第百九十五話 帰路 

 乙女軍団と共に部屋で朝食を済ませ、宿裏の駐機場に回ってみれば……既にザックが来ていてボソボソとウロボロスと話をしていた。


 何だかこのタイミングでこの姿妖精体の俺を見せると面倒な事になりそうだったので、本体に移ってから声をかけた。


「ザック早いな。もう来ていたのか」


 俺の声を聞いたザックは顔を上げ、こちらを見る。それなりに早い時間だというのに、妙にツヤツヤしている……。


「おはようございます! 声をかけても返事がないので、まさか昨日のは夢だったのかと思ったんですが、ウロボロスが声をかけてくれて。

 いやあ、色々機兵のお話を聞けて満たされましたよ……」


「そ、そうか。それは何よりだ……俺は……そうだな、わかりやすく言うと眠っていてね。君が来たのに気づけなかったんだ。すまないね」


「いえいえ!」


 馬車に姿を変え、ザックと打ち合わせをしていると支度が済んだのか乙女軍団がゾロゾロとやってきた。


「あ! ザックだ! おはよー! もう来てたんだ」


「お、レニー! それとブレイブシャインの皆さん! 今日から同行することになったザックです! よろしくお願いします!」


「おう、よろしくな!」

「協力頂けるようで感謝しますわ」

「ザック殿と申すのですね、始めましてシグレです。ブレイブシャインのパイロットで、ガアす……ヤタガラスのパイロットです」


「そこの見慣れない機兵は君のかあ……と、ザックです、よろしくお願いします!」


 そういやこいつら初めましてか。ともあれこれで顔合わせも済んだな。

 機兵という共通の話題もあるし、黒一点とはいえどもザックもさほど気まずい思いをせずに済むことだろう。


「よし、出発するぞ!」


……


 出発してから2時間が経った。御者台にレニーを座らせ、ザックはスミレと共に後部席に収まっている。

 

 馬車に乗り込むやいなや目をキラキラとさせ、うずうずとして居たのを見てお約束通りに「揺れが少ない!」等の感想が来るのだろうと思っていたが、斜め上の……いや、非常にザックらしい質問でスミレを困らせていた。


「しかし、改めて凄いですよねこれ。まさか機兵が馬車になるなんて」


「ははは、俺は特別製だからな。驚いただろう。聞きたいことがあったらスミレに聞いてやってくれ。彼女も退屈が紛れるだろうし」


「ええ、馬車になるのも凄いですが……あの大きさが何故このサイズに収まるのか理解が追いつきませんよ……。

 俺が座ってる荷台は背中に背負っていた部品が形を変えたのだろうと推測出来ます。

 しかし、問題は馬部分。これってカイザーの機体サイズを考えると小さすぎるんですよね……一体どう言う仕組みなんですか?」


「そ、それは……確かに……改めて言われると不思議ですね。

 形態調整システムによってサイズを可変させているのですが、技術的な事を言われると……うーん」


 まさかそこを突っ込まれるとは!


 完全変形超合金は俺も買った傑作玩具なのだが、ロボから馬に変形させると明らかにデカすぎる馬になるんだ。

 そのため、バックパックがワゴンに変形するというアニメ再現をすると馬に対してワゴンが異様に小さくなってしまう。


 なのでそこは割り切り、ワゴン部分は別パーツとしてつけられていたんだ。


 馬のサイズに感してはアニメ特有の「都合良く可変するサイズ」によって誤魔化されている部分なので、馬鹿正直に技術的な解釈をしようとすると無理が出てしまう。


 設定資料によれば「形態調整システム」なるご大層な仕組みでそうなるのであると、言う事だったし、こちらの世界で初めて馬になった時もそれを使って大きさを可変させたことを覚えて居る。


 けれど、アレはきちんとした理由が無い、設定を考えた人達ですらそこまで深く考えていない部分なのだろうから、聞かれると非常に困る部分なんだよなあ。


とは言え、どうにかできないわけじゃあない。

 どれ、ここは俺が助け船を出してやるとするか。


「ザック、昨日お前の屋台を収納して出してやっただろう」


「はい、あれは驚きました!」


「あれは俺のバックパックに収納したわけだが、我々のバックパックは異空間、無限に物が入る特殊な場所と繋がっているんだ。

 それでな、機兵から馬に姿を変える際、馬では使われない余分な部品は全てそこに格納されている……つまり?」」


「成程……それでその分小さくなるわけですか……納得しました」


『私も知りませんでしたが、本当なんですか? カイザー』

『いや、俺も知らん。"神の力"で誤魔化されているとしか言えない仕様だからな。まともに答えるのは不可能だよ。そもそも形態調整システムなんて良くわからない機能でそのまま大きさを変えているだろ』

