第百七十話 進路を東に

本日は出発の日。


 早朝、街の門が開放されると同時に俺達はイーヘイを去った。機兵と人が調和した街作りは居心地が良く、もっと長く滞在していたくなってしまったけれど、まだまだ我々には仕事が残っている。いつかまた、ゆっくりと遊びに来ようじゃ無いか。


 外に出る側の通路は早朝だという事で空いていたけれど、門を潜ってみれば、昨夜から並び続けていたのだろう人達がずらりと居て、予想はしていたけれどびっくりしてしまった。


 眠たげな顔でこちらを見る人達の脇を通り抜け、我々ブレイブシャインは街道を急ぐ。 暫くの間はゆっくりと走っていたが、街道が空き始めた頃を見計らって速度を上げ、周囲に人気がなくなった所で街道を離れた。


 人型に変形し、道なき道を暫く移動した後、周囲に生体反応がないことを確認し4機合体をして空へと飛び上がる。


 空に飛び上がってしまえば透明化出来るので目撃されることはない。

 けれど、油断は禁物だ。この機能は本当に透明になっているわけではなく、あくまでも光学迷彩であり、周囲に溶け込み見つかりにくくなっているだけだ。


 なので目が良い者がじっと見つめれば違和感を覚えて『何かがいる』と疑いを持つだろうし、そもそも30分という時間制限があるんだ。


 わざわざ帝国の目を気にしてロップリングから飛び立とうとしている理由はその辺りにある。


 相手は俺達が飛べることを知らないだろうし、さらに飛行中に限って透明化出来るなんてことも知らないとは思う。


 けれど、奴らはガア助の事を知っている。

 空を飛ぶ事ができる存在が居る、周囲に溶け込む事ができる存在が居る。

 その機能には制限があり、長く透明のままで居ることは出来ない……。


 どこまで知っているかどうかはわからないけれど、ガア助を知っていれば同様の存在が他にも居るのではと疑うくらいのことはしそうなもの。

 考えすぎなのかもしれないけれど、用心をするに越したことはないからね。


 だから光学迷彩によって認識されにくくはなっているけれど、その上でなるべく見つかリにくいルートを飛んでいくのである。


 その飛行ルートだけれども、元々道という物が存在しない空を移動する以上、街道に沿って飛ぶと言う律儀な真似はしない。

 

 本日はリバウッドの南にあるオグーニ手前を目指して飛行している。


 イーヘイから真っ直ぐ東に向かった所に位置するオグーニはトリバの穀物を担う大穀倉地帯だ。

 

 麦畑を始めとした広大な畑が延々と広がっているらしく、依頼が無くてもいつかは訪れてみたいと思っていた。

 

 残念ながら今回は飛行主体の移動をする都合上、街や村に立ち寄るのは最低限と決めているのでオグーニに寄ることは無い。


 けれど、上空から広大な穀倉地帯を見られるだろうからそれは楽しみにしているんだ。


「白き~胸の光ぃ~かーがーやくーとーきー」


 レニーの暢気な歌声が機内に響いている。

 これは真・勇者シャインカイザー1~13話までのオープニングテーマ「白き機神」だ。

 この間上映会を開いた際に気に入って覚えてしまったらしい……。


「いくぜー!「いくぜー!」

「あーつーき「血潮!」

「もーやーせ「命ぃ!」


 レニーの唄にマシューがコーラス?を入れるものだから賑やかと言うレベルでは無い。

 普段であればこの手の流れを止めるはずのミシェルもまた、ノリノリで合唱しはじめてしまったものだから止まらない。


 ただ一人、シグレだけ真面目な顔で飛行ユニットヤタガラスの制御に集中している。


「すまんなシグレ、煩いだろう?」


「いえいえ、みんなの歌のおかげで気が休まりますよ。飛行は緊張しますから寧ろ有りがたいです」


 遠慮して我慢でもしてるのだろうと思ったが、よく見れば膝でリズムを取り、時折鼻歌まで歌っていた。


 シャインカイザーは思った以上に乙女軍団を侵食してしまったらしい……。



 わいわいと賑やかなおかげか、時間はあっという間に過ぎ去っていき、気づけば遠くにぼんやりと穀倉地帯が見えてきた。


 予定より一時間ばかり早いが、このまま進んでしまうと穀倉地帯のど真ん中に降りることとなってしまう。流石にそれは避けたいと言うか、不味いのでさっさと着陸してしまうことにした。


