第百九十一話 結ばれる絆

 突発ながら、3国首脳会談が開催された。

 

 帝国についての情報共有と、それぞれ国としてどう言うスタンスを取るかの確認だ。

 各国それぞれが帝国の動向を疑い、何らかの形で探りを入れていたため話は早かった。

 

 ルナーサは国内に発生していた未知の魔獣の目撃や被害への対策から帝国の不法入国が発覚。

 証拠を集め抗議をしようとしていた。


 トリバはルナーサからの連絡を受け、自国にも何らかの影響があると判断し独自に調査をしていた。

 結果として黒騎士の強襲という確固たる証拠を得て帝国に抗議をする用意をしていた。


 そしてリーンバイルは潜入捜査により大量破壊兵器とも言える黒龍の所持、及び戦争準備をしている証拠を掴んでいた。ただし、リーンバイル自体の戦力は他国と比べ乏しいため遅かれルナーサ・トリバ両国への協力を取り付けようと考えていた。


 これらの話が3国から出され、帝国には先ず抗議を入れるという方向で話は決まった。

 勿論、抗議だけで終わるとは思っていない。抗議を受けた帝国がどういう反応をするにしろ、遅かれ早かれ戦争が起きることは間違いない。


 先の黒騎士強襲から現状では帝国の戦力には敵わないと判断し、3国に俺達ブレイブシャインから技術提供をした上で機兵の強化を図ることにした。


 今後の予定としては、紅の洞窟を本格的にブレイブシャインの基地として改築し、第3世代機兵の開発に着手する。


 それに関して紅き尻尾の団員は勿論のこと、早くから俺達が使う武器に関わってきたリックの協力、そしてザックに協力要請をしようと決めた。


 ザックは誰よりも様々な機兵を綿密に観察しているのでは無いかと思う。

 そんな彼ならば、俺達の身体を解析し、こちらの技術に落とし込んだデザインの機兵開発に役立つのではないか、そう思ったのだ。


 彼がうんというかは分らないが、帰りに寄って依頼をしてみるつもりだ。


 必要な資材に関しては各国からの援助は得られるけれど、パイロット達の訓練を兼ねてなるべく我々も狩りに出かけるつもりだ。

 

 どんなに強い機兵を揃えたとしても、要となるのはオリジナルである我々で有ることは変わりない。

 

 俺達カイザーチームの機体は現在この世界が持っている技術力では作れない……いや、現実世界であっても再現不可能な空想上の超技術が多数使われているからね。


 帝国の最新機だろうが、こちらが努力して作り上げた最新機だろうが、機体スペックで敵うのは、そんな日が訪れたとしても遠い遠い未来の話。


 けれどパイロットの練度がまだまだ足りない。

原作のパイロットレベルにまで練度を上げられれば……黒騎士だろうが俺達の敵ではないはずだ。

 

 だから並行してパイロット達の練度を上げ、目下の目標として、いずれ再戦するであろう黒騎士との戦いを有利に運べるようにする必要がある。

 

 こちらは前回と違って4機となり、シャインカイザーに変形可能となっているが、それでもまだまだ油断は出来ない。


 相手も練度を上げてくるだろうし、何より奪われたあのライフルがただで済んでいるとは思えない。


 このまま慢心していれば必ずや不幸な結末を迎えることだろう。


 そして……なによりその黒龍とやらが気になって仕方が無い。

 神が介入するレベルの事態だ。なんにせよ備えるに越したことはない。


 

 会談が終わると、ゲンリュウ氏の案内で演習場からほど近い場所にある洞窟に案内された。

 

 ここは紅の洞窟同様に、かつて機兵で作った格納庫のようで、一世代オリジナルの機兵が眠る墓地のような場所だった。

 

 格納されていたのは数は20機と、敵戦力を考えれば少々心許ないのかも知れないが、伝説の1世代機オリジナル

 これはかなり貴重な文化遺産なのではなかろうか。


「彼らは戦に出る事無く、大戦後は起動もできずに眠りについたままの機兵達でござる。拙者やタマキが所有しているのはこれを真似て作らせた物で、恐らくは大陸の機兵達には歯が立たぬ代物。

 カイザー殿、この眠れる武士もののふ達を蘇らせることはできませぬか?」


 蘇らせる……か。まずは状態を……と、俺が言葉にするまでもなく、スミレがスキャンを始めていた。

 

