第百八十五話 リーンバイル家
西の空が紅く染まる頃、シグレが宿まで迎えにやってきた。
「おまたせしました。表に馬車を待たせてありますので行きましょうか」
宿から出ると和風の大きな和風の馬車が停まっていて、着物を着て帯剣をした老人が乗り口の前に立っている。なんだかお侍さんみたいでかっこいい。
「ブレイブシャインの皆様、拙者は御者のナツマルと申す。屋敷までの間、僅かな時間ではありますが何なりとお申し付けくだされ」
深々とお辞儀をした彼から馬車に乗るように促され、乙女軍団は彼にエスコートされながら乗り込んでいった。
……護衛の方かと思ったら御者さんですか……。
レニーとマシューはその様な扱いをされたことがないため、ドギマギとしていたが、ミシェルは堂々とした感じで格の違いと言うか、育ちの違いを見せつけられることとなった。
俺もこの渋い老人にあんなことをされちゃったら……きっとキョドってみっともないところを見せてしまうだろうな。
今の身体なら対象外だし、現在の自分の身体を有り難く思った。
ここでキョドってしまったら司令官の威厳もなにもないからね……。
「おや、皆さん可愛らしい物をつけていますね」
「うん、これ街で買ったんだよ。カイザーさんが選んでくれてね」
流石シグレ、さっそくみんなのアクセサリーに気が付いたようだ。
そして……思った通りちょっぴり寂しげな顔をしている……ふふふ、こんな事もあろうかと!
「ほほう……うん?」
「はい、これはシグレのだよ……ちょっと髪触るぞ……うん、シグレは髪が長いからつけやすいね」
「お、おおお!?」
「まあ、可愛らしいですわ! ほら、シグレ、鏡をご覧になって」
「これは……アヤメですか……ありがとうございます、カイザー殿」
「いいって事よ。これでブレイブシャイン、みんなお揃いだね」
こう言うのはみんなで揃ってつけてこそだからね。
シグレに似合うと思って、紫のアヤメが付いたカンザシを買っといたんだ。
……その時ぬいぐるみ達が恨めし気に見ててさ、後からブチブチ言われるのも嫌だったから、はさんでつけるタイプの髪留めをガア助の分と合わせて買ってあげたけど……ガア助は良いとして、君達、
屋敷までの移動は20分程度と短い距離ではあったが、昼間の買い物では見られなかったこの国の風景をいろいろと見ることが出来た。
あちらこちらに見える鳥居に、その奥に見える神社らしき建物。田園風景を伸びる街道脇にはお地蔵さん。やっぱりこれは出来すぎているレベルで日本そのものだ。
なんというか、時代劇で見られる日本というかなんというか。どことなく嘘くささを感じるのだけれども、漠然と「昔の日本っぽい風景だなあ」と感じるようなアレである。
間もなく到着したリーンバイル家の屋敷もその例に漏れず。
周囲を竹やぶに囲まれたその屋敷には立派な門があり、門には提灯が下げられている。
門をくぐると玉砂利が敷き詰められ、等間隔に大きな飛び石が置かれた庭が目に入る。
庭には松のような木を始めとした様々な樹木が生えていて、当然のように存在する池には蓮のような植物、そして鯉の様な魚が泳いでいる。
そして敷地内には3階建てながらも何処か城のような大きな屋敷と、いくつかの蔵に多数の離れが建てられているようだった。
というか門からも結構距離があるな。ミシェルの家もそうだったけど、シグレも凄まじく立派なお家にお住まいのようで……。
ようやく見えてきた母屋の玄関には和服を着込んだ女中さんが待機していて、我々を出迎えてくれた。
「お帰りなさいまし、お嬢様、そしてようこそいらっしゃいましたお客人。本日は私達がご案内させていただきます」
深々としたお辞儀をした二人は、玄関の戸を開くと中に我々を案内した。
玄関で靴を脱ぐ事に戸惑うメンバーを見てひとりニヤリとほくそ笑む。
