第百四十九話 必殺剣、放たれる

 ◇◆アランドラ◆◇


 なんだあれ! なんだあれなんだあれ!

 おっもしれえ機兵じゃねえか!


 白い奴が放つ良く分からねえ飛び道具。

 ビカビカ光るあれは直撃したらやばそうだ。


 なんとか剣で弾いてやったが……重てぇのなんの。それでいて中身がねえときたもんだ。

 ありゃなんだ? 魔術兵器の類か? やっぱりあれも遺物か? いいねえ、いいねえ!

 俺は飛び道具は好まねえが、あれは少し興味深いな。


 それに赤いのと紫の2機の連携もおもしれえ。

 油断していたとは言え、まさかこの俺が一発貰うことになるとはなあ。


 紫のよくわかんねえ武器もおもしれえしよ、ほんとおもしれえ連中だ。


「だけどまだまだだな……これじゃあまだまだ全然面白くねえ!」」

「任務なんだから面白い面白くないの問題じゃないでしょ……」


「面白くねえんだよ! あんな面白え機兵に乗りながら、未熟! 技量不足なんだよ!」


「確かに……一応連携のような事はしてるけど、各機の特性を生かし切れているとは思えないわね。

 なんというか……拙いと言うか、機体に頼っている所があるというか……そんな感じはするわ」


「だろがよ? まあ所詮荒削りなハンターレベルってとこだなあ! 団で預かって鍛えてやりてえくらいだ」


 おおっと、なんだなんだなんだあ? 連中め、かなわねえと見えて撤退するつもりか?

 おうおう、お仲間が逃げる隙を作ってんのか? そんなにバンバン撃って弾がいつまで持つことやら。あの銃とやらはおもしれえ武器だが、弾数管理がめんどくせえわ、当たんねえわで団でも使うやつは居ねえからな。所詮、狩人共の玩具でしかねえ。


 ……妙にばんばんばんばん撃ってやがるが……当たらねえならどうでもいいか。


「リリイ、まだ魔力は大丈夫か?」

「え? ……あ、ああ、そうね……ううん、少し心もとないけど相手は撤退するようだし、あれを回収して戻るくらいは余裕よ」


「なに甘えたこと言ってんだぁ!? 回収するのはあの機兵もだっつーの!

 いいか、あいつらが白い奴んとこに向っているのはわかるな?」

「ええ、恐らくは機体名カイザーが射撃で牽制しつつ、固まって撤退するつもりよね、あれ」


「そう、そのカイザーとやらが厄介なんだよな。

 離れたところからバンバンバンバン撃ちやがってよお。いくら俺でも寄れねえだろ?

 けどよ、ああやって固まってくれるならやりようはある! そのまま全部まとめて……っておい! なんだありゃ!」


「え……!? 機兵達が……分離して……パーツが浮いている……の……?」



 ◆◇カイザー◇◆


「いいか! 練習を思い出せ! 実戦で使うのは今回が初めてだが、お前達ならやれる!」


 こうなったら我々にとっての最大の切り札、合体しかないと、現在合体シークエンスの最中だ。


 それぞれの機体がパーツを分離させ、合体に適した形状に変形させたのち、一つの機体として組み上げられていくわけなのだが……それはピカっと光って一瞬で終わる……というわけにはいかない。


 勿論、リアルの常識で考えれば驚くほど速くそれは終わるのだが、それでもそれなりに時間が掛かってしまう。


 そしてこれは実戦、アニメではない。

 合体バンク中に待ってくれるという都合が良い敵など存在しないのだ。


 各パーツが分離して浮遊している状態なんて、どう考えても隙だらけ。

 その気になれば簡単に邪魔をする事だって出来てしまう。


 けれど、あの黒騎士……あいつは隙だらけのこちらを見て距離を詰めること無く、ゆっくりとこちらに向ってきている。

 

 獲物を追い詰める肉食獣にでもなったつもりなのかは分らないが、おかげで合体する時間が稼げている。


『その調子です。最後まで焦らず確実に……では、最終段階です。

 考えず、感じるままに……ひとつになる様、集いなさい!』 


 スミレの合図で分離した各機が俺に装着されていく。

 2機合体の時はここまで慎重にナビをする必要はないし、練習の時も同じくそうだ。


 けれど、実戦となれば話は違う。少しでも効率よく、素早く合体を済ませようとすれば、オートモードではなく、セミオート、つまりはパイロット達の操縦による技術介入が必要となる。


 これは管理難度が高く、今日までコツコツと時間を見て訓練をしてきたのだが……どうやら実戦でも上手く合体できそうだな!


