第百八十三話 報告
他国から人が来ることが無いリーンバイルにおいて、宿屋と呼べるものはミヤコであっても1件しか無いらしい。
その宿もまた、島内の村からやってくる行商人等が使う粗末な物であると、ルナーサの宿と比べられると恥ずかしいと、シグレは言けれども、泊まる場所があるだけありがたいよね。
流石に街の中じゃおうちを出せないし、その為だけに外に出るのもなんだかあれだしさ。
シズルの案内で向かった宿『はまぎく』にチェックインしたところでシズル・シグレ兄妹とは一時お別れだ。
シグレ兄妹とガア助は先に屋敷に戻り、旅の報告と俺達のアポを取ってくれるらしい。
その間は好きに街を見ていてくれということで、あとの連絡はインカムですることにして俺達は街に向かった。
ちなみに宿の料金やこれから街で使う事になるだろう軍資金なのだが……。
長きにわたって外界との交流を断っているリーンバイルなので、当然大陸とは通貨が異なっている。
従ってあちらで調達した貨幣を使う事は出来ないのだが、リーンバイル家は『家の仕事』で大陸に行くことがあるため、あちらのお金も必要なのだと金貨5枚分をシズルが両替してくれた。
両替によって得られた貨幣は……まあ、予想通りと言えばそうなのだけれども小判5枚で、このままでは使いにくかろうとシグレがシズルを叩き、うち小判2枚を大量の穴が開いた貨幣や四角い金貨の様な物に変えてくれた。
……うん、刻まれている文字は流石に違うけれど、これは時代劇で見るアレそのままだよね。
というわけで、軍資金もばっちり得らた我々は、安心をして街歩きを楽しんでいるのだが……なんだかんだ言いたいことはたくさんあるけど、やっぱりこの
この島は機兵の数が少なく、一般人が乗れる様な物ではないらしい。
この島における機兵とは街を収めるリーンバイル家に雇われ魔獣を狩る者や、土木作業をする者等が使用する物であり、街の人々からすれば『お上の乗物』という印象が強いようだ。
なので、我々がぞろぞろと来ることをシズルが渋ったというか、気にしてくれたのだろうと思う。
そしてそんな文化を持つ街なので、その造りもそれに合わせた作り……というか、
しかし今の俺にはこの身体がある。おかげで同行することが出来ているってわけだ!
そしてパイロット達と共に街歩きが出来る喜びを噛みしめているのは俺だけではない。
今回勝利をもぎ取ったオルやろーちゃんもそうで、それぞれのパイロットに抱っこされ嬉しそうにあれやこれやと楽し気にお話をしている。
……先程から視線が痛い。
誰の視線か? レニーからの熱い視線だ。
「……だめだ。う、馬にはならないぞ……」
「えーーー! 私だけ妖精人形を二つ肩に乗せた変な子みたいじゃないですか! せめてカイザーさんが馬になってくれればあまり目立たないのに!」
そうは言われても譲れないものは譲れないのだ……あの体には制約があるから……と、さっそく良さそうな店が見えてきたぞ。
「まあまあ、レニー。落ち着いてくれ。ほら、あの屋台が見えるか?
あそこで売っている変わった串焼きをみてよ、アレは恐らく凄まじく美味いぞ」
店の親父がパタパタとうちわで炭を扇いでいる。
焼かれている商品からじゅわっと溢れ出た脂がタレと共に炭に落ち、わっと甘辛い香りが辺りに漂って……それの直撃を喰らった乙女軍団の腹をグウと鳴かせる。
「う……確かにあれは当たりの香り……」
フラフラと屋台に吸い込まれる乙女軍団。売っているのは恐らくウナギ……の様な魚の蒲焼だろう。もちろん、俺達ロボ軍団の分も1串買ってもらう。
屋台から少し離れた場所に座れる場所があったので腰掛けてさっそくいただく。
「美味い……な……」
「うわあ、ふわっとしてとろっとしておいひい……」
『ねえカイザー、これってウナギ? ウナギよね ?ウナギとしか思えないんだけど』
「ろーちゃん、お前よくウナギっぽいってわかったな。あの体じゃ食ったことがあるというわけでもあるまいに」
『ほら、パイロットとの共感覚ってやつよ。雫が好物だってよく食べていたからね……』
『美味しいねーこれ。ケンちゃんはあまりお金が無かったから駄菓子の奴を食ってたなー』
「オルにろーちゃん? あまりこぼさない様にしてくださいましね。カイザーさんほどではないにしろ、その身体は汚れが着きやすいのですから……」
そいや謙一はご飯にかば焼き的な駄菓子をのせて喰ってたっけな……うなぎだぜーって……謙一……ううっかわいそうな子……。
しかし俺が知らない設定が出てきたぞ。共感覚? 私の死後に追加された設定なのかな? 少なくとも設定資料にはそんな事は書いてなかったと思うけど……。
でもま、なんにせよだ。彼らと故郷の懐かしい味という共通の認識が出来たのは嬉しい誤算だね。ウナギのかば焼きに郷愁を感じるのは自分くらいのものだとばかり思っていたから。