宿屋や店などでも思ったが、内装もやはり和風だ。本格的な日本家屋的な建物は寺や旅館くらいにしか入ったことが無いためリーンバイルのものが正しい日本家屋なのかはわからないけれど、それでもやっぱり郷愁を感じる。
「こちらの部屋で旦那様がお待ちです。少々お待ち下さい」
俺達に頭を下げた女中さんは廊下に正座をすると、部屋の戸を開け中に声を掛ける。
「旦那様、お客人をご案内しました」
すると、中々に渋い声の返事が聞こえる。
「うむ、通してくれ」
女中さんに促されるままに中に入ると、まず旅館の宴会場の様な場所が目に入った。
床には畳のようなもの――いやもうこれ畳だね――が敷かれていて、座布団置いてある。
それに合わせて作られているのであろう脚が低いテーブルには様々な料理が並べられていて、なんだか旅行先の宿の夕食感が凄まじい。
「よく来て下さった、客人よ。さあ、まずは座ってくれ」
座ってくれと言われて戸惑っている一同。察した俺はレニーに耳打ちをする。
「床にクッションが置いてあるだろう? そこにそのまま座れば良いんだよ」
はっとした顔で先に席についているシグレ父を見るレニー。
なるほどと頷くと、おそるおそる席に着く。それを見たミシェルとマシューもそれに習うように席について最後にシグレが座った。
「ふむ、シグレの話ではもう何人か居るようであったが、来たのはお主らだけか?」
何人か……? ああ、俺達も人数に入れて報告してくれてたんだな。
なるほど確かに席がまだ何人分か余っているな。
どのタイミングで名乗り出ようか、いや今だろうかと言い出せないでいると、それを察したのかシグレが上手く場を作ってくれた。
「いえ、父上。カイザー殿にスミレ殿、それにもう二人は既にこの部屋にいらしています」
「む? 確かになにか気配は感じるが……一体どこにおるのだ?」
「カイザー殿達はお話した通り機兵、しかも変わり種です。
姿を見せていないのは父上を驚かさぬよう配慮してくださっているのです。
カイザー殿、スミレ殿。大丈夫ですのでお席について下さい」
流石シグレ! 上手いバトンだぞ。これで出やすくなったよ。
レニーのカバンからスミレと共にふわりと飛び出して、少々迷ったがそのまま座布団に降り立った。
「お初にお目にかかります。私はブレイブシャイン司令官であり、レニー・ヴァイオレットの機兵、カイザーです。本日はお招きいただき頂き誠にありがとうございます」
「私はスミレです。カイザーの戦術サポートAI……、ブレイブシャインの軍師です」
いくら場が温められたとはいえ、突然登場した俺達に驚くなと言われても無理な話。
シグレ父は驚いて固まってしまっているが、何だかこれも定番の流れになってしまったね。
シグレに肩を叩かれ、我に返った父上は咳払いをして自己紹介をはじめた。
「うむ、みっともない姿を見せてしまった。拙者はゲンリュウ・リーンバイル。
リーンバイル家当主であり、この地を治めるものだ。当家は古き時代に「王国」を名乗っていたが、今は変わった仕事をしている家に過ぎない。どうか、余り畏まらず接してもらえると有り難い」
そして、このタイミングを待っていたかのように女中さんが襖を開き、シズルともうひとり女性が入ってきた。
そういう演出なのか作法なのかわからないけれど、どうやらゲンリュウさんの自己紹介が終わるまで廊下で待機していたようだ。
「うむ、来たか。これは拙者の妻、タマキ・リーンバイルだ。タマキ、挨拶を」
「はい、私はタマキ・リーンバイルです。シグレちゃんと仲良くしてくださり有難うございます。どうか、私のことも『たまちゃん』と気軽に呼んでくださいね」
にっこりと小首をかしげながら放たれた力が抜ける自己紹介に我々は思わずひっくり返ってしまった。
……なんだかまた強烈な母上が出てきたな……。
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