第百六十三話 真のパイロットになるために

 移動二日目、我々はイーヘイから馬車で半日の距離にある谷間に降り立った。


 街道からやや離れたこの場所には長い間人が訪れた様子も無く、周囲から見えない位置に有ることから野営場所に適していると判断したからだ。


 切り立った岩肌に挟まれた谷間はゴツゴツとした地面で、樹木は勿論のこと植物はまばらで、また水場も無いためどう考えても野営向きでは無い。


 しかし、我々にとってそれは大した問題では無い。


「じゃー、いくよー! じゃーんけーんぽーん」


 乙女軍団はすっかり気に入っているらしいじゃんけんによりおうちの位置を決め、機体の分離後さっさとそれぞれおうちを取り出していた。


 通常の野営であれば寝場所作りに苦労をするものだが、このおうちはワンルームを持ち運ぶ様なものだ。

 

 一瞬で設置が完了するこれ以上無い快適でチートな野営道具と言える。


 本日の夕食はルナーサの屋台から買った魚介のスープにパインウィードで持たされたシカの串焼き、サウザンで買ったフカフカのパンと国境と時空を超えたあり得ないラインナップだ。


 以前レニーは勘違いをして居たが、ストレージ=おうちの中身というわけでは無い。

 

 確かにおうちに入れたものはストレージのリストに表示されるが、一度おうちに設置したものは次におうちとして広げた際には前回設置したままになっている。


 逆に言えば散らかしたままお家を仕舞えば、次に出したときも散らかったままになっているわけだが……ゴミだけはストレージのリストから取り出して処分できるため、ゴミ屋敷にはならずに済む。


 また、内部のものがリスト化されることから勘違いされがちだが、おうちはあくまでもコンテナ型の装備品であり、ストレージ機能そのものではない。


 ストレージの本体は良くわからん亜空間に存在しているため、おうちを出している状態であっても外部端末等からストレージにアクセス可能であり、こうして夕食等を取り出すことが出来るのである。

 

 シグレも泣いて喜んでいたが、通常ではありえない快適過ぎるこの我々ブレイブシャインの旅装備……今回はいい機会なので新たな機能をお披露目しようと思っている。


 これはの念願でも在り、ずっとずっとずーっと渇望していたもの。

 さあ、みんながどういう反応をするか……フフ、楽しみだな。


 夕食を終え、シャワーも済ませた乙女軍団はミシェルの部屋に集ってなにやらまったりしていたが、通信を入れて外に集まるように伝えた。

 

 ぞろぞろと寝間着で現れた乙女軍団は明日からのブリーフィングでも始めるのだろうかと可愛らしい格好には少し似合わない真剣な眼差しをしているが……まあある意味ではあっているかな。


「今日は君達に俺の新機能を披露したいと思う」


「え! また新しい姿になるんですか? それとも必殺技……?」

「いや……そうではない」

 

「じゃあなんなんだ? 今からやるんだろ?」

「でもすっかり夜ですわよ?」

「折角ですし、明るい時間に披露してみてはいかがでしょう?」

 

「いや、これは夜のほうが雰囲気が出ていいんだ。

 まあ見ればわかるさ……というわけで諸君、奥の壁を見てくれ」


 崖の壁には予備のシーツをつなぎ合わせて作った即席スクリーンを貼ってある。

 それを見た乙女軍団は首をかしげ、あれを使って何が始まるのかとざわついている。


 ふふふ……あれがなにかわからないだろうな。知っている人が見れば一発で気づくのだが、こちらの世界にあの手のものは無いようだからな。

 

「……っと、あまり賑やかに不味いか。各自インカムを通話状態にしてくれ。そこから音を出すからね」


 不思議そうな顔をして一同がインカムを操作したのを確認し、シャインカイザーの


 崖の壁に映し出されたのは不良少年が河川敷で喧嘩をしているシーンだ。

 当時としても古すぎる時代設定で話題になったが、改めて見ると余計に昭和を感じるな……。


『今日こそ決着をつけんぞ……龍也よぉ……』

『そりゃ俺のセリフだっつーの……いくぜえ、謙一ィ……』 


「これはなんですの……? 絵が動いてますわ……」

「たまに見せてくれるエイゾウってのとは違うな?」

「凄いですね、絵が喋っていますよ」

「し! 今何か見覚えが有る物が見えたよ!」


 そうレニーが一同を制したシーン、実は背景をよく見るとカイザーを運搬する車両が通るのだ。

 

