第百五十六話 大空は俺達のもの

 アズベルトさんからの連絡待ちのため、少々時間に余裕が出来た。

 この間にやっておきたいことは色々とあるが、まず初めにやるべきなのは飛行訓練だろうな。


「飛べるんですよ」なんて得意げに言ったは良いけれど、あくまでヤタガラスと合体すれば飛べると言うのをアニメを見て知っているだけ。

 

 シャインカイザーとして動けるようになる前に全機バラバラになってしまっていたがその身で空を飛んだ事があるはずもないわけで……俺の練習がてらパイロット達の訓練をしてしまおうというわけなのだ。


方々に話を通してもらい、さあリーンバイルまで飛ぶぞとなった時に飛べなかったらちょっとアレだからね……。


 夕食の際にそれとなく飛行訓練について話題に出すと、意外な事に皆ノリノリで承諾してくれた。


 慣れているシグレはわかるんだけど、他のパイロットはもう少し飛行という物に抵抗があると思っていたので少々拍子抜けしてしまった。

 

 こちらに来てから空を飛ぶ乗り物を見た事はないし、もう少し空を飛ぶという事を怖がるかと思ったんだけどな。びびってたのは俺だけのようだ。


 とは言え、誰からも飛行を拒否されなかったのは有難い。

 ここに来て説得からとなったらばちょっと面倒だからね。


 これから向かうリーンバイルは大陸から離れたところに存在する島国だ。


この大陸からリーンバイルまでどれだけの距離があるのかははっきりとわからないけれど、距離によっては丸1日以上飛ぶ事になるだろうな。


 仮にルナーサから飛び立ったとしようか。

 その後リーンバイルまで足元にあるのはひたすらに海である。


 怖くなったので降りよう! と言われた所で降りることは出来ないわけですよ。

 そもそも誰かが空を恐れた場合は飛行作戦自体が使えなくなってしまうので、本当に皆恐れ知らずで助かった……。


……


 翌日、朝食後に早速飛行訓練をはじめた。

 現在俺は全ての僚機と合体し、真の姿、シャインカイザーになっている。


 念願の完全合体だし皆も感動するかな? と思ったけれど……ウロボロスと合体した時に完全体と勘違いをして思う存分感動してしまったからな……パイロット達の感覚としては『背中にヤタガラスが増えてコクピットが広くなった』という程度の物らしい。


 俺も……まあ、なんだか背中の違和感がようやく消えたぜ、くらいの感覚だったし、レニーはまあ、それなりに喜んでいたけれど、やっぱりミシェルとマシューは大して盛り上がっていなかった。


 初合体のシグレだけは異様に興奮していたけれどな! ありがとうな、シグレ……その初々しい姿になんだかちょっぴり救われたよ。


 完全合体を遂げたコクピット内部は非常に賑やかだ。

 

 最前中央に座るのはレニー。その後ろにマシューとミシェルが並んで座り、一番奥の席にシグレが乗っている。


 4人になったら二人ずつ並ぶとばかり思っていたらしいレニーは少し残念そうな顔をしていたが、それでも賑やかになったコクピットには満足しているようだ。

 

 4人部屋となったコクピットにはキャアキャアとはしゃぐ少女達の黄色い声が響き渡り、およそロボットのコクピット内とは思えない空気が……なんというか、修学旅行で乗った新幹線を思い出すような空気が漂っている。