「スミレ、予定よりもだいぶ早いが付近の地形を探ってくれ。着陸用意だ」


 スミレにお願いをして周囲を探って貰うと、間もなく良さげなポイントを見つけたようで得意げな声で報告をしてくれた。


「良い具合の谷間がありますね。そこそこの深さがあるため人はまず近寄らないと思います」


「ようし、と言うわけで少々速いが今日はこの先に有る谷で野営をするぞ」


 俺の発言は乙女軍団を大いに沸かせることとなった。

 野営を心待ちにするほど疲れていたのだろうか、そう思っていたのだが……。


 何時もに増してテキパキとおうちや風呂の設置をし、入浴と洗濯を済ませた乙女軍団は随分とはやめの夕食を摂っていた。


 野営においてここまでキビキビと動く乙女軍団は見たことが無かったため、何事だろうかと逆に心配になったのだが、間もなくその謎が解けることとなった。


「よし! 今日やることはおしまい! ほら、カイザーさん!」


「へぁ? ほ、ほらってなんだ?」


「何レニーみたいな声出してんだよ! アレだよ! アレ!」


「アレ……とは……」


「もう! お忘れですの? アレの続き!」

「ガア助が出たところで終わったままではありませぬか!」


「カイザー、アレですよ。アニメの貴方を見たいのですよ彼女たちは」


「あ、ああ! シャインカイザーを……なるほどそれでみんな張り切って……やれやれ、じゃあキリが良いところまでだからな」


 機内で随分盛り上がっていたからなあ。確かにあれを見ようと思えば場所を選ぶこととなる。

 スクリーンに投影する以上、あれは遠くからでも結構目立っちゃうはずだし、堂々と見れるとすれば人気が無いこう言う谷間で野営をする時くらいだろうな。


 ルナーサの格納庫でなら上映会を開いても良さそうだけど、あそこでのんびり出来るのはまだ先の話だしな。


「ほら、みんな待ってますよ。早く再生して上げて下さい」


 そういうスミレもまたソワソワと急かしている。彼女もまた見るのを楽しみにして居たのだろうね。

 スミレならデータを直に見れるはずだけど、きっとそう言う話では無いんだよね。

 みんなで一緒にワイワイと騒ぎながら見て、感想を言い合う。鑑賞会はそれを含めてこそなのだから。

 


 本日は前回の続き、第10話『噛み合わぬ心』から再生が始まった。

 パイロットが揃い、4機となって戦力が整ったに見えたカイザーチームだったが、個性的すぎる4人はそれぞれが主張をするため連携が上手くいかない。

 

 それでも3人の時はまだなんとか雫が抑えていたけれど、4人目として加入した自由奔放な迅が引き金となってとうとう破綻してしまったのだ。

 

 てんでバラバラの酷い戦いだったが、どうにか敵を撃退することは出来た。

 けれどチームには微妙なギスギスが残ったまま10話が終わる。


「おいおい、こいつらアホかよ……仲間なんだろう? もっと仲良く出来ねえのか?」

「これじゃ……勝てる戦いも勝てませんわ……」

「兄上が引っ掻き回したのが悪いんですよ」

「でもさ、ジンが入る前から危うい所はあったよね……」

 

「な? この前の話、ヤタガラスの所で区切って置いて良かっただろ?

 前回ここで切ってたらお前達はモヤモヤしたまま今日まで待つ羽目になってたんだから……」


「確かに……って、わかってるならほら! カイザーさん早く次! 次のお話しを見せて!」

「そうですわ! 流石にこれで終わりじゃ怒りますわよ?」

「見せるまであたいは寝ねえからな!」

「カイザー殿……後生ですから……どうか、続きを……このままでは私は兄上を許せません」

 

「はいはい」


 話を聞いている感じでは、レニーを始め、皆一様に彼らが11話で仲直りをして解決となる、そう信じているようだけどそうはいかないんだよなあ。

 

