第二百話 いざ基地へ

 今日は朝から慌ただしかった。

 

 早朝からリックが張り切ってレニー達を叩き起こし、早めの朝食を済ませてさっさと資材や仕事道具を俺に積み込んでしまったのだ。


 まだまだ出かける時間ではないと、渋る乙女軍団だったが、家主がやれというのだから従わないわけにはいかない。眠たげな顔で作業をする乙女軍団がちょっぴり気の毒であった。


「信じたくねえが、ヒッグ・ギッガや大量の機兵もお前の中に積み込んでんだろ? ならこれもいけるよな」


 と、かなり大型の道具……というか、重機の様な物たちまで遠慮なく収納させられてしまった。

 収納はほぼ無限に出来るから構わないけど、向こうでの受け入れ体制とかもあるというのに……まったく困ったおっさんだなあ。


 たしかに良い道具があれば作業もはかどると思うけど、持って行ってすぐ出せるかどうかは怪しいぞ。洞窟の整備だってどれだけ進んでいるかわからないんだし……


 ……そうか、聞いてみれば良いんだ。

 っていうか、まったく根回ししてなかったぞ……やばい、怒られるかも!


『こちらカイザー、こちらカイザー。朝からすまない、ジン起きているか』


『何言ってやがる、俺達にとっちゃもう昼間もいいとこだ!

 どうした! 急に連絡よこしてよ、何か不味い事でも起きたのか?』


『ああ、すっかり連絡をするのを忘れていたが……話が少々デカくなってね。

 今度その洞窟をトリバ、ルナーサ、リーンバイル3国の協力の下、俺たちの基地として運用することになったんだ。』


『ヒッ』


『それでな、リーンバイルから提供してもらったほぼ無傷の1世代機をもっていくからさ……』

 

 ん? 通信機の故障か? ジンの声が聞こえなくなったぞ。


『こちらカイザー、こちらカイザー。ジン、聞こえるか? こちらカイザー……』


『き、聞こえてるよ! おめえさんがあんまりにも凄まじい事いいやがるから心臓が止まりかけたんだよ! 3国の協力に……リ、リーンバイル秘蔵の1世代機だ?

 おいおい、お前ら一体どこに向かってるんだよ……何をやらかすつもりなんだ』


『何をって言われてもな……まあ、詳しい話はついてからだ。

 1世代機のカスタムとなれば、流石にジン達だけじゃ手に余ると思ってな、とびきりの助っ人、俺達の知人を3人、道具や資材と共に連れて行こうと思っているんだが、大丈夫かい?』


『……たく、こっちの都合を気にせず淡々と話しを流しやがるよなカイザーはよ。

 この洞窟はそもそもお前さん達の持ちもんだ。誰を連れてこようが何を運び込もうが俺たちは文句はねえよ。つうか、機兵をいじくるってんなら助っ人は大歓迎だ。どんどん連れてこい!

 それで、いつこっちに来るんだ? 来月か? 20日後か? 

 ……まさか来週なんて言わないよな』


『ああ、今フォレムにいてな。荷物と人員を積み込んだら直ぐにでも……そうだな昼過ぎには着くと思うぞ』

『ぐっ……っはあ! あぶねえ、また死にかけたぞ!

 ……お前なあ、そういう大事な連絡はもっと早くしてくれよ……こっちにも色々と……』

『すまんすまん。すっかり忘れててな。まあ、そういうわけだから楽しみにしててくれ』

『お、おい、たのしみにしてくれじゃねえ! なに話を切り上げようとしてやがる! おい! カイザー! おい! ……! ……』


 ふう。特に問題が無いようで何よりだ。


 ジンはああ言ってくれているが、一応今の管理者は彼らだからな。

 少しでも彼らが難色を示したのであれば、何らかの話し合いが必要になるところだった。


「カイザー、ほんと貴方はちょいちょいやらかしますよね」

「なんのことだ?」

「……天然を見せる時は妖精体の方がうけますよ」


「だからなんのことだって……」


 スミレが顔をしかめ、やれやれといったポーズをしてレニー達の所に飛んでいってしまった。一体なんだってんだ。

 

 まあいいさ。あちらの許可は取れたし、後はおっちゃんを拾って出発するだけだ。


……


 アルバートの店に移動すると、リックがずかずかと店のドアに歩み寄り、ガンガンと結構な音を立てて殴りつける。


 早朝の街に近所迷惑な音が鳴り響くこと2分……

 間もなくして『うるせええええええ』と、叫びながらおっちゃんが現れた。


「おう、アルバート。時間だ。早くしろ」

「……何言ってんだ……まだこんな時間じゃねえかよ……って、おい、何すんだ! 押すなって! おい! 勝手に入ってくんじゃねえ! おいい!」

「うるせえ! 時間だつってんだろ! ちゃっちゃか動け! おい、レニー! 嬢ちゃん達! 小僧も手伝え!」

   

 ……まだ眠いと渋るおっちゃんだったが、リックは止まらない。

 テキパキと人員を動かし、一応は支度してあったらしい資材や道具を積み込ませて。


 最後にまだまだ目が覚め切っていないおっちゃんを馬車に押し込んで。


 何事かと様子を見に現れたらしい、ご近所さん達に見送られながら……俺たちはフォレムを経った。



 ……いやほんとリック……まだ6時前なんだからさあ……少しは遠慮してくれよな。

 