 当然、スミレもその環に混じってキャアキャアしているわけなので、5名分の華やかな空気で尚更賑やかになってしまった。


「ごほん、では飛行訓練に移ろうと思う。飛行形態は操作系統が独特なんだ。

 メインの操作はあくまでもレニーで、手足の輝力制御はマシューとミシェルの役割、これは変わらない。

 ただし、空での移動の主役はシグレ、君なんだ」


「私ですか?」


「ああ、レニーが操縦するのは俺本体。シグレは飛行ユニットを操縦することとなる。

 つまり、俺をぶら下げたガア助を操作すると思ってくれればいい」


「成る程……私が……皆の命を任されると……」


『シグレ、万が一の時は拙者が自分で動くでござる。

 あまり気負わずやってみるといいでござるよ』

「そう言えばカイザー殿や機兵の皆は自分で動けるのだったな。

 思えばガア助も自在に動いていたものな……で有れば今更か。

 そうだな、なるべく落ちぬようにするが、もしもの時はガア助、頼りにしているぞ」


 そう、俺達にはいざという時自分で動けるという最大の武器がある。

 パイロットが意識を失っても制御を保つことだって出来る。

 着陸だってオートで出来るんだから、そこらの飛行機にだって負けることは無い。


 なので、ある程度安心して軽いノリで訓練に向かうことが出来るというわけだ。


「では、行くか! レニーは姿勢をそのまま維持してくれ。

 シグレはコンソール……操縦桿に手を当てて自分がガア助の羽を使って空を飛ぶイメージ……空に浮かび上がる姿を思い浮かべてくれ」


「空に浮かび上がる……浮かび上がる……浮かぶ……」


 背中の翼からなにやらファンが高速回転をするような高い音が聞こえてくる。

 間もなく反重力ユニットに火が入り、俺の身体がふわりと宙に浮いた。


「いいぞ、シグレ。きちんとイメージ出来ているぞ」

「ありがとうございます!」 


 いつの間にか野次馬に来ていたトレジャーハンター達から歓声が上がる。

 徐々に彼らの姿が小さくなり……俺の身体が上昇していっているのがわかる。


「ひゃあ! 森がどんどん小さくなっていくよ」


 レニーが興奮気味に声を上げる。


「おっ! 向こうに見えるのはグレートフィールドか! てことは……見えた! うちのギルドホームが見えるぞ!」


「かなり高くまで上昇できるんですね。まるで本当に鳥になったみたいですわ」


 っと、このまま上昇を続けてしまえばこの惑星を飛び出してしまうな。

 宇宙に興味がないわけではないけれど、当分そんな真似をするつもりは無い。

 取りあえずシグレに声をかけて高度を抑えて貰わねば。


「よし、シグレ。そろそろ水平移動をしよう。ガア助となって真っ直ぐ空を飛ぶ姿を思い浮かべるんだ」


「ガア助みたいに……空を飛ぶ……ガア助……」


 上昇が止まり、ゆっくりと空を旋回し始める。

 なるほど、シグレ達はこうやって俺達を見張っていたんだな。

 流石にこんな上空にまで警戒の目を向けていなかったからな……シグレ達が仲間になってくれて本当に良かったよ。これはほんと敵にしてしまったら結構手強いもの。


「良いぞ、その調子だ。では次に姿を消してみよう。やり方は同じだ、がんばれ」

「消える、消える……周囲に溶け込む……」


 レニーが俺の腕を動かし、カメラの前に持ってくる。

 ジワジワとそれが透明になっていくのを見て乙女軍団が盛り上がっている。


「うむ、成功だな。暫くこの状態を維持して森の上空を飛び回ってみよう」


 涼しい顔で指示を出しているが、俺も興奮で叫び出したい気分だ。


 カイザーとしての記憶というか、感覚があるため、飛ぶという事自体は走るくらいに当たり前の「飛べて当然だ」という感覚はあるけれど、「人間の私」としての感覚が空を自在に飛び回っているというこの状況が嬉しくて楽しくて気持ちが良くてたまらない。


 ぐるぐると旋回していると神の山が目に入る。

 

 ずいぶんと高度を上げているため、神の山を見下ろす具合になっているわけだけど、あそこで目覚めレニーと出会い、ブレストウルフと戦ったんだなあ……と思うと……うん、なんだかとっても……泣けてくるや。


 ようやく……夢が叶ったんだなぁ……。

 パイロット達を揃えて、こうして完全合体をして……空まで飛んで……うう……今日までほんと……長かったなあ。


「カイザー、感傷に浸っている場合じゃありませんよ」


「あ、ごめん。どうしたの? 何か問題でも起きた? まさか、高高度に棲まう竜種でも現れたり……?」


「いえ……シグレがグロッキーです。輝力を使いすぎて間もなく意識が……」


「あっ」


『こうして拙者が記憶を取り戻すまでまでシグレはまたがるばかりで輝力を拙者に流すということが無かったでござる。

 今後はその修業もしないといけないでござるなあ……』


 ヤタガラスが制御を代わってくれたおかげで墜落をせずに済んだ……。

 そうだよなあ、マシューだって最初は輝力切れに悩まされてたんだ。


「輝力切れかあ。あのひでえ訓練の日々を思い出すよな、レニー」

「そうだね……シグレちゃんなら直ぐコツを掴めそうだけど、訓練はしたほうが良いね」

「面白そうですし、お父様から連絡が来るまでやりましょうか」

「そうだね、久々に皆で訓練しよう! シグレちゃんだけにやらせるわけにもいかないもん」

「ですわね! わたくしも精一杯頑張りますわよ!」

「えー……」


 マシューは余程アレが堪えていたのだろうな、張り切る二人を半目で睨みながら一人不満の声を上げていた。

 

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