第百五十五話 カイザー軍団 変形披露

 カイザーがオルトロス、ウロボロス、そしてヤタガラスの3機の僚機と合体した姿、それがシャインカイザーだ。


 ぱっと見はウロボロス、オルトロスとの3機合体の姿に近いが、4人乗りのコクピットを備える動体は広くなり、顔もまた、口を覆うバリアパーツが現れ厳つい雰囲気に変わる。


 そして何より目立つのは背中に生える翼だ。


 翼と言っても、鳥のようなそれでは無くステルス戦闘機のような翼で、それを持って俺は真・勇者シャインカイザーと呼ばれる姿になるわけだ。


 勿論、その翼は飾りでは無い。その状態での俺は飛行可能で、飛行中のみという制限がつくけれど、短時間であれば光学迷彩にてその姿を消すことが可能となるのだ。


 ちなみに飛行は基本的には移動に使うもので、飛行したまま敵を蹂躙するということには向かない仕様になっている。

 

 これは恐らくアニメシナリオの都合上、そういう仕様にされているのであろう。

 空中戦ばかりになると……その、あんまり面白くなくなるからなあ……。


 ざっくりと取り戻した飛行能力についてアズベルトさんに説明すると、何かを暫く考えた後、どこか落ち着いた様な声の返事が戻ってきた。


「飛ぶにせよ何にせよ、リーンバイルに行くとなれば一度レインズ殿……トリバの大統領に相談しようと思うけど構わないよね?」


「レインズ・ヴィルハート……大統領であると同時にハンターズギルド本部のギルマスでしたね。

 我々ブレイブシャインがトリバの冒険者である以上、彼に話を通すのは筋でしょうし、何かの時に動きやすくなるでしょうから構いませんよ」


「そうだね。ルナーサならともかく、トリバでは僕が手を回しにくいからねえ。

 では結果を報告出来るまで一週間くらいかかると思うから、のんびりしていて下さい。

 はあ、君から貰った通信装置……是非レインズ殿にも渡して貰いたいよ……」


 最後にぼやきのようなオネダリのような一言が聞こえ、通信は終わった。


 たしかになあ。この手の緊急を要する連絡は素早くやりとりしたいものな。

 恐らくアズベルトさんがトリバとの連絡に使うのはハンターズギルドが使っているらしい物と似たような魔導具なんだろうけれど……あれは何やらそこまで便利なものじゃ無いらしいからな。


 詳しい話はわからないので、それを使ってどれだけの速度でやりとりが出来るのかはわからないけれど、アズベルトさんの様子を見るに、あまり良い物では無いのだろうな。


…… 

 

 アズベルトさんとの通信を終え、ジン達の元へ向かうと彼らは遅めの昼食を摂っていた。

 

 わいわいと賑やかに雑談をしながらの昼食で、その話題の中心はミシェルとシグレ。

 新たに増えた仲間と、彼女たちが乗るについて団員の興味は釘付けになっているようだ。


「カイザーの旦那は馬になるだろ、オルトロスは変なイヌだ。じゃあ、お嬢さんのとシグレのは何になるんだ?」


「ガア助は鳥になりますね。ヤタガラスという聖獣なのですが、脚が3本もある変わった鳥です。

 しかし……私としては鳥型の方が馴染み深いので、人型になるのが未だ不思議ですよ」


 嬉しそうに説明するシグレに対して、ミシェルは何だか苦笑いを浮かべている。

 ……そう言えば、ウロボロスって未だ幻獣形態に変形したことなかったな……。

 

 旅の移動手段はその多くが馬車となった俺で、最終的にはミシェルもマシューも乗り込んでウロボロスやオルトロスは自動機動により移動していた。


 アニメ作中では幻獣形態でもどんどん攻撃をするシーンが有ったのだが、動物型ロボと言えば魔獣のイメージが強い世界なせいか、レニー達はその形態で戦うことはせず、普段も殆ど人型で居ることが多い。


 そう言われてみればウロボロスが変形する機会というのはこれまで無かったな……。

 

「ミシェルすまん……その、機会がなくて……」

「え? ああ、いえ! べ、別に構いませんのよ……別に困ってませんし……わ、わたくしは人型で十分ですし……その……変形なんて必要……ありません……から」


 む……? なんだかミシェルの様子がおかしい。

 これは遠慮しているとかそう言うものでは無く、なにかこう……拒絶?

