8章 リーンバイルへ

第壱百六十話 いざイーヘイへ!

 壮行会から一夜明けて。


 俺達は決意を新たにイーヘイを目指し紅の洞窟から旅立とうとしていた。

 

 紅き尻尾のメンバーたちがずらりと揃って見送りに立ってくれているのだが、昨夜の酒がまだ残っているのか、皆揃って非常に眠たげな顔をしている。


 中には二日酔いがひどく、酷い顔色をしている者もいるのだが……それでもマシューを、俺達を見送りたいと、ふらつく体を抑えて整列してくれているのだから嬉しいもんだ。


「マシュー! カイザー達に迷惑かけんじゃねえぞ!」

「マンジてめえ、見習いのくせにうるせえぞ! んなことしねーよ!」


「がっはっは、大食いマシューはブレイブシャインの食料事情を悪化させてるくせによ」

「おうこらてめえ! ジャック、覚えてろよ! お前の土産は無しだ!」


「まあま、マシュー。あんたもさ、ブレイブシャインのみんなも怪我しねえで行ってきなよ。わたしらここを仕上げて待ってるからさ」

「そうだな! 次来るまで立派にしておくからよ、俺達の調査と修復しごとが済むまで帰って来んなよ!」

「がっはっは、まあそういうわけだ、気をつけて行ってきな!」


 最後にジンが前に出て一言「頼む」と言って頭を下げた。

 

 俺はそれに力強く頷き、皆に指示を飛ばす。


「ここからしばらくの間、イーヘイに近づくまでは合体して飛んでいく。

 訓練飛行でだいぶ慣れたかと思うが、長距離飛行は今日が初めてだ! 気を引き締めていくぞ!」


「「「「おー!」」」」


 それぞれ自分の機体に乗り込み、機体を動かしメンバー達に手を振っている。

 ロボたちがブンブンと手を振る様子に一同大盛りあがりだ。


 俺もまた、レニーと共に連中に手を振り、賑やかな歓声が響く中で全機に声をかけた。


「ではいくぞ! フォーメーション! シャインカイザー!」


 俺の声と共に各機が間隔を開け合体に備える。


『いきますよ! モードシャインカイザー承認!』


「「「シャインンン……カイザアア!」」」


 合体用に分離・変形を遂げた僚機達が俺のもとに集う。

 オルトロスが腕となりウロボロスが脚となりヤタガラスが翼となる。


 紅き尻尾の連中がわあっと盛り上がる音声がコクピット内に飛び込んで、パイロット達が照れたような、嬉しそうな……そんな顔をする。


「うおおおお! 何度見てもいいなあそれ!」

「頭領、俺達もあれ作りましょうぜ!」

「そうだなあ! 頑張ってみるか! って出来るかバカタレ!」

「「「がっはっはっは」」」


 なんとも馬鹿らしく、そして普段どおりのやり取りがコクピット内に流れ、パイロット達の緊張がみるみるほぐれていくのがわかった。


「じゃ、行こうかみんな」

パイロット達がこくりと頷いたのを見て、音声を外部出力に切り替える。


「では、紅き尻尾のみんな、行ってくるよ」

「「「「いってきまーす!」」」」


「がんばれよー!」

「いってらっしゃーい!」

「気をつけんだぞー!」

      

 改めて団員たちに手を振ると、賑やかな歓声を背に俺達は空へ舞い上がった。


……


 現在当機は王家の森を抜けるか抜けないかの地点上空でホバリングをしている。

 わざわざ空に浮かんでしていることと言えば遥か眼下に広がる草原を視界に収めながらコクピット内での作戦会議だ。 


「では、改めてこれからの予定を伝える。目的地は勿論イーヘイだけど、こんなデカいのが空を飛んで居るんだ、中には気づく人も居るだろうし、そうなれば大騒ぎは免れない。

 なので現在俺は姿を消した状態で飛行しているわけだけれども、これは万能じゃない。光学迷彩は便利だが、起動してから30分が経過すると解けてしまうため、都度更新をする必要があるし、地上に降り立つと同時に透明化が解除されてしまう。

 シグレはガア助に乗っていたからその事については理解しているな?」


「はい、いくら訓練をしようとも、ガア助が使う隠密の術は地上に降りると解除されていました。

 どうにか出来ぬかと二人で難儀しましたが……なるほど、元々そういう術だったのですな」


「術……うん。まあそういうことだな。それで……だ。

 首都であるイーヘイ付近の街道ともなれば人通りも多く、突然俺達が姿を現せば騒ぎが起きるのは目に見えている。

 なので、イーヘイよりやや離れた位置の街道付近に着陸しようとおもうんだ」


「街道付近……ということは、直に街道には降りないのですわね?」


「何処で誰に見られるかわからないからね。街道から離れた森の中にでも降りて、分離をした後しれっと狩りをしていた体で街道に出ようと思うんだ」


「なるほどな。つうか4人で乗り込める機兵ってのも目立つだろうからな。分離も必要なわけか」

「ああ、その通りだ。それに合体した状態で街に入ると、中で分離をした際にややこしいことになりかねんからな」

「門で確認をされていない機体が歩いていると思われたら面倒ですものね」

 