 放映時には俺も気づかなかったが、後日SNSで話題になったシーンである。

 凄いなレニー……やっぱ少しおかしいよ……褒め言葉だぞ……。


 やがてシーンは切り替わり、主人公、炎来 龍也が通う高校の校門前が映し出されるのだが……そこに横たわっているのはレニーたちにとって馴染み深い物だ。


「え、ちょ……こ、これカイザーさんだよ!」

「ほんとだ、なんでこのカイザー寝てんだ?」


 黒森重工の者により、わざと校門前に落とされたカイザー、これはパイロット適性を持つ者を見つけ出すための作戦であるということなのだが……改めて見ると酷い作戦だよな……っと、きたきた来ましたよ。カイザーを分解しようとする不良たちだ。 


『おい見ろよお、これ俺のバイクに付けたらイカすんじゃねえか?』

『いいねえ、じゃあ俺はこっちのパーツを剥ぎ取るとすっか』


 ほんと、このシーン真面目に見ると笑っちゃうよな。

 不良達がカイザーを分解しようと使う道具はどれも立派な工具だけれども、どっから出したんだよ……っていうか、ルストニアの兵士にも似たことされてこのシーン思い出したっけなあ……懐かしい。 


「ああっ こら! カイザーさんになにしてんだー! やめろー!」

「ちょ、レニーうるせえよ……」


 立ち上がり拳を振りかざすレニー。

 今にもスクリーンに飛びかかりそうな勢いである。ちびっこか。


『おめえら、なにしてんだァ? 寄ってたかって弱いもんイジメかよ』

『あん? ロボット相手に何いってんだ? 構わねえ、こいつからやっちまえ!』

  

 そして現れる主人公、炎来 龍也。カイザーを庇うように立ちはだかり、不良達の攻撃を黙って受け止める。


「おいおいおい、こいつなんで反撃しねえんだ?」

「マシュー殿、ここで下手に動けばカイザー殿に攻撃が当たります」

「この人……身を挺してカイザーさんを護ってますのね……」


 このままでは龍也がやられてしまう、乙女軍団が手に汗握り、彼の応援をしていた時、自体は急展開を迎える。ここで現れたのは救援……ではなく、敵対組織『ドデカーク』のロボット、リューサーと言う量産機だ。


 それまで龍也をいたぶっていた不良達は慌てて逃げ出し、残された龍也とカイザーにリューサーが気づき、狙いを定める。


「ああああああ! 危ない! この機兵悪いやつだよ!」

「みりゃわかるよ……な、レニー座れって!」


 そして……今まさにリューサーがカイザーの元にたどり着く、その時である。

カイザーのコクピットハッチが音を立てて開き、中から聞き慣れた声が……聞こえてくる。


『説明をしている時間はあまりない。済まないが俺の中に乗り込んでくれないか』

『あ……お前は……いや、そんな暇は……無さそうだな……』


「おおおおおお! カイザーさんが喋ったあああ!」

「いっつも喋ってるだろうがよ!」


 龍也が乗り込むと直ぐにハッチが閉まり、これまた聞き慣れた声が聞こえてくる。


『パイロット候補のスキャン完了……非常に遺憾ながらパイロット適正試験クリアです』

『というわけで、すまないが俺のパイロットになってくれないか? 現在この街には危機が迫っている。宇宙からの悪意、ドデカークと共に戦うパイロットが必要なんだ』

『俺達の街に危機が……ね。そういう事なら手を貸すぜ! へへ、女の子じゃなくてすまねえな! 俺の名前は炎雷 龍也、今日から頼むぜ相棒!』

『なーに、女の子はスミレで間に合ってるさ! 俺の名前はカイザーだ。行くぜ相棒! 頼むぞスミレ!』

『くれぐれもカイザーを破損させないように。では戦術サポート開始します』

     

 龍也がコンソールに手を置くと、ヴウンと音を立てて輝力炉が光を放ち……熱い熱い初戦闘が始まった。

 

「うおおお! すげえ! 絵のカイザーも強いな! いや、パイロットが凄えのか」

「危ない! 後ろですわ! まあ! 流石ですわカイザーさん!」

「おおお! そこを当てるとは! 体術に優れているとは思ったが、操縦も中々」

「凄いなこの人……! けど悔しいな! あたしにはあんなにカイザーさんを動かせないよ!」

 

 気づけば皆立ち上がって龍也操るカイザーを応援している。

 レニーを窘めていたマシューが一番盛り上がっているな……。


そして1話が終わり、まずは反応を見てから続きを流すか決めようかと思ったのだが……これまでの反応を見るにその必要はなかったな。

 すっかり真・勇者シャインカイザーの虜となった乙女軍団に期待の眼差しを向けられたは、上機嫌で次話の再生を開始するのであった。

 

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