 しかし、フォレムの景色も大分馴染んできたもんだ。

 あっちこっち移動していることが多いからそれほどホーム感がないフォレムだけどさ、なんだかんだ言って外から門をくぐる度に「帰ってきた感」があるんだよな。


 色々ケリが付いたらフォレムにブレイブシャインの家を建てて、そこを拠点としてのんびりとクエストを受ける生活も悪くはないかも知れないな。


 パインウィードもまた捨てがたいから、両方にギルドホームを建てるのも悪くはないか。

 ふふふ、夢が広がるなあ。


 しかし、フォレムから森に向かうのも久しぶりの感覚だね。

 短期間で色々あったから、ミシェルを乗せて「嘆きの洞窟」に向かったのが本当に昔のことのように思えてくる。


 精々3か月前の話なんだけどな。

 それだけ濃い日々を送ってるって事なんだろうな。


 ガタリゴトリと街道を走らせていると、おっさんどもがシミジミとした声で何かを話し始めた。またレニーの話かなと、耳を傾けてみれば……


「街道をこんな速度で走るなんてやっぱおかしいよなこのカイザー」

「アルもそう思うか。引いてる馬がカイザーだから速度はまあわかる。

 しかしこの速度で微塵も揺れねえわ、ケツが痛くねえわ一体どんな設計なんだよこの馬車は」


 どうやら今回の話題はレニーではなくて俺の様だ。

 馬車についてあれこれ考察を始めるおっさん共。必要であれば何か解説でもしてやろうかと思ったけれど、嬉し気な顔でザックが解説を始めたのでおまかせすることにした。


「それはですね! 車輪に秘密があって……」

「おお、知っているのか、坊主」

「へえ、そんな仕掛けがね……おい、小僧。もっと何かねえのか」

「へへ、そうこなくっちゃ。それでカイザーは……」

 

 ああ、この普段はなかなか味わうことが出来ないむさ苦しさよ。


 それなりに広い車内だと言うのに、男どもは仲良く並んで座り、熱い「カイザー談義」を繰り広げている。


 御者台に座っているレニーはニコニコとしながら話を聞くだけでそれに参加することはしないため、なんだかとっても……ただひたすらにむさ苦しい空間が醸し出されている。


 ……乙女軍団がみっちりと乗っておやつを食べる馬車旅も中中に酷いと思っていたけれど、こっちはこっちで絵面的に凄まじい……。


 移動中はずっとこんなだったものだから、結果として、熱いカイザー談義を切っ掛けとしてザックがレニー防衛隊の二人に気に入られることとなったわけで。


 ……まあ今後の事を考えれば大いに素晴らしい時間になったことは確かだね。


 あの二人はどれだけ説明しても『レニーに手を出したらわかってんだろうな』なんて、ザックを無駄に威嚇してたからな……困ったオヤジどもだ。


 レニーから家族の話を詳しく聞いたことはないけれど、実家にいるらしい本当の父親よりも彼らは強力な防虫剤になってるんじゃあなかろうか……。


 ほどほどにしてあげないと……レニーが後々困る事になるんだからな?

 わかってんのかね、おっさん共は。


……

… 


 途中、2回ほどの休憩を挟んだくらいで、特に問題なく移動は続けられ。

 予定通り……いや、ジンのせいで午前の内にもう洞窟にたどり着くことが出来てしまった。

 

 無駄に出発時刻早め過ぎたんだよなあ……。


 しかし……紅き尻尾はすさまじいな。

 前回からひと月くらいしか経っていないというのに、洞窟周辺には何棟も建物が建てられていて、元々村でもあったかのようになっている。


 機兵を使って効率よくやったにしても、凄まじい速度だよ……。

 皆、俺の事を『おかしい』って言うけれど、紅き尻尾もたいがいじゃないか。


 驚きながら移動をしていると、こちらに気づいた紅き尻尾の面々が手を振ったり、人を集めに走ったりと賑やかになってきた。


 ザック達を下ろし、そこらに居たギルドの連中に挨拶をしていると、こちらに向かって歩いてくるジンの姿が目に入った。報告を受けて迎えに出てきてくれたんだろうね。


「よお、ジン! 待たせたな!」


「待たせたな! じゃねえよ! たく、昨日の今日で本当に来やがって! つうか予定よりだいぶ早いじゃねえかよ!」


「そういうなよじっちゃん……あたいもさ、朝が早くてふわあ……まあ、ただいまだ」

「おう、マシュー! 元気そうでなによりだ! ブレイブシャインの嬢ちゃん達もな!」


 相変わらず勢いが凄いおっさんだな。マシューも久々にジンに会えて嬉しいのか、普段はあまり見せることが無い照れたようなハニカミ顔を見せている。


「あ! カイザー! まだ物は出すなよ! 先ずはどういう物が有るか話を聞いてからだ!

 おっと、そこにいるのがカイザーの知り合いの方々だな? 俺はジン、トレジャーハンターギルドの元頭領だ。この通りきたねえ口調のジジイだが許してくれ!」


「おう、気にするこたぁねえよ。俺たちも職人でよ、畏まったのは出来ねえからな!

 俺はリックで機兵技師だ!」


「そうそう! これから同じ釜の飯を食うんだ、遠慮はしねえぞ!

 俺はアルバート、アルでいい。パーツ屋をやってるんだ。なんかあったら贔屓にしてくれよ」


「えっと、俺はザックです。機兵の模型を作ってます……よろしく!」


 なんだかザックが勢いに負けて少し小さくなっているな……。

 そんなだから、おっさんどもに「たく、わけえもんが遠慮がちな声をだすんじゃねえ!」と、背中をバシバシと叩かれ、目を白黒とさせている。


 怪獣の檻に入れられたひよこのようで気の毒だが、慣れてもらうしか無いな……。


 さあて。ジンに説明をして今後の用意を進めるとしようか。

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