第百五十八話 ゴーレム 

いつの間にか居なくなっていたスミレは洞窟でジン達の手伝いをして居たようで。

 

 スミレから連絡が入り、マシュー達を呼ぶようにと言われて何事かと行ってみればゴーレムを弄っているではないか。

 

 なるほど、トレジャーハンター達の知識ならなんとかできると踏んだわけか。

 それで以前、直すと張り切っていたマシューの顔も立てて作業に呼んだというわけだな。


 俺には完全に分らない世界なので、遠巻きに様子を見ていたが……紅き尻尾の若者が持ってきた物を見て驚いた。


 あれはどう見てもスライムじゃ無いか。

 国民的RPGとも言われるアレに出てくる奴ではなく、昔ながらのガチ目なダンジョンRPGに出てくる類の凶暴そうなアレだけれども、なにかの容器に入れられ連れてこられたそれはまさにスライム。


 思わずそう口に出すと、それはモルモルという生き物だと教えられた。

 ウロボロスの解説によれば本来の意味の魔獣の生き残りだと言うことだった。


 動物が輝力の影響を受け魔獣化すると言ってもそれは全てがそうなるわけではない。

 例えばウサギが二匹居たとする。しかし魔石の大きさには個体差がある。

 魔石が大きい方が身体能力も高いと言われているが、その魔石が大きい個体ほど影響を受けやすく魔獣化しやすい。


 そしてオリジナルの魔獣は現存している動物達以上に大きな魔石を持ち、今でいう機械の魔獣に変化しやすかったというわけだ。


 そのため、こうして生身の身体のまま生き残っている魔獣は珍しい物らしい。


 数千年前、俺はあの場から動けなかったけどもしあちこち動けていたらオークやゴブリン、ドラゴンなんてものを見られたのかも知れないなあ。


 こちらの世界に転生するってなったとき、俺としては冒険者なんかと共にその手の魔獣を狩ってみたかったんだけれども……蓋を開けてみれば変異を遂げて機械獣と化した魔獣と戦ったり、敵国のロボと戦ったり……なんだか当初の予定とは違ったけれど、今の生活はこれはこれで楽しいから文句は無いさ。


 ちなみに人間には魔石が無いため、輝力による変な影響を受けることも無いが代わりにあまり多くの魔力を体内に溜めておくことが出来ないらしい。

 

 しかし、によって汚染されたこの世界にもファンタジー的な要素は生き残っている。


 魔力だ。


 この世界における魔力とは魔素を用いたエネルギーの事で、かつては大量の魔力を身に宿し、高度な魔法を使う魔法使いという存在もいたと言われている。


 かつて俺のコクピットに電撃を流した連中がいたが、あいつらこそ魔法使い、宮廷魔法使いなんて呼ばれた存在だったのかも知れないね。


 しかし、折角のファンタジー要素は俺達の介入によって失われてしまうこととなる。

 神話に語られる大戦後、その技術の殆どは失われてしまい、現在魔力は魔導具や機兵を動かす用途で使われるのが殆ど。


 一応今でも細々と魔法について研究をする人達という物は存在するらしいのだけれども……実用的な物とは思われていないらしい。


 この世界で誕生した機兵を動かすには大量の魔力が必要だが、鍛錬を続けた魔法使いでも無い一般人が備える魔力で賄うのは難しい。

 

 なので現行の機兵はクズ魔石を原料に作られたエーテリンを補助燃料として使用する事により長時間の運用が可能となっている。これは以前レニーに聞いた話の通りだな。


 俺達の動作は魔力では無く輝力で実現しているが、もしかすれば魔力と輝力は近い存在なのかも知れないな。


 と、一人思考の海を漂っていると辺りが騒がしくなった。


「よし! いいぞモルモル!」


 どうやらモルモルが目的の魔石を除去しているらしい。

 そう言えば変に溶けた魔石が邪魔をして動かなくなっている、とか言ってたっけ。


 父親にゲーム機のコントローラーを直して貰った時のことを思い出すなあ。

 なんだか妙に手慣れた手つきで動かなくなったコントローラーを分解してたんだけど、現れた基盤が謎の錆で汚れてたんだ。

 

 アルコールか何かわからないけれど、父親がそれを使って丁寧に清掃して汚れを取っててさ、そんなんで直るのかな? って思ったんだけど、不思議とそれで直ってたんだよな。


 には良く分からんが、似たような仕組みなんだろうさ。


「よし、マシューここにトランスフォーマーを取り付けるんだ」

「うし、ここだな! おお……流量安定……なるほどなあ……これならなあ……」

「いいぞ、マシュー証明を外せ」

「おうよ。へへ、流石じっちゃんだ、これならいけそうだよな」

「オメエも腕を上げたじゃねえか」


 トランスフォーマーか……ほんと心躍る単語だよね。

 地球語に訳されて「トランスフォーマー」と言う変圧器を意味する英単語になっていると思うんだけど、ある程度の好みから言葉が選ばれているような気がするよ。


『おっおっおー!? やるじゃんやるじゃん! 君達! この様子なら……起きるぜ、彼』

『ええ、間もなく起動しそうね。ちょっと貴方達、少し離れて貰える? もう大丈夫だと思うけど一応ね』


おおぉおお? 目覚めるのか? 