 変形されるのを嫌がっているような……。


 ……もしかして。


『ウロボロス、聞こえるか?』


『おやカイザー、内緒話かい?』

『ミシェルに聞かれたくない話題ね?』


『ああ、もしかしてミシェルってその……蛇が……』


『その事かい。うん、苦手だね……』

『だから恐らく試してみようと言わないんだと思うわ……』


『そっかあ……やっぱりかあ……。まあ腕輪のモチーフはだったから変に察してしまっているのかもしれないなあ』


『ちっちゃい頃に僕たちの義体を腕に付けるってなった時ね、嫌だ怖いとぐずったからね』

『あの時のミシェルは可愛かったわねー。今思えばあの義体は失敗だったわね』

『でも僕たちを表す姿だからね。腕輪にするならぴったりじゃ無いか』

『そうなんだけど……でも将来的に女の子が付けると知ってたら私は反対してたわよ』

 

 蛇が苦手……か。そもそも蛇が平気って人の方が少ないからな。それはきっと此方の世界でもそうなのかもしれない。

 けれど、幻獣形態は今後使う機会があるかも知れないし、試すならば速いうちが良い。

 いざという時、必要に迫られて使ってみて拒絶反応が出ても困るからな。


「ミシェル」


「ひゃ、ひゃい? な、ななななんでしょう? カイジャーしゃん」


「……なんだかレニーみたいになってるな……まあいい。

 折角だし、皆で幻獣形態になってみようと思うんだ。一応パイロットにも許可をと思ってね」

「……そ、そうです……わね。い、いいですわよ? で、ではわたくしはちょっと仕事の続きを……」

「いや、ミシェルはここにいてくれ。ウロボロスは久しぶりの変形となるはずだから、一応パイロットに立ち会ってほしいんだ」

「……うう……ああ……うん、はい! わかりました! が、がんばりますわ!」


 そこまで気合を入れなくて良いんだけどな……。

 まあいい、用意が出来たようだし、やってみよう。


 手始めに俺がユニコーンに変わると団員たちから拍手が起こる。

 この世界には変形ロボという物が存在しないようだからな。目の前でガチャガチャと変形したらそりゃあ盛り上がるさ。


 ふふ、少し気分が良いな。

 

「いいぞー! それだけで食ってけるんじゃねえか!」

「がはは! ちげえねえ!」

「ハンターやるより稼げるぞー!」

 

 なんだか失礼なヤジが飛んでくるが、友達の賑やかしみたいなもんなので嫌な気持ちはしない。むしろ受け入れられているこの状況を嬉しく感じるね。


 次にオルトロスが変形する。前に一度やって見せては居るが、これはこれで大盛り上がり。緊迫した事態の後だから余計に気分が盛り上がっているのかも知れないな。


「おー! いいぞー! 相変わらず変なイヌだなあ!」

「おい、あたいのオルトロスを馬鹿にすんじゃねえ! オルトロスは賢いんだから、お前らの悪口も全部わかってんだからな!」

「そうだよな、あいつマシューより賢いもんな!」

「がはは! ちげえね……おいおい! マシュー冗談! いてえ! おい! すまん! いてえ! かんべんしてくれよお……」


 ああ……おじさん達がマシューにボコボコにされている……。

 マシューも多少は手加減をして……居ないな……大丈夫かな……大丈夫そうだな。


 続いて先にガア助――ヤタガラスが変形してみせる。

 バサリと広げられた黒翼の翼。

 その姿は確かに魔獣のようにも見える。記憶が戻る前に見た時はどう見ても魔獣にしか思えなかったし、今見てもそう考えてしまったのが理解出来る。


 なんというか、我々の中で一番生物っぽいんだよな、ヤタガラスは。

 それは多分、脚が3本であるという以外は……そのまんまカラス型メカとしか言いようが無い姿で、羽根がこう、生々しいというかなんというか。機械の身体なのに生っぽさを感じるからなのかもしれない。


