第二百一話 格納庫
これまでの経緯を改めて詳しくジンに説明したところ、天を仰がれてしまったけれど、まあ納得はしてもらえたので良しとしよう。
そもそも、黒騎士とやりあった時点でその覚悟をしていたというか、いずれそうなるんだろうなと思っていたらしいからね。すんなりと納得をしてもらえたよ。
……連絡が遅れたことについては、結局しっかりと怒られたけれども。
さて、気を取り直して生まれ変わったらしい洞窟の見物だ。
我々は悪戯な笑顔を浮かべたジンを先頭に洞窟内に。
本体より動き回りやすい方がいいよねーと、何も考えずに妖精体でジンの所に飛んで行ったのだが、それがまずかった。
「おいおい、カイザーおめえ……いくらなんでもそりゃあ……」
と、笑われるでもない、驚かれるでもない……なんでかわからないけれどただただ疲れた顔をされてしまった。
遅かれ早かれこの姿を見せることにはなっていたので、しょうがないとは思うが……何度でもいうけれど、これは俺のセンスじゃないぞ! スミレだ、スミレに言ってくれ!
そんなこんなのやり取りをしつつ、久々に足を踏み入れた紅の洞窟だったが……想像以上に見違えていて驚くこととなった。
土埃で薄汚れていた壁はピカピカに磨き上げられていて、気を付けてみない限りは天然の洞窟にしか見えなかったそれとは打って変わって、完全に人工物だと認識することが出来る様になっている。
雑然と転がっていた
「おう、こっちだ」
ジンの案内で向かった先は俺たちがゴーレムと出会った広場。
驚くべきことにその広場の壁には扉がついていた。
「……こんな所に扉があったのか……。ウロボロス、この扉はなんなんだ?」
ぬいぐるみ化をしてついてきているウロボロスが嬉しそうな声を上げた。
「ああ、懐かしいな、まだちゃんと残ってたんだ。
そこね、ちょっと面白いところに繋がってるんだけど……
――カイザー、まさかこの洞窟が1層だけだと思ってないだろうね?」
「えっ……それはどういう……」
「おい! 早くこい! こっちだこっち!」
ジンに急かされ、扉に入るとそこは……ちょっとした小部屋だった……っと、揺れている?
「わわ!? なにこれ? フワっとしましたよ?」
「あら、これはもしかして?」
レニーとミシェルのやりとりでわかったぞ。
これはエレベーターだな。思えばルストニア家の屋敷にもあったものな。
この洞窟にもそれが存在していても不思議ではない……か。
「なんだよカイザー、コレがなにか気付いてる顔してるな? 面白くねえ!
これは昇降機だ。現場で使うことはあるんだが、まさか建物に組み込んじまうなんて驚いたよ」
「へえ、部屋ごと昇降機になってんのかい? うちの工房にも整備用のが1機あるが、こんな安定したもんじゃねえぞ」
「それな。うちのギルドで使ってんのもガタガタでよ、こんなスゥっと上がっちゃくれねえんだ」
「だよなあ、昇降機ってのは普通はそんなもんさ」
おっさん共が昇降機トークで打ち解けている内に降下していたエレベーターが下層に到着したようで、ゆっくりと扉が開いていった。
「うお、これはまた……広いな……」
地下室……というには広すぎる空間。
そこには煌々と明かりが灯る空間が広がっていた。
昇降機のサイズも大きめだったけれど、これなら俺達も本体のまま入ってこられそうだな。
いや、そもそもここは恐らくハンガーとして使っていたのだろうな。
あちこちに機兵のメンテナンス用スペースが設けられている。
「ウロボロス……こんなのどうやって作ったんだい……?」
「時間が解決した、としか言いようがないね。
と言ってもコレ全部を僕らが掘ったわけではないよ。
元々ここは大きな洞窟だったんだ。僕らはそれを利用したに過ぎない」
機兵を封印したというのに、一体何故こんな物を作ったのか、神の啓示でもあったのかと聞いてみたところ、成程と思わせられる答えが返ってきた。
いわく、機兵文明は争いを産む、そう受け取ったルストニアの人達は技術のすべてを捨ててしまおうと考えた。
しかし、その総てを完全に失ってしまうのはそれはそれでリスクが高いと判断し、洞窟を格納庫とし、時代が落ち着いたらばまたここで機兵を製造し、来るべき日のために備えよう、そう考えたのだという。
しかし、俺の目覚めで事情は大きく変わる事となる。
この地は遺棄される事となり、ルストニアに連なる人々は現在のルナーサへと生活の場を変える事を決意。
結局この
「悪用されたら嫌だろ? だからここもしっかりと封印してたんだけど……
ゴーレム君が修理された時に封印が解けたんだと思うよ」