 

 かつてゴーレムの開発に携わったウロボロスがジンとマシューに声をかけている。

 暴走した末眠りに落ちたロボの復活か……良いシーンだぞこれは……。


 ギチギチと部品がこすれ合う音が鳴り響き、ゆっくりとゴーレムが腰を起こす。


『うんうん、今のところ魔素の循環良好だよ』

『このまま私達がモニターしてるからマシュー達は気になったことがあれば聞いてね』


 間もなくして軽快なモーター音が聞こえてくる。どうやら各部の損傷は問題ないようだ。

 そしてゴーレムが顔を上げた時、その瞳が、まるで命が灯るかのように青く輝いた。


『ゴーレムシステムキドウ システムオールグリーン オハヨウゴザイマス ルストニアノミナサン』


「うおおおおお! 喋ったぞこいつ!」

「おいおい、カイザー達と同類かよ!」


 おいおいおいおい……ゴーレムシステム……だと?

 一体どこまで作り込んでるんだよ、ウロボロスはさあ!


『ふっふっふー、これぞ僕らとルストニアエンジニアの結晶、ゴーレムだよ』

『凄いでしょう? 簡易式とは言えAIを実現したのよ? どう? どう?』


「凄いですよウロボロス。これは魔導具に用いられている術式を応用してプログラムを組んだのでしょうか」


『流石だねスミレ。その通りさ。魔術に使う術式もプログラミングみたいなものだからね』

『全部手書きだから凄まじいことになってるわよ。術式が刻まれた基盤が割れて無くて本当に良かったわよ』


 いやほんとびっくりしたよ……流石は俺達のブレーン、ウロボロス……まさかそんな物まで再現しちゃうなんてね……。


 俺にはスミレ先生がついているけれど、二人の力じゃとてもこんな物生み出せなかったと思うよ。


『ルストニアノ オヒメサマ ゴメイレイヲ』


 青い光をたたえた瞳でミシェルをじっとみつめるゴーレムがそんな事を言う。

 ミシェルは目に涙を浮かべながら、にっこりと微笑んで。


 ゴーレムの身体に手を当て、優しく声をかけた。


「ゴーレム、今日までの任務有難うございました。王家を代表して感謝します」

『オオ……オヒメマサ……モッタイナキオコトバ』


 簡易式と言っていたけど、かなり高度なAIなんじゃないのかこれは……。

 だってミシェルを見てお姫様だと認識しているんだよ? DNAでも見てるんじゃ無いの?

 

 そうじゃなくてもさ、どうも意思の疎通が出来ているようだし……ほんとなんて凄い物を作っちゃってるんだよ、ウロボロスは。


「破損した貴方を修復したのはそこに居るマシューとジンです。以後彼らの命令にも従うように」


『カシコマリマシタ オヒメサマ コノミニカエテモ スイコウシマス』


 ノシノシとマシュー達の方に歩いて行くゴーレム。

 声をかけられたジンやマシューが嬉しそうにその身体をなで回していた。


 良かったなマシュー……直してやりたいって言ってたもんなあ……うう、出ないけど涙が……。


『まだ異物が存在しているから万全とは言えないけど、暫くは平気そうだね』

『ここを修復するんでしょう? ゴーレムも過去を識る者として良い戦力になってくれると思うわ』


「もし変な奴が洞窟にやってきてもゴーレムが居れば追い返してくれそうだね」


『そうだね、カイザー。今の彼にはあまり無茶をさせたくないけど石弾は撃てるだろうし』

『ジン達が居ればメンテナンスも可能だし、遺跡の修復の面でも戦力になるわよ』


 何だか思いがけず戦力が増強できてしまったな。

 ここは洞窟とは言えかなり広い。

 そして何より噂のおかげで人目に付きにくい場所だ。

 

洞窟と言えば……ロボットの秘密基地だ。


 ……うん、将来的に間借りして我々の基地にするのも良さそうだな……。

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