第百五十一話 ガア助
俺達は既に本体、腕、脚と
……あり得ないことだった。
しかし、目の前の
――ガア助、シグレが使役している黒い鳥型の魔獣、それには俺と互換性があるコネクタが存在していた。
あれだけ強大な黒騎士の機体を作り上げる程だ、帝国ならばコネクタの互換性までをコピーした物を作れてしまうのでは無いか?
……いや、それはないだろう。
このコネクタは俺と接続するための物だ。あれだけの物を作り出せる帝国ならば、意味が無い物をわざわざ飾りとしてでも付けるような真似はしないはず。
それに合体用コネクタは武器を装備するための物とは形状が異なっている。
遺物をどうにか装備しようとして形状をコピーしたとはとても思えない。
……ならば答えは一つだろうよ。
『……カイザー、やはりこの魔獣、いえ、この機体は……行きますよ……。
データリンク開始……システム良好……機体名判明、ヤタガラスのメインOS起動確認……損傷を確認しました……修復中………修復中……修復完了、ヤタガラス全システムの完全動作を確認……ダウンロード及びアップロードを開始します……正常終了しました』
じわりじわりと失われて居た記憶が蘇っていく……ああ、そうだ、そうなんだよ。
寂しいと思っていた背中……それはバックパックではなく……大切な仲間が、僚機が不在だからこそ感じていた物だったんだ……。
『ヤタガラス補修システム起動、及びカイザーシステムアップデートを開始します。
以下、承認セッション省略。セーフティロック解除。カイザーメインシステム 第6及びサブシステム第10の機能制限が解除されました……えっ?……シークレットシステム アンロック モードシャインカイザー機能制限解除……これは……なるほど……』
「シグレ……色々話したいことはあるが、まず先に言っておく。
ガア助はもう大丈夫だ。明日の朝には完全修復する……!」
「ほ、本当ですか……? か……かたじけない……カイザー殿……ええと……そちらの妖精様は……」
「スミレです。よろしくね、シグレ」
「ええ、スミレ殿も本当に……かたじけない……!」
「良かったね、シグレちゃん! そして……ありがとう!」
「ああ、シグレが……ガア助が来てくれなかったらあたい達はダメだった!」
「本当に有難うございます、シグレ」
「諸君……積もる話もあるだろうが、とりあえずギルドホームで休め」
ジン達に心配をかけることになりそうだが、今の我々は機体、パイロット共に消耗しすぎていて動ける状態ではない。
ガア助やウロボロスは勿論の事、俺やオルトロスも無傷とはいえないため、俺達の修復とパイロット達の休息のために赤き尻尾のギルドホームで一夜を明かすことにした。
夕食を食べ、ギルド前の広場、俺達ロボ軍団が身体を休めている場所に集まってシグレから今日の話を聞き、俺からは俺達のこと、ガア助の事を打ち明ける事にした。
「
アランドラの強さは知っていましたので、及ばずながらも力になれればと」
「ああ、本当にいいタイミングだったよ……君が来なかったらどうなっていた事か」
「いえ! 大遅刻です! 予定では先回りをしてなんとか黒騎士の足止めをする予定でしたので。
しかし、来てみれば既に
「いや、助かったんだ、そんな顔をしないでくれ。重ね重ね言う、ありがとう。結果として黒騎士は撤退していったが、ガア助の助けが無ければ我々は今こうしてここに居なかった」
「ありがとうございます……カイザー殿……」
皆で口々に改めてガア助とシグレに礼を述べる。
ほんと、今回は俺の大失態だ。あれだけ『命を大事に』と言っていたというのに、調子に乗りすぎてしまった。
危うく取り返しのつかない事になってしまうところだった……。
ひとしきりシグレとガア助にお礼を言ったところで今度は俺が話す番になった。
この話をするのは何度目だろうか。
しかし、話すたびに僚機の名前が増えていくのは嬉しい限りだ。
……流石にもう増えないよな?
