第百六十四話 ドライブインシアター

「次は順番からしてオルトロスの登場かな!」


 と、興奮していたマシューだったが、2機目が登場する5話で現れたウロボロスを見て少しがっかりしていた。

 

 すまん……原作通りの順番で仲間と再会出来たわけじゃ無いんでな……。


 その代わり盛り上がったのはミシェルとウロボロスだ。


「凄いですわ! ウロボロスもそのままですのね!」


『おお、雫ちゃんじゃないかー。懐かしいなあ』

『ミシェル、この子もミシェルのように賢くて良い子なのよー』


5話でパイロットとして登場したのは龍也と同級生であり、クラス委員でもある桜川 雫だ。ろーちゃんが言う通り、雫は何処かミシェルに似た所を持つ知的な少女で、龍也達カイザーチームからは『委員長』と呼ばれ、チームのまとめ役を担っていた。

 

 そして場面は彼女の初戦闘シーンになるのだが……一番興奮していたのは勿論ミシェルだが、同時にウロボロスも大いに興奮していた。

 登場回というのは異様にステータス補正がかかって無双する事が多いからな。

 見せ場も多く、見ていて気持ちが良いことだろうし、何よりウロボロスにとっては懐かしい思い出の場面だろうからね。見ていて盛り上がらないわけがない。


 そして7話で満を持してオルトロスが現れた。


「よっ! 待ってました! あたいの前任はどんなやつなんだろうな!」


 前任という言い方がなんだか少しうれしいな。

 俺からするとアニメの中の出来事でしか無いけれど、僚機達やレニー達にとってはこちらの世界に来る前の出来事、実際にあった出来事に等しいんだ.


 格納庫に立ち、整備されているオルトロスを見て興奮したのか、席から立って踊るマシュー。そして、黒森重工のスカウトマンにより、連れてこられたパイロットの姿を見てマシューは嬉しげに腕を振り上げた。


「あ! こいつ、タツヤと良く喧嘩してる奴じゃんねえか! へへ、なんだかあたいを男にしたような奴がパイロットなんだな! やったぜ!」


 作中のパイロット、獅童 謙一は主人公の喧嘩友達で在り、熱い心を持つ良き仲間である。

 マシューのように赤い髪をしていて、けんかっ早い性格にシンパシーを感じるのだろうか、しばしば登場しては龍也と喧嘩をする謙一はどうやらマシューのお気に入りキャラだったようだ。


『あーけんちゃんが僕らとはじめて戦った時のお話だねー』

『懐かし~ね。けんちゃんは幻獣モードで戦うのが得意だったよね~』

「へー、魔獣みてえなアレも結構強いんだな……あたいも練習しよっかな」


 謙一が操縦する作中のオルトロスは幻獣モードを駆使して敵を翻弄するのを得意とする。

 マシューの様子を見るに、なかなか良い刺激になっているようだな。


 と、なんだかシグレがそわそわとし始めている。

 そうだな、ガア助の出番がそろそろ気になるんだよな。

 大丈夫、2機目が登場したら後は1話おきに登場するから。


 そしてシグレ念願のガア助回、第九話『天を舞う疾風』が始まった。


「わ! なんだか兄上見たいのが出てきましたよ!」


 その兄上みたいな者こそがヤタガラスのパイロット、皇城コウジヨウ ジンだ。

 大会社の息子で、クールなイケメンのくせに何故か偏差値が低そうな高校に通っている。

 それを言ってしまえば雫も何故その高校に……となるのだが、そこはアニメ設定の謎だな。


『おー、迅でござるな。彼はやり手でござるが……少々サボり癖が……。

 ああ、確かにシズル殿と似たところはありますな……』


「うむ、なるほどな。あの人をなめたような表情といい、それでいて腕は確かなあたりと良い……。

 腹が立つほど兄上に生き写しだ……アレが私の前任ですか……」


 知らなくて良い情報が入ってくる……シグレはなんだか嬉しいのか、嫌なのかわからないな……どちらかと言えば喜んでいるのか? 


 っと、お楽しみのシーンだぞ。


 港の倉庫に現れた無数の昆虫型ロボを撃退するため、出撃したカイザーチームだったが、倒しても倒しても無限沸きをする雑魚に消耗戦を強いられ苦しんでいた。


『龍也君! 何処かに雑魚を統べる大本が居るはずよ。それをなんとか出来れば……』

『流石ですね、シズク。ウロボロス、レーダーの反応はどうですか』

『だめだ、僕たちのレーダーにも引っかからないよ』

『範囲外に居るのか、もしくは高度なステルス機能を備えているか……ね』

『ウロボロスのレーダーでも見つけらんねえのかよ! くっ……輝力が……このままじゃやべえぞ、龍也ァ!』

『わーってるよ! 確かにこのままじゃジリ貧だがよお、肝心の大本は見つからねえとんなりゃあ……』

『ああ、不味いな、龍也。しかしこうも囲まれてしまっては動くに動けない……』

 