 話数の都合なのか、スポンサー様の御意向なのかは分らないけれど、無駄にもう1話だらだらと引っ張るんだここ……当時は見ててかなりイライラしたっけなー。


 というわけで始まった11話。ドデカークの本拠地に潜入し、司令官ワーリオンを追い詰めたまでは良かったがワーリオンが乗るゲスンダーには連携が取れていない4機では敵うはずもなく、あっさりと負けてしまったのである。

 

 立ち上がることも出来ないカイザー達は突然ぱっくりと開いた床に反応することが出来ず、そのまま奈落に落とされてしまった。


 その様子をいやらしい顔で見つめるワーリオンの笑い声で11話は終わった。


「……何ということ……カイザーチームが負けてしまったでござる……」

「シグレ……ガア助みたいになってるぞ……」

「どうして? ねえ、カイザーさん。どうしてカイザーさんはあそこで合体出来なかったの!?」

「そうですわ! あそこでシャインカイザーになっていればゲスンダーなんて敵じゃありませんのに!」


「それを俺に言われてもな……ううん、展開を言うのは嫌だからボカして言うけどさ、龍也達がまだ気づけていないことがあるから……かな?」


「気づけていない事……? じゃあ、シャインカイザーになれるあたい達はそれを知っているのか?」

「知っているというか、君達にはあの時点での龍也達に勝っている物があるんだ。

 それがあいつらにはまだ足りない。とっても大切な事なんだけどね」


「なるほど、わかりましたわ……それはきっと――」


「おっと、ミシェルそこまでだ。賢い君は気づいたようだが、まだみんなピンと来ていないようだし、答え合わせは実際に見てのお楽しみということでね」


 12話は奈落の底での反省会から話が始まる。


『畜生……俺にもう少し力があれば……』

『龍也くん……貴方だけの力じゃ無理よ。それに貴方は前に出過ぎで……』

『うるせえぞ、雫。大体にしておめえがごちゃごちゃいうから俺だってなあ』

『やめなよ謙一。君だって俺の速度に着いてこれないじゃないか』

『なんだと! おう、迅。俺ぁ前からおめえのことが気に入らなかったんだ!』

『やめて! ねえ、龍也くん、二人を止めて!』

『ああ? やりてえならとことんやらせてやればいいじゃねえか! ああ、もううるっせえな、上等だ、俺も混ざってやらあ!』

 

 自らを責め、仲間を責め、芽生えかけていたチームの絆が完全に壊れかけてしまう。


 ここ3話の中でも一番の酷いシーンに乙女軍団達も言葉を失い、悲しげな顔で仲違いをし続けるカイザーチームを見つめている。


 誰がどう見てもこのあと待っているのはチームの破綻、完全なる敗北だ。


 しかし、この喧嘩が妙な方向で上手く作用してチームが真の絆で結ばれるのだ。

 

 合体に必要な物は何か、合体すると言うことがどう言うことなのか。

 このシーンはウチのパイロット達にも見せたかった重要なシーンだ。


ひとしきり大暴れをした男達は妙にやりきった顔をして床にへたり込み、その様子を呆れた顔で雫が眺めている。

 

『へっ……、勝てねえわけだよ、こんな俺達じゃ勝てるわけがねえ……これじゃあ俺達も連中と同類だぜ……』

『龍也くん? ちょっと今のは聞き捨てならないわよ。一体私達の何がドデカークと同類だというのよ』


『俺は……いや、俺達は自分以外を信頼しきれてねえんだ。自分の命は自分で守る、それに慣れきっちまって仲間に命を預けるって事が出来てなかった……合体つうのはよ、命を預け合う事……違うか?』

『はっ……! なるほど龍也に気づかされちまうたぁ……ムカつくが。確かにそうだ!