うん、増えないはずだ。今の俺にはきちんと『真・勇者シャインカイザー』の記憶が蘇っている。
あれだけ思い出せなかった作品タイトルをきちんと思い出せているという事は、これで本当に全機がそろい、俺の記憶が確実な物担った証拠だ。
それに……なによりも、今まで感じていた妙な『さみしさ』を感じる事は無い。
あれはきっと……記憶を失いながらも無意識に感じていた僚機の存在だったのだろうなあ。
「……というわけで、俺は異世界からやってきた機兵の元となった存在で、オルトロス、ウロボロス、そしてガア助――ヤタガラスは元々俺の僚機だった、そういうわけなんだ」
「……どこから理解すれば良いのか……わからぬが……いえ、ガア助が喋れる、同様にカイザー殿達が喋れる……カイザー殿と初めてお話した時点で共通性に気づき、貴方に相談するべきでした。私は勿論、一族の物もこれまで喋れる機兵や魔獣の存在を見た事がありませんからね」
調べてみれば、ガア助のOSも一部が破損していた。
それが原因かどうかはわからないけれど、俺から分離した後もスリープ状態に入ること無く、ロボモードに変形出来ることを忘れたまま永き年月を過ごしていたのだろうと思う。
「ガア助の本当の名前はヤタガラスと言うのですな」
「ああ、ヤタガラスというのは俺達の世界に
それを元にして作られたのがヤタガラス、つまりはガア助だ」
「ガア助は私が物心ついた頃から家に居ました。頭領からつけられる稽古で叩きのめされる度、悪さがバレて蔵に閉じ込められる度、何かあればそばに来て慰めてくれたのです」
「まるで
「ええ、ガア助と私は本当の姉妹のように……え? 姉妹?」
「ああ、ガア助は女性型の機兵、性別的には一応女性だよ」
「なんと……すまぬ、ガア助……先代がもう少し可愛らしい名前をつけておけば……」
『かまわぬかまわぬ。この名は拙者も気に入ってるでのう』
拾われて人と共に暮らしていた……か。なんだかウロボロスと似たような境遇だな。
しかし、4号機か。これで背中のさみしさも解消されたぞ。
そして、俺の本当の名前シャインカイザー。
そうだ、俺は確かにシャインカイザーとして起動したんだ。
そう、真・勇者 シャインカイザー、それこそが俺が大好きなロボアニメ。
俺がなりたかったロボットの名前だ。
ヤタガラスとリンクしてようやく思い出せた本来の名前……やはり俺は4機そろってこそだからな。まったく神様も粋な事をしてくれたものだよ。
「シグレ、相談があるんだが……」
「はい、なんなりと言いつけて下さい」
「いや、断る権利はある。まずは聞いてから判断してくれ。
俺はそこで休んでいる僚機達と合体、身体を一つにする事で本来の姿になれる。
無論、それはガア助もそれに該当する」
「つまり……ガア助をカイザー殿に譲れと……」
「いや、そうじゃない。君にもガア助のパイロットとして共に来て欲しいのだが……しかし、君は帝国人だ……色々なしがらみもあろうから、無理には――」
「いえ、私は帝国の者ではありません。それは誤解ですよ、カイザー殿」
「む? 違うのか? だって君は帝国の仕事をしていたんだろう?」
「まだ詳しくは話せませんが、私は帝国に雇われていただけの身であり、決して帝国民ではござらんよ」
「なるほど……そう言う事か。では、俺達の仲間に――」
「私としてはそうしたいところなのですが……上の者に話を通し、許可を得る必要があります」
「成る程、シグレの一存では決められない……か」
「……一つだけ秘密を明らかにしましょう。
私の名前はシグレ・リーンバイル。リーンバイル王国の末裔です」
「リ、リーンバイル王国ですって?」
静かに話を聞いていたミシェルが驚いて立ち上がり、驚いたかをしている。
「とはいえ、既に王家という形は消え失せて家の血筋だけが残っているだけですけどね」
「シグレさんならご存じかと思いますが、わたくしの名前はミシェル・ルン・ルストニア。
古来、リーンバイル王家とともに手を取り戦ったルストニア家の末裔。
先祖に変わって末裔の貴方にお礼をさせて下さい」
「そ、そんなミシェル殿! 先祖は先祖、私達は私達ですよ! ちょ、頭を上げて!」
「うふふ。それはそれとして……リーンバイルは長い間鎖国をしているため安否が不明でしたの。
貴方がこうして元気だということは、あの国の方々も無事でしたのね……」
「はい、いえ、昔のことはわかりませんが、今も皆幸せに暮らしていますよ。
……まあ、当家のようにちょっと変わった仕事をしている者も居ますが……。
そのお話は父上の許可が出たら改めて……」
これは……シグレとガア助をパーティに加えようと思えばリーンバイルに行く必要があるわけか……確かリーンバイルはルナーサ北東沖にあると言われている島国だったな。
となれば
いや、それより先にジン達に報告をしなければいけないな。
黒騎士がまっすぐここに来て去っていったということはあちらも無事なはずだ。
きっとみんな俺達の心配をしている事だろうしな。
明日、修理が完了したら直ぐに報告に向かうとするか。
「シグレ、明日俺達はここの住人たち、トレジャーハンターギルド赤き尻尾の人達に報告をしに行くんだが、君も暫定メンバーとして同行してくれないかな?」
「そうですね、父上の説得はは兎も角として、私は貴方がたの力になると決めました。
それに本部に鳥を飛ばし『帝国の件はこれにて完了、以降は恩に則り行動する』と送りました故、何も問題はありません。
正式な許可を得るのはは本部に戻ってからになりますが、例え父上とぶつかろうとも私の気持ちは変わりませんからね。喜んでお供しますよ」
ほんと……このシグレという少女は諜報役として少しポンコツな所があるよなあ。
これじゃあ自分の口から『本部はリーンバイル、上司は父親である』と言っているようなものじゃないか……。
ともあれ、彼女が仲間になってくれるのはほぼ確定したような物だろうな。
痛い目に遭ったし、フォトンライフルは奪われてしまったけれど、俺達は掛け替えのない仲間と再会し、出逢う事が出来た。今回はこれでいいじゃ無いか。
今日の所はゆっくりと休み、明日はさっそくジン達の元に報告に行くとしよう。
……
…
……結構遅くまで賑やかにしていた乙女軍団も寝静まり……現在の時刻は午前二時……周囲には遠くはぐれ魔獣の反応が入るくらいで、一切の生体反応は無い。
僚機達はといえば、オルトロスはなんとなくでスリープに入っていて、ウロボロスとヤタガラスは機体修復速度を高めるために同じくスリープに入っている。
だと言うのにだ。俺の元に通信が入った。
こんな真似が出来るのは僚機とスミレくらいのものなのだが……スミレもおそらくはレニーと共に夢の中……いや、スリープに入っているはずだ。
だとすればこれは一体……?