 見た目は如何にも忍者型ロボットといった具合の浪漫溢れるデザインで、正直めちゃくちゃカッコイイ。

 何が良いって、1機が如何にもエース機といった具合に色やデザインが違う所だ。恐らく1小隊分そっくりそのまま眠っていたのだろう。


 ……ニンジャロボって事は、大戦の頃には既にリーンバイルは日本化されてたってことかぁ……。


「なるほど……ほほう、ウロボロスが関わった1世代機だけあって、結構カイザーに似た機構をしていますね……おかげでよくわかります。

 伝説の巫女が当時の機体に何をしたのかは想像がつきませんが、故障の原因は分りました」


「ほう、凄いじゃないか。流石スミレ! それで、原因はなんなんだ?」


「当時動かなくなったのは恐らく輝力の枯渇が原因でしょうね。恐らく巫女は輝力を吸い上げる何かを使い、大陸中の機兵を止めたのでしょう……なんて出鱈目な。

 以後、後年まで再起動しなかった原因は不明ですけれども。

 っと、失礼。この子達は輝力ではなく魔力で動いていたのでしたね」


 ここでかつての機兵、1世代モデルの開発者であるウロボロスが解説をしてくれた。


『1世代機、つまり僕らが作った機兵は輝力では無く魔力を用いた物だった。

 レニー達のように輝力を持つ者はその力に大小あれど、この世界にもちゃんと居るに居る』


『だからといってそれはそのままじゃ使えないわ。だって輝力炉を再現することが出来なかったのだから』


『だから僕らは輝力炉を諦め、魔力炉を作った。ヒントとなったのは魔導具だね。魔道士が自らの魔力を込めた石、今で言う所の魔石に近い物に目をつけたんだ』


『まず、魔力を溜め込む力に長けた石を見つけることから始まったわ。結果的に既存の鉱物では満足がいくものは見つからず、私達は新たな鉱石を創り出す事にした』


『そして出来上がったのが『紅魔石』だ。とある地域でのみ採取可能な紅い土から創られたそれは、魔力を溜め込む力が強く、魔力炉として最適な鉱石だった。』


『そうね、例えるなら手のひらサイズでヒッグ・ギッガの魔石と同様の魔力を蓄えることが出来るの』


「そりゃ凄いな……というか、俺の身体が目覚めた頃、各地で1世代機が再起動したと風の噂で聞いたが、それらはそのまま稼働したのだろうか」


『中には動いたもあったらしいね。ただし、かなり劣化はしているだろうね。紅魔石は永い年月の運用に耐えられる代物ではない』


『そして、例え魔獣から魔石を移設したとしてもそれは無駄な話よ。ヒッグ・ギッガサイズの魔石でもこの子達を動かすには10分が限度なのだから』


「そうか……輝力炉もパイロットの輝力だけで賄っているわけじゃないからな。最低限の輝力は日頃チャージしている分で賄い、それにパイロットの輝力を上乗せする形でより強大な力を実現している」


「魔力炉だってそうでしょうね。10分しか持たない様な魔石ではパイロットへの負担は小さな物ではありません。最大出力なら持って30分……効率化を突き詰めても2時間が良いところなのではないでしょうか」


『それでこの子達なんだけど、その魔力が完璧に切れてるんだよね』


『あ、カイザー今『再充電すれば良いじゃん』って思ったでしょう? 

 わかるわ。でもね、だめなの。過放電ってあるじゃない? 長い間充電しないままほっとくとバッテリーがダメになる奴。この紅魔石はそれの最悪な状態になっていると思ってくれたら良いわ』


「つまり微塵も充電出来ないと……」


『その通り。であれば、新たに紅魔石を作る必要があるわけだけれども、その技法は失われている』


『何故って、私達が肝心な部分を誰にも伝えないまま森に隠れたから』


「つまり、その気になればいつでも……」


『そうだね』

『今がその時かなって思う』



 美品の1世代機オリジナルとは思わぬ所でいい拾いものをした気分だ。とはいえ、永い年月眠っていただけあってかなりの部分に痛みが在り、そのまま使うのは少々問題がある。


 なのでゲンリュウ氏と相談し、バックパックに全機収納し、紅の洞窟で3世代機のベースになって貰う事にした。


 大丈夫任せておいてくれ。君達1世代機オリジナルは我々の仲間たちが新たな機体として生まれ変わらせてやるからさ!


――そして二日後


シグレ一家と再会を約束し、我々は再び大陸を目指して離陸した。

 目指すは紅の洞窟。


 この日、来たるべき日に向けた大きな作戦が幕を開けたのである。

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