『でしたね……まあ、我々という存在は元々アニメという架空の存在なのですから、そういう無茶な仕様は仕方が無い事なのでしょうね……なんともモヤモヤしますが』

『あんまり言うなよスミレ……俺までなんだかモヤモヤしてくるから』

『うふふ……』


 スミレが『アニメだからね』と割り切っている姿は何だか不思議で面白いけれど……実際その通りだからね。彼女がそれを受け入れて割り切ってくれているのはなんだかありがたいや。


 こそこそとスミレと内緒話をしている間にもザックはあれやこれやと質問を思いつき……リバウッドに着くまでスミレを困らせることとなった。


 すっかりザックのことを許したらしいスミレは、答えようがある普通の質問には嬉しそうに答えていたが、それでもちょいちょい『アニメだからね』という結論でねじ伏せないと答えに困る質問もぶつけられていて、都度辛そうな顔で俺にSOS通信を入れていた。


 ごめんなスミレ……。

 君にも後でたっぷり埋め合わせをしてあげるからね……。


……


 俺達の事は既に商人達の間では噂になっているし、その商人達に捕まるのも面倒だったので街道は遠慮せず、自重せずの精神で速度を上げて移動した。


 勿論、安全運転を心がけ、危険運転にならないよう、常識の範囲内に抑えた移動速度だったけれど、それでも日暮れ前にはリバウッドに到着することが出来た。


 通常、フロッガイからリバウッドまでは速い馬車でも1泊か2泊の野営を挟む必要があるため、ザックはただただひたすらに感心していた。


 無事に宿を取り、いつも通り一部屋に集まって会議をしながらの夕食……と言うところで俺の大仕事が待っていた。

 

 今回部屋は2部屋取っている。ザック用のシングルと、乙女軍団用の大部屋だ。


 大部屋と言っても、部屋のグレードが高いという訳では無く、ただ純粋にハンター向けにパーティがまとまって泊まれるように作られた広いだけの部屋なので、最低宿泊人数である3人を満たしていれば人数分以上の金を取られるようなことは無い。


 一人あたりの宿泊料金はシングルと変わらないため、非常にお得なのである。

 今回はその乙女軍団の部屋が夕食会場となるわけだが……。


「はあ、気が重いなあ」

「ふふ……何時までも隠し通せませんよ。隠していたら食事を摂れませんからね」

「はあ……わかったよ……」


 妖精体となった俺はスミレと共に窓からふわりと部屋に入る。

 

 既に食事が運び込まれていて、後は俺達を待つのみという状況だった。

 

 何時までも待たせるのは申し訳ないしね……しょうがない覚悟を決めよう。


「待たせたようで悪いね。では、食事をはじめようか」


「おせーよカイザー……あたい死んじゃうかと思った……」

「マシューは夕方おやつを食べてまだ入りますのね?」

「ほらほら、ザックも食べて食べて!」

「あ、ああ……なあレニー……スミレが……2機居るように見えるんだが……」


「ん? お姉ちゃんが2人? ああ、あれね、カイザーさんだよ」


 それを聞いたザックはフォークを落とし、こちらにゆっくりと視線を向ける。


「……ああ、そうだよ、俺はカイザーだ。スミレに俺も食事を摂れる身体が欲しいと強請ったらこれを寄こされたんだよ……今は本体からシステムを移していてね、まあ馬みたいなもんだと思ってくれたらそれでいいよ……。

 うん、まあ、なんだ。冷めるからザックも食べなよ美味しいよ、これ」


「あああ! そう言えばスミレさんもカイザーも食事を摂ってる! 一体どういう仕組みなんですか!?」


「そっちかよ!」

「それ以外に何があるんすか!」


 やれやれ……まったくもう。反応するところが違うよ。いつの間にかスミレの呼び名が『スミレさん』になってるしさあ……俺は呼び捨てなのに……。


 ともあれ、だ。

 妖精体の見た目であれこれ言われることが無かったのは助かったよ。

 しかしほんっとザックはほんとザックだなあ……。

 

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