第百七十一話 輝力の導き
現在我々ブレイブシャインは、広大な穀倉地帯を眼下に納めながらフロッガイを目指し飛行中だ。
金色に輝く麦と思われる穀物が風に吹かれ、キラキラと輝きながら揺れている。
なんだか有名な劇場アニメのこれまた有名過ぎるあのシーンのようで……思わず録画してしまった。
「わあ、オグニムギが綺麗ですねえ」
「知っているのかレニー」
「勿論! オグニムギはオグーニの特産物で、ふっくらとして甘みがあるパンの原料になるんです。その代わり普通の麦とは違って年に一度、秋にしか収穫が出来ないんですよー」
「へえ、さすがレニー、参考になったよ、ありがとうな」
「えっへっへー」
そうか、もう秋なんだなあ。
言われてみれば朝晩の気温がここの所低下していた。
この身体だと、外気温などただのデータにしか過ぎないため、暑さ寒さという情緒には縁が無く、季節の移り変わりに気づくことが出来なかった……なんだかちょっとさみしいな。
ううん、冬が来るとまた色々と面倒だろうし、寒くなる前に一段落つけて春までのんびりと過したいものだな。
……
…
やがて広大な穀倉地帯も終わりを迎え、眼下の景色が原野や林に切り替わる。
地表を軽くスキャンしながら飛行していると、時折村や街があったと思われる場所が確認できる。
大戦前は今よりもっと村や街があったのだろう、大噴火以前はさらにもっと多くの――なんて考えると、その時代に、真に剣と魔法のファンタジーな世界だった頃に世の中を見て回れなかったことが残念に思えた。
機兵文化以前の姿を知っているだろうウロボロスから後で色々話を聞いてみるのも楽しそうだな。ある意味この世界を変貌させた犯人でもあるのだから、嫌と言っても聞かせてもらうんだ。
「お、あれフロッガイじゃないか?」
「ですわね、こうして空から眺めるとまた格別ですわ」
どうやら思った以上に速度が出ていたようだ。まさか今日の内にフロッガイまで到着してしまうとはな。
「ではいつも通り目立たない場所に着陸……したいが、流石に難しいか」
「仕方が有りません。最低限着陸に気づかれない場所をマークしました。シグレ、お願いしますね」
「はい、スミレさん」
フロッガイに向かう中央街道からやや離れた場所を目指して高度を下げる。
流石にフロッガイともなれば多くの人間がひっきりなしにやってくる。
なので光学迷彩――透明化出来なければとてもじゃないが着陸することなんて出来ない……っと、危ない危ない。
「シグレ光学迷彩が解けているぞ。透明化してくれ」
「おっと、いつの間にか効果時間が過ぎていたようですね。それでは改めましてリーン忍術 清澄!」
シグレが謎のかけ声と共に輝力を込めると、再び機体がゆっくりと透明になっていく。
透明化は便利だけど、アニメの都合上か、謎の時間制限があるからね……。
しかし……忍術か。
俺達の操作や制御にはイメージ力が大きく関わってくる。
コンソールという名のバランスボールの頭だけ出ているような球状の物に手を置き、動作をイメージすることによりパイロットと俺達は一体化して戦う事が出来る。
そして何か機能を使おうとする時もそれは同様で、コンソールに手をおいてイメージすることによって操作を実現するのだけれども……光学迷彩も勿論そうで、始めのうちは『透明透明透明……』とブツブツ呟いて起動させていたのに……気づいたら謎の忍術にされていた。
以前よりも起動が早いし、そういうのも嫌いではないから文句を言うつもりはないけれど……にしても忍術て。
ガア助のござるもそうだけれども、トンデモジャパンと言いたくなるような……何処か日本に近くて同じではないような文化がこの世界にもあるのだろうか。
……まさか神様……俺の記憶から情報を得てふとした悪戯心でリーンバイルになにかお板をしたのではあるまいな……。
まさかね……うん、まさか……ねえ?