「着陸後はシグレちゃんも、私達も疲れてるだろうから、着地ポイントで少し休憩をとるのもいいね」

「そうだな。場合によっては一泊してゆっくりと体を休めてから行ってもいいだろう。

 よし、では進路をイーヘイに! シャインカイザー発進!」


「「「発進!!」」」


 空を飛ぶ俺達には地上の地形など関係のない話だ。

 遠慮なく最短距離で移動させてもらう。


 陸路であれば一度フォレムか西の街「ザイーク」を経由し、イーヘイに繋がる中央街道を目指す必要があるけれど、空路であれば回り道をする必要なんて無い。


 地図を頼りに真っ直ぐイーヘイ目指して飛べば良いのだからね。


 仮にフォレム経由で向かった場合は速くとも1週間はかかるらしい。

 西側ルート、ザイークを経由して向かった場合はそれよりもう少しかかるのではないかとマシューが言っていた。


 アズベルトさんからきいていたイーヘイまでのざっくりとした所要時間から計算すると、本気で飛行すれば1日程度で到着しそうだった。


 しかし、これはアニメ作中のパイロットたちが無茶苦茶な輝力と体力を持っていて、過酷な訓練を成し遂げているからこそ出せる速度だ。


 レニー達もそれなりに力はつけているけれど、真似をして本気の速度で移動した場合途中で気を失ってしまうだろう。


 『ならばパイロットを休ませて自立機動で飛べば』と、頭を過るけれど、ここでもまた、が邪魔をするんだ。

 

 シナリオの都合上なのかなんなのか知らないけれど、きっと作中のパイロット達にあまり自在に飛び回ってほしくなかったんだろうな。


 設定資料によれば『飛行中は通常よりも輝力の消費が激しい為、自立機動であってもパイロットからの輝力供給が無ければ長時間の運用は出来ない』とのことで。


 パイロット達からの輝力供給を断った場合の飛行可能時間は20分。

 何らかの要因で自立起動による飛行が必要となった場合、安全に着陸をすることは出来るけれど、そのまま飛び続けることは出来ないのだ。

 

 なので、飛行となれば純粋にパイロット達の輝力に頼ることとなるのだが、今のレニー達の輝力で計算すれば、途中で降りて一晩休み、再度飛び立ってイーヘイ付近の街道へ着陸。

 着陸後はレニーが提案していた通り、その場で1泊をして体を休め、イーヘイには翌日の到着を目指す……計2泊3日の行程で行くのが望ましいだろうな。


 原作の速度を考えればのんびりとしたものだけれども、それでも地上を移動するより圧倒的に速いよね。


 今後の旅のことを考えると飛行能力を得たことはとても大きい。


 飛行中、全天周囲モニタに切り替えてみた。

 つまりは、それまで前方と左右にだけ映し出されていた周囲の様子から切り替わり、背面は勿論足元まで透けてまるでパイロット達が自分で浮いているかのようになったのだ。

 

 これはちょっとしたいたずら心でやったことだけれども、パイロットたちからは期待していた悲鳴が上がることはなく……寧ろ好評だった。


「おおおおお! 鳥になった気分が増しますね!」

「ガア助に乗ってる時を思い出しますよ」

「この状態で大陸をぐるりと回れば精密な地図が作れそうですわ」

「未発見の遺物や遺跡を見つけられそうだなこれ! なあなあ、みんな! 後で探しにいこうぜ!」


 もう少し悲鳴か何か上がるかと思ったから少しさみしい……。


「ふふ、カイザー。貴方達のパイロットになるような子たちですよ。

 この程度なんとも思わないのは当たり前です」


 ちぇ。スミレにはがっかりしてるのがバレバレだったか。

 高所恐怖症克服イベントとか見てるほうが辛いからいいんだけどねー。


 ちぇー


……

 

 そして数時間の空の旅を楽しんだ我々ブレイブシャインは、輝力に猶予を持たせるため少し早めに荒野に降り立った。


 降りた後に何事も起こらないとは限らないからね。多めに余裕を持っておくのは大切なことさ。


 周辺は荒涼としていて、僅かな低木や草が確認できるが、5km四方をスキャンしてみたが、人間が暮らしているような反応はない。


 動物や魔獣の反応はそこそこあったが、それも遠く、一切合財を持ち歩いている我々にとってはこれ以上無いほどに良い野営場所のようだった


「では野営の用意をするぞ。各機分離後「おうち」を出して夜に備えるように」


「「「はーい」」」

「おうち……ああ! あの良くわからないアレ! もしかしてガア助も出せるのですか!」


 そう言えばバタバタしてその辺の説明をしてなかったな。

 どうやら俺達を監視していた時にちらりと存在を見ていたようだが、謎の折りたたみ小屋だとばかり思っていたようだ。


「ああ、勿論だ。ただ、本来アレは荷物運搬用の物だからな。レニー達は居住性を高める改造をしているが……それに比べれば何もしていないガア助のは住みにくいと思うぞ」

  

「かまいません! 持ち運び可能な小屋など……もっと早くに使えていれば……ああ、しかし、嬉しいな。おい、ガア助! 早速やるぞ!」


『おうともさ。なあ、シグレ。国に帰ってからじっくり改造しようではないか』

「そうだな、リーンバイルの様式で住みやすい小屋にしような、ガア助」

 

 楽しげに会話するシグレ達を嬉しげに眺めるレニー達。

 そのまま俺に代わって詳しい説明をし、予備の布団やらラグやらを貸してあげている。

 うむうむ、助け合うパイロットたち良きことかな。


 こうして我々はイーヘイへの旅、最初の夜を迎えたのであった。

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