第百八十二話 いざ街へ
機体から地上に降り立ち、ぐっと身体を伸ばすパイロット達。
中でも一番念入りに体をほぐしていたのはシズルだ。
待機場所からここまではそれほど時間が掛からなかったけれど、それでも椅子もない場所にゴロゴロと転がされていたのだからそうなるのは仕方がないよな……。
「しかし……はじめてその姿を見たが、随分と大きな機兵でござるなあ……」
外側から初めて
単体でも8m前後と、ハンター達が乗っている機体よりは大分大きい。黒騎士や防衛軍機等の人型機兵でようやく同じくらいかな。
さらに現在、俺達は合体してシャインカイザーになっている。
背丈は更に増えて14m程度。その大きさに驚くのは当たり前のことだった。
「大きいのは当然だ。俺達は合体しているからね」
スミレの意地悪で妖精体の声のままシャインカイザーで話すとシズルが腰を抜かす。
「な、なな、なるほど、あの麗しき身体をその大きな御身に収めて居るのでござるな?」
逆だよ、逆! そう突っ込みたくなるけれど、スミレから『ネタバレするな』と怒られそうなのでまだそれには答えず黙っておく。
だから別の方面から、さらなるドッキリをお見舞いする方向でその誤りを正すことにした。
「いや、今言ったようにこの大きさは合体によって実現しているんだよ。
今から分離して見せるから、驚かず見ていてくれ」
観客が居るので、軽く『モード:シャインカイザー:解除!』と其れらしい台詞と共に分離をしてみせる。
大きな体がわざとらしく一瞬輝き、分離した各機が四散する。それを見たシズルは「壊れた!?」と驚いていたけれど、それぞれの
今にも倒れそうなシズルにとどめを刺したのはガア助だ。
シズルからすれば見慣れぬ黒い機兵、それが搭乗者がいる様子もないのにシズルに向かって歩いていく。
「な、か、カイザー殿? 黒い機兵がこちらに向かって来るのですが、一体……何でござるか? まだ誰か拙者の知らぬ者が? ま、まさかシグレ、お主……兄を謀って……」
謀ってない謀ってない。
そんなシズルの様子をシグレはスミレと共にニヤニヤとした顔で静観している。
ううむ、シグレのこの……意地悪な表情はレアだ……。
身内の前では素が出るんだろうか。この島ではいろんなシグレを見られそうだね。
そして、ゆっくりとシズルに向かっていたガア助がシズルの前に到着すると、ニヤリと笑みを浮かべて話しかける。
「はっはっは、中々愉快な姿を見せてもらったでござるよ」
その聞き慣れているであろう声を聞いたシズルは驚いて顔を上げた。
「まさか……お主ガア助なのでござるか?」
「まさかも何も……ああ、この姿じゃわかりませぬか。まったくシズルは察しの悪い……」
わざとらしくそう言うと、ガア助は幻獣モードに変形する。
勿論その形態はシズルが「ガア助」と認識出来る見慣れたもの。
大きな鳥型の魔獣とも言えるその形態に変わったガア助を見たシズルは驚くより先に嬉しさがこみ上げてきたようだった。
「おお、本当にガア助なのでござるな! 久しいな! 見違えたな!」
「ははは、ガア助でござるよ。シズルは変わらず息災で馬鹿にござるなあ」
シグレはガア助と兄弟同様に育ったと言っていた。その兄であるシズルとガア助もまた同様に、兄弟のように、友のように育ったのであろうな。
ガア助からの扱いも若干酷いのが気になるけれど、シズルはまあ……そういうキャラなのだろうなと思えば……納得がいく。
さてと。上陸を済ませたけれど、いつまでもここでのんびりして居るわけにはいかないよね。我々をお迎えに来てくださったシズル殿の指示を仰がねば。
「見ての通り我々は4機の機兵を持つ大所帯だ。シグレとガア助の件で頭領にお目通りしたいわけだが……これからどうすればよいか教えてくれないか」
「そうでござるな……ここは屋敷がある街からやや離れた場所でござる。
馬車なら3時間程度の距離でござるが、皆さま機兵に乗っていますからな、同程度の時間で着くとは思うでござる……しかし、いきなり街に見慣れぬ機兵が入るというのも問題が無いわけでは無くてですな……」
この島と言うか国は長い間、外部から人が訪れることが無かった場所だ。
だから見慣れぬ機兵がうろついてしまえば、街の人達を無駄に怯えさせてしまう事になるとシズルは言う。
確かにそれはその通りだよね。1機ならまだしも4機もずらずらと行ったらば侵略かしらと思うかもしれない。
ロボがぞろぞろと行くのは不味い、かといって単なる演習場でしかないこの場所には馬車は勿論、それを引く馬なんて物もいない。
かといって徒歩となれば道にもよるけど4~6時間はかかりそう。
鍛えている乙女軍団であればそれくらい踏破しそうだけれども、流石になー。
……まあ、こんな時のための策が無いわけじゃあないけどね。
「であれば……僚機達はここに置かせてもらって、我々は馬車で街まで行くというのはどうかな」
「機兵をここに置くというのは問題ないでござるが、馬車でござるか……。
ならば、使いの鳥を呼び、こちらまで迎えを呼びましょう。
時間が掛かかります故、申し訳ないが今日はここで野営ということになりますが……」
と、シズルが鳥を喚ぶのに使うであろう笛を取り出す。
それに口を当て音を出そうとした所で
「迎えは不要、馬車ならここに有るからね」
馬車モードに変形し、馬部分で話しかけてやったらポロリと笛を落として、あんぐりとこちらを見上げたかと思ったら、よろよろとこちらに歩み寄って震える声を出した。
「か、カイザー殿は……一体どの姿が真でござるか……」
「……しいて言えば全部かな……」
