第百五十三話 紅の洞窟
「あ、頭領ー! 頭領がきましたぜー!」
「何ややこしいこと言ってんだ、俺はもう頭領じゃねえっつうんに」
洞窟の外ではガヤガヤとトレジャーハンター達がなにかの作業をしている。
何か忙しそうにしていたが、俺達が来たことがわかると皆作業を中断して此方に駆け寄ってくる。
「おーいじっちゃーん! みんなー! 無事だったかー!」
「馬鹿野郎、そりゃこっちのセリフだよ。遅えから心配したんだぞ」
「すまないジン、やはり戦闘になってしまってな……アレも奪われてしまったよ」
俺の言葉を聞いたジンは不機嫌そうな顔をして俺のスネをやたらとデカい工具でガンガン殴りつける……地味にダメージが入っているのだが……。
「へん、俺はおめえらに無事に戻ってこいつったんだよ。
アレはおめえのもんだし、俺は知ったこっちゃねえ。皆元気ならそれでいいじゃねえか」
「……そうだったな。ありがとう、ジン」
「ところでおめえさん、どうも来る度機兵と女の子を増やしてくるが、ちょっと離れた間にまた増えてるようだな? まったく、隅に置けねえ奴だぜ」
挨拶をしようとコクピットから降りてきたシグレを見ながらジンがニヤニヤとした顔で俺をガンガンと叩く……いやだから……地味に痛いんだよ、それ……。
なんだかジンの言い方だと、俺がラノベのハーレム主人公みたいに聞こえるけれど、俺の場合は別にハーレムとかそんなんじゃないのだから一緒にしないで貰いたい。
こいつらは俺のことをただの乗り物や司令官としか見ていないし、そもそも俺は――っと、そんな事は別にいいや。気にせず紹介して下らん話はさらっと流してやれ。
「ああ、彼女はシグレ。出会いはちょっと訳ありだったんだが、先の戦闘で俺達を助けてくれてね。
聡明なジンの事だ、彼女の機兵を見て何か察しているだろうけど、まあ、その通りでな。
取り敢えず暫定的にパーティ二杯って貰って一緒に行動してるわけさ」
「シグレと申す。マシュー殿や皆さんにはお世話になりっぱなしで……。
及ばずながら恩返しに同行させて頂いてるわけです」
『拙者はガア助、真なる名前はヤタガラスでござるが、どうかガア助とお呼びくだされ』
「へえ、シグレにガア助か。おめえさん方、リーンバイルのもんだな?
珍しい連中とつるむなんざ、カイザーはやっぱおもしれえ奴だなあ」
ガッハッハと笑うジンを驚いたような顔で見ているのはシグレにミシェル。
いや、俺も驚いている。今の会話の中で何処にそれを知る物が有ったのだろうか。
「ジン殿、何故我々がリーンバイルの者だと?」
「何故もなにもよ、そんな訛りリーン
「それは……そうなのですが……その、ジン殿は我々の同胞と会ったことがあるのですか?」
「まあなんだ、トレジャーハンターしてるとよ、いろーんな出会いっつうのがあるわけさ。
お宝があるとなれば、何処にでも掘りに行くからな……っと、それはいいがルストニアの嬢ちゃん、この洞窟について相談があったんだ」
なんだか適当に話を切り上げられたような気もするが、トレジャーハンターなのだから顔が広いのは当たり前の事なのかも知れないな。
諜報組織を持つアズベルトさんですら殆ど情報を持っていなかったリーンバイルの人間と面識があるというのは何だか凄まじいのだが……まあ、それは追々上手く聞き出すとして。
しかし洞窟についての相談か……一体何だろうな?
周囲をよく見てみれば、何故か洞窟の外で野営をしていたようだ。
洞窟内を上手く使えばそのまま隠れ家として使えそうなものだけど……。
「相談ですか、なんでしょうか?」
「嬢ちゃんはよ、ここを好きにしていいと言ってくれたが……入ってみておどれーたよ。
なんだいこの、トレジャーハンターを殺す洞窟はよ。とてもじゃねえが住処にゃ出来ねえ」
トレジャーハンターを……殺す? 何だか物騒な話が飛び出してきたぞ。
危ない罠の類は解除したはずだけれども、専門家からすればまだ危険なものでも残っていたのだろうか?
まさか、ゴーレムが再起動を? いや、あれは壊れている。
では一体何が……?