なんて益体も無い事を考えているうちに機体は着陸態勢に入っていた。
間もなくして谷間への着陸は無事に完了し、続いて機体の分離も完了。
数時間ぶりに別れた機体達がそれぞれ背伸びをしているが……それは機体から降りてパイロットがやらなければ意味がないのでは……。
『気分的なもんだよ! 気分的なさ!』
「ありゃ、声に出てたか」
「カイザーさんはたまにポロッと口に出しちゃってますからね」
うええ、気をつけないと。
しかし、ロボに乗ったまま背伸びて。ある意味機体と同調出来ていると言えるのかも知れないけれど、まったく面白い事をする連中だよ。
……俺もパイロットだったらやってたかもしれないけれどね。
谷から出て街道に向うと商人達がびっくりした顔でこちらを見ていた。
盗賊か何かかと思われても嫌だと、パイロット達が俺達に手を振らせて友好的であるとアピールをしている。まあ、普通に考えてあんな場所から出てくるなんてろくな連中じゃないだろうからな……。
「たまげたなあ……なんだってあんた達あんな街道を外れたところから……?
あそこにゃ何もねえし、ハンターでも近寄らないのに、一体どうしてまた。
ちょうど暇だったんだ、なあ、何をしてたか参考までに教えてくれないかね」
なんだか俺達の事が気になって仕方がないオーラを放つ商人のおじさんがこちらの機体をジロジロと不躾に眺めながら言っている……怪しいのはわかるけど、なんかめんどくさいな、この人。
さて、どうしたものかと思っていると……おおっとミシェルがウロボロスのハッチを開けたぞ。中から女の子が顔を出すとは思っていなかったのだろうな、おじさんがびっくりして目をむいている。
動揺した相手であっても容赦がないのがうちのミシェルさんだ。
すかさず相手に向かって対人
「……わたくし達が何をしていたかですか? それを答えさせるのですね……潔白を晴らすためですから、仕方が有りませんわね。
わたくし達パーティーは女性だけで構成されたパーティーですの。それが、街道から離れた場所から、現れる。わかりますか? もしかして、この続きまで女性であるわたくしの口から言わせるつもりですか?」
こんな事を言われたおじさんはたまらない。
勝手にあれやこれや想像をしてしまい、気まずそうな顔になっているし、周りの仲間達から白い目で見られている。
言ってしまえばセクハラの押し売りのような真似をミシェルはやらかしたのだけれども、なんかちょっぴり嫌な感じのおじさんだったからよくやったと褒めておきたい。
「あ、ああ……! あの、その、なんだ、うっと、いやその……す、すまん、悪いことを聞いてしまった!」
「商人たる者、相手が何者かわかるまで余計な事を口走らない、肝に銘じておくことですわね」
ちょっとした好奇心から振ったつもりの世間話でお説教をされてしまった。
そんな商人を思うと気の毒に感じるが、まあ今回は自業自得ということで……ね?
