9章 禁忌の地
第百九十二話 大陸よ、我々は帰ってきた
大陸に向かいリーンバイルを経ったブレイブシャイン。
現在、我々は海上にて野営中なのだが……ここでふと、ちょっとしたやらかしをしてしまっていることに気づいた。
「あっ……ヤバい。そういえば、ジンに連絡してなかったな……」
今回の作戦において要となるのは紅の洞窟。
洞窟自体は勿論のこと、歴史や遺物に詳しいトレジャーハンター達も強力な味方になってくれるはず、いや、彼らの協力が無ければ計画が頓挫してしまうことだろう。
なので、ついつい紅き尻尾のメンバー達が協力することを前提とした作戦を代表達に伝えてしまって、各代表達から承諾を得たのだけれども……肝心の協力者、ジンがあの場に居なかったんだよなあ。
彼らならば断らないとは思うけれど、事後承諾になってしまったのはよろしくない。
あの会談にジンを呼び忘れたのは大失態だ……。
この件はもう完全に俺の責任だ。
だからジンに何を言われようと、どれだけ怒られようと……。
俺は誠心誠意頭を下げて詫びを入れ、協力して貰えるよう、必死にお願いをするしかない。
正直気が重いけれど……やらかしてしまったのはしょうが無い。
覚悟を決めた俺は、あきれ顔のスミレになじられながらジンに連絡を入れた。
『うおう!? おい、これどうやって使うんだっけー?』
『……俺しらねっすよー……』
『ああ? これを押すのか?』
『頭領、それただのランプっすよ』
『なんだと!? 先に言え! じゃあボタンはどれだ?』
『だーから俺しらねっす』
なんだかガチャガチャと弄くり回す音と、何やら言い争うような声。
ちゃんと使い方を教えた筈なんだけれども……マニュアルを作って置いてくるべきだったか。
『……ああ、これでいいのか? おーいカイザーだろー!? 聞こえてるかー!? ……だめだこりゃ、聞こえてねえな!』
聞こえてるぞ! ダメなのはジンの方だ。
ああ、こりゃきっと端末を耳に付けてないな……。
それでもジンは諦める事はせず、なんとか使い方に気づくまで通信が切られなかったのは助かった。
故障しているとでも思って放置されたら帰るまで連絡が付かなくなりそうだしな。
『いやあ、悪い悪い。使い方を忘れちまってな……』
「いや、良いんだ。実は……なんというか、例の件なんだが……。
想定よりも
いや、結論から先に言おう……すまない。
紅き尻尾に協力を頼むことにすると、本人を呼ばず勝手に決めてしまったんだ。
何でそんな事になったかと言えばだな――」
これまでの経緯を説明すると……なんと感謝されてしまった。
「ああ、いいぜ。むしろ助かったぜカイザー。こんなクソ爺がそんなお偉方と肩並べて話し合うなんて無茶な話だからよ」
「そうは言うけどな……勝手にトレジャーハンター達の協力を得ると言ってしまったんだぞ」
「あー、別に良いだろ? そもそもよ、うちの頭領は俺じゃねえ、代表不在ってのはおかしな話だ。頭領のマシューが良いつってんなら俺達はかまわねえよ。
それに……なんたっておめえ、ほぼ無傷の
トリバじゃまずお目にかかれねえ綺麗な機体が発掘されるのはヘビラドなんだが、それらはぜーんぶ帝国のクソ野郎共が接収しやがったからな。
いやあ、まったく俺達にも運が向いてきたぜ!」
そう言えば前にウロボロスが言ってたっけな。例の巫女が降臨した後、大陸中の機体が全て動作不良を起こして停止をしてしまったって。
ルストニア・リーンバイルの機体はその殆どがグレートフィールドに集結していたため、機兵の力を使えなくなった状況でそれらの機体を国まで持ち帰ることは不可能だった。
戦場に残された機体達は軍や火事場泥棒的に集まった連中によって解体され、万全な状態では残らなかったのだと。
