第百九十話 超長距離通信
さて、と。
折角この場所まで来たのだから少し試してみるとするか。
宿から無線でウロボロスをバイパスし、大陸に連絡を取れないか試してみたんだけど、どうも上手く行かなかったんだよな。
考えられる理由は本来2つのAIで機体を制御しているウロボロスから
理由はもう一つ考えられる。純粋な出力不足だ。
本来長距離通信は俺とウロボロスがワイヤレス接続で繋がり、それぞれの輝力を用いて情報を出力している。しかし、俺は街、ウロボロスは島のはずれとそれなりに離れているため、通信は出来ても輝力を合わせる事が出来なかった。
そもそも、大陸から遠く離れた島なので、安定性を考えれば4機合体したシャインカイザーの状態で行った方が上手くいくはずだ。
なんにせよ、現在の状態であれば悪いようにはならないだろう。
早速試してみることにした。
『こちらカイザー、こちらカイザー。アズベルトさん聞こえますか』
……応答がない。海を挟んでいるせいか?
ううん、使えたら今後の計画が楽に運ぶのに……と、思ったら返事が戻ってきた。
『うわ、ごめんごめん。突然連絡が来るものだから驚いて端末を落としちゃったよ』
『ああ、良かった! 色々と
『……大事ね。これまでの状況から考えると何か起きるのではないかと思っていたけど……やはり何か大きな物の尻尾を掴んじゃったのかな』
『そうですね……それで、可能であればトリバのギルマスとアズベルトさん、そしてリーンバイルの現代表、ゲンリュウ氏と3国の代表を交えた会議……首脳会談をして頂きたいのです』
『それはまた凄い話だね……。
そうかレイ……いや、トリバの大統領が何か親書をもたせたといっていたけど、まあ、それ絡みの話だとすれば……うちも他人事じゃないからなあ』
トリバからリーンバイルに届けられた親書、ギルマスのレインズさんがべらべらと喋っていた内容がそっくりそのままであるならば、トリバはキナ臭い事をして居る帝国が何か不味いことを起こそうとしていると睨んでいて、事が大きくなれば戦争が起こる事も覚悟している、そしてそれによってリーンバイルに迷惑がかかるかも知れない、そんな内容だったはずだ。
「リーンバイルに迷惑がかかる」というのは、恐らく帝国内にリーンバイルの手の者が居ると言うことをきっちり掴んでいるからこその言葉だろうな。
だったら今ここにゲンリュウ氏が来ているのは好都合。
このままここで会議をしてしまえば良いのである。
『じゃ、ちょっとトリバに連絡してみますので、アズベルトさんはミシェルと話していて下さい。久々なので積もる話もあるでしょうし』
『え、そうかい? なんだか私用に使うみたいで悪いなあ』
そうはいいつつも、何だか声がとても嬉しそうだった。携帯電話など無いこの世界においてこのような長距離で音声通話が出来ると言うのは夢のような事だろうしな。
音声出力の一部をミシェルの端末に限定し、二人だけで話を出来るようにしてあげた。久しぶりの親子の会話だしね。きっと互いの安否確認や積もる話もあるだろうさ。
『ええ、そうなんですの! 街の人が来ている服のどれもが美しい染め物で……。
ええ、キモノと言う服のようなのですが、見たことがない作りでしたわ!
いくつか仕入れていってもよろしいかしら?』
『今直ぐは無理でもいずれリーンバイルとは正式に復交出来るだろうからね。
そうなると今のうちに先手を打っておけば……うん、そうだねまずはサンプルとして――』
……ま、まあ親子のあり方というのは家それぞれだから……。
と、トリバにも無事繋がるようだ。ノイズもなく、ギルマスの声が聞こえてくる。
『おうおう、なんだびっくりしたじゃねえか。カイザーだろ? こんな真似をしやがるのは。ピーピーピーピーうるせえっつうんだ』
『こんな真似も何も、この端末を自由に使えるのは私くらいのものですよ……』
『ちげえねえ! それでわざわざ連絡を寄こしたって事はなんか良いことでもあったんだろう?』
『ええ、我々は現在リーンバイルに居ます。それで、帝国の連中が俺の武器を玩具にしてしようとしている事が……火遊びにしてはちょっと洒落にならない事になりそうでしたのでちょっと耳にいれておこうかなと』
『……やはりな。あいつらがチョロチョロ変な動きをしてるのはずっと気になってたんだよ。そうか、そっちに行ってその話がでたってこた、リーンバイルの人からなんか聞いたんだな?』
『ええ。リーンバイルの現代表、ゲンリュウ氏から直に聞きました。
それで、ルナーサの総支配人、アズベルト氏、トリバの大統領ヴィルハート氏と一緒に今から会議をしたく思うのですが……』
『会議はわかったが……、二つばかり気になる所があるな……』
『む、なんでしょうか?今は少しでも情報が必要です。気づいた事は何なりと』
『いや、大したことじゃねえよ。まずな、なんでアズやゲンリュウ氏は名前で呼ぶのに俺をレインズと呼ばねえんだ? 水くせえぞカイザー! いいか、俺もちゃんと名前で呼べ!』
ええ……そこかよ。アズベルトさんやゲンリュウ氏は身内がパーティー内にいるからややこしいってのと、逆に家名で呼ぶなと釘を刺されているのがあるからなんだけど……。
『ま、まあ大統領がそう言うなら……じゃあ、今後はレインズさんと……。それでもう一つは?』
『ああ、気を悪くしたらすまねえな。おめえ本当にカイザーだよな?』
『勿論。証拠はありませんが、レインズさんとこうやって連絡出来るものは俺くらいの物ですよ』
『まあ、そうなんだが……その、おめえよ、口調が……変じゃないか? 前はもう少し尊大というか……、一応気を遣っているくせに何処か偉そうな感じだったんだが……なんかこう……女見てえっつうか』
……!
『……それは……深い理由があるのです……いや、あるんだ。詳しくは会談が終わった後にでも……』
『……はっはっは、いやいやからかって悪かった。理由はちゃんと聞かせて貰うが、ちゃんとカイザーだってのは伝わったよ。それで俺はどうすれば良い?』
『既にアズベルトさんとは繋がっていますので、後はゲンリュウ氏をここに呼べば会議の場は整います。そうですね、10分ほど待っていて欲しい』
『あいよ、飲みもんでもとってこさせるわ。しかし、その無理した口調……おもしれえ……』
……向こうで心からおかしそうに笑い転げるレインズさんを無視してゲンリュウ氏を迎えるため、口調の元凶である妖精体にAIを移す。
はあ、便利な身体には変わりないんだけどどうもこの身体はなあ……。
そして下に降りてゲンリュウ氏とタマキ氏に事情を話し、コクピットに迎え入れた。
今回は機体が動くようなことはないため、空いている場所に椅子を置き、二人の席として座って貰った。
用意をやり遂げ、本体に移ろうとした時、スミレが話しかけてきた。
「あの、カイザー」
「なんだい、スミレ」
「お二人に乗るよう伝えるのであれば、わざわざ身体を変えなくとも"そのまま”喋れば良かったのではありませんか?」
「あっ……」
どうも妖精体に心が蝕まれているようだ……。
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