「おおー! まんま黒い鳥か。見たことねえ鳥だな!」

「全身黒って夜間偵察に良さそうだな!」

「いいぞガア助ー!」


「おいこら! おめえら! なんでシグレの時は褒めるんだよ! あたいのオルトロスも褒めたら良いだろ!」

「まあまあ、落ち着きなよマシュー。カイザーさんだって弄られたんだから……ね?」

「何だか知らんがすまぬ、二人共……」


 遠慮をしてるのか、純粋に気に入ったのかはわからないが……ガア助がやたらと褒められている。

 シグレは喜んで良いのやら、遠慮したほうが良いのやらわからない様子だ。

 顔を赤くしている辺り、とても嬉しいのだろうが。


 そして……いよいよ順番はミシェルの所に回ってきてしまう。

 

 唇をきっと結び、仁王立ちになってウロボロスを睨みつけている。

 ウロボロスも何だかやりにくそうにしているが、ミシェルが片手を上げて合図をするとおずおずと変形を始めた。


 間もなく変形が終わる。


 現れた2体の魔獣にも見える存在の姿、それを見た紅き尻尾の面々は大いに歓声を上げる。


「これが……ウロボロス……ですの?」

  

 オルトロスは頭こそ2つあるが、身体は一つ、あくまでも双頭の幻獣だ。

 しかし、ウロボロスはその身を2体に分け、仲良く並んでその場に佇んでいる。


 ウロボロスの幻獣モードを見て誰よりも一番驚いているのはミシェルであろう。

 その表情には嫌悪感などはなく、寧ろホッとしたような顔をしている。


「えっと、その……蛇じゃ……無いんですのね……」


 そこに立っているのは互いを喰らい合う蛇などではなく、細身のドラゴンといった風貌の姿をした幻獣。

 

 背中には小さな羽を生やし、頼りないながらも手足も生えている。

 何より蛇と違うのはクチバシが生えているというところであろう。


 赤い身体に黄色のクチバシが付いているその姿はメカメカしさも相まって何処か可愛らしく、それを見つめるミシェルは……何処か愛らしい物を見るような顔をしている。


 さらにコクピットが付いている側のウロボロスには王冠が乗せられていて、その姿をより可愛らしく飾っている。

 

「どうだ、ミシェル。幻獣形態のウロボロスはかっこいいだろう!」

「……ええ! 驚きましたけど……これは嫌いじゃありませんわ……その、可愛いですわ!」


『ははは……可愛らしい……か』

『そうよ、私達は可愛いのよ。どう? 気に入ってくれたかしら、ミシェル』


「ええ、ええ! とっても気に入りましたわー!』


 胸のつかえが取れたかのような顔で喜ぶミシェルを見て俺はメカデザインの人にグッジョブを送る。うーちゃんの方は何処か困った顔をしているが、嫌われるよりもずっといいじゃないか。

 

『モチーフはウロボロスで』と指定され、我が尾を飲まんとする蛇の姿ではなく、互いに尾を噛み合うドラゴンの方をを採用したのは本当にグッジョブだ。


 確かにおもちゃ的に考えるとどう考えてもヘビ型ロボットは人気が出なそうなので、ドラゴンの方を採用したのかも知れないけどね。


 ウロボロスモチーフでと言った人が誰なのかはわからないけれど、それが異世界で一人の少女を悩ませ、そしてメロメロにさせているとは夢にも思わないだろうな。

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