第百六十八話 身に余る話
続いて説明したのはシグレに関する話だ。
彼女がガア助と呼び搭乗する機体が俺の僚機、ヤタガラスであること。
彼女がブレイブシャインに正式に加入するためにリーンバイルに渡り、実家にいるらしい両親の許可を得る必要があること……その辺りをざっくりと説明したのだが、顎に手を置き何かを考えるようにしていたギルマスは『まあ、結果的に俺の読み通りになったってわけだ』と、嬉しげに笑みを浮かべた。
「読みどおり……とは?」
「はあ? ああ、シグレはよ、言ってしまえばリーンバイルの姫様ってわけだよな」
「いえ……当家は確かにあの島を治めるリーンバイル家ではありますが、現在当家が統べるあの街は国と呼べるような立派なものではありませぬぞ」
「そうなのか?……まあ、でもそれはお前らの事情だ。俺達トリバやアズんとこ、ルナーサからしてみればリーンバイルはまだ存続しているし、あんたも姫にゃ変わりねえ。
……そうやって屁理屈をこねれば……うん、行けるな」
……全部聞こえているのだが。
ぶつぶつとつぶやいたギルマスは何か悪いことでも思い浮かべたような顔で俺たちを見渡している。
そして、うんうんと頷くと、無理に作ったような真面目な顔で言った……言いやがった。
「リーンバイル王国第一王女シグレ・リーンバイル姫殿下からの指名依頼、トリバからリーンバイルまでの護衛任務をブレイブシャインが非公式に受託したが、これはこれよりギルドを通した公式の依頼となる。
そして国交のない地域で行う依頼を受託するにはハンターズランク
「え、ちょ、ギル……」
何かを言いかけたマシューをわざとらしい咳払いで止め、ギルマスは言葉を続ける。
「で、紅き尻尾のメンバー
よりによって俺の国に秘密裏に潜入しやがり、国土を脅かしやがった帝国の猛者、黒騎士を撃退しやがるたぁ……予想すらしてなかったぜ。文句なしの
「いやいや、ちょっとまってくれ。あの戦いは撃退したとは言えなかった。どちらかと言えば相手がこちらを見逃してくれたようなもので……武器も取られてしまったし、その上逃してしまったのだから痛手を負ったのはこちらの方で……」
「ああ? 分かっちゃいねえようだから教えてやるけどよ、アレとやり合って耐えられんのはウチの連中でもリオくれえのもんだ。それも、生存できるかは怪しいとこよ
なあ、カイザー。確かにあんたら機神の性能ってのもあるのかもしれねえが、いい機兵に乗ってたって性能を腐らせてるボンボンはなんぼでも居るんだよ。
「それは……」
「さらに言えば俺は
お前らを
レニー達の様子を見ると、特に浮き足立った様子は無く何だか複雑そうな顔をして居る。
ついこの間まで昇格だ、昇格だと喜んでいたと言うのに。
言われるままに浮かれないのは非常に喜ばしいけれど、この話はどうするべきなんだろう……。
「レニー、お前はどう思う?」
「正直……私には勿体ない話だと思います。でも、それが無ければシグレちゃんの国に行けない、カイザーさんの武器を取り戻せないとなれば仕方が無いのかなって……」
「仕方が無い……か……」
「……それに、ランクが上がったからと言って下位の依頼を受けられなくなるわけではありませんからね。
ランクはランク、私達は私達で変わらず活動していけば良いんですよ。別に見せびらかすような真似をしなければ周りにはわからないわけですし」
「だな! まあ、ギルドから多少ゴタゴタめんどくせえ事も増えるかも知れねえが、そんときゃリーダーがなんとかしてくれるさ」
「ちょ、ちょっとマシュー?」
「ですわね。指名依頼は増えるかもしれませんが、暫くはレインズ様のお力で抑えていただける……んですよね?」
「がはは、ゴタゴタめんどくせえ事たぁ、おもしれえこと言うやつだな。
まあ、ミシェルが言う通り、暫くの間はお前らが動きやすいようにしてやるよ」
「なんだか……私のせいでとんでもないことに……」
「何言ってるのシグレちゃん。これはもう私達全員の問題なんだよ。だからそんな顔しないで欲しいな」
「レニー殿……」
「まあなんだ、多少目立つ様になるだろうがそれは悪いことばかりじゃねえぞ?