 頼りになる司令官、カイザーすらも困った声を出す程の窮地。

 敵の包囲網は徐々に徐々に縮まっていく。


「何をしているのですか兄上は! ほら! 早くカイザー殿達を助けに来なさい!」


 あまりの窮地にシグレがスクリーンに向かい駆け出していった。ああ、マシューに引きずられて戻ってきたな……。


 けれど、大丈夫だよ、シグレ。今こそ……お膳立てを十分にされて温まりきった今、奴が登場するから。


 カメラが上空に動き、青空が映し出される。

 空を素早く横切る黒い影。それを見たシグレが「あっ」と声を出す。


 カメラはそのまま下を向き、上空を旋回するヤタガラスをとらえる。


「カイザー殿! ガア助が! ガア助が参りましたぞ!」

「ちょ、シグレちゃ……あたしの前に立たないで、見えないってば!」

 

 機体をギラリときらめかせながら登場したヤタガラスはステルス機能によりウロボロスのレーダーから逃れ、倉庫の影に隠れていた昆虫型ロボの巣、無限に製造を繰り返していた大本を発見する。

 

 ヤタガラスはそのまま敵機に見つからぬよう、ビルの影に降り立ち、スナイパーライフルを構え……狙撃した。


「おお! アレだけ距離が離れているのにいっぱつですよ! あの兄上やりますな」

『あー、フォトンライフルでござるな。強いでござるよあれは』


「げー! あれ黒騎士がもってったやつじゃねえか!」

「バステリオンにも効いてたくらいだから強いと思ってたけど、凄いねあれ」

「あれはヤタガラスの武器でしたのね……通りで誰にも適合しなかったはずですわ。

 持ち主が分かった以上、なんとしてでも取り戻さなくてはいけませんわね!」


 これにて全機が登場し、キリが良いで9話で本日の上映会はおしまいにした。

 10話の次回予告――


『4機が揃ったカイザーチームだったが、連携が上手くいかず危ない場面があるとスミレから指摘を受けた。俺達ならやれると胸を張る龍也だったが……次回、真・勇者シャインカイザー「噛み合わぬ心」お楽しみに』


 ――こんななんとも気になる物を見せた後に上映を終了したために、乙女軍団からすごい勢いで文句の声が上がる。


 気持ちはわかる、めっちゃ気になるよね。4人揃ってこれからだって時に予告で「所が上手くいかねーんだ」って言われちゃうんだもの。


 けどね、今の我々には一気見をする時間も余裕もないんだよ。

 今は旅の途中だし、明日は大切な用事があるのだから……。


「また今度続きを見せてやるから、今日の所はここまでだ。

 とは言え、まだ寝るには少しだけ早いからおうちで感想でも話し合ったら良いさ」


「でもよー、今見ないと続きを忘れちゃうぞ」


「甘えたことを言うな。これは本来週に一度新しい話が公開されていたんだぞ。

 はこれを見終わるまで1年はかかってるんだ。

 お前達は約2ヶ月分をまとめて見れたことになる。どれだけ贅沢かわかるだろ」


「それを言われてしまうと……文句は言えませんわね……」

「なるほどね。カイザーさん達の活躍をまとめてこれを作るとなると時間がかかりそうだもんね」

「職人が精魂込めて作ったものを一気に消化するのは……確かに申し訳ないですね」

「だなあ……ごめんな、カイザー、無理言っちゃってさ」  


 やや強引な言い訳をしちゃったけれど、なんとか分って貰えたようだ。

 しかし、ここまで気に入ってくれるとは……ほんと見せてよかったな。

 話し方に気をつけなければいけないけれど……これで私にもシャインカイザーを語り合える仲間が出来たぞ……ああ、なんて嬉しいことか……ふふ。


 ……現在の時刻はもうすぐ21時になろうかという所。

 実は時間的にもう1話くらいなら平気だったんだけど、次の回はチームワーク問題が立ち上がる回で、それを引きずったまま次の回で初めての敗北をするんだ。


 そしてさらに次の回、第12話『シャインカイザー降臨』で漸くチームワーク問題が解決し、念願の4機合体が披露されるんだ。

 

 どうせあの子達のことだ、半端に10話だけ見せちゃったら12話を見せるまでモヤモヤモヤモヤしたままでさ、毎晩毎晩続きをせがまれるに決まってるんだから。


 見せられる時間が確約されてるなら良いけど、今後の予定がどうなるのかは明日の面会までわからないからな。


 だから申し訳ないけど今日はここでおしまいだよ。

 


 この放映会は僚機達にとっても嬉しいものだったようで、久々にかつてのパイロット達や基地の職員たちの姿を見れて嬉しかったと俺に感謝してくれた。


 僚機達からすれば自分が出た運動会のビデオ等を見せられているような気分だろうからな。

 

「あ! 佐々木先生だ! なつかしー! この時さあ、先生がねー」みたいな感覚なのかもしれない。


 スミレがどういう反応をするか気になって時々様子を見ていたけれど、終始真面目な顔で黙ってみているだけだった。


 てっきり研究や分析でもしているのかなあと思っていたんだけど、そうじゃなかったんだよなあ……。


 深夜になり、パイロット達が寝静まった後にひっそりとコクピットに戻ってきたスミレがコンソールに腰掛け一言だけ感想を述べてくれたんだ。


「あっちのスミレは考え方が幼いですね。圧倒的な私の勝利です」


 突然の話に戸惑う俺を見て不敵な笑みを見せると、コクピットから飛び出してフワフワとレニーのおうちに飛んでいってしまった。


 真面目な顔で何を考察していたかと思えば作中のスミレの行動かよ……。

 まったく、考察するまでもなく、君の勝利に決まってるだろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る