機兵という、大戦を呼ぶ存在をしばらく時代から消してしまおうと考えたウロボロスには好都合だったのだと言う話だったな。
「こちら側の軍勢は出し切っちゃってたけど、ガンガレアにはまだまだストックがあったって事か……」
『まあそういう事なんだろうな。おかげで今日まで悔しい思いをしてきたんだが、完動品が20機もあるんだろ? かー! 腕が鳴るぜ! なあ、いつ帰ってくるんだ?』
「そうだな、途中で将来有望な少年をスカウトしようと思うんだ。だから少しだけ遅くなると思う」
『将来有望? へえ、一体どんなやつだ!』
「精密な機兵や魔獣の人形を作ってる奴なんだが、人形と言っても像のようなものではなくてな。
なんと、きちんと各部位が稼働するんだよ。それも、それそのものをそのまま小さくした物を作って居ると言っても良いレベルでね。
少年は俺の人形も作ってくれたんだが……それがまた見事な出来でね。
その腕を見込んでリーンバイル機の改修をさせてみようかなと思ったんだ」
『へえ。おめえさんがそこまで言うんだ、下手な玩具じゃすまねえ物を作れるんだろうな。そうか、そんな面白い奴が居るのか。よし、そいつは必ず連れてこい! 俺達にとっても言い刺激になりそうだ!』
「ああ、それと俺やマシュー……いや、オルトロスの武器を作って貰った機兵技師も連れて行きたいんだがいいか?」
『それに関しても構わねえ! つうか、機兵に詳しい奴はどんどん連れてこい!
俺達は遺物に詳しいだけで、機兵の修理はついでに覚えたようなもんさ。専門家がいるにこしたこたねえよ』
こうしてすんなりとジンとの話はまとまり、俺の懸念が一つ無くなった。
問題はザックとリックだな。
彼らにはまだ何も言っていないと言うか、連絡出来ないからなあ。
それぞれ突然押しかけて無茶な事をお願いする事になるわけだけれども、彼らは単なる一般人。『いやいや無理だわ』と断られてしまっても仕方が無い。
かといって、彼ら以外に適任者を知らない、と言うか、この時代に目覚めてから1年も経っていないから人脈も何もないんだよなあ。
何を対価に差し出せばうんと言ってくれるのかはわからないけれど、できる限りの礼を尽くしてお願いしてみるしか無いね。
……
…
数日の移動を経て、我々ブレイブシャインは無事に大陸に帰り着いた。
補給で寄ったサウザンで俺達を待っていたのはアズベルトさんだった。
途中に連絡をした際に『サウザンで補給をする』と伝えておいたのだけれども、それを聞いてわざわざこちらまで出て来てくれたらしい。
「娘の顔を見たかったし、シグレくんにも一度きちんと挨拶をしておきたかったからね」
嬉しげに語るアズベルトさんの言葉は真実なのだろうな。
信用をしているといってはくれているけれど、一人娘をリーンバイルに送り出したんだ、声で無事なのはわかっていても、元気な顔を見たかったんだろうね。
というわけで、現在我々はアズベルトさん招かれた夕食会に参加している。
彼が出資している宿の大部屋にて催されているのだけれども、なんともかんとも……魅力的な料理ばかりが並んでいて……ありがたいかぎりだ。
それとなく事前に俺もスミレのような身体を得たなったと伝えていたため、わざわざこの様な素晴らしい席を設けてくれたらしいのだけれども……。
「いやあ、久しぶりだねカイザー。何だか随分見違えたけど、どうしたんだい、やたらと可愛らしくなってしまったじゃ無いか」
「……姿のことは言わないで頂きたい。一つだけ言っておくけれど、俺の趣味ではありませんよ。これはスミレの趣味です」
「そうかいそうかい。いやあ、その姿だと僕も君もなんだか話しやすくて良いね。ああ、もういっその事普通に話してくれないか?