なあ、カイザー。おめえさんもそろそろ動きやすくしてえんだろ?」
「それを言われると……まあそうなんだが……」
「うし、お前らごちゃごちゃ言いやがって話が進まねえからギルマス権限でお前らもう昇格な! じゃ、次!リーンバイルまでの行程だが……」
「え、ちょ、ギルマス……」
「うるせえ、レニー! 俺が決めたらもう決定なんだよ。ほら、次だ次」
「諦めてくださいな、レニー……レインズ様は昔から強引ですの……」
「うう……覚悟は決めたから良いんだけど……モヤッとするなあ」
なんだか無理矢理話がまとめられ、強制的に昇格させられてしまった。
このギルマス……実は全く何も考えていないな……いや、違うな。
レニー達が手放しで喜んでしまうようなら無理矢理にでも昇格を取り消して貰うつもりだったけれど、けしてそうでは無く、寧ろ戸惑い、断れるのであれば断りたい、そんな顔をしていた。
けれど、目的のために必要な事だからと全てを飲み込み、悩みつつも受け入れた。
彼女たちは自分達の力を過信しているのではなく、あくまでも未熟であると、
その様な心構えを持っていれば俺も安心できるし、ギルマスもきっとそれをわかっていたからこそ、半ば強引な方法で
心構えはともかく、パイロットとして、ハンターとしての腕前ははまだまだ未熟だ。それはこれからゆっくりクラスに相応しく育てて行けばいいだろう。
と、割り切ってみたものの……やっぱりちょっとだけ不安が残る。
昇級絡みで今後何か問題が起きたらアズベルトさん経由でしっかりと抗議させて貰おう。
ひとまず昇級の話は落ち着いたので、続いて本題であるリーンバイル渡航のプランを説明する。
「リーンバイルまでは飛行をして……つまり空を飛んで行こうと思う」
「また突拍子がねえ事をいいやがる……が、おめえさんなら出来るんだろうな」
「ああ、実は王家の森からイーヘイ近郊までは飛んできたんだ。2泊3日の行程だったよ」
「ふ、ふふふ……はははは! あそこからここまでそんだけで来れるのかよ!
あーあーあー! ほんっと出鱈目だな、お前らはよ!」
椅子に深く腰掛け、全てを諦めたような顔でギルマスが言う。
飛行機というものが存在しないこの世界で飛行機能とは地球における反重力装置のような夢のようなものだろうからな。
"ガア助"の様に飛行魔獣をテイムして使っている者も居るのかもしれないが、飛行とはあり得ない事なのだと再認識する。
「それで、飛び立つ場所なのだが、リーンバイルの位置と帝国の位置を考慮した結果、ルナーサのロップリング付近が最適なのではないかと思っているんだ」
「そうだな、おめえらみてえのが飛ぶ姿が帝国の目についたら色々と面倒な事になるだろうしな……まあ既に面倒なことにはなってるけどな」
「それは言わないでくれ……それでロップリング付近から飛びだった後は、真っ直ぐリーンバイルまで飛行するんだが、恐らくは2~3日で着く……と思う。けれど、正確な地図をもっていないからね、それはあくまで参考的な数字だと断っておくよ」
「リーンバイルも今やよくわかんねえ国だからな。現存してるってだけでびっくりもんだよ。つうこた、その日数はシグレから聞いて出したものなんだろう? であれば、それが一番頼りになるとしか言えんな……っと」
ギルマスは立ち上がると自分の機兵の元へ行き、声を張り上げる。
「帝国の連中が何考えてるかわかんねえが、次は恐らく戦になるだろうと思う。
うちやルナーサであんだけの事してんだ、連中が戦を起こさねえわけがねえ。
つーわけでよ、事が起きてゴタゴタする前にリーンバイルと話をつけておきたいんだ。
ついでに利用するみたいで申し訳ねえが、シグレの件ついでに親書を渡して欲しい」
「……それは当家にも戦に出ろということでしょうか」
「いいや、そうじゃない。ルナーサもトリバも元をたどれば同じルストニアさ。
かつて我らが国、ルストニアと手を取り合った盟友、リーンバイルに帝国の動向についての情報を報告してよ、ついでに……まあなんだ、今後帝国絡みで迷惑かけたらスマンな! と先に謝っておくだけだよ」
この大統領は……一応機密だろう親書の内容をベラベラと……。
実際何が書いてあるのかはわからないが、ほんと大統領としてはダメな人だな……。
嫌いじゃないし、寧ろ好ましく思うけどね。
「シグレ、恐らくこいつは本当に何も考えていない……腹芸とか出来ないタイプのおっさんだよ、この人は」
「……確かに……そんな気はしますな……」
「こらこら! 聞こえてるぞ! 俺はきちんと筋を通してえだけだよ! 筋を!」
ギルマスはずっこけそうになりながらも、姿勢を正し咳払いをする。
そして愛機の足をバンバンと叩き、ニヤリとした笑みを見せた。
「さっきも言ったが、俺はこれでも
ブレイブシャインは安心してリーンバイルまで姫さんを連れてってやんな」
こうして、強引なギルマスにより強引に話が進み二日後俺達はリーンバイルへ向けて発つことになった……いやあ、なんというか……非常に疲れる時間だった……。
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