というわけで、ウロボロス、オルトロスの2機はとりあえずお留守番。
パイロット達とシズルは俺に乗り込み、ヤタガラスは
ガア助は街の人々からも慕われているらしいからね。幻獣形態であれば単なる里帰りとして堂々と行動できちゃうわけだ。
練習場から街までの道はきちんと綺麗に整備されている。これなら街まで1時間程度で到着できそうだ。
束の間の馬車の旅をガタゴトと楽しんでもらう。
「はあ、しかしカイザー殿には驚かされてばかりです。この馬車もまた凄いですな、まったく尻が痛くないでござるよ。尻の馬車は石畳の上を走ると尻が痛くて痛くて……」
感心した顔で言うシズルの頭を隣からシグレが叩く。
「兄上、恥ずかしいので少し口を閉じていてはくれませぬか? 息もしてはいけませんよ」
「シグレ……なんだか旅に出て少々厳しくなったのではないか? まるで母上のようでござるよ……グフッ」
バシン、ともう1発。
妹というのは得てして兄より強いものだ。
すっかりおとなしくなってしまったシズルを見て笑う者が2匹。
『面白いね~ロスにも今度やってみようかな~? ぺしって』
『そうね、ウーちゃんも調子に乗りがちだから参考になるわ』
オルトロスとウロボロスが半分ずつついてきているのだ。
留守番と聞いても、我々ロボ軍団にとってはいつもの事なので特に文句をいうこともなく従った2機だったのだが……。
彼女がマシューと共にひっそりと作っていた
奇しくも勝負に買ったのはどちらも女性型の方。やたらと女ばかりのパーティになってしまったが、これでシズルがメンバーであればハーレムパーティと言われてしまっても仕方がないな。
……まあ、その当人はかなり居心地が悪そうにしているが。
せめて俺がカイザー本来の声で会話をしてやれば彼の気も紛れるのだろうと思うのだが、相変わらずスミレからは「まだそのままでいて下さい」と固く禁じられている。
その制限が今回の件に絡む何かの作戦ではないのは明らかだ。
シズルから滲み出るいじられキャラオーラがスミレをそうさせているのだろうと俺は確信している。
シズル……君にはシンパシーを感じるよ……後で一緒に呑みに行こうな……。
ガタゴトと道を進みながら周囲の様子をチェックしているが、やはり大陸とは植生がかなり違うようだ。
データからもわかっていたけれど、大陸よりも気候が温暖で、生えている植物もまた地球の温暖な土地で見られるものと似たものが茂っている。
それに集まる虫や小鳥たちも鮮やかでゴージャスな色彩をしていて、南国と言う単語が頭をよぎる。
位置的には大陸から北東部にあるので、南国と言うよりもこの手の世界にトンデモニッポン的な国として登場しがちな「極東の島国」と呼んだ方が正しいと思うけどね。
「予想はしていたが大陸とは随分と景色が違うな」
「そうなのですか。恥ずかしながら拙者は未だ島外に出たことがありません。シグレの様に影の才能が無いのですよ」
「……兄上は知略に長けているでは有りませぬか。次期頭領として大人しく島に篭って居れば良いのです。文官仕事をしている時だけはまともですからな」
「こんな具合で島外に出しては貰えぬため、大陸について興味が尽きないのですよ。
折角の機会でござる、大陸は一体どの様な場所なのか是非ご教示くだされ」
島について……特に魔獣について聞こうと思ったのに、逆に大陸の話をすることになってしまった。
まあいいかと話そうとした所で、はて、何を話したらよいのだろうと悩んでしまった。
スミレから『これまでの事をざっくりと話せばいいんですよ』と助言され、なるほどそうかと、レニーとの出会いからザックリと、それでいて面白おかしく話してやった。
その合間にレニーやミシェルから生物や文化、マシューとシグレからは美味い食べ物についての注釈が入り、シズルの好奇心を満足させることが出来た。
その流れで、島内に棲む魔獣の話を聞くことが出来たのだが、概ね事情は大陸と変わらない感じで、最近は海棲魔獣の被害が多いのだとうんざりした顔で話してくれた。
なんでも甲殻類型の魔獣がしばしば浜に上陸しては桶をかぶって盗んでいくのだという。
それはきっとヤドカリタイプの魔獣なんだろうな……被害が出ているという話なので笑ってしまってはいけないのだけれども、なんだか想像してしまったら微笑ましく思えてしまった。
折角来たのだから、パイロット達の訓練として島の魔獣を討伐するのも悪くはないね。
と、話が一段落する頃に視界に大きな門が飛び込んできた。
紅く塗られた木製の巨大な門には扉はなく、そこから奥に300m程進んだ所に外壁と共にもう一つ扉がついた立派な門が見える。
なぜ、二重に門を……と、よく見て気がついた……外側のこれは門ではない。
……鳥居だな。
「シズル、この赤い門はもしかして神に関わる物か?」
俺の質問にシズルとシグレが驚いた顔をする。
「良くわかりましたな。これは太陽の神が与えてくださる加護を街に留めるための鳥居です。鳥居の内側には敵意有る者は入れぬため、我々にとって大切なものなのですよ」
なるほど、理屈はわからん鳥居を使って
うおお! 中々浪漫あふれる国ではないか!
そして鳥居をくぐり、我々は門前に到着して馬車を止めた。
門番と思われる男とシズルが一言二言交わすと、扉が開かれ我々は中へ通された。
「皆様、おつかされ様でした。リーンバイル随一の街『ミヤコ』へようこそ」
シグレの口を手で押さえつけながらシズルが笑顔で言った。
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