第百六十七話 ハンターズギルド本部

昨日の観光気分から一転して……本日は国家絡みの依頼を受ける冒険者としてイーヘイを歩いている。


 向かう先はこの街を象徴するやたらとデカい建物。

 ハンターズギルド本部であり、大統領が詰める場所。

 そこは大陸のハンターとトリバの国民をまとめ上げる重要な施設だ。


 デカいだけではない。屈強な魔獣の素材で補強されたギラリと鈍く輝く無骨な建物、それがイーヘイのハンターズギルドなのだ……なんというか……近くで見るとやたらといかついな……。


 昨日はきちんと見なかったので気づかなかったけれど、来てみてびっくり建物は人間用と機兵用の2つが用意されていたんだ。


 街自体がライダー向けに作られているとは思っていたけれど、ギルドまでこうなっているとは。

 

 人間用の入り口から入れる建物は1階はハンターズギルドで、2階3階が役所的な場所、最上階である4階は会議室になっているそうだ。


 我々が機兵用の入り口から入ってみれば……そこはそのままそのままハンターズギルドが巨大化したような具合になっていて、酒場こそ無かったけれど、コクピットから降りずに依頼を受けられたり、達成報告をしたりすることが出来るようで、ロボの俺からするととても嬉しい設計だ。実のところ、ギルドでお留守番するのはちょっぴりさみしいからね。

 

 また、ギルドホールの奥にある扉は解体場や演習場に繋がっていて、受付で係員に申請すれば誰でも使うことが出来るらしい。


 いちいち機体から降りなくて良いのは楽でいいなと、パイロット達と話しながら空いている受付に向かった。


「冒険者ギルド本部へようこそ。ご用件とギルドカードの提示をお願いします」


 キャノピーが無く、さながらオープンカーと言った具合の機兵に乗った係員が応対している。

 昨日武器屋でも見たけれど、これは恐らく戦闘用ではない接客用機兵というタイプなのだろうな。

 機兵に乗ったまま応対することが多いイーヘイ特化型というわけだ。フフ、良いね、すごく良いね、この街!


「ブレイブシャインのレニー・ヴァイオレットですっと、これがギルドカードです」


 係員はなにかの端末にさっとカードをかざすと、情報の照会が済んだのかニコリと笑うとカードを返却する。


「はい、確認できました。ブレイブシャインの皆様は本日当ギルドの演習場をご予約されていますね。

 に連絡を入れますので、演習場の方でお待ち下さい。あちらの扉からどうぞ」


 指し示された奥の扉を開けると中庭のようになっている通路に出た。

 少し歩くと間もなくして通路が分岐していて、左に行けば解体場、右に行けば演習場と案内板が見える。


 今回用事があるのは演習場なのでそちらに向かったが、この規模なら解体場もかなり広そうで興味深い。

 

 いつか機会があれば覗いてみたいものだな。


 右に曲がるとやや遠目に大きな壁が目に入る。円形に演習場を囲む防壁のようで、通路の先には頑丈そうな扉があり、兵士が乗っているのであろう防衛軍機が2機扉を護っていた。


 扉の前まで行き、レニーが名を告げると恭しく礼をして扉を開け、中へ入るよう促された。


 こちらもそれぞれが機体を動かし頭を下げて奥へ進むと、扉の先はなんというか、トンネルのようになっていて通路が金属で補強されている。これはなんとも……無駄にかっこいいな。


 照明はついているものの、若干薄暗い通路を奥へへ進むと再び金属製の両開きの巨大な扉が有り、それを押し開けて見れば……突然自然光と共にだだっ広い演習場が視界に入った。


「わあ……凄い……演習場とは聞いていたけど、こんなに広いなんて」

『機兵が十分に動けるスペースを考えると理解できますけれど、思いついても中々この規模のものは作れませんわよ……』

  

 サッカー場何枚分だろうかという広大な土で出来た演習場……そして、その本体を取り囲むように客席が設けられている。


 よくこんなものが街の中にと思ったが、その謎はスミレのデータによりスッキリする。


「街に入る前に外から測定したデータによると、街の東部に向かって迫り出すように作られているようですね。

 我々の脚でもそれなりに距離を感じましたが、ここで何か事故が発生しても影響を受けないよう、居住区からある程度離して作られているのでしょう」


 なんだか、この街に居ると感覚がおかしな事になるな。

 なんというか、普段小人の国に居るような俺が突然普通の世界に戻ってきたような、でも感覚は小人の国に慣れきっているから逆にそれが妙に感じるような……自分で言っていてわからなくなってきた。


「あ、カイザーさん向こうになにかありますよ」


 レニーが指差す方向をみると……だだっぴろい演習場の中央にぽつんとテーブルと椅子が置かれていた。

 

