発した通信室が設けられた。


 それはある程度の距離までならばという制限はつくものの、俺達を介さずとも結構な長距離であってもインカムへの連絡を可能とする十分に実用的な物である。

 

 これにより、各所への連絡が容易くなり、細々とした資材や食料の入手が円滑に進むようになった。


 さらに各国への連絡も密に行えるようになり、帝国の動向を聞いたり、こちらの進捗状況を報告したり、用もないのに暇を持て余したレイから連絡をされたりと……まあ、良くも悪くも便利に使われている。


 ただ、リーンバイルだけは流石に遠すぎてウロボロスの力が必要となるため、そこは変わらず俺たちが担うしかないのだが。


 そしてこの通信室なのだが……造るとなった時に俺の要望をかなり通してもらったため、非常に満足が行く仕様になっている。

  

 なんと通信室で扱われるのは音声だけではない。

 スミレに頼み込んでカメラを作ってもらい、その映像を映せるようにしてあるのだ。

 

「魔導カメラ」そう名付けられた小型カメラは内部に収められた魔石で動くビデオカメラで、一度のエーテリンチャージで24時間・120日連続稼働が可能という素晴らしい逸品だ。


 カメラで撮影したデータは通信室のサーバー(という名の魔導具)に伝送され、基地のモニタに映す事が出来る他、俺のストレージにリアルタイムで送られるようになっている。

 

 ここまでしっかりとしたものを設置したのは、かっこいいからという理由の他に、我々が目を離したスキに、スパイの類が通っていたということを無くするためなのである。


 ……かっこいいという理由は二の次だぞ、本当だぞ!


 そしてそして! これが設置されているのは基地内だけではない。

 アズやレイに頼んでルナーサとトリバの各所に取り付けてもらっているんだ。

 

 嫌がられるかなと心配したけれど、彼らにとっても自国の治安維持に役立つ道具であるため、むしろもっと数を増やせと強請られてしまった……わかるけどさ。


 実の所、モニタを見ながら『むむっ! 止めてくれ! ミシェル! 今の所だ……よし、そこだ! 拡大してみろ!』なんてテンプレをやってみたいなっていう理由から提案した事だったのだけれども、これを言うとまたスミレに馬鹿にされるからね……。


 あくまでも防衛力を高めるためだと言い切って作ってもらったんだけど、まあいい物になったからいいじゃんねってことで。


 しかし……モニタいいね……。

 これを付けたおかげで、だいぶ雰囲気がそれらしくなっている。

 妖精体用の小さな司令官の机と椅子を作ってもらっちゃおうかな……。


 しかし、生まれ変わったこの基地はかなりいい線を行っているね。

 俺が憧れ、渇望した基地にかなり近い所まで来ているんだ。

 

 けれど、この基地は別に俺の欲望を満たすために作られているわけではない。

 帝国の企みを阻止するための戦力を生み出す場所として造られた物なのだ。


 その戦力のかなめである1世代機達はどうなっているかと言えば、内部の駆動系や外部装甲、装備等は順調に開発されている……のだけれども、機動テストまではこぎつけることが叶わない。


 技術力が十分ではない……なんて事はないんだ。

 それに関してはもう文句のつけ様が無いレベル。


 動かすための動力源、それが無ければ何もできないわけで。

 結局の所、紅魔石が無ければどうしようもないんだよな……。


 1世代機の動力となるのは魔石に込められた魔素……所によってはマナとも呼ばれるものである。

 

 パイロットから流し込まれる魔力と魔石のマナが混じり合う事により、パイロットの負担を軽くした上で操縦が可能となるのだが……。


 現存する物を使おうとすれば大変だ。通常の魔石、例えばヒッグ・ギッガサイズの巨大な魔石を使ったとしても内包可能なマナの都合上10分の可動が限界で、とてもじゃないがコスパが最悪すぎて使い物にならない。


 機兵を動かすという事は、それだけ大変なことなのである。

 地球でも動力源の問題で今ひとつ実用化にこぎ着けられてなかったもんね。


 乗り込んで操縦出来る人型ロボットなんて物も開発はされていたけれど、アニメみたいに機敏な動作が出来るような物じゃあ無かったし。


 それを解決するのがかつて使われていた紅魔石だ。


 それは特別な素材を用いて作られる人工魔石で、30cmくらいのサイズでも計算上は6時間は連続稼働が可能となっているらしい。


 また、新たに改造された現代式の紅魔石は大気中のマナをゆっくりと吸収する仕様で、放置されても過放電的な事が起きることはなく、寧ろ勝手にチャージされるため、完全に破壊されない限りは何度でも使用可能なエコ仕様なのだ。


 それを作成するのに必要な素材が少々厄介な所にあるとのことで、なんとか手頃な素材に置き換えて作れないかとここ一ヶ月、ウロボロスとスミレ、そして俺が共に研究をしていたのだけれども、あの手この手を尽くしても劣化版しか作ることが出来なかった。


 元々ダメ元だったことから、やはり紅魔石の素材を取りに行くしか無いと言う結論に至ったのだ……が。


「ほんとはアソコに行きたくないんだけどね……」

「そうねー、昔はよかったけど今はちょっと危険だもの」


 それぞれモフモフの身体を貰い、自由に動き回れるようになった小型体のウロボロスたちがうんざりとした様子で言う。


「お前たちがそこまで言う場所なのか……なあ、そろそろ教えてくれても良いよな。

 一体どこにあるんだ、その素材は」


「ああ、いいともさ。そもそもこれはね、元々手に入れやすい場所というわけでもなかったんだ。他国領だったしね」

「ボルツの砂漠……といっても砂じゃなくてオーストラリアなんかにもあるようなゴツゴツとした岩が転がる砂漠ね。そこの土が原料なのよ」


 旧ボルツ領、かつて現シュヴァルツヴァルト領に存在したガンガレアと共にルストニア・リーンバイルの同盟軍と戦った大陸北部の大国である。


 現在はトリバ、ルナーサ両国と面して居ながら、そのどちらの管理下にも置かれず、現地にも現存する国家はないとされている。

 

 滅びの理由に感してはは様々な憶測が飛び交っているが、何れにせよそれが原因で『禁忌地』と呼ばれ恐れられていて、わざわざ立ち入ろうとする人が多くは無いのと、向かった者の殆どが帰らないことから情報が殆ど存在しない危険な土地である……とのことだ。


 何故、かつては大国があったらしい旧ボルツ領禁忌地がそんな凄まじい事になっているのか。

 過去に一体何があったのだろうか。


 それを聞こうとしたところで夕食の時間となり、質問は一時保留。

 

 食後、のんびりとお茶を飲んでいる時に再び紅魔石の話題があがり、そのまま禁忌地に話が転じた時、ジンの表情が変わった。

 

 重く、真剣なその表情。そう言えば、以前マシューの出生を聞かされた際、その土地の名が出ていたな……ジン達は数少ない禁忌地からの生還者だ。


 紅魔石は必要な素材であり、遅かれ早かれ俺たちは底に向かうこととなる。となれば……是非ともジンから話を聞くしか無い。


 ならばと、ジンに話を振ろうとしたところで、向こうから逆に声をかけられた。


「おい、カイザー、マシューに嬢ちゃん達。ちょっくら俺の部屋にきな」


 突然の呼び出しに首を傾げるマシューだったが、何処か真剣なジンの表情を見て何かを察したのか、何かを言っておどけることはなく。ただ静かに頷いていた。

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