前も言ったとおり、僕らの間に畏まった言葉は不要だよ」
「うう……そう、だね。けれどこの身体だと……敢えて
「あははは! そうしていると本当に妖精の女の子の様だね。
まあいいじゃないか、それも君の別側面として僕は気にしないよ」
「そこは気にしてくれても構わないのだが……ううう」
ほんと、この身体は不味い。
姿形がアレなせいで、カイザーとしての自分が揺らいでしまうんだ。
だからこの身体を使うのは最低限にしたいところなのだけれども、食事会はまだまだこれからだ。今日はどうしてもこちらの身体を長時間使う羽目になってしまう。
うう、一度
「シグレくん、かつての盟友、ルストニアの末裔として是非握手させてくれ」
「ぬ!? いや、あ! はい! こ、こちらこそ! リーンバイルの末裔としてルストニアの方と握手出来るのは光栄でござるよ!?」
シグレが何だか良く分からないテンパりかたをしている。
ルストニアの姫様と日がなじゃれ合ってるくせに何を今更……なんて思っちゃうけれど、それはきっと私がすっかりアズベルトさんに慣れきってしまっているからだろうな。
シグレにしてみれば、かつてのルストニアそのものでは無いにしろ、今もなお国家の代表として活動している人間を相手にしているわけで。
一応シグレだって、世が世ならリーンバイルのお姫様なんだけれども、今のシグレは姫様と言うよりも忍者道場の娘と言った方がしっくりくる。
そんな扱いをされて育ったシグレだもの、お偉いさんとの挨拶に緊張するのは仕方が無い話だね。
こうして2時間ばかりの間、仕事としてではなく、観光として見て回ったリーンバイルの話をしたり、料理に舌鼓を打ったりしながら楽しい時間を過ごした。
この食事会はあまりゆっくりと長期休暇を取れないままに忙しく飛び回っている乙女軍団にとって、凄く有り難い時間だった。
こんな素敵な席を設けてくれたアズベルトさんにはほんと頭が上がらないよ。
アズベルトさんは宿には泊まらず、ルナーサに帰るという事で……
『久々に楽しい時間をとれて嬉しかったよ』と、疲れた顔で笑っていた。
元々忙しい人なんだと思うけれど、今回の件でよりバタバタしてるのだろうな。
「じゃあ、僕はルナーサに戻るよ。ああ、そうそう洞窟にはちゃんと資材を届けさせるから安心してね」
「悪いね、
「いいんだよ。適材適所ってやつさ。それに君達は紅魔石を現代に蘇らせるという大仕事があるんだ。何もかも頼り切りになるわけには行かないよ」
「そうだね。取りあえずそれは洞窟に行ってからになるけど……レインズさんへの許可申請……根回し頼むよ」
「ははは、レイならそんな事しなくても許可なんて直ぐ出してくれるさ。寧ろ君たちが洞窟につく頃には既に許可が下りているんじゃ無いかな」
「違いない」
「今日はカイザーとも距離がぐっと縮まったし、本当に良い日だった。
じゃ、後は任せたよ-」
「ああ、アズも気をつけてね」
と、最後に
……いやほんと、この身体とお酒の力ってやばいな……もう完全にあだ名で呼び合う中になってしまったよ。
ていうか、この身体、一応は小型メカなのにアルコールの影響を受けるってどうなってるんだ……。
……気を取り直して明日の予定を考えよう。
取りあえず来た時とほぼ同じルートで行くとして、だ。
街道から逸れてゲンベーラに入り、そこから空に上がる。
出来る限り速度を上げて飛行をして一気にフロッガイを目指したい所だね。
ザックをどうにかしてスカウトしなければいけないんだけど、彼に関してはは秘策がある。
……ふふふ、待ってろよザック。君を新たな世界に招待してやるからね。
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