第百五十四話 中間報告
ウロボロスとリンクしてアズベルトさんの通信機と接続する。
先程ミシェルが連絡をしていたから、こちらが無事なのは伝わっているだろうけど他にも色々と報告する事はあるからね。
「カイザーです。連絡が遅れて申し訳ない」
『ああ、構わないよ。ミシェルからも連絡はあったからね。
しかしトレジャーハンターの皆さんには本当に申し訳ないことをしてしまって……』
「今は水を得た魚のように調査計画を練ってるようですし、まあそこは……っと、詳しい報告をしますね」
黒騎士戦の一通りの流れとシグレの話を細やかに伝えた。
黒騎士が予定よりもかなり早めに到着した事を告げると、驚いた声を上げていたけれど、どうやらある程度は想定内だったようだ。
『帝国軍が何か新しい船を開発しているという情報は掴んでいたんだ。
だからこそ、例のシグレという少女からの情報は真実だろうと思ったのだけれども……無補給で動ける程度の物かと思えば、それだけ速く移動出来る船だったとは。
カイザー、君が良い判断をしてくれて本当に助かった。ありがとう』
「判断というか……胸騒ぎがしたというか。何にせよ急いだ甲斐がありました」
そして、黒騎士が槍ではなく剣を使っていたという報告には……
『アランドラは本来剣の名手と言われているんだ。槍を使っている姿が良く目撃されているから、勘違いされがちだけれども。
得意武器を装備してきたってことは君達を警戒してたんじゃないかな。あちらには君達の情報がしっかりと伝わっているわけだからね』
と、結論づけていた。
俺達を警戒して……か。その割にはなんだか呑気で間抜けな登場シーンだったが……。
いや、俺達がいないと思ったのかな? 何にせよ最後まで良くわからない奴だったなあ。
フォトンライフルが奪われたことについては、一応は俺を慰めてくれたけれど、それはそれとして帝国への警戒を深める事になると言っていた。
あのライフルは他の武器とは違い完全に小型輝力炉が停止していた。
だからジンは魔石を使って無理矢理動作させていたのだが、そんな状態のアレには輝力が無い以上、動物を魔獣化させる力は残っていない。
なので、その辺りについては問題は無いのだが……本来の用途通り武器として調査・研究された場合、帝国に余計な力をつけさせることとなってしまう。
流石にそのままにして置くわけには行かない。
折を見てどうにか取り戻さねばならないだろうな。
……難しい作戦になりそうだが。
そして黒騎士戦の報告となれば外せない事が一つある……。
今回の依頼におけるボスとしてのアズベルトさんではなく、ミシェルの父親としてのアズベルトさんにきちんと詫びておかねば行かない事が。
「すまない、アズベルトさん。約束をしたというのに、ミシェルを危険な目に遭わせてしまった。結果としては無事に済んだが、なんとお詫びをして良い事か」
ヤタガラスを除けば、今回一番のダメージを負ったのはウロボロスだ。
そしてそれに搭乗していたミシェルは怪我こそは無かった物の、状況が状況ならば取り返しのつかない事になっていたかも知れないのだ。
その辺りの事を詳しく報告し、しっかりと詫びるとアズベルトさんが大きくため息をついて諭すように俺に言葉を返してくれた。
『確かに僕はミシェルの身を案じるような事を言ったよ。うん、君が言うとおりミシェルは危ない目に遭ったのかも知れない。けれど、それは無謀な真似をした結果では無い。
撤退を考慮して動いて、それでも避けられなかった事なんだろう? 君が謝ることじゃないさ。
こうして無事に戻ってきてくれたんだ、それで良しにしようじゃないか』
「しかし……もしも相手が撤退しなければ……今頃俺達は……」
『もしもの話は無しだよ。商人にとっては結果が全てだ。娘が無事ならばそれで良いし、君たちも全員無事ならばそれで良いじゃ無いか。それに、それくらいの事を僕が想定しないとでも思ったかい? だったら初めからミシェルを行かせてないよ。僕はミシェルを、君たちを信じたからこそ送り出したんだからね。
さあこの話はこれで終わりだよ。さあ、他にも報告をすることがあるんだろう?』
「そう……ですね。ありがとうございます」
アズベルトさんの声は少しだけ震えていた。言葉ではああは言っているけれど、きっとかなりキモが冷えたはずだ。それなのに、なんて有り難い言葉なのだろうか。
彼は俺のことを友人だと言ってくれた。
友人を信じて娘を託してくれたんだ……今更ながら嬉しくて有り難くて胸が詰まるな。
そして……双方の感情を誤魔化すように話はシグレの報告に移る。
謎多き少女、シグレ。
彼女はリーンバイル王家の末裔であり、今もそこに住まう一族の命により行動している。
この報告をすると、アズベルトさんは今回一番の驚きを見せた。
『ごほっごほっ……失礼。リ、リーンバイルが存続しているって本当かい?