ジンの発言に驚き、顔を青ざめさせてオロオロとするミシェルに気づき、ジンは言葉を続けた。
「ああ、ああ、わりい! そうじゃねえな。言い方が悪かったよ。わりいわりい。
あんな貴重なもんがゴロゴロしてるところに住処なんざ到底作れねえってわけよ」
「……そうなんですの? もう残っているのはガラクタだけだと思いましたが……」
「まあ、普通の連中からすりゃそう見えるだろうな。例えばそこで咲いてる花だが……マシュー、その花を5袋やるつったらどうだ?」
「え? いらねえよ。花なんか柄じゃないし、まあ、断れないならレニーにでも押しつけるだろうな」
「だよな。んじゃ、レニーお前さんならどうだ?」
「え? あ、ああ! それマウンサビじゃないですか! 5袋もくれるって……見返りに何をやらされるんだろうって思いますね……」
レニーの反応に満足そうな顔を浮かべるジン。
なるほど……ジンが言わんとすることがわかったぞ。
「マウンサビはよ、薬草としてもそれなりに需要があるが、独特の香りが人気の香辛料なんだよ。
ただ、なかなか数を揃えられねえもんだから、店をきちんと選んで持ち込めば一袋50銀貨は下らねえ。自生してねえルナーサあたりに持ち込めば、多少鮮度が落ちてても2金貨にはなるんじゃねえかな」
「なっ……2金貨だと……あたいにはただの雑草にしかみえねえのに……2金貨……」
「なるほど……仰りたい事がわかりましたわ。ジンさん達から見れば洞窟のガラクタも宝の山だと……。
わたくしは邪魔な物は処分して下さいと言いましたが……価値がある物を勝手に触るわけにも行かず、片付けようが無くて困っていたということですね?」
「全くそのとおりだ。ありゃあ、確かに商人からすればガラクタかも知れねえが、歴史的な価値を考えるとどれもが宝の山でな、学者先生が大喜びすらあな。
おまけに下手に触れば壊れちまう物がおおくてよ。アレを動かすには少々手間がかかんのよ。それに、んな大げさな作業をするとなれば、流石にルストニア家の許可を貰わねえといけねえだろ? なんで、こうして外で待ってたっつうわけでな……」
「ごめんなさい! まさか洞窟の遺物にそんな価値があるとは思いませんでしたわ……。
ちょ、ちょっとお待ちになってくださいね、お父様にお話をしてきますわ」
「お、おい! お話つっても……ああ、手紙でも書くのか? まあ、外に小屋を建ててるとこだからな、あんまり急がなくてもいいぞ」
ミシェルはウロボロスに駆け寄ると、そのまますばやく乗り込んでいく。
恐らく長距離通信でアズベルトさんと相談をするんだろうね。
手紙どころじゃなく、直に話を出来るとジンが知ったらどれだけ驚くだろうな。
そうだ、俺からも報告を入れないといけないよな……。
今は来たばかりでざわついているし、後からゆっくり連絡させて貰おう。
「お父様の許可を得ましたわ」
「あん? 今の今で許可ってよ……手紙がそんな早く着くわけはねえし、総支配人がきてるわけじゃあ……ああ、そうか。カイザー達はデタラメな奴だったな、どうせハンターズギルド見てえなデタラメな魔導具でも使ったんだなあ? 今更驚かねえぞ」
とかいいつつ、ちょっと驚いてるじゃ無いか。
ふふふ、どうだ、俺達と居ると常識が少しずつ壊れていくだろう?
「ええ、ちょっと実家と長距離通信をしましたの。それで、お父様が仰るには当家に必要なものは全てルナーサに移動済みだということでした。
つまり残されているものは当家にとっては不要品。洞窟もろとも好きにいじり回して構わないとおっしゃっていましたわ」
「お、おおお? す、好きに? そ、それはそれで困るんだが……い、いや! 嬉しいんだ、嬉しいが良いのか本当に?」
「ええ、その代り洞窟の警備がてら暫く住んでいただけると嬉しいと」
「ああ、それは問題ねえよ。言わば洞窟全体が遺物なんだ、じっくり調べさせて貰うさ。無関係な奴が来ても絶対に入れねえし、もういいから帰れっつわれても帰らないからな!」
「うふふ、頼もしいですわ。ええ、よろしくお願いしますね」
こうしてジン達トレジャーハンターギルドは調査の名目で
グレートフィールドのギルドホームはどうするのだと、ジンに聞いてみたが、トレジャーハンターギルドと言う物はどこか特定の場所にずっと居を構えるわけではないのだという。
トレジャーハンターギルドというのは、俺の感覚で例えるならばクランのような物で、全員が身内の巨大なパーティのような物。
グレートフィールドに建てられたギルドホームはあの地を調査する際に皆で建てた物で、その調査が終わるまでの借宿でしか無いとのことだった。
なので、当分は此方にホームを建てて総出で洞窟の調査をするけれど、少し落ち着いた頃にでも何人かを分けてあちらに戻し、定期的に行ったり来たりするようにする――とのことだった。
要するに現場作業員が寝泊まりする飯場のような考え方なんだろうが……。
向こうのホームは結構立派な建物だったし、マシューの実家という認識で護らなきゃっておもったのに……なんというかあっさりしたものだな。
いずれ中にも住めるようにするけれど、当分は洞窟の外で暮らしたいと言う事で、ジン達はそのまま作業に戻っていった。
それを追うように乙女軍団もロボ軍団を伴って手伝いに向かっている。
重機みたいなものだから、建築作業にも活躍することだろうな。
レニーが俺を誘いに来てくれたけれど、アズベルトさんに報告をいれたかったので、申し訳無いけどごめんと、頭を下げて先に一人で行ってもらった。
「じゃあしかたないですね」と、特に残念な顔も浮かべず元気に駆けていったレニーはどうやら女性のギルドメンバー達を手伝って食事の支度を始めるようだ。
さてと、一人になったことだし……俺は
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