第百八十九話 ロボット軍団見学会

 翌日、シグレの両親達……リーンバイル夫妻からの希望で『演習場に停めてあるのだ』と、説明していた俺達の身体を見に行くことになった。


 この体を得た弊害としてすっかり忘れていたけれど、俺の身体は演習場ではなく、『大きめの馬車』として宿屋裏に止めてあったわけで……。


『実は宿屋にとめてあったのでしたー!』

 なんてことは当然言えないし、どのみち街中で変形するわけには行かないので敢えてその事は話さず、到着するまで普通の馬車として通すことにした。


 現地で俺だけ姿が見えないと『カイザー殿!? まさか盗難されたのでは?』 なんて騒動になりかけた時に目の前で変形して見せたら……おっどろくだろうなあ。


 まあ、ちょっとしたサプライズだと思って頂ければ幸いである。


 ……しかし、流石に馬車の様子がおかしい事には当然直ぐに気づかれるわけで。

 朝に屋敷まで馬車で迎えに行った際、即バレた。


「むう……。これが噂の馬車形態……。馬と言うには随分と大きな魔獣が引いているようですが、これもまたカイザー殿なのでござろう?」


 そうか、シグレが伝えていたか……。そうだよな……やっぱそうかあ。

 少々がっかりしたが、騒ぎになるより余程マシだと割り切ることにした。


「そうですね。機兵で街に入ると住民を驚かせてしまうと思いまして、僚機達はお話したとおり演習場で待たせ、私は馬となってここまで来たのですよ」


「成程成程。では同乗させていただきますぞ。タマキ、手を」


 先に乗り込み、タマキさんを引っ張り上げるゲンリュウ氏。さり気ない心遣いが憎いね。

 

 車内はかなり広いため、数人増えたくらいでは特に狭さを感じさせることはない。

 言ってしまえば近年妙なイメージが付いている大型ワゴン車を馬で引いているような感じだからな。10人程度であれば余裕で収納出来てしまうのだ。


 移動中もリーンバイル夫妻は馬車の仕様に感心しきりであった。


「なんという馬車でござろう。揺れを全く感じぬ。恥ずかしながら拙者、馬車が苦手なのだがこれは快適でござるな」


 自分の馬車にも導入したいと言われたが、自動車の技術どころかその先を行く謎技術で衝撃吸

 収を実現しているので、残念ながら同等の物を提供することは出来ない。


 代わりに実現可能な方法で馬車の揺れや振動を緩和する方法をスミレに纏めて貰って提供してあげた。

 全く揺れなくなると言うことは無いだろうが、振動はかなり抑えられるはずだし、通常の馬車よりぐっと乗り心地が良くなることだろう。


 この大陸は機兵の技術やそれに付随する魔導具はそれなりに発達しているくせに、生活周りは大して便利じゃない歪な所があるからな。中世にロボット技術だけぽんと提供された時点でおかしな事になってしまった上に、その後激しい大戦で一度文明が衰退してしまっているのが痛い。


 噂によれば帝国は生活的な部分にも機兵の知識を応用して便利にしようとしているらしいけど、その帝国と仲良く出来るビジョンは今のところ無いからなあ。


 下手なことをすれば神様に怒られるのでは無いかとも思ったけど、よく考えてみれば神様は世界を引っかき回して欲しいと言っていたからね。


 そもそも俺達が来た時点で純粋なファンタジー世界は破壊されてしまったわけだから、今後は遠慮無く色々と技術提供していこう。


 ……ウロボロスががっつりルナーサ経由で知識を広めていたしね……。


 そんなわけで、車内で様々な情報交換をしていると時間が経つのはあっという間。

 見慣れたロボット達の姿が見えてきた。


「は~、久しぶりの我が家ってかんじだよ~」

「そうねー、何だかんだ言って自分の身体が一番よ」


 と、2匹のぬいぐるみは言い残し、まだ停車をして居ないというのにさっさとそれぞれの身体に帰って行ってしまった。


 空を飛んで付いてきていたガア助も着陸したので、そこからやや離れた場所で停車し夫妻を降ろす。


「では、我々はそれぞれ乗り込みますのでここで見ていて下さいね」


 二人を残してロボ軍団のもとに。パイロット達がそれぞれの機体に乗り込んだのを確認し、レニーを御者台に座らせる。


 御者台はコクピットが姿を変えた物なので、このまま変形すれば手間が省けるというわけだ。


「よし、レニー! 変形するぞ!」


「はい! カイザーフォームチェンジ!」


 シンプルな掛け声と共に俺の身体がロボに変形する。何だか久しぶりの感覚だな。

 声も……戻っているな。うん。


「改めてご挨拶させていただこう! ブレイブシャインリーダー、レニー機のカイザーだ!今日は我々の姿を見たいと言うことで、ご足労感謝する!」


「おお……凜々しい姿……そしてその力強い声……! 本当にカイザー殿なのでござるか?」


「あの身体はあくまでも非戦闘用。こちらが本当の身体、カイザーだ」


「凄いわ……ねえ、貴方。あの色、あの威厳……やはり機神はカイザー殿なのでは?」

「うむう。カイザー殿が違うと申しても拙者はそうだと信じることにしましたぞ」


 なんだか勝手に納得しているが……実のところ、まあそうなんだろうなと思ってる。


 あの神様のことだ、俺を使って『度が過ぎるごたごた』を解消しようとしているんだろうさ。何が好きなように暮らしてくれたら良いだよ。結局世界の危機がせまってるじゃないか……。


 神様は安定しきった世界を引っかき回して欲しいとは言っていたけれど、滅亡してしまうのは神様としても本意では無いんだろうな。


 過去に大戦を巫女の力で止めたのも滅亡を恐れてのことだと思うしさ。


 結果として、世界から黒龍に対抗できるであろう機兵ちからが失われたわけだけど、そこは復活した俺がなんとかするよう動くだろうと、神の力的な何かで予言したからだろうし……。


 だったら、俺は機神の名を受け入れ黒龍を止めるしかあるまい。


「では、これより4機合体フォーメーションに入る!」


「フォームチェンジ!シャインカイザアアア!!」


 俺の掛け声と共に4機が天に舞い、分離と合体が始まる。謎の派手なエフェクトと共にそれぞれが正しい場所に合体し、晴れゆく光からはそれらしいポーズを決めたシャインカイザーが姿を現す。


「おお……なんて神々しいお姿だ……」

「それにとても力強く大きい……これなら龍でも鬼でも倒せちゃうわね……」


 鬼……? 鬼なんてのも居るの? 

 ……言葉の綾であることを祈りたいが、満足して頂けたようで何よりだ。

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