第百九十六話 歓迎会でのお楽しみ
ザックを交えての旅もひとまずの終わりが近づいている。
現在我々はパインウィードで夜を過している。
多少無理をすればパインウィードをそのまま駆け抜け、フォレムに到着することも出来たのだが、そこまで急ぐ必要はまだ無いし、なによりパインウィードにはそれなりに思い入れがあるため、きちんと立ち寄って一泊することにしたんだ。
……村に入った瞬間ゾロゾロと人が集まってきてたから、どちらにせよ泊まることになっちゃってたと思うけどな。
この村において俺は、もう完全に普通の人間と同じ扱いを受けている。
レニー達パイロットと同等に「おかえり」「会いたかったぞ」と声をかけて貰えるのは涙が出るほど嬉しく思う。
そんな我々はぐいぐいと村人達に押されるような形で村の広場に連れて行かれ、急ごしらえにしては妙に立派な席に座らされて『歓迎会』という名の『飲み会』に強制参加させられることとなった。
まあ、何時ものこと、何時もの事よ。ほんといつもありがとうね。
今回は急ぐ旅じゃ無いからお言葉に甘えまくってじっくり楽しませて貰うよ。
……なんたって飲み食い出来るからね!
……
…
「しかし、カイザーよー。おめえさんと酒を飲めるようになったのは嬉しいが、なんだかこう、変な気分だな……」
「言うなよ……俺だって好きでこの姿を選んだわけじゃないからね。
この身体はスミレが作ったんだ、文句はスミレにいってくれよな」
「……スミレかあ……スミレにゃ文句は言えねえな……」
「まあ、共に酒を酌み交わせる花が一人増えたと思えばいいじゃねえか」
「だなあ、黙ってりゃ可愛らしいお嬢さんだもんな」
「嫁にするにはちょっと小せえし、中身カイザーだけどな!」
「それが無かったらなあ!」
「「「がははははは!」」」
「うるさいぞ、お前ら……」
と、男共と益体無い話をしていると、ギルドのスーが鹿肉を持ってやってきた。
「カイザーさん、ブレイブシャイン
「お、スーじゃない。ありがとう。正直俺達には身に余る話だと思ったんだけどね。レインズに押し切られちゃったよ……」
「噂はかねがね聞いてますからね。あれだけの活躍をして
「勘弁してくれ、レインズが拗ねたんだよ。『アズベルトやゲンリュウは名で呼ぶのに何故俺はヴィルハート呼ばわりなんだ』って」
「まあ! ふふ、私はあの方を遠目でしか見たことがありませんが、以外と可愛らしい一面があるんですね」
「俺が言ったって言うなよ? ていうか他の職員にも言うなよ?
グラマス権限ならまだいいけど、大統領権限で仕返しされたらかなわないからさ!」
「あはは! わかりましたよ、カイザーさん……ところで、そのお姿は……食べられるようになったとは聞きましたが、まさかそんな可愛らしいお姿になってるとは……」
「スー……お前もそれを言うか……これはスミレの趣味でな……」
「なるほど……スミレさん……策士ですね。彼女だって恐らく本当は知的で逞しい紳士型の身体にして上げたかったはずです。そうしなかったのはきっと……ええ、そうだわ……」
「お、おいスー?」
「ぶつぶつぶつ……変な虫が……パーティメンバーもこれなら……ぶつぶつぶつ……」
せっかくスーと一緒にゆっくりと飲めると思ったんだけど……なんだか妙な世界に入り込んでしまった……ああ、そうだ。今回のメインイベントをやらないとな。
そう、今日はちょっとしたお楽しみを考えているんだよねー!
ここの連中は俺の事情をある程度知っている連中だ。
今更俺が「少々変わったことをしても」特に変な感情を抱くこと無く、『まあ、カイザーだしな』で済ませてくれる貴重な連中さ。
だったらさ、こちらも楽しむ手段を出し惜しみしないで済むじゃない。
遠慮無くやらかさせてもらいますよ!
では早速と、パイロット達を呼びだして準備を手伝って貰う……ってミシェルはなんだかとってもダメな感じになってるな……。
「しょんなことないでしゅわ! かいざーしゃん! わたくしゅもてつだいましゅから!」
「あ、やべえ……口に出てたか。悪い悪い。じゃ、じゃあ皆をちょっと下がらせてくれ」
「かしゅこまでしゅの!」
ミシェルがへらへらと村人達を下がらせている……なんだかあんまり大丈夫じゃ無いけど、まあいいか……。
空いたスペースにオルトロスとヤタガラスに左右に分かれて立ってもらい、それぞれに白布を掴んで持って貰う。
俺は一度本体に戻って白布からやや離れた正面に座り「お楽しみ」の仕込みを済ませた。
「よし、みんなー! ここに広げた白布を見ててくれー!
今日、こんな素晴らしい場を設けてくれたみんなへのお礼をみせてやるぞー!」
「お礼つったってよ、布なんか見ても面白くねえぞ?」
「まさか布の前で演劇でもするのかい?」
「あーなるほどな! カイザー達の図体でやったらそりゃおもしれえわ」
演劇ね、惜しいね……っていうかそれはそれで面白そうだけど、違うんだよなあ。
「まあ、そんなところだが……ふっふっふ驚くなよ」
肝心のザックは……うん、無事なようだな……そこそこ飲まされていたようだったけれど、まだシャッキリしてるようでなによりだ。
それでは……シャインカイザー上映会スタートだ!