「スミレ、ありがとうな」
「なんですか突然。思い当たる事が多すぎて何に感謝されているのかわかりませんよ」
「ふふ、全部だよ、全部」
◆◇シグレ◇◆
父上……頭領と会うのはいつ以来だろうか。私が命を受け帝国に潜り込んだのはもう2年も前か。
同胞が大陸で立ち上げたアサシンギルドの一員として帝国の依頼を受け、その傍ら帝国の情報を集める日々。
帝国の怪しげな企み……長らく肝心なところがわからなかったが、その最期の欠片を埋めてくれたのはレニー達の活躍が大きい。
当初は敵……いや、要注意監視対象として出会ったレニー。しかし彼女達の働きによって私の仕事は思いがけず早く終わることとなった。
レニーは、ブレイブシャインの皆は掛け替えのない友であり仲間だ。
私が握っている帝国の陰謀、それを父上に話せば事は大きく動き出すことだろう。
……すまない皆、面倒に巻き込んでしまうかも知れません……。
「頭領、シグレです。ただいま戻りました」
久々に訪れた頭領の部屋、その戸の前に座り、声を掛けると間もなく懐かしい声が聞こえた。
「うむ、入りなさい」
戸を開け中に入ると、多少白髪が増えたが変わらず力強い表情をした父上、頭領のゲンリュウがこちらをギロリと睨んでいた。
「受けた命、確かに達成致しました。こちらがその報告書です」
懐から出した紙束を頭領に手渡すと、1枚1枚じっくりと丁寧に目を通している。特に感情を変えること無く、声も出さぬので不安になるが、これこそが父上。読み終わるまで褒められるか叱られるかわからぬため昔からこの瞬間は心臓がいくつ遭っても足りぬと感じる。
そして一通り読み終わったのか、紙束を机に置き、こちらに向き直った。
「うむ、シグレよ。大儀であった。して、お主はこの件どう動けば良いと思う?」
「はい、奴らの動き、それは大陸は元よりこの島も巻き込むと予想されます。しかし、我らにはあれに抗う力はありません」
「うむ……。かつての大戦以後、我らに残された機兵は僅か。そしてそれらも本来の力を失って久しい」
「はい、そこで私は大陸で得た仲間と共にそれに挑もうと思います……いえ、彼女達にはまだこの事は話してはおりませぬが……」
「書に書いてあった者たちか。お主は彼女達をどう見る?」
「彼女達はまだ未熟。しかし、秘めた力はかなりのものです。そして私が心より友と慕えるほど何者にも流されず、真っ直ぐな心を持っていると思います」
ここまで聞いた父上の表情が一際厳しいものに変わる。
「……シグレ、これは頭領ではなく父として問う。お主は友を戦いに巻き込むことを善しとするか?」
「いえ、それは本意ではありません。しかし、私一人黙って彼女達から離れ、大敵に挑むと後から知られれば……きっと怒らせ、悲しませてしまう事となりましょう」
「ならば、お主はどうしたい」
「はい、許されるのであれば、彼女達にも話を聞いてもらい、そして手を取ってくれると言うのであれば共に技を磨き、来るべき時に備えたく思います」
私を押し付けるかのような圧が弱まったのを感じる。
同時に父上の表情がスッと柔らかなものに変わった。
「成程な、シグレも良い友を得たのだな。よし、まずは彼女達と一席設けて……いや、カイザーなる彼女達を統べる不思議な機兵が居るということだな、であれば演習場で……」
「いえ、それには及びません。今のカイザー殿は少々特別な身体を使っていますので、屋敷内に呼ぶことも可能でしょう。
それで、出来れば少量で構いませんので追加で4人分料理を用意していただければと思います」
「良くわからぬが、シグレがそういうのであれば用意させよう。では、夕刻ここに彼らを案内するように」
「はい、わかりましたそのように」
……はあ、緊張した。普段の父上は優しいけど、頭領の時は別ですからね……。
ともあれ、まずはなんとかなったと言うべきか。
ブレイブシャインの皆に迷惑をかけてしまう事になるかも知れないけれど……いやいや、今はうじうじしてる場合ではござらんな。
まずはみんなに連絡をとらないと。
「カイザー殿でござるか……あ! えっと、カイザー殿ですか? ええ、頭領が会うそうです。夕刻に迎えに上がりますので、宿で待っていて下さい。
それで、一席設けるようなので、宿の食事は断って置いてもらえると……ええ? 屋台で沢山食べている……? えっと、お腹をすかせておいてくださいますよう……はい、はい、わかりました。ではまた夕刻に」
はあ……さすがブレイブシャインですね。
街に出て真っ先に屋台制覇にかかるとは……。
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