妙なプチ騒動はあったけれど、以後は特に問題が怒ることもなく。
すんなりとフロッガイに到着したけれど、今回は寄らずにそのままフラウフィールドに抜けルナーサ入りを果たした。
ザックの顔を見たり休憩を取ったりしたかったけれど、そのザックと遭遇するとまたなんやかんやで時間がつぶれてしまいそうだったし、イーヘイで思いがけず予想以上に食料を調達できてしまっていたため、今回はこのまま双子の街、両方をスルーしてそのまま先に進んでしまうことにした。
今度こそフラウフィールドに寄りたかったけれど、今回も急ぐ旅だからね……しかたない、しかたないんだ。
それぞれがやや後ろ髪を引かれる思いでフラウフィールドを後にした……。
「はー、今更言うのもなんだけどさ、甘い物を買い足しておくべきだったかなー」
「ったく、レニーは好きな食べ物も詰めもあめえよなあ。あたいはしっかりイーヘイで……あれ、肉の在庫が……しまった……魚介に夢中で肉を忘れてたぞ……」
「ならば甘味も肉もサウザンで買い足して行くのはどうでしょうか」
「そうですね、ロップリングは補給をするには少々頼りないし、サウザンなら位置的にも寄りやすそうですわ。どうでしょう、カイザーさん」
「そうだね、サウザンならゲンベーラに着陸すれば問題なく寄れるだろうね。
じゃあ明日はサウザンで補給をしつつ折角だし一泊宿を取ることにしようか。
それ以降はリーンバイルまで気が休まる暇が無いだろうからね」
コンソールを通してレニーの輝力が上昇するのを感じる……これはやる気が急上昇したのだろうな。
各機のデータを見ると、他のパイロット達も同様に今の会話後に輝力の上昇が確認できた……やれやれわかりやすい連中だよね、乙女軍団はさ。
……
…
何事もなくサウザンを目指せる……と思ったのだが……フラウフィールドを出た後が大変だった。
何が起きたと言うか、何も起きては居ないのだけれども、純粋に列を成して歩く商隊があまりにも多すぎて目立つような真似が出来ないんだ。
越して行こうにも、結構な長さで商隊が連なっているから敵わない。
これではいつまで経っても街道から脇にそれることが出来ない……。
暫くの間、商隊に合わせてのんびりと歩みを進め、このままではルートリィまで徒歩になるなと諦めかけた時……契機が訪れた。
ゲンベーラからはぐれて来たのであろう、大きな虎型の魔獣、ワット・ティーガが現れたのだ。
慌てる商隊の前に華麗に登場した我々は、
驚異が去りゆき胸をなでおろす商隊達に向かってレニーがトドメの一言を放った。
「奴は手負いです。このままではヤケになってこの辺りで無差別に暴れる危険性があります。
しかし、安心して下さい! 私達はブレイブシャイン!
既に仲間たちが奴の後を追っています、皆さんはどうか、安心して先を急いで下さい! 貴方がたの荷を待つ人達が居るのだから!」
やや演技がかった声で雄弁に語る語る。
「おお……ブレイブシャインと言うとパインウィードの……」
「見慣れない機兵だと思ったらファーストか! だったら安心だな」
「では、我々は奴を追うので失礼! ……貴方がたに輝力の導きがあらんことを!」
いらん決め台詞まで言い放ち、先行するマシュー達を追って森に向かう。
スミレは何かがツボにはまったのか、珍しくコンパネの上で笑い転げている。
「レ、レニー……よくやりました……れ、練習していたのですね」
「ちょ、お姉ちゃん! そんな笑わなくても……ちょっとアレのマネをしてみただけだよ……」
アレとは恐らくアニメのことだ。しかし、あんなセリフは微塵も出てこない。
がっつりと影響を受けたレニーが自分なりに解釈したかっこいいセリフがアレなのだろうな。
スミレはそれに気付いて大笑いしている……ということか。
しかし……輝力の導きがあらんことをって……レニーそれはあれだよ、アニメじゃなくて洋画だよ……ジャンルはまあ遠くはないけれど、くくく、導きて……どこの騎士だよ……いかん、ジワるこれ。
「はあはあ……ああ、もうレニーは……こほん。どうやら目標は無事森に追い立てられ討伐されたようです」
「うん……ちょっと気の毒な気もするけど、レニーの演説は強ち嘘にはならないだろうからね。手負いのまま放置してしまえば余計な被害を生むことになりそうだし」
「そ、そうですね……で、でも輝力の……みちっびきが……うふっ…ありますから……」
「お姉ちゃん!!」
「す、すみれ、かんべんしてくれえ……くくく……」
「もー! カイザーさんまで!」
「あはははは、悪いレニー……カッコイイセリフなんだがその……妙にツボってしまって……」
こうして……暫くの間ブレイブシャイン内で「輝力の導きがあらんことを」がブームとなったのだが……レニーが暫くの間機嫌を損ねていたのは言うまでもなかろう。。
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