なるほど、あのゴーレムはここの管理人としての役割もあったというわけか。
俺達が『悔やみの洞窟』への護衛としてきたときはまだ封印状態で、汚れで見えなかったのもあって気づくことが無かったと……。
ゴーレムがマシューとジンに直された後はさっさとイーヘイに向かっちゃったからな。
気づく暇もなかったってわけだな。
「洞窟全体がデケえ機兵工房だったのは間違いねえと推理した俺達は正解だったってわけだな。
いや、しかし本当にすげえぞここは。軍が使ってる奴に匹敵する規模じゃねえか。
かつては色々と便利そうな道具があったみてえでな、出来る限り修理をしてみたんだが、ダメなのが多くてなあ。
特に上層に転がってたでけえクレーン、アレは惜しかった。完全にぶっ壊れてたからよお。
技術自体は今のとそうかわらんが、アレが有ると無いとでは機兵の弄りやすさが大きく変わっちまうからな」
「お、クレーンかい? 機兵弄るような奴なら俺がカイザーに持ってこさせたから心配いらねえぞ」
「ああ、そうだ。リックの工房にあったでっかいやつを収納させられたんだよ。
ジンが言うのは恐らく俺が戦闘時に落とした奴だと思うが……リックのはそれと同等の物だから十分代わりになると思うぞ」
「ああくそ、あれ壊したのカイザーかよ! ったく、気軽に遺物を壊してんじゃねえよ!」
「まったくだ! カイザーよお、お前さん、遺物は宝だぜ? なにか事情があったのかもしれねえが、古き知識から得るものは大きいんだ。気をつけてくれよな」
……要らんことを言ったせいでオッサン二人に怒られてしまった……。
でもさ、あの時はああするしか無かったんだぞ?
現場を見てたらそんな事を言っても居られないと思うんだけどな!
そんなオッサン達はニヤリと笑って握手を交わしている。
仲良くなったなら何よりだけど、なんだこの、なんだこの……!
罰としてクレーンの取り付けの手伝いを命じられてしまったが、そうじゃなくても手伝わせる気だったんだろうとはつっこまなかった。
またオッサン二人にドヤドヤ言われちゃかなわんからね。
むー、しかしこのままだとなんだか気が収まらないな。
オッサン達め、調子に乗って俺をいいようにこき使ってるしさあ……。
……あっ、そうだ……ふふふ。
「なあ、ジン。こんだけ広くて天井が高いなら預かってる資材や機兵をおいても構わんよな?
ちょうど機兵を置くハンガーがずらりとあるし、機兵はそこに置いたらいいかなって」
「ああ、いいぜ。どうせ遅かれ早かれやることなんだ。
資材もまあ、適当にそこらにおいてくれ」
許可も出たことだしと、フワフワと構内を飛びながら先ずは機兵たちをおいていく。
バックパックから直に置けるのは恐ろしく便利だよね。
シミュレーションゲームでユニットが配置されているかのごとく、空いていたハンガーにどんどん機兵が現れていく。
次々に配置される1世代機を見てオッサン二人とザックが雄叫びを上げ興奮している。
「うおおおおおお!!! 見ろよお前さん達! すげえなこれは!」
「これはグレートフィールドで稀に出るが……完全体ははじめて見たぞ!」
「見てくださいよ! この曲線! 今の機兵には見られない高機動型ですよ!」
オッサン達の中に飛び込もうかどうしようかレニーがウズウズしているのが見える。
だがすまん、レニー。今からオッサン達の度肝を抜くから話は中断されるんだ。
「じゃ、資材置くぞ」
「あ、ああ。適当にやってくれ……んな!?」
俺の声に反応したオッサン達がチラりと一瞬こちらを見たタイミングを逃さず、ヒッグ・ギッガをぬっと置いた。続けてバステリオンもおまけに出してやる。
オッサン達は突如現れた小山にすっかり固まってしまっている。
「んな……ヒッグ・ギッガを倒したとは聞いてたが……こんなデカかったのか?」
「バステリオンが小さく見えるぜ……」
「魔獣となればパーツ屋の俺の出番だ! うおおお! これがヒッグ・ギッガ!」
「リブッカとかカワウソとかも適当に出しといたぞ……って聞いてるか?」
すっかり仕事モードになったオッサン達は妙に生き生きとして素材のチェックに入ったようだ。
「くそ、こんなデケえのどう使ったら良いんだ」
「見て下さい、この装甲! かなり頑丈ですよ」
「おお、1世代型の頼りねえ装甲を補えるな」
「おいぃ! ヒッグ・ギッガの牙が片方しかねえじゃねえか!」
……ヒッグ・ギッガを見せたらびっくりして暫く静かに固まると思ったんだが……まったく技術者という連中には敵わないな。すっかり
ちぇー。
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