 カイザールナになった時に感じたあの感情、あれは確かに互いの心臓を握り有ってる感触だった』

『ふふふ……命を預ける……ね。それを思えば今の喧嘩は悪くなかったよね……魂と魂のぶつかり合いみたいでさ、なんだか君たちの心を身近に感じられた気がしたよ』 


『皇城……いや、迅! 俺の命……おめえに預けてえ……構わねえよな?』

『面倒くさい、面倒くさいねえ、君達は……。でも、嫌いじゃ無い……。いいよ、僕の命も龍也に預けてやろう。その代わりたっぷりサボらせてくれよな』


『ったく、龍也くんも謙一くんも迅くんも……男って単純でいいわね……』

『そういう雫もなんだかまんざらじゃねえツラしてんじゃねえか』

『う、うるさいわね! ほら! こんな所さっさと出るわよ!』

『ああ、雫。お前の命はしっかりと俺達が護ってやる。だからお前も……』

『もう、分かってるから……口に出さなくてもいいわよ……信頼させてね、龍也……』


 妙な所で昭和臭い演出を入れたがるシャインカイザーなのだけれども……ここに来て男臭い殴り合いからの和解という、わけのわからない展開をするんだ……けれど、私はこのシーンが好きで好きで……何度このシーンを見返したことか。


「おどごのごっで……いいでずねえ……」

「ああ、なんだかこう、何処の世界でも男共は下らねえけど……悪かねえよな……」

「殴り合いから深まる絆……理解するのは難しいですけれど、何故わたくしは泣いているのでしょう……」

「よがっだ……ほんどうによがっだでずねえ……」


 ……どうやら乙女軍団にとってもこのシーンはお気に入りになりそうだな。

 と感性が似ている子達でほんと嬉しいよ。この展開はちょっと賛否両論あったから……。

  

 こうして命を握り合う、互いを信頼し護り護り合うと決意を新たにした4人は無事に完全合体を成功させ、奈落から脱出する。

 

 そして迎えた1期最終話である13話『燃やせ魂の絆』でワーリオンが駆るゲスンダーの撃破は敵い、敵性宇宙人の組織、ドデカークは基地諸共崩壊するのであった。

 

「「「「輝く光が有る限り! 俺達の炎は消えないぜ!」」」」


 シャインカイザーを堪能した乙女軍団の心が一つになっている……!

 これは映画を見た後に主人公になりきってしまう例の現象だとおもうけれど、彼女たちにとってはリアリティがあるってレベルでは無いので浸食度がまた半端ない。


「キリが良いし今日はここまでだね」


「「「「「ええええ~!!!」」」」」

 

 スミレまで揃った綺麗な不満の声が響く。


「だめだだめ! 13話で丁度一区切りなんだよ。

 ドデカークだって滅びただろ? スッキリしたんだから今日はもういいじゃん。

 14話からはまた新しい話が始まるんだ、それを見ちゃったらまたキリが無くなっちゃうよ」


「え? 新しい話ということは……もうタツヤさんたちは出ないんですか?」


「いや、彼らは最後まで続投するぞ。わかりやすく俺達に当てはめるとだな、さっきの話は黒騎士との戦闘が終わった所だ。黒騎士が去って紅き尻尾に平和が戻ったけれど、俺達の旅は終わらずまだ続いているだろう?」


「そうだね、これからシグレちゃんち行ったりするんだもんね」


「龍也達も俺達同様にまた次の戦いが待っているんだ。それを少しでも観てみろ、しばらくの間続きが気になってしょうがないだろ」


「ううー確かにな! けれどそれを聞いちまったせいであたいはやっぱり気になるぞ!」

「う……すまん」

「そうですわ! そこまで聞かされて見られないなんて拷問ですわよ!」

「カイザー殿……どうか、人道的な対応を……」

「カイザー、わかってますね?」

 

 見せろ見せろと煩い乙女軍団に負け、14話を、この手の長期アニメにありがちな合間の話である「つかの間の平和回」を観せるはめになったが、2期の敵を匂わせる話は15話からなので、結果的に後を引かず、平和が戻った世界を見てスッキリ出来たようだった。


 元々この子達のチームワークや絆は立派なもんだから今更感はあるのだが、でもこうやって客観的に見せることによってさらなる成長に繋がってくれたら嬉しいな。


 神様がただの善意で俺に映像データをくれたとは考えにくいんだよね。

 

 きっとこうしてパイロット達を育てる教材にして欲しい、今後起こるなにかに備えて欲しいというメッセージなのではなかろうか、私の考えすぎなのかもしれないけれど、真・勇者シャインカイザーはきちんとみんなに見せておくべきだ、そう思うんだよね。


 ……絶対に睡眠時間を犠牲にさせるような真似はしないけどね。


 まだ少し物足りなさそうにする乙女軍団にスクリーンを片付けさせ、本日の上映会は閉幕となったのでありました。

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