発信元は……Unknown……?
一体誰が、どうやって? こんな真似を出来る存在を俺は知らないぞ。
何者かの罠か? そう思ったけれど、この手の怪しい通信があればスミレ先生はぱっちり目を覚まして此方に戻ってくるはずだ。
そもそも……このような無線通信をこの世界に出来る存在が居るとは思えない。
……取りあえず応答しなければ何も始まらないな。俺には高度なセキュリティ機構が備わっているんだ。例え、妙な連中からの攻撃だとしてもそう簡単にはやられない。
……とは言え、時間が時間なのでなんとも恐る恐る受信すると、聞き覚えがある声が聞こえてきた……ああ、この声は。
「久しぶりだね、
この声を聞いているということは君は真の記憶を取り戻したということだ」
これは……神様? 俺をこの世界に転生させた神様の声か?
「生まれ変わってしまったこの世界を君がどう思っているか、それはわからないがもし怒っていたらごめんと謝っておく。
噴火を起点にこの世界は大きく揺れ動いてしまったからね」
ロボが居ない世界にって言ったのにロボがいる世界になっちゃったからなあ。
まあ、結果的にいろんなロボを見られたし、今日だって危険な目には遭ったけれど……
……実の所、窮地に陥るまでは少しワクワクしたからな。
別に怒ってないよー
「そのおかげで僕も退屈をせずにすんでいるし、僕の子供たち……この世界の住人達の生活も一変した。
本来では得ることがなかった超文明、機兵というものを手に入れたんだ。これは凄い事だよ。君の活躍は想像以上、うちの世界に転生させて良かったと心から思う。
そこで、願い事とは別に君にささやかな贈り物をすることに決めたんだ」
贈り物だって? 一体何が……ま、まさか念願の基地? 俺達の基地なの?
「君が欲しがって欲しがってやまなかったであろう……。
シャインカイザーBD-BOXの映像データだ。ふふん嬉しかろう?」
「えええ? そっちかよ!!」
「えっ? ダメだった?」
「ダメじゃないけど……」
「そっか良かった。まあ君がこっちに来た翌年放映された劇場版はちょっとわけあって今ここでは……」
「ええ? 劇場版? ちょっとなにそれ! 知らないんですけど! まって、私が死んでから何があったの? っていうか、おい! 録音じゃないだろこれ! 会話してるよね? ねえ! 神様!」
「録音だよ! そんな必死に呼びかけられても答えられないってば!
そ、そんなわけでまたね! 次に連絡をするときまで皆元気でいられることを祈ってるよ」
「ちょっとおおおお! 劇場版って! あと、せめて特典の資料集……ああ、せめてスキャンデータを……」
『……こんな時間に何を一人で騒いでいるんですか?』
「わあ! ス、スミレ? ああいや、いまちょっとな……いや、なんでもない」
『……? 何かうるさいから来てみれば独り言ですか……まあいいです。なんでもないのなら。
じゃあ、私はまたあっちで寝ますからね。さみしがらないで下さいね』
「少し寂しいけれど、いいさ。お休み、スミレ」
『ふふ、おやすみなさい、カイザー』
……しかし、えらいもん貰っちゃったな……。
ヤバいよこれ、ほんとヤバい! 俺も見たいが、是非パイロット達にも見てほしい!
……となると俺の正体を明かすことになるのか。
ううむ、ま、それは追々考えるとしよう。
……今はまだそんな余裕ないからな。
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