 俺の両足にウロボロスが、両腕にオルトロスが合体し一回り大きな姿に変わる。


 右手には先日手に入れたカイザーブレード、左腕には同じくカイザーシールドが装備され、アニメさながらの勇者装備である。


 なんだか背中が寂しく思えるのはバックパックのせいであろう。

 バックパックは機体の中に格納され、背中がスッキリしているからな。


「「「カイザァアアアアア・ルナッッ!!!」」」

 「このまま決めポーズまでしたいところだが……奴が速度を上げたぞ! 構えろ!」



 ◇◆アランドラ◆◇


「おいおいなんだあれ! くっついたぞ! くっついてでっかくなりやがった!」

「まさかトリバに……いえ、ルナーサ? どちらにせよ両国にあんな技術があるはずは……」


「いやいや、おかしいだろ? 奴ら聖典も無しにあんなの作れるはずが……!」

「……アランドラ! 来るわ!」

「ああ、わーってるよ!」 


 はは……撤退と見せかけて衣装替えとは魅せてくれる!

 だが、何度でも言ってやる! 機兵の性能が全てじゃねえってな!

 でっかくなったところで……付け焼刃のお前らじゃあ、俺には敵わねえんだよ!


「おらああああ!!!」


 まずは小手調べと斬りかかってみれば、生意気にも盾でガードしやがった。

 機兵に盾だあ? なんだよ、騎士団みてえなことしやがってよ!


「アランは盾が嫌いで装備を拒否したもんね」

「うるせえな! あんな邪魔くせえもんいらねえんだよ!」


 ……盾なんかよお、ぶん殴ってりゃいつかは壊れるんだ。

だったらぶっ壊れるまで斬って斬って足りなきゃぶん殴ればいいんだよお!


「オラオラオラオラアア!」


 どうしたどうした? 防ぐので精一杯か? いつまでも盾で護れると思うなよ!

 こっちはまだまだやり足りねえんだ、んなもん捨ててかかってこいやあ!

 

 ちい……しっかし、かてえ盾だな。

 騎士団の盾なんかと比べもんにならねえ。


 なっ!? こっちの刃が欠けやがった……まったくなんて固ェ素材つかってんだよ!

ぶっ壊れるどころか、俺の剣が負けてるじゃねえかよ! 

 

「くそがくそがくそがくそが!! くそがぁあああああ!」

「アランドラ! 何か来るわ!」

「あぁ!?」


 ◆◇カイザー◇◆


「奴の動きが乱れたぞ! 今だ、マシューやれ!」


「うおおお!! ぶっつけ本番! いくぜええオルトロス!」


 何か盾に恨みがあるのかは知らないが、吸い寄せられるように盾に集中攻撃してくれたのはありがたい。俺達のシールドはそう簡単には壊れないからな! 


 そして怒涛の連撃とは言え、パイロットが人間である以上、同じペースでいつまでも続蹴られる筈がない。

 

 やがて生じる剣筋の揺らぎ、それを修正すべく奴が剣を構え直すその一瞬は必ず来る。

 俺はそれを待っていた……!


 マシューの声を聞いたレニーは盾を手前に引き、左肩をグンっと前に出す。

 合体した俺の両肩には幻獣形態のオルトロスの顔が飾りのようについているが、これはただの飾りではない!


「フレイムブレス!!!」


 マシューの掛け声とともに左肩から炎が噴き出し黒騎士を包み込む。

 三合体時に両肩で睨みをきかせるオルトロスの顔は、それぞれ炎と氷のブレス攻撃を備えている。

 

 本来ならばこのブレス攻撃は左右両方を合わせて使う物であり、フレイムブレス側だけ使ってはそこまで威力の機体は出来ない……が、今回は敢えてそのまま使う。


 あの連撃を確実に止め、隙を作るために言わば目くらましに使ったのだ。

 この作戦は見事に成功、流石の黒騎士も炎に焼かれてはひとたまりも無いようだ。

 剣を振る腕を止め、両腕で身をかばう様に炎から身を護っている。 

 しかし、絶え間なく吹き付けられるブレスはそんなもんじゃ防げないぞ!


「レニー!」


「うおおおおおおお! カイザアアアアブレエエエドオオオオ!!!」


 黒騎士はコクピットを護ろうとしているのだろうが……悪いけど隙だらけの脇腹を遠慮なく狙わせてもらうぞ!! 

 俺達は騎士でも何でもないからな! 卑怯なようだが、格上相手にそうもいってられんのでね!

 

 コクピットをかばい、がら空きになっている脇腹にブレードを力いっぱい叩き込んでやった。


 刃と機体がぶつかり合う重い金属音が鳴り響き、黒騎士が横に吹き飛んでいく。


「よっしゃあ! あんだけすっとんだら流石に!」


「いや……おかしいぞマシュー。流石にあの巨体じゃあそこまで飛ばないはずだ」


 確かに当たった……けれど、手応えがおかしい。余りにも軽すぎた。

 それに上手く決まっていれば両断とは行かなくとも、刀身はその身体にめり込んでいたはず。

 しかし、そうはならずに敵は大げさなほどに吹き飛んでいき、それどころかゆっくりと立ち上がろうとすらしている。


明らかに想定よりもダメージが少ない。

 これについては悔しそうな顔でスミレが見解を述べる。


「黒騎士は当たる直前に自ら跳んでエネルギーを逃した模様です」

「やはりな……あの状況でそれが出来るとは……なんという反応速度だ……」


 俺の攻撃は炎に隠れて見えなかったはず。

 当たる直前に気付いて反応したとなれば恐ろしい話だ……!

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