 ううむ、なんだかとてもシュールだが恐らくはあそこで会議をするのだろう。


 中央に移動し、テーブルの脇に並んで待機しているとやがて数機の防衛軍機と共に鮮やかな青に染められた機兵がしてきた。


 この場に立ってみればわかる。あのトンネルみたいな通路はスタジアムにあるあれそのものだ。


 あのかっこいいのが恐らくレインズ・ヴィルハート大統領閣下の専用機なのだろうが、ここがスタジアムなのだと思うと、防衛軍機を伴って現れる姿はこれから試合をする相手のようでなんだかちょっぴり笑えてくる。 


「待たせてすまなかった。トリバ大統領……いや、ハンターズギルドグランドマスター、レインズ・ヴィルハートだ。本日はよく来てくれたな、ブレイブシャイン!」


「およ、こ、こうえ、光栄ごじゃいましゅ!」


 リーダーとして挨拶の口火を切ると張り切っていたレニーが噛んだ!


「ああ、いいいい。ここに居るときの俺は大統領じゃねえ、グランドマスター……いや、本部のギルマスだ、ギルマス呼ばわりで構わねえよ」


「本部のギルドマスターも十分立派な地位だと思いますわ、レインズ様」

「む、アズんとこのお嬢ちゃんか! でかくなったなあ!」

「ふふ、レインズ様もお元気そうで」


「っと、今日は真面目な話をするんだったな。うし、お前ら後は良いからちょっと外してくれ」


 ハッチから半身を出してデカい声で話す豪快な男、レインズ・ヴィルハートは後ろに流した赤茶けた髪に、日焼けした肌、そしてゴツゴツとした身体つきで如何にも脳筋と言った見た目であった。


 人払いを済ませたレインズはコクピットから降りるとパイロットたちを席に座るよう促す。

 レニー達が椅子に座ったのを確認すると、自らも椅子にどっかりと腰掛けて改めて挨拶をした。


「改めて、ハンターズギルド本部 ギルドマスターレインズ・ヴィルハートだ。

 ルナーサのアズ……ベルト殿から君達の活躍は聞いている。また、パインウィードの件も感謝している。

 ……俺んとこまで話が来てりゃ直ぐ派遣したんだが、下のもんはどうも軽く見てたようでなあ……っと」


 気分を切り替え、お仕事モードに入ったとみせかけてまた口調が乱れているな。

 この人は根っからのハンターなんだろう。割と好感が持てる。


「ええい、めんどくせえ普通にやるぞ! おい、アズから話は聞いてるぞ!

 白いの、お前ええと、カイザーつったか? お前も座って楽にしてくれよ」


「立っていても疲れるということはありませんが、そうおっしゃるなら……」


「おっ、マジで話が通じるのな! アズがまたいい加減なこと言ってると思ったがたまげたわ」


「いくらお父様でもお仕事のお話に嘘ははさみませんわよ……」

「わっはっは、すまねえ嬢ちゃん。たしかにそうだ。と、カイザー、気持ちわりいから畏まるのは辞めてくれ。ハンター同士腹を割って話そうじゃねえか」

「アズベルトさんと良い、貴方と言い……この大陸の権力者は軽い奴ばかりですね……」


「あーいい、いい。だーから、もっと普通に話せって。それによ、権力者って言われるとなんかムズムズしちまうよ。俺は気付いたら大統領なんてもんにさせられてただけだし、アズだって昔は嫌々やってたんだぞ?

 仕事上仕方なく偉そうにすることはあるけど、認めたやつの前でまでそんなんじゃ俺の肩が爆発してしまうぜ」


「そういう事なら……普通に話すけど、根っこが真面目なんでね。いくら貴方が楽にとは言っても目上の人相手なんだ、遠慮がちな口調になるのは勘弁してくだ……もらいたい」


「はっは、まあ、いいさ。やりやすいようにやれよ。っと、先にそっちから一通り話してもらうとするか。そうだな、アズからは一応池の件から始まって、黒騎士が出張るところまではザックリ聞いてるんだ。その辺当事者から詳しくきかしてくれ」


「そうだな、ではそもそもの発端から……」


 トリバを納め、ハンターを束ねるレインズ・ヴィルハート。

 

 アズベルとさんと親しく、信頼できる相手に隠し事は必要ないだろう。

 俺達カイザーチームが異世界から数千年前に現れた機体であること、この大陸における機兵文明に深く関わっていることから簡単に説明をし、今回2つの国に迷惑をかけている一連の騒動に俺の失われた装備品が関わっていることまで説明した。


 ギルマスは『ほう』だの『はあ?』だの、簡単な相づちは入れていたが、話を遮ること無く、そして疑うこと無く最後まで静かに聞いてくれた。


 そして、カイザーチームに関する話を一通り話し終わると長く長くため息をついて。


「つうかよ、おめえ……俺に目上の人間って言いやがるが、お前のほうが大概目上の存在じゃねえかよ、機神様」


 そう言ってニヤリと悪戯な笑みを浮かべるのであった。

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