今回はスミレセレクションと言うことで、今までレニー達が見たことがある回の中からお勧め回をピックアップして編集を加えながら上映することにしている。
俺としては一気見耐久祭りを開催しても構わないのだが、流石にそれは今はまだ許されることでは無いからな……耐久祭りはもう少し余裕が出来てからにしよう。
どこからとも無く聞こえるBGM……そして白布に映し出される映像。
それに気づいた村人達が驚き動揺する声を上げている。
「おいおいおい……これはいったい……」
「絵か? 絵が動いてるのか……?」
「これって……ヒッグ・ギッガの時のあれ見てえだが、なんかちょっと違うな?」
「うるさいね! 聞こえないだろ! 静かにおし!」
現在流れているのは1話冒頭だ。
監修のスミレ先生によれば、各機の初登場回を編集してテンポ良く見せ、最後に合体回でしめるそうだ。
スミレがシャインカイザーの編集をするなんて……そんな日が来るとは思わなかったよ。
そうこうしているうちに、さっそく映し出されたのは俺の初登場シーン……といっても不良達に解体されかけているという情けない状況なのだが。
「おお、あれカイザーじゃねえか!」
「カイザー! どうした! そんな奴ら/蹴散らしちまえ!」
「なにやってんだよー! 壊されちまうよー!」
応援の声がデカいが、誰も文句を言う者が居ない。
というか、皆総出で応援しながら見ているので誰も文句を言わないのだ。
いやあ、応援上映会って感じでこれは非常に盛り上がるね!
そしてカイザーによって迎え入れられたパイロット、竜也が乗り込み動かすところで意見がばらける。
「うおおおお! そうか、このカイザーはパイロットがいねえと動かねえのか!」
「おい! なんでレニーじゃねえ奴が乗ってるんだ!」
「いや、あのカイザーはあのカイザーでこのカイザーはこのカイザーでいいじゃねえか!」
「でもよ、あの席にはレニーがよお」
「あれは絵なんだから男が乗ろうがかまわないじゃないか。ごらんよ、いい男じゃないか」
「いくら絵でもよう……知らねえ奴が乗ってるっつうのはなあ」
ああ、ほっとくと面倒な対立に発展しそうなアレだわこれ。
後から変な派閥が出来ても嫌なので、早々に情報提供しておく事にした。
「これは遠き過去、遠き世界で本当にあった話を元に作られたものだ。
お前達が生まれるずーっと昔、俺のパイロットはレニーでは無くこの竜也だったのさ。
だから竜也もレニーもどちらも俺のパイロットで間違い無い。
けどな、今、この時代で俺がコクピットを預けるのはレニーだけ、それは確かだ!」
「なるほどな! そういう事なら許すぜ!」
「遠き世界って……カイザーよお、やっぱあんた色々と凄まじいな……」
「確かに見たことがねえ風景だしなあ」
「カイザーって不思議な奴だと思ってたけど、なんかなっとくしたわ」
ふふふ……おおらかな場でさり気なく俺の秘密を小出しにして慣れさせていく作戦だ。
最終的にこの村の人達には全てを知ってもらいたいからな。
居心地が良い場所をもっと気楽な場所にするためなら苦労は惜しまないのさ。
こうしてテンポ良く全員の登場回が終わり、ついに合体回を経て佳境を迎えて1期のボスキャラ、ワーリオンとの対決回に入る。
ザックはどうしているのだろうと様子を見てみれば、薄暗い中必死に筆を走らせ何かを凄まじい勢いで書き込んでいる……。
恐らく俺の設定かなにかを書いてるんだろうけど、映画館にも居たなこんな人……。
映画と違って複数回上映出来るような物では無いのだから出来れば集中してみて貰いたいのだけれども、これもまたひとつの楽しみ方ではあるからな。
まったくザックはザックだなあ。
『輝く光が有る限り! 俺達の炎は消えないぜ!』
『ああ、そうだ心に点った輝力の火はよぉ……そう簡単には消させねえぞぉ!?』
『私達の命の輝き……貴方如きに消せないわ!』
『ゆらめく輝きはそう簡単には消えないのさ』
おおっと、決着シーンだ。
パイロット達、それぞれのカットインが入り、それぞれの決め台詞。
カメラは輝きを増すカイザーブレードに切り替わり、そのまま引いてワーリオンの搭乗機体、ゲスンダーに斬りかかる様子が映し出されている。
「「「「わああああああ!!!!」」」」
広場に広がる大歓声。乙女軍団も、村人達も、そしてザックまでもが立ち上がり竜也達カイザーチームの勝利を喜んでいる。
エンディングが終わり『今日はこれでおしまいだ』と伝えた後も、村人達があちらこちらで感想を言い合ったまま熱狂が覚めやらない。
そしてそれは俺の横の人物もそのようで。
「カイザーさんって……凄い戦いをしていたんですね……。
それで……最後のあの剣技、とても素晴らしかったのですが、あれは一体どの様な方法で生み出したのでしょう。
はっ! もしかして竜也さんが謙一さんとの決闘で生み出したとか……?
あの戦いで二人の友情が深まり、新たな剣技が生まれた……そうなのでしょうか!」
いつの間にか俺の隣に座っていたらしいスーが必殺技の由来に興味津々で解説を求めている。なんかこう……あれだわ。乙女ゲーにしか興味を持たないオタ友達に無理矢理カイザーを見せて沼にはめた時を思い出しちゃった。
……変なハマり方してたけどね。スーもなんだか少し怪しい。
ふふ、何だか懐かしいし、こうして同好の士が増えるのはやっぱり嬉しいね。
「ああ、良い所に目をつけたね、スー。あの技はね……――」
明日はリックと話すためフォレムに泊る予定だけど……出発時間には余裕があるし、もう少しこの懐かしい感覚を味わって居ようじゃないか。
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