ミシェルが振る雪月華、あれはリーンバイルから送られたものだという説明はしたよね。
あれはルストニアとリーンバイル両国における悠久の同盟を誓う儀式の際に交換された物らしいんだ。
こちらからは何か特殊な弓が贈られたそうなんだけど、詳しいことは残されて無くてね』
そう言えば前にミシェルがそんな話をしていたな。
リーン刀を見た時はまさかなー、と思ったけれど、シグレやヤタガラスを見ていると異世界お約束の日本めいた国なのかも知れないね。
もっとも、シグレ達の
そしてシグレが使役している……と報告していたガア助について新たな情報を伝えると、またしても驚いた声を上げていたが、それでも何故か納得したような風であった。
「なるほど、彼女が使役していたものは魔獣では無く機兵、しかもカイザー殿の僚機であったと……カイザー殿の事を思えば……なんとなく納得してしまうけれども」
「納得されるのはちょっとわかりませんが……それでシグレ本人は仲間となって行動したいと言ってくれているのですが、一度実家に挨拶に行く必要があるそうで……」
「ふむ……帝国の諜報を受け持っていた彼女が味方になるというのであれば、僕としても心強いと思うけど、実家というと、リーンバイルだね……。
今までもリーンバイルの調査に向かわせた船があったけれど、あの島は複雑な海流や岩礁帯に護られていてね。
定められたルートを通らないと見当違いの方向に流されてしまったり、座礁してしまったり、酷い時は沈没すらしてしまう魔の海域。
現在はかつて存在した海図が失われているため、近寄るためには海流の調査が必要となるわけだけれども……リーンバイルが国を閉ざしてから長い年月が経つうち、気にかけるものもいなくなってその……」
「まあ、今の所は用も無いし後でいいかでほっといたって事ですよね。ざっくりいうと」
「……その通りなのですが、もう少しこう、柔らかい言葉で……」
我々ブレイブシャインはリーンバイルに行く必要がある、それを聞いたアズベルトさんは何を思っただろうか。
久しく国交が絶たれていたとは言え、かつては武器を送り合うほどの付き合いがあった国だ。ルナーサを統治する支配人として色々と思うところはあるだろう。
しかし、彼が今一番言いたい事はシンプルに「どうやって海渡るの?」ではなかろうか。
複雑な海流とやらは取りあえず考えないとして、例えば船で行くとなればどうするか。
ここから近い港はトリバの首都、イーヘイだ。
イーヘイには立派な港があり、ルナーサ南部のマーディンやビスワンとの貿易をする船が出ているとのことだが、リーンバイルがあると言われているのは現在我々が居る大陸の北東部、トリバから向かおうとすれば帝国領がある半島をぐるりと迂回して向かう必要があり、海上の移動距離的にも、帝国との関係的にもちょっと選択する気は起きない。
なので、面倒でも一度ルナーサに戻り、その港から出港する必要がある。
大陸沿岸沿いに北上し、ロップリング付近から北東に向かって沖合に出れば帝国のご機嫌を伺う事も無く安心して向かうことが出来る。
しかし、問題は俺達という存在だ。人を乗せられるような船は沢山あるだろうけれど、機兵を4機も乗せて移動出来るような船があるとは思えない。
いや、穏やかな沿岸に沿って移動するような船ならばあるのかもしれないが、機兵4機を乗せて外海を動けるような船があるのかと言われれば……無いだろうと思う。
まして長年ルナーサの人々を悩ませてきた複雑な海流とやらがあるわけだ。
行こうと思っても行けるような場所では無い。
するとシグレやその仲間はどうやってこちらに来たのだろうという話になるわけだが、それは当然ルナーサからは失われたとされる海図を使ってきているはずだ。
けれど、恐らくシグレは別ルートで来ていたのでは無いかと思う。
船では無い別の方法……それはシグレが、ガア助が味方になった今俺にも使うことが出来る方法だ。
「アズベルトさん、海路で行くのはほぼ不可能である、それは間違いではありませんね?」
「ああ、そうだね。まずはカイザー殿達を乗せて外海に耐えられるような船を新造する必要がありますし、それが出来たとしてもそれほど大きな船ではシグレ
「海が駄目なら別の方法を使うほかありませんね。少々練習が必要になりますが、海路以外の方法、取って置きの方法があるんですよ」
「ほう、それは興味深いけれど……無茶な方法じゃないよね?」
「それほど無茶な方法でありません。海が駄目なら空からです」
「……そら?」
「はい、ヤタガラスが仲間になった今、俺達は……飛べます!」
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